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7 王都へ
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アイスヴァイン領から王都への道は一度南に降りて、シュルスと繋ぐ街道を通って行くのが一番安全で迷わないらしい。
馬に乗ってゆっくり進んで十日程の距離。早駆けだと一週間もかからないらしいが、せっかくだからのんびりゆらゆら行くことにした。
王都に行くと決めてから出発まで一週間程度。
盛大な見送りをされても困るので、善は急げとばかりに旅支度を整えた。
二度と帰れないわけでなく、王都が肌に合わなければ、すぐに帰るつもりだった。
アイスヴァイン領がのんびり北海道の大自然って感じだったから、王都はやっぱり東京みたいな感じだろうか。さすがに六十階建てのビルとかはないだろう。王様がいる宮殿というのも一度見てみたいし、本物の騎士様とか、ちょっと憧れる。モーリスも元近衛騎士団だということだけど、全く想像できないし、あの体格と風貌は悪役プロレスラーにしか見えない。
モーリス夫妻の二人の息子も騎士団だと聞いたが、その風貌はやっぱりモーリスJr.なのかな?でも母親があの美魔女エミリだし。
季節は夏の終わりに差し掛かり、暑さもずいぶん柔らぎ、街道沿いの畑も収穫を待つ稲穂が風にそよいでいる。
今さらながら、六年前のあの時、戦争にならなくて良かったなぁと思う。
そう言えば、あの時から王様の弟君のキル何とか殿下がぱったり表に出なくなったって聞いたような気がするけど、ご病気か何かだったのかな。
前世みたいにテレビやネットがないから、情報の伝達速度も遅く情報量も少ないし、でもぶっちゃけ庶民には目の前の生活が精一杯で、外交とか政は遠い話なんだよね。あ、でもどこかで誰かが頑張ってくれてることには違いないから、ちゃんと感謝してるよ~。
そんなことを色々考えて景色見ながら特にトラブルもなく、私は次の街にたどり着き、「緑の狐亭」という宿屋に落ち着いた。あれだね、赤い◯ツネと緑のタ◯キを思い出しちゃって、思わず笑っちゃったよ♪
部屋は何とか一部屋確保しだけど、食道は宿泊客でなくても利用できるため、満席だった。後少ししたら空いてくるよって店のお姉さんが教えてくれたので、先に厩に行って馬の世話をすることにした。
ありがとうと言って、にっこり笑って礼を言うと、お姉さんは少し顔を赤くして、また後でと言ってくれた。
旅を始めてから、行く先々で親切にしてくれたお姉さんは皆、さっきと同じ反応をした。
私は師匠と相談し、旅の間は森へ狩りに行っていたような男装をすることにした。
ストロベリーブロンドの髪色も目立つので、黒く染めてもらった。瞳の色はごまかしようがないので、そのままにするしかなかった。カラコンあれば良かったけど。
宿屋に頼めば、有料で馬の世話をしてくれるみたいだけど、私はできるだけ自分ですることにしている。別にお金がもったいないとかじゃないから…ま、それも理由のひとつだけど。
ルークは旅立つ私にかなりのお金を用立ててくれようとしたけど、大金を持っていることがばれたら、いらないトラブルを招くことになるのはわかっていたから、王都までそれなりの宿屋に泊まれ、かつ、おいしい食事にありつくために必要な分だけを持った。それだけでもかなりの金額になったのだから、馬の世話くらい節約、節約。
厩に行くと、十ある馬房はいっぱいだった。
私は入り口にある手入れ用のブラシやバケツを持ち、外にある水桶から水を汲み、シューティングスターの所に行った。
「お待たせシューティングスター」
私が声をかけると、葦毛の子は軽くぶふうと鼻から息を吐き出した。
「ここの厩って、結構きれい!」
食堂のお姉さんも親切だったし、今夜の宿はアタリだなと思いながら、シューティングスターの世話をした。
「ふう、お疲れ様」
一通り終えて餌と水をあげると、道具を片付け、シューティングスターが美味しそうに草を食べているのを見て、お腹が盛大に鳴った。
「そろそろ食堂も空いてきたかな」
その時、すぐ側でクスリと笑う声がした。
「ひゃいっ!?」
あまりびっくりしたので、変な声を出してしまった。
シューティングスターの馬房から二つ入り口に近い馬房の前に、すらりと背の高い男が立っていた。
腰までの短い濃い色の外套のフードを被り、斜め掛けに長剣を担ぎ、腰にも短剣を下げている。
指先を切った皮の黒い手袋、がっしりとした足を黒いスパッツに包み、黒のブーツ。全身ほとんど真っ黒な出で立ち。そしてお兄さんかおっさんかわからないが、立っている馬房の馬も真っ黒だ。彼の顔はフードのせいで見えない。
(というか、今笑ったのあなたですか?まさか、さっきのお腹の音聞こえた?え、いつ入ってきたの?全然気がつかなかったよ。そんな真っ黒で暑くないの?)
