115 / 118
115 多忙な日々
しおりを挟む
私の聖女としての浄化の力は、財前さんより少し弱い感じだった。
財前さんが100%聖女として浄化と治癒に振り切った力配分だとしたら、私はその七割程度。
それでも彼女と共に、魔巣窟の浄化に赴くには十分と判断され、彼女と共に赴くことが常になった。
魔巣窟は元の世界と繋がっている。
浄化していると、靄の中に揺れ動く見慣れた風景が垣間見えることがあった。
それは日本だったり他の国だったり色々だ。
でもそれが見えるのは私だけらしい。財前さんからは何の反応もない。
私は敢えてそのことを彼女には言わなかった。
私はもうアドルファスと共にこの世界で生きて行こうと覚悟を決めていた。
家族のことも心の片隅で思わないでもないが、死んだものと思うことにした。
財前さんもカザールさんとの仲を進展されるなら、ある程度の覚悟はどこかでしているのだろうが、まだ十代の女の子なのだから、きっと家族が恋しいと思っている筈。
言えば彼女をホームシックにさせるだけだ。
浄化の力以外の全属性に関しては、さすがに初等科でアラサーの私が机を並べるのはどうか、と言うことになり、レインズフォード邸で家庭教師が付くことになった。
最初アドルファスが申し出たが、師とする人と夫になる人は区別したいと、私が断った。
それに私を褒めることしかしないのがわかっていたから、私はどちらかと言えばスパルタの方がいい。
色々周りで検討した結果、アーシャ・ラトスさんという女性が週三回通ってきてくれることになった。
彼女は三十歳の魔法学校のベテラン教師で、一児の母親。出産育児で今は休みをとっているが、そろそろ職場復帰に向けて肩慣らしをしたいと、自薦してきた。
私にとって初めて同じ年頃の知り合いが出来て、とても嬉しい。
彼女とは授業が終わるとプライベートな話で盛り上がり、今では彼女の友人たちに混じって、時折お茶をしたりしている。
ボルタンヌさんのところで売り出されたブラとショーツなどの下着は、生地や飾りを豪華にしたお金持ち向けのものから、シンプルなつくりの庶民向けも発売され、徐々にだが世間に浸透してきている。
アーシャさんを通じて知り合った人たちにも、モニターになってもらい、好評価を得ている。
授乳中の人用のものも今開発中だ。
ここの世界にはAカップBカップは存在しないのか、下はCカップから上はGカップくらいまである。
一番人気はE、それからF、私は残念ながら特注サイズだった。
脱コルセットを目指し、次はボディスーツやガートルを提案してみようか。
食に関しても新たなメニュー開発が進み、ようやく貴族の食卓にも野菜が出回り、野菜を栽培する農家も収入が増えたと大喜びだ。
エディブルフラワーの需要も出てきて、生産者は食用と観賞用で分けて栽培している。
そしてもう一つ。
「ふう、終わった」
最後の一人分の記録を書き上げ、私はう~んと伸びをした。
「おつかれ様です」
「あ、ありがとう」
そう言って私にお茶を出してくれたのは神官見習いのベージェという青年だった。
私は今、士官学校の救護室にいる。
皇学園でやっていたように、ここの救護室で保健室の先生をすることになった。
現在は生徒の身体測定の結果を纏めているところだった。
それもようやく終わった。
生徒は総勢三百人。三学年に分かれていて一学年百人ずつ。そこに教員三十人分が加わる。
それを纏めるのに、レインズフォード家に持ち帰ったりして、結構時間がかかったが、その分達成感がある。
「やっぱり、平民出身の子たちの発育は年齢が下になる分、悪いわね」
「そうなのですか?」
「遺伝もあるだろうけど、やっぱり食生活と小さい頃からの教育の違いかな」
