【完結】異世界召喚 (聖女)じゃない方でしたがなぜか溺愛されてます

七夜かなた

文字の大きさ
上 下
102 / 118

102 交際宣言

しおりを挟む
「あなたの肌のこと、言いそびれてしまいましたね」

 私の属性について予想とは違う結果だったため、彼の肌の色について報告するのを忘れていた。

「先に両親に見せてからでも遅くはないでしょう」
「レインズフォード卿」

 神殿に向かうため、アドルファスと二人で王宮の玄関に向かうところを、カザール氏に呼び止められた。
 隣には財前さんもいる。

「これから神殿に向かわれるのですね」
「はい」
「では、ご一緒させていただいてよろしいでしょうか。少しお話したいことがございます」
「……構いませんが」
「良かった。宜しくお願いします」

 話とは何だろうと思いながら、レインズフォード家の馬車に四人で乗った。
 このまま領地に向かうので、長距離用の実用的な馬車を使うことにしていた。振動が少ない仕様になっている。

「お話とは?」

 アドルファスの隣に私、彼の向かいにカザール氏、その隣、私の向かいが財前さんだった。

「その…」

 カザール氏はちらりと隣の財前さんの方へ視線を向け、私の方へ向き直る。
 話はアドルファスでなく、私に?

「お二人が結婚すると伺い、私も…その、レイ様と…」
「え?」
「実は私達付き合ってます」

 財前さんがカザール氏の腕を取り、ズバリと言った。

「え」  

 二人を見て、そしてアドルファスを見る。彼も目を見開いて同じように驚いている。

「え、あの、財前さん…え、エルウィン王子は…」
「エルウィン? 私は歳上が好きなの。彼は顔はいいけど、同年代に興味はないです」
「あ、そ。そう…」

 生徒の健康状態は把握していても、個人の好みについてまで知らないので、そうなのかと納得する。

「とは言っても、歳上がいいと言うよりは、彼が好きだから」
「いつから?」
「告白したのは先生が目覚めた後。でも会った時から気にはなっていたの」
「告白…財前さんから? だって、あなた、エルウィン王子を初めて見た時、恥ずかしそうにしていなかった?」
「それは、まあ…見た目は綺麗でしょ。でも、性格はいまイチ」
「そう…でも聖女と神官って…そのコンプライアンス的に…どうなの?」
「こ?」
「あ、えっと…規律違反にならないかと…」

 職業倫理に違反していないまでも、日本でも彼女はまだ未成年だし、そこは気になるところだ。

「それに財前さんから告白したと言っても、カザール様はそれでよいのですか?」
「彼女のことは可愛く思っております。私の出来る範囲でお支えしたい。これがレインズフォード卿がユイナ様を想うのと同じかどうかはわかりませんが」

 二人で目を合わせ、照れあっているのを見ると、何とも初々しい限りだ。

「二人で話し合い、魔巣窟のことがもう少し落ち着くまでは周囲には伏せて置こうということになりました。それまでは、手、手を繋いだり、口づけだけの清いままでと…」
「そ、そう…」
「それに、過去に聖女と神官が結ばれた記録はあります。神官と言えども結婚は禁じられておりません」

 既にアドルファスと一線を越えてしまっている私に何も言うべきことはない。それに、きっとこのことを知ればショックを受ける人物が一人はいる。公開するタイミングを見極めなけれなならない。

「二人がそれでいいなら…」
「先生は私の一番の理解者で私の心の中ではお姉さんと思っているので、ついでにレインズフォードさんもお兄さん?みたいに思っています。だから二人には報告しておきたくて」
「お兄さん…」

 二人の交際宣言から黙ったままのアドルファスが、ようやく口にした言葉だった。
 その表情からは、それに対してどう思っているのか読めない。

「あ、私が勝手に思っているだけなので、嫌なら二度と口にはしません」
「いや、私は他に兄弟がいないので、そのように呼ばれたことがなく…」

 女性には慣れている筈の彼も、妹という存在には戸惑うらしい。

 妹がいたら目の中に入れても痛くないような溺愛ぶりをしそうに思うのだけど。それは二人の時に教えてあげよう。

「私は一番末っ子だから、妹みたいな存在が出来て嬉しいわ。ところでカザール様はおいくつでいらっしゃるのですか?」
「カザールと呼び捨てで構いません。今年で二十七になります」

 ということは、財前さんとは十歳差。アドルファスの両親の八歳差よりさらにニ歳上回る。

「先生…祝福してくれますか?」

 財前さんが心配そうに私の反応を見る。

「私が反対したら諦めるの?」

 反対するつもりは毛頭なかったが、一応聞いてみた。

「そ、それは」
「私に気に入らないところがあれば、仰ってください。ユイナ様に納得していただけるように精進いたします」

 二人の様子に「娘はやらん」という父親の心境になる。

「冗談ですよ。二人のことは応援します」

 そう言うと、二人から一気に力が抜けた。

「お兄さん」

 神殿に着くまで、アドルファスは何度もブツブツと呟いていた。

しおりを挟む
感想 8

あなたにおすすめの小説

若奥様は緑の手 ~ お世話した花壇が聖域化してました。嫁入り先でめいっぱい役立てます!