私は心中で色々ツッコミをいれまくった。
「馬の世話?偉いね。食堂さっきより大分空いてきているよ」
顔は見えないけど、声の感じはそんなに年上でもないかも知れない。
「お、教えていただいてありがとうございます。お、お兄さん(?)はもう済ませたんですか?」
お兄さんの後に?をつける。多分、合ってる。
「たった今済ませた所。お兄さんで、合ってるよ」
お腹の鳴る音を聞かれたかもしれないと思うと無茶苦茶恥ずかしかったが、それよりも彼が入ってきた気配に全く気づかなかったことにショックを受けた。
(ヤバい、この人、かなり出来る人、かも)
「じゃ、じゃあ食堂に行こうかなあ。お腹鳴ったの聞かれちゃったかなぁ、いやぁ恥ずかしいなぁ」
完全な不意打ちにすっかり動揺して、完全棒読み状態だ。どこの大根役者だよ。
しかし厩をでるには、自称お兄さんを通りすぎないと行けない。
ここは、一気にダッシュで通りすぎる?まずは反対側の壁に出来るだけ寄って…
ギクシャクと進む私の耳に、またもや笑い声が聞こえてきた。さっきより大きい声で。
「大丈夫。何もしないよ。いきなりで驚かせて悪かってね」
そういって自称お兄さんは肘を曲げて両手を左右に広げ、肩をすくめた。フードのせいで顔も見えず、表情もわからないが、殺気は感じられなかった。側を通りすぎる時も何かバカにされてるような空気が漂っていて、ちょっとムッとした。
通りすぎる際にチラッと見ると、自分より頭ひとつは高い。
だから厩を出る時、フードを被って年齢不詳のくせに若者ぶりたがっのを皮肉って言ってやった。
「バイバイ、自称お兄さん」
馬に乗ってゆっくり進んで十日程の距離。早駆けだと一週間もかからないらしいが、せっかくだからのんびりゆらゆら行くことにした。
王都に行くと決めてから出発まで一週間程度。
盛大な見送りをされても困るので、善は急げとばかりに旅支度を整えた。
二度と帰れないわけでなく、王都が肌に合わなければ、すぐに帰るつもりだった。
アイスヴァイン領がのんびり北海道の大自然って感じだったから、王都はやっぱり東京みたいな感じだろうか。さすがに六十階建てのビルとかはないだろう。王様がいる宮殿というのも一度見てみたいし、本物の騎士様とか、ちょっと憧れる。モーリスも元近衛騎士団だということだけど、全く想像できないし、あの体格と風貌は悪役プロレスラーにしか見えない。
モーリス夫妻の二人の息子も騎士団だと聞いたが、その風貌はやっぱりモーリスJr.なのかな?でも母親があの美魔女エミリだし。
季節は夏の終わりに差し掛かり、暑さもずいぶん柔らぎ、街道沿いの畑も収穫を待つ稲穂が風にそよいでいる。
今さらながら、六年前のあの時、戦争にならなくて良かったなぁと思う。
そう言えば、あの時から王様の弟君のキル何とか殿下がぱったり表に出なくなったって聞いたような気がするけど、ご病気か何かだったのかな。
前世みたいにテレビやネットがないから、情報の伝達速度も遅く情報量も少ないし、でもぶっちゃけ庶民には目の前の生活が精一杯で、外交とか政は遠い話なんだよね。あ、でもどこかで誰かが頑張ってくれてることには違いないから、ちゃんと感謝してるよ~。
そんなことを色々考えて景色見ながら特にトラブルもなく、私は次の街にたどり着き、「緑の狐亭」という宿屋に落ち着いた。あれだね、赤い◯ツネと緑のタ◯キを思い出しちゃって、思わず笑っちゃったよ♪
部屋は何とか一部屋確保しだけど、食道は宿泊客でなくても利用できるため、満席だった。後少ししたら空いてくるよって店のお姉さんが教えてくれたので、先に厩に行って馬の世話をすることにした。
ありがとうと言って、にっこり笑って礼を言うと、お姉さんは少し顔を赤くして、また後でと言ってくれた。
旅を始めてから、行く先々で親切にしてくれたお姉さんは皆、さっきと同じ反応をした。
私は師匠と相談し、旅の間は森へ狩りに行っていたような男装をすることにした。