栄養士ではないので、はっきりしたことは言えない。でも、それを補うのならここでの食事も考え直した方がいいかも知れない。
「ユイナ、もう終わったのか?」
「アドルファス」
そこへアドルファスが医務室へとやってきた。
「はい、何とか」
ベージェが緊張して頭を下げる。
「なら、一緒に帰ろう。構わないか?」
「はい。では、しばらく来られないと思いますので、よろしくお願いします」
立ち上がってベージェに話す。
「はい、こちらの書類も纏めておきます」
さっき纏めた書類を指してベージェが言う。
「お願いします。それと、ここを訪れた生徒の訪れた内容と状態についても必ず書き加えてください」
「承知しました」
作った個人個人のデータを記した書類の裏面に、医務室を訪れたらいつどんなことで訪れたか、その対応はどうだったかカルテに似た形で書いてもらえるよう頼んでいた。
「おまたせしました。もうお二人は到着されていらっしゃるのですか」
「さっき到着したと伝達が来た」
「では、帰りましょう」
今日、アドルファスの両親が領地からやってくる。
それはあさっての行事に参加するためだった。
アドルファスが差し出した手に手を重ね、彼に手を引かれて、私はレインズフォード家に向かった。
あさっては、私とアドルファスの結婚式なのだ。
財前さんが100%聖女として浄化と治癒に振り切った力配分だとしたら、私はその七割程度。
それでも彼女と共に、魔巣窟の浄化に赴くには十分と判断され、彼女と共に赴くことが常になった。
魔巣窟は元の世界と繋がっている。
浄化していると、靄の中に揺れ動く見慣れた風景が垣間見えることがあった。
それは日本だったり他の国だったり色々だ。
でもそれが見えるのは私だけらしい。財前さんからは何の反応もない。
私は敢えてそのことを彼女には言わなかった。
私はもうアドルファスと共にこの世界で生きて行こうと覚悟を決めていた。
家族のことも心の片隅で思わないでもないが、死んだものと思うことにした。
財前さんもカザールさんとの仲を進展されるなら、ある程度の覚悟はどこかでしているのだろうが、まだ十代の女の子なのだから、きっと家族が恋しいと思っている筈。
言えば彼女をホームシックにさせるだけだ。
浄化の力以外の全属性に関しては、さすがに初等科でアラサーの私が机を並べるのはどうか、と言うことになり、レインズフォード邸で家庭教師が付くことになった。
最初アドルファスが申し出たが、師とする人と夫になる人は区別したいと、私が断った。
それに私を褒めることしかしないのがわかっていたから、私はどちらかと言えばスパルタの方がいい。
色々周りで検討した結果、アーシャ・ラトスさんという女性が週三回通ってきてくれることになった。
彼女は三十歳の魔法学校のベテラン教師で、一児の母親。出産育児で今は休みをとっているが、そろそろ職場復帰に向けて肩慣らしをしたいと、自薦してきた。
私にとって初めて同じ年頃の知り合いが出来て、とても嬉しい。
彼女とは授業が終わるとプライベートな話で盛り上がり、今では彼女の友人たちに混じって、時折お茶をしたりしている。
ボルタンヌさんのところで売り出されたブラとショーツなどの下着は、生地や飾りを豪華にしたお金持ち向けのものから、シンプルなつくりの庶民向けも発売され、徐々にだが世間に浸透してきている。
アーシャさんを通じて知り合った人たちにも、モニターになってもらい、好評価を得ている。
授乳中の人用のものも今開発中だ。
ここの世界にはAカップBカップは存在しないのか、下はCカップから上はGカップくらいまである。
一番人気はE、それからF、私は残念ながら特注サイズだった。
