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99 歳の差
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この国での成人は十六歳。日本でもようやく十八歳に成人年齢が引き下げられたばかり。
まさか彼が二十四歳で、五つも歳下だとは思わなかった。
私の年齢を聞いて驚いたのも、私が若く見えたからだけでなく、歳上だとわかったからだった。
怪我をしたのが五年前だから、彼は十九歳だったことになる。そこから当主としてやってきているわけだ。
体もそうだが、精神的にもかなり成熟していると言っていいだろう。
レディの側から再び私の隣に腰を下ろしたアドルファスの顔をじっと見る。
やはりどう見ても歳上にしか見えない。
日本の生温い環境とは違い、早くから命の危険に晒されて、責任を負う立場に立っているのだ。
日本でも昔は十代前半で元服し、切った張ったで戦に出ていた。
幕末の志士たちも、二十歳前後で命のやり取りをしていた。
戦争中でも、お国のためと少年兵士たちが若い命を散らしていた時代がある。
大学を卒業してようやく一人前に扱われ始めた私とは、年季が違うというものだ。
「あら、それも伝えていなかったのね」
「そうでしたか…他に色々と気にすることが有りすぎて気にも止めませんでした。歳の差が気になるのですか?」
「いえ…そういうわけでは…」
歳の差を気にしているのは私だけのようだ。
「もちろん、成人前の相手なら同じように歳の差があっても相手にはしませんが、お互いに責任の取れる年齢だとわかってさえいれば、それでいいことです」
「そ、そうですね」
「実際、私の父と母も八歳離れています。父たちの場合は逆で父が歳上なのですけど」
「え、ご両親は、八歳も離れているのですか?」
「ええ。体が弱かったと言いましたよね。母はそのせいで婚期を逃していました。子どもを産むのも出来るかどうかわからず、跡継ぎを望む貴族なら、そんな嫁をもらおうとは思いません。けれど、デビューしたばかりの父が母を一方的に好きになって、ぐいぐい迫ったと聞いています」
「お父様…情熱的なのですね」
十六歳でデビューだから、八歳歳上のお母様は二十四歳。それをお母様をぐいぐい攻めて落としたのか。この国は閨教育まであるし、まだまだ驚きの連続だ。
「だから、息子を置いてでも妻に寄り添うことを選んだのでしょう」
「そう言えば私も、亡くなった夫に熱烈な求婚をされて降嫁したのでしたわ」
「レインズフォードの血筋でしょうね」
狙いを定めたハンターのようにこちらを見られ、捕食されそうになっている草食動物になった気持ちになった。
レディも、先々代の公爵に口説き落とされたのか。政略結婚的なことを想像していたので意外だった。
「反対はされなかったのですか?」
いくら好きだと言っても、跡継ぎを産めないかも知れない女性を妻にするのを、両親が認めるとは思えない。
「駄目なら勘当してくれていい。廃嫡も受け入れると言われ、それが単なる脅しではなく本気だとわかったから、許すしかありませんでした。あの子が後継ぎから外れたら、レインズフォード家の後を継ぐのは能力のない者ばかり。彼らに後を継がせるわけにはいきませでした」
背に腹は代えられない。そう思って二人の婚姻を認めた。
「何より、私もナターシャのことは…あ、アドルファスの母親の名前です。彼女のことは気の毒に思っていました。生家ではどちらかと言えば冷遇されていましたからね。実の母親が亡くなっていて、後妻の継母とは上手くいっていなかったようなので」
「母上もあまり実家のことは話したがらなかったので、私も母上の実家のベルロフ家とは最低限の付き合いしかしていません」
「ナターシャがああなったのも、アドルファスのことだけでなく、心に既に傷を持っていたせいだと思います」
「今でも覚えています。倒れた後、私のことを『誰ですか?その方』と言ったことを」
その時のことを思い出し、顔に影を落とすアドルファスの手を握る。
その手を握り返し、彼がにこりと笑った。
「弱いままでは、ユイナを守れません」
「アドルファスは弱くはありません」
「たとえ母上にまた拒絶されても、ユイナが居れば耐えられる」
「共に支え合い、尊重しあえる相手を見つけられたのですね」
「はい」
「私からも改めてお礼を言わせて頂きますわ。ありがとう、ユイナさん」
「い、いえ…お礼など。私こそ、最初から親切にしていただき、ありがとうございます」
「あなたには耳に痛いことも申しました」
王宮での話のことを言っているのだわかった。
私は首を振り、気にしていないと言った。
「それもアドルファスのことを大切に思われているからこそだと、わかっています」
それから神殿にすぐに使いを送り、領地のアドルファスの父親には、魔法の鳥を使いすぐにそちらへ向かうことを伝える手紙を送った。
