【完結】異世界召喚 (聖女)じゃない方でしたがなぜか溺愛されてます

七夜かなた

文字の大きさ
上 下
66 / 118

66 異世界の性教育

しおりを挟む
「何を考えているんですか?」

頬にかかる私の髪をかきあげてアドルファスさんが尋ねた。
私の体に触れ、私の中を掻き乱した手。剣を握るからかゴツゴツしているのに、私に触れる時はどこまでも優しい。

「昨夜は素敵でした」
「私も楽しかった」
「お上手…なんですね」

嫌味ではなく、純粋な感想だった。

「あ、でも言いにくいなら…」

不遜な言い方に聞こえなかっただろうか。それに詮索するようで気が引けた。

「構いませんよ。きっと先生が良かったんでしょう」
「先生?」
「リングの話はしましたよね」
「はい」
「王侯貴族はリングを装着したら、手解きを受けます」
「手解き…え、もしかして、それって…あっちの手解き?」
「閨指南とでもいいましょうか」

つまりそういう教育を受けたから、アドルファスさんはうまいのか。

「主に王侯貴族の男子への手解きを生業にしている者がいます。女性たちも結婚を控えた令嬢や、ご婦人方が夫との夜の生活に役立てるために利用します」

風俗に通うのと似ているが、多分アドルファスさんの受けた教育はもっと本格的なものだろう。地球でもそういう風に言われる人はいた。いわゆる高級娼婦と呼ばれる人達。
オペラで有名な『椿姫』もそうだ。

「アドルファスさんは、そういう人に教えてもらったんですね。どんなのことを教わるのですか?」

リングのことといい、初めて知ることばかりで興味深い。

「女性の体がどうなっているか、どこにどう触れれば気持ちいいと感じるのか。教えてもらって、それをものにできるかどうかは人によりますが、あなたが素敵だったと言ってくれるなら、私は生徒として優秀だったということでしょうか」
「そうかも知れませんね」
「気に障りましたか?」

ちょっと暗い顔になったのをアドルファスさんは見逃さなかった。

「あなたの世界とは常識が違って不快にさせたのなら…」
「違います。話してほしいと言ったのは私です」
「では、何が気になるんですか? 悪いところは直します。言ってください」
「違います。アドルファスさん…アドルファスに直すところなんてありませんよ。ただ…」
「ただ?」
「私が…私があなたに比べたら未熟で、あなたを満足させられないから…そういう教育を受けたなら、あなたの今までの相手も同じなら、私なんて、きっとあなたを満足させられない」

楽しかったと言ってくれたけれど、それは彼の優しさだろう。ただ私は彼に触れられ反応しただけで、彼を満足させる技術などない。

「それは違います」

今度は彼が否定する。

「聞いてください。私が楽しかったと言ったのは、それがあなたとだったからです」

背中に腕を回して抱き寄せる。

「指南は快楽を求めるためだけに受けるのではないんです」
「え?」
「大事な人を抱く時に、相手を喜ばせることができるように、技術を磨く。私は先生にそう教わりました」
「相手を…喜ばせる」
「そうです。心と体は密接な関係にある。気持ちひとつで同じ行為でも感じ方はまったく違ってくる。だから誠意をもって相手に尽くしなさい。それが先生の口癖でした」

思っていたのとは違って女性を抱く方法だけでなく、精神論までとは意外に奥が深い。

「それは自分も同じです。抱きたいと思った相手との行為はそれだけで何倍も幸せを感じる。技術や経験値ではないんです」

背骨に沿って手が腰へと下りていく。たったそれだけのことで体に戦慄が走る。

「私が、初めてでないと…わかりました?」
「はい」

初体験かアドルファスさんとだったら良かった。でもそれを今思っても仕方がない。

「がっかりしました?」
「がっかり? なぜです?」
「ここの事情がわからなくて…その…処女性って重要視されるのかなと…」
「ああ、そういうことですか…それは個人の考えによります。互いに婚姻前に性行為をせず、結婚後も貞操を貫くなら、男がこのようなものを付ける必要はありません」
「確かに…」
「拘る人もいますが、その経験があって、今があるなら、仕方がないことです」

意外にそこは寛大みたいだ。

「あなたは私の傷を見ても恐れなかった。吐瀉物も嫌悪せず受け止めた。誰にでもできることではありません」
「それは他の人でもできることです」

確かにアドルファスさんの傷は目を背けたくなる人もいる。ただそれは私だけが特別なわけではない。

「でも、異世界から来たユイナさんはあなただけです。この世界に聖女と訪れ私の目を釘付けにしたのはあなたです」

アドルファスさんの指が、腰の窪みに沿って一定のリズムで上下する。軽い触れ合いだが、体を重ね一夜を共にした男女の親しさを感じる。
それに加え、アドルファスさんの態度や表情から、私との行為に大変満足しているのがわかる。

私の男を見る目がないのか、ここまで大切に扱われるのは初めてだった。

「終わった後もこんなに優しいなんて、これも、指導通りなんですか?」
「え?」

もしそうなら、この世界というか、この国の性教育はかなりのものだ。本番だけでなく、事後の扱いまで懇切丁寧に教えているのだから。

「それともアドルファスさんの経験から学んだんですか?」

怪我のことを除けば、見た目がかなり極上なのだから、恋人は選び放題、向こうからアプローチしてきただろう。
だからこその今の彼があるのだけど。

この関係は永遠ではない。

彼がこれまで閨を共にした女性は一人や二人ではないだろう。万が一私が元の世界に戻った後、彼の傷痕に拘らない女性が現れたら、彼は私を抱いたようにその女性を抱くのだろうか。
しおりを挟む
感想 8

