【完結】異世界召喚 (聖女)じゃない方でしたがなぜか溺愛されてます

七夜かなた

文字の大きさ
上 下
100 / 118

100  「判定の玉」が示すもの

しおりを挟む
 判定のため、私は王宮にやって来ていた。

 久しぶりに見たアドキンス氏は、激務がたたってげっそりしてしまっている。
 私と目が合うと、にっこりと微笑んでくれたが、目の下の濃い隈が痛々しい。

 その場には国王陛下、アドキンス氏、神官長、神官長補佐カザール氏、財前さん、そしてアドルファスさんもいた。

「判定の玉」の結果が出るまで、アドルファスさんはこれまでと同じように仮面を付けていた。

「アドルファス、もう具合はいいのか? 無理はするな」

 それでも彼が魔巣窟に飛び込んだ後、体調を崩していたことを知っている人たちは、彼の回復ぶりに目を見張っていた。

「お心遣いありがとうございます、陛下。ですが、この通り神官様の浄化のお陰で何とか」
「ふむ、そうか。ならよい。そなたは大丈夫なのか?」

 陛下が私にも尋ねた。

「はい、お陰様で、このように」
「此度は我々が油断していたせいで、迷惑をかけた」
「いえ、仕方がないことでした」
「そなたにも力があることは知らず、失礼した。もし『判定の玉』の結果、そなたに聖女の力があったとしても、聖女として生きるかどうかはそなたの意思に任せる」

 国王自ら、私に生き方を選んでもいいと太鼓判を押していただいた。

「ありがとうございます」
「では、始めようか、アドキンス」
「はっ」

 陛下に言われ、アドキンス氏が机の上に置かれた櫃に何やら呪文を唱えると、カチリと音がして、蓋が開いた。

 ここに召喚された時に、財前さんが触れて光った珠がそこにあった。

「さあ、ユイナ殿」

 アドキンス氏に促され、珠の前に立つ。

「浄化の力があれば白く輝きます。レイ様は白一色でしたが、浄化以外の力があれば、他の色も現れてくるでしょう」

 ごくりと唾を飲み込み、皆が見守る中、そっと触れた。

 透明だった珠が触れた瞬間、輝き出した。

「な、なんと!」

 浄化の力があれば白く光り、他の力があればそれ以外の色が出ると言っていたが、白赤青緑茶黒の色が交互に点滅した。

 ぱっと手を離すと、光は消えてまた元の透明になった。

「え、これってどういうことですか?」

 白以外の色が出るかもとは思ったけど、こんなにたくさんの色が出てくるとは思わなかった。
 アドキンス氏を見ると、その場で目を見開いている。
 他の人達の方を振り返ると、皆も同じ表情をしている。

「今のどういうことですか?」

 財前さんだけが、私と同じで何が起こったのか理解できないようで首を傾げている。

「ア、アドルファス…私…何か」

 何か良くないことなのかと不安になってアドルファスを見た。
 声をかけられ、はっと彼は我に返って、私に駆け寄ってきた。

「心配しなくていいです。別に悪いことではありませんから」
「そ、そうなの?」
「ええ、ただ…」
「ただ?」
「実際にこの目で見たことがなかったので、信じられなかっただけです」
「え?」

 アドルファスはアドキンス氏や陛下の方を見て、「よろしいでしょうか」と尋ねた。
 二人は黙って頷いた。

「今のはほぼこの世に存在する魔法の全属性を現しています」
「ぜ、全属性?」
「ええ、魔塔主ともなれば、四大属性の火・水・風・土は最低限使えなくてはなりません。ただ得意不得意があるので、全て平等に使えるとは限りませんが、マルシャルはそこに弱冠の闇魔法が使えました」
「私は逆に白魔法の治癒魔法が使えます」

 アドキンス氏が付け加えた。

「私は四大魔法止まりです」
「しかしレインズフォード卿は、どれかに偏ることなく、その四つとも同じ位に使いこなせていらっしゃるので、それも凄いことです」

 アドキンス氏がアドルファスさんを褒める。

「え、ということは…」

「白は浄化。治癒。これに特化した力を持つ者が神官になることが多い。赤は火、青は水、緑は風、茶は土、そして黒が闇。それら全ての色が出たということは」
「ということは…」
「あなたは未だ誰も成し得なかった、全ての属性の魔法が使える素質があるということです」
「うそ…チートじゃない」

 ボソリと財前さんが呟いた。

「チ? それはどういう意味ですか?」

 財前さんの呟きにカザール氏が尋ねた。

「えっと…元の意味は知りませんが、凄い能力を持っていることをチートって言うんです」
「なるほど…チート…」
「あ、あの…なぜこんなことに? それに私は今まで魔法なんて一度も使ったことがありません」
「あくまでもこれは能力というか適性の問題であって、ユイナは魔法の使い方を学んでいませんから、素質はあっても使えなくて当たり前です」

 魔法が使えないことについてアドルファスが説明してくれた。

「なぜ…ということに関して申し上げれば…」

 アドキンス氏が思い当たることがあるのか、少し考えてから口にした。

「元々聖女召喚の魔法陣でこの世界に来られたので、白魔法は使えて当然でしょうが、今回の魔法陣はマルシャルが過去の記録を元に描いたものですから、彼の持ち得るすべての属性を少しずつ混ぜたのではないでしょうか」