脱コルセットを目指し、次はボディスーツやガートルを提案してみようか。
食に関しても新たなメニュー開発が進み、ようやく貴族の食卓にも野菜が出回り、野菜を栽培する農家も収入が増えたと大喜びだ。
エディブルフラワーの需要も出てきて、生産者は食用と観賞用で分けて栽培している。
そしてもう一つ。
「ふう、終わった」
最後の一人分の記録を書き上げ、私はう~んと伸びをした。
「おつかれ様です」
「あ、ありがとう」
そう言って私にお茶を出してくれたのは神官見習いのベージェという青年だった。
私は今、士官学校の救護室にいる。
皇学園でやっていたように、ここの救護室で保健室の先生をすることになった。
現在は生徒の身体測定の結果を纏めているところだった。
それもようやく終わった。
生徒は総勢三百人。三学年に分かれていて一学年百人ずつ。そこに教員三十人分が加わる。
それを纏めるのに、レインズフォード家に持ち帰ったりして、結構時間がかかったが、その分達成感がある。
「やっぱり、平民出身の子たちの発育は年齢が下になる分、悪いわね」
「そうなのですか?」
「遺伝もあるだろうけど、やっぱり食生活と小さい頃からの教育の違いかな」
栄養士ではないので、はっきりしたことは言えない。でも、それを補うのならここでの食事も考え直した方がいいかも知れない。
「ユイナ、もう終わったのか?」
「アドルファス」
そこへアドルファスが医務室へとやってきた。
「はい、何とか」
ベージェが緊張して頭を下げる。
「なら、一緒に帰ろう。構わないか?」
「はい。では、しばらく来られないと思いますので、よろしくお願いします」
立ち上がってベージェに話す。
「はい、こちらの書類も纏めておきます」
さっき纏めた書類を指してベージェが言う。
「お願いします。それと、ここを訪れた生徒の訪れた内容と状態についても必ず書き加えてください」
「承知しました」
作った個人個人のデータを記した書類の裏面に、医務室を訪れたらいつどんなことで訪れたか、その対応はどうだったかカルテに似た形で書いてもらえるよう頼んでいた。
「おまたせしました。もうお二人は到着されていらっしゃるのですか」
「さっき到着したと伝達が来た」
「では、帰りましょう」
今日、アドルファスの両親が領地からやってくる。
それはあさっての行事に参加するためだった。
アドルファスが差し出した手に手を重ね、彼に手を引かれて、私はレインズフォード家に向かった。
あさっては、私とアドルファスの結婚式なのだ。
4
お気に入りに追加
954
あなたにおすすめの小説
若奥様は緑の手 ~ お世話した花壇が聖域化してました。嫁入り先でめいっぱい役立てます!
古森真朝
恋愛
意地悪な遠縁のおばの邸で暮らすユーフェミアは、ある日いきなり『明後日に輿入れが決まったから荷物をまとめろ』と言い渡される。いろいろ思うところはありつつ、これは邸から出て自立するチャンス!と大急ぎで支度して出立することに。嫁入り道具兼手土産として、唯一の財産でもある裏庭の花壇(四畳サイズ)を『持参』したのだが――実はこのプチ庭園、長年手塩にかけた彼女の魔力によって、神域霊域レベルのレア植物生息地となっていた。
そうとは知らないまま、輿入れ初日にボロボロになって帰ってきた結婚相手・クライヴを救ったのを皮切りに、彼の実家エヴァンス邸、勤め先である王城、さらにお世話になっている賢者様が司る大神殿と、次々に起こる事件を『あ、それならありますよ!』とプチ庭園でしれっと解決していくユーフェミア。果たして嫁ぎ先で平穏を手に入れられるのか。そして根っから世話好きで、何くれとなく構ってくれるクライヴVS自立したい甘えベタの若奥様の勝負の行方は?