あなたにおすすめの小説

【完結】魔力がないと見下されていた私は仮面で素顔を隠した伯爵と結婚することになりました〜さらに魔力石まで作り出せなんて、冗談じゃない〜

光城 朱純
ファンタジー
魔力が強いはずの見た目に生まれた王女リーゼロッテ。 それにも拘わらず、魔力の片鱗すらみえないリーゼロッテは家族中から疎まれ、ある日辺境伯との結婚を決められる。 自分のあざを隠す為に仮面をつけて生活する辺境伯は、龍を操ることができると噂の伯爵。 隣に魔獣の出る森を持ち、雪深い辺境地での冷たい辺境伯との新婚生活は、身も心も凍えそう。 それでも国の端でひっそり生きていくから、もう放っておいて下さい。 私のことは私で何とかします。 ですから、国のことは国王が何とかすればいいのです。 魔力が使えない私に、魔力石を作り出せだなんて、そんなの無茶です。 もし作り出すことができたとしても、やすやすと渡したりしませんよ? これまで虐げられた分、ちゃんと返して下さいね。 表紙はPhoto AC様よりお借りしております。

完結【真】ご都合主義で生きてます。-創生魔法で思った物を創り、現代知識を使い世界を変える-

ジェルミ
ファンタジー
魔法は5属性、無限収納のストレージ。 自分の望んだものを創れる『創生魔法』が使える者が現れたら。 28歳でこの世を去った佐藤は、異世界の女神により転移を誘われる。 そして女神が授けたのは、想像した事を実現できる創生魔法だった。 安定した収入を得るために創生魔法を使い生産チートを目指す。 いずれは働かず、寝て暮らせる生活を目指して! この世界は無い物ばかり。 現代知識を使い生産チートを目指します。 ※カクヨム様にて1日PV数10,000超え、同時掲載しております。

30代社畜の私が1ヶ月後に異世界転生するらしい。

ひさまま
ファンタジー
 前世で搾取されまくりだった私。  魂の休養のため、地球に転生したが、地球でも今世も搾取されまくりのため魂の消滅の危機らしい。  とある理由から元の世界に戻るように言われ、マジックバックを自称神様から頂いたよ。  これで地球で買ったものを持ち込めるとのこと。やっぱり夢ではないらしい。  取り敢えず、明日は退職届けを出そう。  目指せ、快適異世界生活。  ぽちぽち更新します。  作者、うっかりなのでこれも買わないと!というのがあれば教えて下さい。  脳内の空想を、つらつら書いているのでお目汚しな際はごめんなさい。

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

うっかり女神さまからもらった『レベル9999』は使い切れないので、『譲渡』スキルで仲間を強化して最強パーティーを作ることにしました

akairo
ファンタジー
「ごめんなさい!貴方が死んだのは私のクシャミのせいなんです!」 帰宅途中に工事現場の足台が直撃して死んだ、早良 悠月(さわら ゆずき)が目覚めた目の前には女神さまが土下座待機をして待っていた。 謝る女神さまの手によって『ユズキ』として転生することになったが、その直後またもや女神さまの手違いによって、『レベル9999』と職業『譲渡士』という謎の職業を付与されてしまう。 しかし、女神さまの世界の最大レベルは99。 勇者や魔王よりも強いレベルのまま転生することになったユズキの、使い切ることもできないレベルの使い道は仲間に譲渡することだった──!? 転生先で出会ったエルフと魔族の少女。スローライフを掲げるユズキだったが、二人と共に世界を回ることで国を巻き込む争いへと巻き込まれていく。 ※9月16日  タイトル変更致しました。 前タイトルは『レベル9999は転生した世界で使い切れないので、仲間にあげることにしました』になります。 仲間を強くして無双していく話です。 『小説家になろう』様でも公開しています。

異世界に落ちたら若返りました。

アマネ
ファンタジー
榊原 チヨ、87歳。 夫との2人暮らし。 何の変化もないけど、ゆっくりとした心安らぐ時間。 そんな普通の幸せが側にあるような生活を送ってきたのにーーー 気がついたら知らない場所!? しかもなんかやたらと若返ってない!? なんで!? そんなおばあちゃんのお話です。 更新は出来れば毎日したいのですが、物語の時間は割とゆっくり進むかもしれません。

冷徹宰相様の嫁探し

菱沼あゆ
ファンタジー
あまり裕福でない公爵家の次女、マレーヌは、ある日突然、第一王子エヴァンの正妃となるよう、申し渡される。 その知らせを持って来たのは、若き宰相アルベルトだったが。 マレーヌは思う。 いやいやいやっ。 私が好きなのは、王子様じゃなくてあなたの方なんですけど~っ!? 実家が無害そう、という理由で王子の妃に選ばれたマレーヌと、冷徹宰相の恋物語。 (「小説家になろう」でも公開しています)

魔法が使えない令嬢は住んでいた小屋が燃えたので家出します

怠惰るウェイブ
ファンタジー
グレイの世界は狭く暗く何よりも灰色だった。 本来なら領主令嬢となるはずの彼女は領主邸で住むことを許されず、ボロ小屋で暮らしていた。 彼女はある日、棚から落ちてきた一冊の本によって人生が変わることになる。 世界が色づき始めた頃、ある事件をきっかけに少女は旅をすることにした。 喋ることのできないグレイは旅を通して自身の世界を色付けていく。

処理中です...