古森真朝
恋愛
意地悪な遠縁のおばの邸で暮らすユーフェミアは、ある日いきなり『明後日に輿入れが決まったから荷物をまとめろ』と言い渡される。いろいろ思うところはありつつ、これは邸から出て自立するチャンス!と大急ぎで支度して出立することに。嫁入り道具兼手土産として、唯一の財産でもある裏庭の花壇(四畳サイズ)を『持参』したのだが――実はこのプチ庭園、長年手塩にかけた彼女の魔力によって、神域霊域レベルのレア植物生息地となっていた。 そうとは知らないまま、輿入れ初日にボロボロになって帰ってきた結婚相手・クライヴを救ったのを皮切りに、彼の実家エヴァンス邸、勤め先である王城、さらにお世話になっている賢者様が司る大神殿と、次々に起こる事件を『あ、それならありますよ!』とプチ庭園でしれっと解決していくユーフェミア。果たして嫁ぎ先で平穏を手に入れられるのか。そして根っから世話好きで、何くれとなく構ってくれるクライヴVS自立したい甘えベタの若奥様の勝負の行方は? *カクヨム様で先行掲載しております

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

老女召喚〜聖女はまさかの80歳?!〜城を追い出されちゃったけど、何か若返ってるし、元気に異世界で生き抜きます!〜

二階堂吉乃
ファンタジー
 瘴気に脅かされる王国があった。それを祓うことが出来るのは異世界人の乙女だけ。王国の幹部は伝説の『聖女召喚』の儀を行う。だが現れたのは1人の老婆だった。「召喚は失敗だ!」聖女を娶るつもりだった王子は激怒した。そこら辺の平民だと思われた老女は金貨1枚を与えられると、城から追い出されてしまう。実はこの老婆こそが召喚された女性だった。  白石きよ子・80歳。寝ていた布団の中から異世界に連れてこられてしまった。始めは「ドッキリじゃないかしら」と疑っていた。頼れる知り合いも家族もいない。持病の関節痛と高血圧の薬もない。しかし生来の逞しさで異世界で生き抜いていく。  後日、召喚が成功していたと分かる。王や重臣たちは慌てて老女の行方を探し始めるが、一向に見つからない。それもそのはず、きよ子はどんどん若返っていた。行方不明の老聖女を探す副団長は、黒髪黒目の不思議な美女と出会うが…。  人の名前が何故か映画スターの名になっちゃう天然系若返り聖女の冒険。全14話+間話7話。

キャベツとよんでも

さかな〜。
恋愛
由緒だけはある貧乏男爵令嬢ハイデマリーと、執事として雇われたのにいつの間にか職務が増えていた青年ギュンターの日常。 今日も部屋を調える――お嬢様の疲れが癒えるように、寛いでもらえる様に―― 一見ゆったりとした緩い日常の話です。設定もユルいです。

転生したら死んだことにされました〜女神の使徒なんて聞いてないよ!〜

家具屋ふふみに
ファンタジー
大学生として普通の生活を送っていた望水 静香はある日、信号無視したトラックに轢かれてそうになっていた女性を助けたことで死んでしまった。が、なんか助けた人は神だったらしく、異世界転生することに。 そして、転生したら...「女には荷が重い」という父親の一言で死んだことにされました。なので、自由に生きさせてください...なのに職業が女神の使徒?!そんなの聞いてないよ?! しっかりしているように見えてたまにミスをする女神から面倒なことを度々押し付けられ、それを与えられた力でなんとか解決していくけど、次から次に問題が起きたり、なにか不穏な動きがあったり...? ローブ男たちの目的とは?そして、その黒幕とは一体...? 不定期なので、楽しみにお待ち頂ければ嬉しいです。 拙い文章なので、誤字脱字がありましたらすいません。報告して頂ければその都度訂正させていただきます。 小説家になろう様でも公開しております。

月の後宮~孤高の皇帝の寵姫~

真木
恋愛
新皇帝セルヴィウスが即位の日に閨に引きずり込んだのは、まだ十三歳の皇妹セシルだった。大好きだった兄皇帝の突然の行為に混乱し、心を閉ざすセシル。それから十年後、セシルの心が見えないまま、セルヴィウスはある決断をすることになるのだが……。

子持ちの私は、夫に駆け落ちされました

月山 歩
恋愛
産まれたばかりの赤子を抱いた私は、砦に働きに行ったきり、帰って来ない夫を心配して、鍛錬場を訪れた。すると、夫の上司は夫が仕事中に駆け落ちしていなくなったことを教えてくれた。食べる物がなく、フラフラだった私は、その場で意識を失った。赤子を抱いた私を気の毒に思った公爵家でお世話になることに。

【完結】神から貰ったスキルが強すぎなので、異世界で楽しく生活します!

桜もふ
恋愛
神の『ある行動』のせいで死んだらしい。私の人生を奪った神様に便利なスキルを貰い、転生した異世界で使えるチートの魔法が強すぎて楽しくて便利なの。でもね、ここは異世界。地球のように安全で自由な世界ではない、魔物やモンスターが襲って来る危険な世界……。 「生きたければ魔物やモンスターを倒せ!!」倒さなければ自分が死ぬ世界だからだ。 異世界で過ごす中で仲間ができ、時には可愛がられながら魔物を倒し、食料確保をし、この世界での生活を楽しく生き抜いて行こうと思います。 初めはファンタジー要素が多いが、中盤あたりから恋愛に入ります!!

処理中です...