「ふむ…アドキンスの申すことも一理あるかも知れぬな」

 国王もそれを聞いて何やら考え込んだ。

「あの、私はどうすればいいですか?」

 浄化の力程度なら財前さんと同じ。でもそれだけでなく、誰も持ったことのない力なんて、私には重すぎる。

しおりを挟む
感想 8

あなたにおすすめの小説

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

30代社畜の私が1ヶ月後に異世界転生するらしい。

ひさまま
ファンタジー
 前世で搾取されまくりだった私。  魂の休養のため、地球に転生したが、地球でも今世も搾取されまくりのため魂の消滅の危機らしい。  とある理由から元の世界に戻るように言われ、マジックバックを自称神様から頂いたよ。  これで地球で買ったものを持ち込めるとのこと。やっぱり夢ではないらしい。  取り敢えず、明日は退職届けを出そう。  目指せ、快適異世界生活。  ぽちぽち更新します。  作者、うっかりなのでこれも買わないと!というのがあれば教えて下さい。  脳内の空想を、つらつら書いているのでお目汚しな際はごめんなさい。

【完結】魔力がないと見下されていた私は仮面で素顔を隠した伯爵と結婚することになりました〜さらに魔力石まで作り出せなんて、冗談じゃない〜

光城 朱純
ファンタジー
魔力が強いはずの見た目に生まれた王女リーゼロッテ。 それにも拘わらず、魔力の片鱗すらみえないリーゼロッテは家族中から疎まれ、ある日辺境伯との結婚を決められる。 自分のあざを隠す為に仮面をつけて生活する辺境伯は、龍を操ることができると噂の伯爵。 隣に魔獣の出る森を持ち、雪深い辺境地での冷たい辺境伯との新婚生活は、身も心も凍えそう。 それでも国の端でひっそり生きていくから、もう放っておいて下さい。 私のことは私で何とかします。 ですから、国のことは国王が何とかすればいいのです。 魔力が使えない私に、魔力石を作り出せだなんて、そんなの無茶です。 もし作り出すことができたとしても、やすやすと渡したりしませんよ? これまで虐げられた分、ちゃんと返して下さいね。 表紙はPhoto AC様よりお借りしております。

私は聖女(ヒロイン)のおまけ

音無砂月
ファンタジー
ある日突然、異世界に召喚された二人の少女 100年前、異世界に召喚された聖女の手によって魔王を封印し、アルガシュカル国の危機は救われたが100年経った今、再び魔王の封印が解かれかけている。その為に呼ばれた二人の少女 しかし、聖女は一人。聖女と同じ色彩を持つヒナコ・ハヤカワを聖女候補として考えるアルガシュカルだが念のため、ミズキ・カナエも聖女として扱う。内気で何も自分で決められないヒナコを支えながらミズキは何とか元の世界に帰れないか方法を探す。

魔法が使えない令嬢は住んでいた小屋が燃えたので家出します

怠惰るウェイブ
ファンタジー
グレイの世界は狭く暗く何よりも灰色だった。 本来なら領主令嬢となるはずの彼女は領主邸で住むことを許されず、ボロ小屋で暮らしていた。 彼女はある日、棚から落ちてきた一冊の本によって人生が変わることになる。 世界が色づき始めた頃、ある事件をきっかけに少女は旅をすることにした。 喋ることのできないグレイは旅を通して自身の世界を色付けていく。

【完結】魔術師なのはヒミツで薬師になりました

すみ 小桜(sumitan)
ファンタジー
 ティモシーは、魔術師の少年だった。人には知られてはいけないヒミツを隠し、薬師(くすし)の国と名高いエクランド国で薬師になる試験を受けるも、それは年に一度の王宮専属薬師になる試験だった。本当は普通の試験でよかったのだが、見事に合格を果たす。見た目が美少女のティモシーは、トラブルに合うもまだ平穏な方だった。魔術師の組織の影がちらつき、彼は次第に大きな運命に飲み込まれていく……。

老女召喚〜聖女はまさかの80歳?!〜城を追い出されちゃったけど、何か若返ってるし、元気に異世界で生き抜きます!〜

二階堂吉乃
ファンタジー
 瘴気に脅かされる王国があった。それを祓うことが出来るのは異世界人の乙女だけ。王国の幹部は伝説の『聖女召喚』の儀を行う。だが現れたのは1人の老婆だった。「召喚は失敗だ!」聖女を娶るつもりだった王子は激怒した。そこら辺の平民だと思われた老女は金貨1枚を与えられると、城から追い出されてしまう。実はこの老婆こそが召喚された女性だった。  白石きよ子・80歳。寝ていた布団の中から異世界に連れてこられてしまった。始めは「ドッキリじゃないかしら」と疑っていた。頼れる知り合いも家族もいない。持病の関節痛と高血圧の薬もない。しかし生来の逞しさで異世界で生き抜いていく。  後日、召喚が成功していたと分かる。王や重臣たちは慌てて老女の行方を探し始めるが、一向に見つからない。それもそのはず、きよ子はどんどん若返っていた。行方不明の老聖女を探す副団長は、黒髪黒目の不思議な美女と出会うが…。  人の名前が何故か映画スターの名になっちゃう天然系若返り聖女の冒険。全14話+間話8話。

異世界に落ちたら若返りました。

アマネ
ファンタジー
榊原 チヨ、87歳。 夫との2人暮らし。 何の変化もないけど、ゆっくりとした心安らぐ時間。 そんな普通の幸せが側にあるような生活を送ってきたのにーーー 気がついたら知らない場所!? しかもなんかやたらと若返ってない!? なんで!? そんなおばあちゃんのお話です。 更新は出来れば毎日したいのですが、物語の時間は割とゆっくり進むかもしれません。

処理中です...