ストロベリーブロンドの髪色も目立つので、黒く染めてもらった。瞳の色はごまかしようがないので、そのままにするしかなかった。カラコンあれば良かったけど。
宿屋に頼めば、有料で馬の世話をしてくれるみたいだけど、私はできるだけ自分ですることにしている。別にお金がもったいないとかじゃないから…ま、それも理由のひとつだけど。
ルークは旅立つ私にかなりのお金を用立ててくれようとしたけど、大金を持っていることがばれたら、いらないトラブルを招くことになるのはわかっていたから、王都までそれなりの宿屋に泊まれ、かつ、おいしい食事にありつくために必要な分だけを持った。それだけでもかなりの金額になったのだから、馬の世話くらい節約、節約。
厩に行くと、十ある馬房はいっぱいだった。
私は入り口にある手入れ用のブラシやバケツを持ち、外にある水桶から水を汲み、シューティングスターの所に行った。
「お待たせシューティングスター」
私が声をかけると、葦毛の子は軽くぶふうと鼻から息を吐き出した。
「ここの厩って、結構きれい!」
食堂のお姉さんも親切だったし、今夜の宿はアタリだなと思いながら、シューティングスターの世話をした。
「ふう、お疲れ様」
一通り終えて餌と水をあげると、道具を片付け、シューティングスターが美味しそうに草を食べているのを見て、お腹が盛大に鳴った。
「そろそろ食堂も空いてきたかな」
その時、すぐ側でクスリと笑う声がした。
「ひゃいっ!?」
あまりびっくりしたので、変な声を出してしまった。
シューティングスターの馬房から二つ入り口に近い馬房の前に、すらりと背の高い男が立っていた。
腰までの短い濃い色の外套のフードを被り、斜め掛けに長剣を担ぎ、腰にも短剣を下げている。
指先を切った皮の黒い手袋、がっしりとした足を黒いスパッツに包み、黒のブーツ。全身ほとんど真っ黒な出で立ち。そしてお兄さんかおっさんかわからないが、立っている馬房の馬も真っ黒だ。彼の顔はフードのせいで見えない。
(というか、今笑ったのあなたですか?まさか、さっきのお腹の音聞こえた?え、いつ入ってきたの?全然気がつかなかったよ。そんな真っ黒で暑くないの?)
私は心中で色々ツッコミをいれまくった。
「馬の世話?偉いね。食堂さっきより大分空いてきているよ」
顔は見えないけど、声の感じはそんなに年上でもないかも知れない。
「お、教えていただいてありがとうございます。お、お兄さん(?)はもう済ませたんですか?」
お兄さんの後に?をつける。多分、合ってる。
「たった今済ませた所。お兄さんで、合ってるよ」
お腹の鳴る音を聞かれたかもしれないと思うと無茶苦茶恥ずかしかったが、それよりも彼が入ってきた気配に全く気づかなかったことにショックを受けた。
(ヤバい、この人、かなり出来る人、かも)
「じゃ、じゃあ食堂に行こうかなあ。お腹鳴ったの聞かれちゃったかなぁ、いやぁ恥ずかしいなぁ」
完全な不意打ちにすっかり動揺して、完全棒読み状態だ。どこの大根役者だよ。
しかし厩をでるには、自称お兄さんを通りすぎないと行けない。
ここは、一気にダッシュで通りすぎる?まずは反対側の壁に出来るだけ寄って…
ギクシャクと進む私の耳に、またもや笑い声が聞こえてきた。さっきより大きい声で。
「大丈夫。何もしないよ。いきなりで驚かせて悪かってね」
そういって自称お兄さんは肘を曲げて両手を左右に広げ、肩をすくめた。フードのせいで顔も見えず、表情もわからないが、殺気は感じられなかった。側を通りすぎる時も何かバカにされてるような空気が漂っていて、ちょっとムッとした。
通りすぎる際にチラッと見ると、自分より頭ひとつは高い。
だから厩を出る時、フードを被って年齢不詳のくせに若者ぶりたがっのを皮肉って言ってやった。
「バイバイ、自称お兄さん」
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