*カクヨム様で先行掲載しております
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
老女召喚〜聖女はまさかの80歳?!〜城を追い出されちゃったけど、何か若返ってるし、元気に異世界で生き抜きます!〜
二階堂吉乃
ファンタジー
瘴気に脅かされる王国があった。それを祓うことが出来るのは異世界人の乙女だけ。王国の幹部は伝説の『聖女召喚』の儀を行う。だが現れたのは1人の老婆だった。「召喚は失敗だ!」聖女を娶るつもりだった王子は激怒した。そこら辺の平民だと思われた老女は金貨1枚を与えられると、城から追い出されてしまう。実はこの老婆こそが召喚された女性だった。
白石きよ子・80歳。寝ていた布団の中から異世界に連れてこられてしまった。始めは「ドッキリじゃないかしら」と疑っていた。頼れる知り合いも家族もいない。持病の関節痛と高血圧の薬もない。しかし生来の逞しさで異世界で生き抜いていく。
後日、召喚が成功していたと分かる。王や重臣たちは慌てて老女の行方を探し始めるが、一向に見つからない。それもそのはず、きよ子はどんどん若返っていた。行方不明の老聖女を探す副団長は、黒髪黒目の不思議な美女と出会うが…。
人の名前が何故か映画スターの名になっちゃう天然系若返り聖女の冒険。全14話+間話7話。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
キャベツとよんでも
さかな〜。
恋愛
由緒だけはある貧乏男爵令嬢ハイデマリーと、執事として雇われたのにいつの間にか職務が増えていた青年ギュンターの日常。
今日も部屋を調える――お嬢様の疲れが癒えるように、寛いでもらえる様に――
一見ゆったりとした緩い日常の話です。設定もユルいです。
転生したら死んだことにされました〜女神の使徒なんて聞いてないよ!〜
家具屋ふふみに
ファンタジー
大学生として普通の生活を送っていた望水 静香はある日、信号無視したトラックに轢かれてそうになっていた女性を助けたことで死んでしまった。が、なんか助けた人は神だったらしく、異世界転生することに。
そして、転生したら...「女には荷が重い」という父親の一言で死んだことにされました。なので、自由に生きさせてください...なのに職業が女神の使徒?!そんなの聞いてないよ?!
しっかりしているように見えてたまにミスをする女神から面倒なことを度々押し付けられ、それを与えられた力でなんとか解決していくけど、次から次に問題が起きたり、なにか不穏な動きがあったり...?
ローブ男たちの目的とは?そして、その黒幕とは一体...?
不定期なので、楽しみにお待ち頂ければ嬉しいです。
拙い文章なので、誤字脱字がありましたらすいません。報告して頂ければその都度訂正させていただきます。
小説家になろう様でも公開しております。
月の後宮~孤高の皇帝の寵姫~
真木
恋愛
新皇帝セルヴィウスが即位の日に閨に引きずり込んだのは、まだ十三歳の皇妹セシルだった。大好きだった兄皇帝の突然の行為に混乱し、心を閉ざすセシル。それから十年後、セシルの心が見えないまま、セルヴィウスはある決断をすることになるのだが……。
子持ちの私は、夫に駆け落ちされました
月山 歩
恋愛
産まれたばかりの赤子を抱いた私は、砦に働きに行ったきり、帰って来ない夫を心配して、鍛錬場を訪れた。すると、夫の上司は夫が仕事中に駆け落ちしていなくなったことを教えてくれた。食べる物がなく、フラフラだった私は、その場で意識を失った。赤子を抱いた私を気の毒に思った公爵家でお世話になることに。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
【完結】神から貰ったスキルが強すぎなので、異世界で楽しく生活します!
桜もふ
恋愛
神の『ある行動』のせいで死んだらしい。私の人生を奪った神様に便利なスキルを貰い、転生した異世界で使えるチートの魔法が強すぎて楽しくて便利なの。でもね、ここは異世界。地球のように安全で自由な世界ではない、魔物やモンスターが襲って来る危険な世界……。
「生きたければ魔物やモンスターを倒せ!!」倒さなければ自分が死ぬ世界だからだ。
異世界で過ごす中で仲間ができ、時には可愛がられながら魔物を倒し、食料確保をし、この世界での生活を楽しく生き抜いて行こうと思います。
初めはファンタジー要素が多いが、中盤あたりから恋愛に入ります!!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる