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100 「判定の玉」が示すもの
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判定のため、私は王宮にやって来ていた。
久しぶりに見たアドキンス氏は、激務がたたってげっそりしてしまっている。
私と目が合うと、にっこりと微笑んでくれたが、目の下の濃い隈が痛々しい。
その場には国王陛下、アドキンス氏、神官長、神官長補佐カザール氏、財前さん、そしてアドルファスさんもいた。
「判定の玉」の結果が出るまで、アドルファスさんはこれまでと同じように仮面を付けていた。
「アドルファス、もう具合はいいのか? 無理はするな」
それでも彼が魔巣窟に飛び込んだ後、体調を崩していたことを知っている人たちは、彼の回復ぶりに目を見張っていた。
「お心遣いありがとうございます、陛下。ですが、この通り神官様の浄化のお陰で何とか」
「ふむ、そうか。ならよい。そなたは大丈夫なのか?」
陛下が私にも尋ねた。
「はい、お陰様で、このように」
「此度は我々が油断していたせいで、迷惑をかけた」
「いえ、仕方がないことでした」
「そなたにも力があることは知らず、失礼した。もし『判定の玉』の結果、そなたに聖女の力があったとしても、聖女として生きるかどうかはそなたの意思に任せる」
国王自ら、私に生き方を選んでもいいと太鼓判を押していただいた。
「ありがとうございます」
「では、始めようか、アドキンス」
「はっ」
陛下に言われ、アドキンス氏が机の上に置かれた櫃に何やら呪文を唱えると、カチリと音がして、蓋が開いた。
ここに召喚された時に、財前さんが触れて光った珠がそこにあった。
「さあ、ユイナ殿」
アドキンス氏に促され、珠の前に立つ。
「浄化の力があれば白く輝きます。レイ様は白一色でしたが、浄化以外の力があれば、他の色も現れてくるでしょう」
ごくりと唾を飲み込み、皆が見守る中、そっと触れた。
透明だった珠が触れた瞬間、輝き出した。
「な、なんと!」
浄化の力があれば白く光り、他の力があればそれ以外の色が出ると言っていたが、白赤青緑茶黒の色が交互に点滅した。
ぱっと手を離すと、光は消えてまた元の透明になった。
「え、これってどういうことですか?」
白以外の色が出るかもとは思ったけど、こんなにたくさんの色が出てくるとは思わなかった。
アドキンス氏を見ると、その場で目を見開いている。
他の人達の方を振り返ると、皆も同じ表情をしている。
「今のどういうことですか?」
財前さんだけが、私と同じで何が起こったのか理解できないようで首を傾げている。
「ア、アドルファス…私…何か」
何か良くないことなのかと不安になってアドルファスを見た。
声をかけられ、はっと彼は我に返って、私に駆け寄ってきた。
「心配しなくていいです。別に悪いことではありませんから」
「そ、そうなの?」
「ええ、ただ…」
「ただ?」
「実際にこの目で見たことがなかったので、信じられなかっただけです」
「え?」
アドルファスはアドキンス氏や陛下の方を見て、「よろしいでしょうか」と尋ねた。
二人は黙って頷いた。
「今のはほぼこの世に存在する魔法の全属性を現しています」
「ぜ、全属性?」
「ええ、魔塔主ともなれば、四大属性の火・水・風・土は最低限使えなくてはなりません。ただ得意不得意があるので、全て平等に使えるとは限りませんが、マルシャルはそこに弱冠の闇魔法が使えました」
「私は逆に白魔法の治癒魔法が使えます」
アドキンス氏が付け加えた。
「私は四大魔法止まりです」
「しかしレインズフォード卿は、どれかに偏ることなく、その四つとも同じ位に使いこなせていらっしゃるので、それも凄いことです」
アドキンス氏がアドルファスさんを褒める。
「え、ということは…」
「白は浄化。治癒。これに特化した力を持つ者が神官になることが多い。赤は火、青は水、緑は風、茶は土、そして黒が闇。それら全ての色が出たということは」
「ということは…」
「あなたは未だ誰も成し得なかった、全ての属性の魔法が使える素質があるということです」
「うそ…チートじゃない」
ボソリと財前さんが呟いた。
「チ? それはどういう意味ですか?」
財前さんの呟きにカザール氏が尋ねた。
「えっと…元の意味は知りませんが、凄い能力を持っていることをチートって言うんです」
「なるほど…チート…」
「あ、あの…なぜこんなことに? それに私は今まで魔法なんて一度も使ったことがありません」
「あくまでもこれは能力というか適性の問題であって、ユイナは魔法の使い方を学んでいませんから、素質はあっても使えなくて当たり前です」
魔法が使えないことについてアドルファスが説明してくれた。
「なぜ…ということに関して申し上げれば…」
アドキンス氏が思い当たることがあるのか、少し考えてから口にした。
「元々聖女召喚の魔法陣でこの世界に来られたので、白魔法は使えて当然でしょうが、今回の魔法陣はマルシャルが過去の記録を元に描いたものですから、彼の持ち得るすべての属性を少しずつ混ぜたのではないでしょうか」
「ふむ…アドキンスの申すことも一理あるかも知れぬな」
国王もそれを聞いて何やら考え込んだ。
