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47 謎の声
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「出来た。ブレスレットです」
通販で革のアクセサリーを作ったことがある。金具などのパーツなどがあればもっと色々作れるが、今は部品がない。
「器用だね。余り物で作ったというのがいいね」
ミランダさんも気になって覗いてきた。
「細い紐なら女性用、もう少し太いのなら男性でも合うと思いますよ」
「へえ…じゃあ、俺もやってみようか」
おじさんも隣で私の手付きを真似て自分も作る。
初めてだけど職人ならではの器用さで、すぐに上達した。
「どうだい?」
出来上がったブレスレットをおじさんが見せた。
「さすが職人さん、器用ですね」
「これくらい大したことないさ」
褒められて満更でもないなさそうで嬉しそうに言う。
ミランダさんが出来上がったブレスレットのひとつを手に取った。
「ファビオ、これ売り物になるじゃない?」
「そう思うか? ならちょっと店先に並べてみるか。いくらで売ればいいと思う?」
売値についておじさんが私に訊いてきた。
値段については物価がわからないので、おじさんに任せると言った。
「しかし、作ったのはおじょうちゃんだしな…」
「あんたが決められないなら、あたしが決めてあげるよ。ひとつ銅貨ニ枚でどうだい? こっちの小物入れが銅貨十枚だからね」
「おいおい、それじゃあ安すぎる」
「でも捨てる予定の端切れで作ったんだから」
「仕方ないな」
「ということで、これひとつ戴くよ」
「あ、おいミランダ…やりやがったな」
ミランダさんが銅貨ニ枚を渡してブレスレットのひとつを取った。
「自分が欲しかったから、買い叩いたな」
口では文句を言っているが顔は笑っている。ミランダさんも振り向いてペロリと下を出している。
隣同士の軽いやり取りで、お互い悪い気はしていないのがわかる。
「まあ、ミランダには世話になったしな」
それから私の方を向いて
「おじょうちゃんは良かったら自分で作ったのを持って帰ってくれ」
「え、でも私はお金を持っていません」
「恩人からお金なんてもらえない。バチが当たるってもんだ。それでも受けた恩にはまだ足りないくらいだからな」
聞けば神官を頼むのに銀貨三枚、治療師もそれなりお金がかかる。それが浮いたのだからと言われて、最初に作ったのと、少し幅広ので作ったのをもらっていくことにした。
「ありがとうございます。あの、それから…」
「ん?」
「私、もう二十歳はとっくに過ぎているので、『おじょうちゃん』はやめてもらえれば…」
三十前とは言えずそこは濁した。
「「え!」」
ミランダさんと二人同時に驚かれた。
「若く見えるのは嬉しいんですが、もうおじょうちゃんという年ではないので…」
「そりゃ申し訳ない。てっきりうちの子と同じくらいかと…」
「まあ、年なんて関係ないさ。それでも私らより若いのは確かだからね」
「それはそうなんですが…」
「じゃあ、ユイナさんと呼ばせてもらおうか」
「はい、よろしくおねがいします」
『ユイナ』
「え?」
その時、ファビオさんでもミランダさんでもない声で名前を呼ばれた気がした。
周りを見渡したが、もちろんこの辺りに知り合いなどいない。
「空耳かな」
声は一度きりしか聞こえなかった。誰かが言った言葉が自分の名前に聞こえただけかも知れない。
作業しながらファビオさんのことを色々聞いた。
彼は奥さんと息子さん、娘さんの四人暮らしで、娘さんが生まれつき体が弱くてよく熱を出すため、薬代やらでお金がたくさんいるらしい。
神官や治療師はとても高くて頼めない。
奥さんも看病しながら縫い物などの内職をしているそうだ。
さっき自分が倒れたとき、神官などを呼ぶのを躊躇ったのはそういうこともあるらしい。
「だが、娘の命がそれで助かるなら安いもんだ」
「家族思いなんですね」
「そんないいもんじゃないけど、家族には貧乏暮らしさせてるからな。でも息子はよく出来たやつで、平民の俺らの子なのに、魔力があってね。士官学校に通ってるんだ」
「へえ、士官学校…」
アドルファスさんは士官学校で教えていると言っていた。ファビオさんの息子さんを教えているかも。
『ユイナ』
「え…」
また声が聞こえた。今度はさっきより強く聞こえた。
見上げるとダイヤモンドダストのようなキラキラした粒子が空中に漂っていた。
「え、きれい…何これ?」
「ん?どうした?」
キラキラを見て呟くと、ファビオさんが不思議そうな顔をした。
「あの、このキラキラしているのは何ですか」
ダイヤモンドダストは、寒冷地で冬に水蒸気が結晶化してキラキラ輝く自然現象。それが今この気候で起こるはずがないので、違うのだとわかるが、ならこれはどんな現象なのだろう。
「何がどうしたって?」
キラキラを乗せようと、手のひらを上にしていている私の仕草を見てファビオさんが首を捻る。
「これですよ。このキラキラ」
触れても冷たくない。それをファビオさんに見せようと彼の目の前に差し出した。
「…手のひらがどうしたって?」
「え、これ見えないんですか」
「すまん。あんたの言っているのが何かわからない」
「どうして…」
彼にはこのキラキラ粒が見えないみたい。私にだけ見えるというのか。
「ユイナ!」
また名前を呼ばれた。
今度はもっとはっきりと。そしてその声の主はすぐに目の前に現れた。
「アドルファスさん」
髪を振り乱しながら息せき切ったアドルファスさんが私の前に立つ。顔面蒼白でうっすら汗までかいている。
「アドルファスさん、どうし…きゃっ」