「判定の玊」の結果が出るまでは神殿に居るようにという風に言われていたため、迎えの馬車に乗り込み、レディとアドルファスに見送られて私は神殿に戻った。
三日後、「判定の玊」の修復が完了したと、魔塔から連絡が来た。
まさか彼が二十四歳で、五つも歳下だとは思わなかった。
私の年齢を聞いて驚いたのも、私が若く見えたからだけでなく、歳上だとわかったからだった。
怪我をしたのが五年前だから、彼は十九歳だったことになる。そこから当主としてやってきているわけだ。
体もそうだが、精神的にもかなり成熟していると言っていいだろう。
レディの側から再び私の隣に腰を下ろしたアドルファスの顔をじっと見る。
やはりどう見ても歳上にしか見えない。
日本の生温い環境とは違い、早くから命の危険に晒されて、責任を負う立場に立っているのだ。
日本でも昔は十代前半で元服し、切った張ったで戦に出ていた。
幕末の志士たちも、二十歳前後で命のやり取りをしていた。
戦争中でも、お国のためと少年兵士たちが若い命を散らしていた時代がある。
大学を卒業してようやく一人前に扱われ始めた私とは、年季が違うというものだ。
「あら、それも伝えていなかったのね」
「そうでしたか…他に色々と気にすることが有りすぎて気にも止めませんでした。歳の差が気になるのですか?」
「いえ…そういうわけでは…」
歳の差を気にしているのは私だけのようだ。
「もちろん、成人前の相手なら同じように歳の差があっても相手にはしませんが、お互いに責任の取れる年齢だとわかってさえいれば、それでいいことです」
「そ、そうですね」
「実際、私の父と母も八歳離れています。父たちの場合は逆で父が歳上なのですけど」
「え、ご両親は、八歳も離れているのですか?」
「ええ。体が弱かったと言いましたよね。母はそのせいで婚期を逃していました。子どもを産むのも出来るかどうかわからず、跡継ぎを望む貴族なら、そんな嫁をもらおうとは思いません。けれど、デビューしたばかりの父が母を一方的に好きになって、ぐいぐい迫ったと聞いています」
「お父様…情熱的なのですね」
十六歳でデビューだから、八歳歳上のお母様は二十四歳。それをお母様をぐいぐい攻めて落としたのか。この国は閨教育まであるし、まだまだ驚きの連続だ。
「だから、息子を置いてでも妻に寄り添うことを選んだのでしょう」
「そう言えば私も、亡くなった夫に熱烈な求婚をされて降嫁したのでしたわ」
「レインズフォードの血筋でしょうね」
狙いを定めたハンターのようにこちらを見られ、捕食されそうになっている草食動物になった気持ちになった。
レディも、先々代の公爵に口説き落とされたのか。政略結婚的なことを想像していたので意外だった。
「反対はされなかったのですか?」
いくら好きだと言っても、跡継ぎを産めないかも知れない女性を妻にするのを、両親が認めるとは思えない。
「駄目なら勘当してくれていい。廃嫡も受け入れると言われ、それが単なる脅しではなく本気だとわかったから、許すしかありませんでした。あの子が後継ぎから外れたら、レインズフォード家の後を継ぐのは能力のない者ばかり。彼らに後を継がせるわけにはいきませでした」
背に腹は代えられない。そう思って二人の婚姻を認めた。
「何より、私もナターシャのことは…あ、アドルファスの母親の名前です。彼女のことは気の毒に思っていました。生家ではどちらかと言えば冷遇されていましたからね。実の母親が亡くなっていて、後妻の継母とは上手くいっていなかったようなので」
「母上もあまり実家のことは話したがらなかったので、私も母上の実家のベルロフ家とは最低限の付き合いしかしていません」
「ナターシャがああなったのも、アドルファスのことだけでなく、心に既に傷を持っていたせいだと思います」
「今でも覚えています。倒れた後、私のことを『誰ですか?その方』と言ったことを」
その時のことを思い出し、顔に影を落とすアドルファスの手を握る。
その手を握り返し、彼がにこりと笑った。
「弱いままでは、ユイナを守れません」
「アドルファスは弱くはありません」
「たとえ母上にまた拒絶されても、ユイナが居れば耐えられる」
「共に支え合い、尊重しあえる相手を見つけられたのですね」
「はい」
「私からも改めてお礼を言わせて頂きますわ。ありがとう、ユイナさん」
「い、いえ…お礼など。私こそ、最初から親切にしていただき、ありがとうございます」
「あなたには耳に痛いことも申しました」
王宮での話のことを言っているのだわかった。
私は首を振り、気にしていないと言った。
「それもアドルファスのことを大切に思われているからこそだと、わかっています」
それから神殿にすぐに使いを送り、領地のアドルファスの父親には、魔法の鳥を使いすぐにそちらへ向かうことを伝える手紙を送った。
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