【完結】異世界召喚 (聖女)じゃない方でしたがなぜか溺愛されてます

七夜かなた

文字の大きさ
上 下
93 / 118

93 流れた涙

しおりを挟む
「ですが聖女の力は…」
「しっ」

 アドルファスさんの唇に人差し指を当てて言葉を封じる。

「聖女の力を私的に求めてはいけない。そう言いたいんでしょ」

 言葉を封じられ、彼は無言で頷く。

「でも私はまだ正式に聖女と認められたわけじゃない。だからその主張は通らないわ」

『判定の玉』は未だ修復されていない。数日の内に修復できると聞いているが、修復に必要な魔力を注ぎ続けるのは意外と骨が折れるらしい。

「だから私が浄化の力を使っても、構わないでしょ」
「君には適わないな」

 私の屁理屈にアドルファスさんは苦笑する。

「では、よろしくお願いします」

 ただ、そう言われても私は具体的にどうしたらいいかわからない。
 聖女の力を開眼するため、財前さんは潔斎の儀を行った。それにより彼女は力を使えるようになった。
 でも私はまだその方法を知らない。

「ユイナ?」

 少し考えて私は彼の頬を両手で包み、唇を重ねた。

「ん・・」

 力を注ぎ込むイメージを浮かべて息を吹き込む。
 私が注ぎ込んだ力で彼の傷が癒える姿を思い浮かべ、開いた唇の間に舌を滑り込ませると、彼もそれに応えて舌を絡めてきた。

 体が次第に熱を帯びてくるのを感じる。ただそれは興奮しているせいか、何か不思議な力が作用しているのかわからない。

 ピクリとシーツの上に力なく乗せられていた彼の左手が動いた気がした。

「こんな治療なら、いつでも喜んで」

 二人の唇の間に透明な糸が引く。

「どうですか?」

 力を発揮できたのかわからず、様子を尋ねる。気のせいか頬の痣の色が薄くなった気がする。

「幸せすぎてどうにかなりそうだ」
「そんなことを聞いているのでは・・」
「わかっています。本当に、あなたにキスされて男として喜んでいるだけでなく、不思議と体に重くのし掛っていた重圧が消えた気がします」
「そう。だったらいいけど・・」

 それから私は指が枝のようになった左腕を持ち上げた。

「少しは動くの?」
「指だけなら」

 そう言って彼が人差し指と中指を動かす。とてもゆっくりと。

「でもまるで力が入らない。肩から先はまるで鉛のようだ」
「じゃあ、その指で、私を気持ちよく出来る?」
「え?」
「右手は添えるだけ。その左手で私に触れて私を悦ばせて」
「・・・ユイナ」
「今からリハビリを始めます」
「りは?」
「正式にはリハビリテーションと言います。本来あるべき状態への回復。実際はきちんと計画を立てて、運動療法などで機能を回復させるのですが、浄化と治癒を使って似たような効果を目指します」

 驚くアイスブルーの瞳を見つめながら、私は服を脱ぎ下着だけになる。それから力のない左手を持って一本一本に唇を寄せた。
 その間も視線は彼に絡めたまま、舌を這わせる。次第に指に色が戻ってきて膨らみを帯びる。それに合わせて彼の瞳の色も深みを増していく。

 充分に濡れたところでその手を下着の上から胸に当てた。

 小枝のようだった指が胸の膨らみに沈み込む。

「感触はあるの?」

 動かないうえに、もしかしたら触感もないかもしれない。

「柔らかくて、温かい。君を感じる」

 指が更に胸に食い込む。親指が胸の中心を押し、ゆっくりと指の腹で先端を転がす。

「リハ・・というのは。こんなに楽しいものなのか? 君のいた世界は凄いな」

 彼の息も次第に上がり、胸が大きく上下し熱い息が吐き出される。

「まさか、これは私の考えた、あなた専用のものよ」
「私だけの? それはますます興奮する」

 右手で私の腰を抱き、自分の方に引き寄せる。同時に胸に触れる左手がぐっと食い込んだ。

「もっと力を込めて、まだまだ足りない」
「ああ、わかっている。わかっているよ。でも・・」

 アドルファスさんが苦しそうに顔を歪める。額にうっすらと汗が浮き出て、彼が努力しているのがわかる。
 その力を込めて結ばれた唇に、再び唇を重ねる。ふっと力が緩み再び深い口づけを交わしあった。

 どうしてこの温もりを手放せると思ったんだろう。

 私の細胞が、この人でないと駄目だと言っているのに。

「ユイナ・・」

 切なげな声で彼が私の名前を呼ぶ。「唯奈」と「ユイナ」。同じ名前だけど、違う。

「アドルファス」

 その時私は、彼の目から初めて涙が溢れるのを見た。

しおりを挟む
感想 8

あなたにおすすめの小説

若奥様は緑の手 ~ お世話した花壇が聖域化してました。嫁入り先でめいっぱい役立てます!