「あの、私はどうすればいいですか?」
浄化の力程度なら財前さんと同じ。でもそれだけでなく、誰も持ったことのない力なんて、私には重すぎる。
久しぶりに見たアドキンス氏は、激務がたたってげっそりしてしまっている。
私と目が合うと、にっこりと微笑んでくれたが、目の下の濃い隈が痛々しい。
その場には国王陛下、アドキンス氏、神官長、神官長補佐カザール氏、財前さん、そしてアドルファスさんもいた。
「判定の玉」の結果が出るまで、アドルファスさんはこれまでと同じように仮面を付けていた。
「アドルファス、もう具合はいいのか? 無理はするな」
それでも彼が魔巣窟に飛び込んだ後、体調を崩していたことを知っている人たちは、彼の回復ぶりに目を見張っていた。
「お心遣いありがとうございます、陛下。ですが、この通り神官様の浄化のお陰で何とか」
「ふむ、そうか。ならよい。そなたは大丈夫なのか?」
陛下が私にも尋ねた。
「はい、お陰様で、このように」
「此度は我々が油断していたせいで、迷惑をかけた」
「いえ、仕方がないことでした」
「そなたにも力があることは知らず、失礼した。もし『判定の玉』の結果、そなたに聖女の力があったとしても、聖女として生きるかどうかはそなたの意思に任せる」
国王自ら、私に生き方を選んでもいいと太鼓判を押していただいた。
「ありがとうございます」
「では、始めようか、アドキンス」
「はっ」
陛下に言われ、アドキンス氏が机の上に置かれた櫃に何やら呪文を唱えると、カチリと音がして、蓋が開いた。
ここに召喚された時に、財前さんが触れて光った珠がそこにあった。
「さあ、ユイナ殿」
アドキンス氏に促され、珠の前に立つ。
「浄化の力があれば白く輝きます。レイ様は白一色でしたが、浄化以外の力があれば、他の色も現れてくるでしょう」
ごくりと唾を飲み込み、皆が見守る中、そっと触れた。
透明だった珠が触れた瞬間、輝き出した。
「な、なんと!」
浄化の力があれば白く光り、他の力があればそれ以外の色が出ると言っていたが、白赤青緑茶黒の色が交互に点滅した。
ぱっと手を離すと、光は消えてまた元の透明になった。
「え、これってどういうことですか?」
白以外の色が出るかもとは思ったけど、こんなにたくさんの色が出てくるとは思わなかった。
アドキンス氏を見ると、その場で目を見開いている。
他の人達の方を振り返ると、皆も同じ表情をしている。
「今のどういうことですか?」
財前さんだけが、私と同じで何が起こったのか理解できないようで首を傾げている。
「ア、アドルファス…私…何か」
何か良くないことなのかと不安になってアドルファスを見た。
声をかけられ、はっと彼は我に返って、私に駆け寄ってきた。
「心配しなくていいです。別に悪いことではありませんから」
「そ、そうなの?」
「ええ、ただ…」
「ただ?」
「実際にこの目で見たことがなかったので、信じられなかっただけです」
「え?」
アドルファスはアドキンス氏や陛下の方を見て、「よろしいでしょうか」と尋ねた。
二人は黙って頷いた。
「今のはほぼこの世に存在する魔法の全属性を現しています」
「ぜ、全属性?」
「ええ、魔塔主ともなれば、四大属性の火・水・風・土は最低限使えなくてはなりません。ただ得意不得意があるので、全て平等に使えるとは限りませんが、マルシャルはそこに弱冠の闇魔法が使えました」
「私は逆に白魔法の治癒魔法が使えます」
アドキンス氏が付け加えた。
「私は四大魔法止まりです」
「しかしレインズフォード卿は、どれかに偏ることなく、その四つとも同じ位に使いこなせていらっしゃるので、それも凄いことです」
アドキンス氏がアドルファスさんを褒める。
「え、ということは…」
「白は浄化。治癒。これに特化した力を持つ者が神官になることが多い。赤は火、青は水、緑は風、茶は土、そして黒が闇。それら全ての色が出たということは」
「ということは…」
「あなたは未だ誰も成し得なかった、全ての属性の魔法が使える素質があるということです」
「うそ…チートじゃない」
ボソリと財前さんが呟いた。
「チ? それはどういう意味ですか?」
財前さんの呟きにカザール氏が尋ねた。
「えっと…元の意味は知りませんが、凄い能力を持っていることをチートって言うんです」
「なるほど…チート…」
「あ、あの…なぜこんなことに? それに私は今まで魔法なんて一度も使ったことがありません」
「あくまでもこれは能力というか適性の問題であって、ユイナは魔法の使い方を学んでいませんから、素質はあっても使えなくて当たり前です」
魔法が使えないことについてアドルファスが説明してくれた。
「なぜ…ということに関して申し上げれば…」
アドキンス氏が思い当たることがあるのか、少し考えてから口にした。
「元々聖女召喚の魔法陣でこの世界に来られたので、白魔法は使えて当然でしょうが、今回の魔法陣はマルシャルが過去の記録を元に描いたものですから、彼の持ち得るすべての属性を少しずつ混ぜたのではないでしょうか」
「ふむ…アドキンスの申すことも一理あるかも知れぬな」
国王もそれを聞いて何やら考え込んだ。
「あの、私はどうすればいいですか?」
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