『どうしてここに』と言おうとした私は、次の瞬間両肩をアドルファスさんに掴まれて、そのまま彼に抱きすくめられた。
通販で革のアクセサリーを作ったことがある。金具などのパーツなどがあればもっと色々作れるが、今は部品がない。
「器用だね。余り物で作ったというのがいいね」
ミランダさんも気になって覗いてきた。
「細い紐なら女性用、もう少し太いのなら男性でも合うと思いますよ」
「へえ…じゃあ、俺もやってみようか」
おじさんも隣で私の手付きを真似て自分も作る。
初めてだけど職人ならではの器用さで、すぐに上達した。
「どうだい?」
出来上がったブレスレットをおじさんが見せた。
「さすが職人さん、器用ですね」
「これくらい大したことないさ」
褒められて満更でもないなさそうで嬉しそうに言う。
ミランダさんが出来上がったブレスレットのひとつを手に取った。
「ファビオ、これ売り物になるじゃない?」
「そう思うか? ならちょっと店先に並べてみるか。いくらで売ればいいと思う?」
売値についておじさんが私に訊いてきた。
値段については物価がわからないので、おじさんに任せると言った。
「しかし、作ったのはおじょうちゃんだしな…」
「あんたが決められないなら、あたしが決めてあげるよ。ひとつ銅貨ニ枚でどうだい? こっちの小物入れが銅貨十枚だからね」
「おいおい、それじゃあ安すぎる」
「でも捨てる予定の端切れで作ったんだから」
「仕方ないな」
「ということで、これひとつ戴くよ」
「あ、おいミランダ…やりやがったな」
ミランダさんが銅貨ニ枚を渡してブレスレットのひとつを取った。
「自分が欲しかったから、買い叩いたな」
口では文句を言っているが顔は笑っている。ミランダさんも振り向いてペロリと下を出している。
隣同士の軽いやり取りで、お互い悪い気はしていないのがわかる。
「まあ、ミランダには世話になったしな」
それから私の方を向いて
「おじょうちゃんは良かったら自分で作ったのを持って帰ってくれ」
「え、でも私はお金を持っていません」
「恩人からお金なんてもらえない。バチが当たるってもんだ。それでも受けた恩にはまだ足りないくらいだからな」
聞けば神官を頼むのに銀貨三枚、治療師もそれなりお金がかかる。それが浮いたのだからと言われて、最初に作ったのと、少し幅広ので作ったのをもらっていくことにした。
「ありがとうございます。あの、それから…」
「ん?」
「私、もう二十歳はとっくに過ぎているので、『おじょうちゃん』はやめてもらえれば…」
三十前とは言えずそこは濁した。
「「え!」」
ミランダさんと二人同時に驚かれた。
「若く見えるのは嬉しいんですが、もうおじょうちゃんという年ではないので…」
「そりゃ申し訳ない。てっきりうちの子と同じくらいかと…」
「まあ、年なんて関係ないさ。それでも私らより若いのは確かだからね」
「それはそうなんですが…」
「じゃあ、ユイナさんと呼ばせてもらおうか」
「はい、よろしくおねがいします」
『ユイナ』
「え?」
その時、ファビオさんでもミランダさんでもない声で名前を呼ばれた気がした。
周りを見渡したが、もちろんこの辺りに知り合いなどいない。
「空耳かな」
声は一度きりしか聞こえなかった。誰かが言った言葉が自分の名前に聞こえただけかも知れない。
作業しながらファビオさんのことを色々聞いた。
彼は奥さんと息子さん、娘さんの四人暮らしで、娘さんが生まれつき体が弱くてよく熱を出すため、薬代やらでお金がたくさんいるらしい。
神官や治療師はとても高くて頼めない。
奥さんも看病しながら縫い物などの内職をしているそうだ。
さっき自分が倒れたとき、神官などを呼ぶのを躊躇ったのはそういうこともあるらしい。
「だが、娘の命がそれで助かるなら安いもんだ」
「家族思いなんですね」
「そんないいもんじゃないけど、家族には貧乏暮らしさせてるからな。でも息子はよく出来たやつで、平民の俺らの子なのに、魔力があってね。士官学校に通ってるんだ」
「へえ、士官学校…」
アドルファスさんは士官学校で教えていると言っていた。ファビオさんの息子さんを教えているかも。
『ユイナ』
「え…」
また声が聞こえた。今度はさっきより強く聞こえた。
見上げるとダイヤモンドダストのようなキラキラした粒子が空中に漂っていた。
「え、きれい…何これ?」
「ん?どうした?」
キラキラを見て呟くと、ファビオさんが不思議そうな顔をした。
「あの、このキラキラしているのは何ですか」
ダイヤモンドダストは、寒冷地で冬に水蒸気が結晶化してキラキラ輝く自然現象。それが今この気候で起こるはずがないので、違うのだとわかるが、ならこれはどんな現象なのだろう。
「何がどうしたって?」
キラキラを乗せようと、手のひらを上にしていている私の仕草を見てファビオさんが首を捻る。
「これですよ。このキラキラ」
触れても冷たくない。それをファビオさんに見せようと彼の目の前に差し出した。
「…手のひらがどうしたって?」
「え、これ見えないんですか」
「すまん。あんたの言っているのが何かわからない」
「どうして…」
彼にはこのキラキラ粒が見えないみたい。私にだけ見えるというのか。
「ユイナ!」
また名前を呼ばれた。
今度はもっとはっきりと。そしてその声の主はすぐに目の前に現れた。
「アドルファスさん」
髪を振り乱しながら息せき切ったアドルファスさんが私の前に立つ。顔面蒼白でうっすら汗までかいている。
「アドルファスさん、どうし…きゃっ」
『どうしてここに』と言おうとした私は、次の瞬間両肩をアドルファスさんに掴まれて、そのまま彼に抱きすくめられた。
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