古森真朝
恋愛
意地悪な遠縁のおばの邸で暮らすユーフェミアは、ある日いきなり『明後日に輿入れが決まったから荷物をまとめろ』と言い渡される。いろいろ思うところはありつつ、これは邸から出て自立するチャンス!と大急ぎで支度して出立することに。嫁入り道具兼手土産として、唯一の財産でもある裏庭の花壇(四畳サイズ)を『持参』したのだが――実はこのプチ庭園、長年手塩にかけた彼女の魔力によって、神域霊域レベルのレア植物生息地となっていた。 そうとは知らないまま、輿入れ初日にボロボロになって帰ってきた結婚相手・クライヴを救ったのを皮切りに、彼の実家エヴァンス邸、勤め先である王城、さらにお世話になっている賢者様が司る大神殿と、次々に起こる事件を『あ、それならありますよ!』とプチ庭園でしれっと解決していくユーフェミア。果たして嫁ぎ先で平穏を手に入れられるのか。そして根っから世話好きで、何くれとなく構ってくれるクライヴVS自立したい甘えベタの若奥様の勝負の行方は? *カクヨム様で先行掲載しております

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

老女召喚〜聖女はまさかの80歳?!〜城を追い出されちゃったけど、何か若返ってるし、元気に異世界で生き抜きます!〜

二階堂吉乃
ファンタジー
 瘴気に脅かされる王国があった。それを祓うことが出来るのは異世界人の乙女だけ。王国の幹部は伝説の『聖女召喚』の儀を行う。だが現れたのは1人の老婆だった。「召喚は失敗だ!」聖女を娶るつもりだった王子は激怒した。そこら辺の平民だと思われた老女は金貨1枚を与えられると、城から追い出されてしまう。実はこの老婆こそが召喚された女性だった。  白石きよ子・80歳。寝ていた布団の中から異世界に連れてこられてしまった。始めは「ドッキリじゃないかしら」と疑っていた。頼れる知り合いも家族もいない。持病の関節痛と高血圧の薬もない。しかし生来の逞しさで異世界で生き抜いていく。  後日、召喚が成功していたと分かる。王や重臣たちは慌てて老女の行方を探し始めるが、一向に見つからない。それもそのはず、きよ子はどんどん若返っていた。行方不明の老聖女を探す副団長は、黒髪黒目の不思議な美女と出会うが…。  人の名前が何故か映画スターの名になっちゃう天然系若返り聖女の冒険。全14話+間話7話。

キャベツとよんでも

さかな〜。
恋愛
由緒だけはある貧乏男爵令嬢ハイデマリーと、執事として雇われたのにいつの間にか職務が増えていた青年ギュンターの日常。 今日も部屋を調える――お嬢様の疲れが癒えるように、寛いでもらえる様に―― 一見ゆったりとした緩い日常の話です。設定もユルいです。

転生したら死んだことにされました〜女神の使徒なんて聞いてないよ!〜

家具屋ふふみに
ファンタジー
大学生として普通の生活を送っていた望水 静香はある日、信号無視したトラックに轢かれてそうになっていた女性を助けたことで死んでしまった。が、なんか助けた人は神だったらしく、異世界転生することに。 そして、転生したら...「女には荷が重い」という父親の一言で死んだことにされました。なので、自由に生きさせてください...なのに職業が女神の使徒?!そんなの聞いてないよ?! しっかりしているように見えてたまにミスをする女神から面倒なことを度々押し付けられ、それを与えられた力でなんとか解決していくけど、次から次に問題が起きたり、なにか不穏な動きがあったり...? ローブ男たちの目的とは?そして、その黒幕とは一体...? 不定期なので、楽しみにお待ち頂ければ嬉しいです。 拙い文章なので、誤字脱字がありましたらすいません。報告して頂ければその都度訂正させていただきます。 小説家になろう様でも公開しております。

月の後宮~孤高の皇帝の寵姫~

真木
恋愛
新皇帝セルヴィウスが即位の日に閨に引きずり込んだのは、まだ十三歳の皇妹セシルだった。大好きだった兄皇帝の突然の行為に混乱し、心を閉ざすセシル。それから十年後、セシルの心が見えないまま、セルヴィウスはある決断をすることになるのだが……。

子持ちの私は、夫に駆け落ちされました

月山 歩
恋愛
産まれたばかりの赤子を抱いた私は、砦に働きに行ったきり、帰って来ない夫を心配して、鍛錬場を訪れた。すると、夫の上司は夫が仕事中に駆け落ちしていなくなったことを教えてくれた。食べる物がなく、フラフラだった私は、その場で意識を失った。赤子を抱いた私を気の毒に思った公爵家でお世話になることに。

【完結】神から貰ったスキルが強すぎなので、異世界で楽しく生活します!

桜もふ
恋愛
神の『ある行動』のせいで死んだらしい。私の人生を奪った神様に便利なスキルを貰い、転生した異世界で使えるチートの魔法が強すぎて楽しくて便利なの。でもね、ここは異世界。地球のように安全で自由な世界ではない、魔物やモンスターが襲って来る危険な世界……。 「生きたければ魔物やモンスターを倒せ!!」倒さなければ自分が死ぬ世界だからだ。 異世界で過ごす中で仲間ができ、時には可愛がられながら魔物を倒し、食料確保をし、この世界での生活を楽しく生き抜いて行こうと思います。 初めはファンタジー要素が多いが、中盤あたりから恋愛に入ります!!

処理中です...