【完結】異世界召喚 (聖女)じゃない方でしたがなぜか溺愛されてます

七夜かなた

文字の大きさ
上 下
42 / 118

42 神殿へ

しおりを挟む
リュミイール教は、女神リュミイールを祀り、最も多くの国で信仰されていて、それぞれの国で絶大な勢力を誇っているという。

話を聞いていると天照大御神のような感じだ。

馬車に乗って辿り着いた神殿は、ギリシャの神殿のような雰囲気で、外国のドラマに出てくる裁判所のように広い階段を登っていく。

「それでは夕刻にお迎えに上がります。着きましたらあちらの門番に言付けを頼みますので、それまで中でお待ち下さい」

御者が腕を伸ばして示した方を見ると、見張り小屋のような建物が階段下にある。貴族など馬車で神殿を訪れた者は、ここで取り次ぎを行うそうだ。

「ありがとう。ではよろしくお願いします」

レインズフォード家からここまでは馬車で半時間程。馬車の時速がわからないので、徒歩でどれくらいかかるのかはわからない。それでも歩けば軽く一時間はかかるだろうし、何度か道を曲がってきたので、歩いて帰るのは無理そう。

御者が門番に声をかけて、私にこちらへと言うのに付いていく。

広い戸口は昼間は常に開け放たれていて、大勢の信者と覚しき人々が詰めかけている。

「いつもこんなにたくさんの方が参拝されているのですか?」
「いつもはこの半分ほどですが、聖女様が召喚されたという噂が広まり、皆一目でも聖女様のお姿を拝見できないかと詰めかけているのです」

このたくさんの人たちが財前さんに会うために…
それだけここの人たちが聖女の召喚を心待ちにいていたということになる。

門番に連れて行かれた入口は、信者の人たちがいた正面扉から少し横にずれた場所にあった。

「先生!」
「財前さん」
「待ってたんです、さあ、入ってください」

入口で名前を告げて案内された部屋に行くと、財前さんが駆け寄ってきた。
二日ぶりに再会した彼女は変わらず元気だった。
白のワンピースと金糸の綺麗な刺繍のローブを羽織っている。

彼女に与えられた部屋は広々としていて、白と金を基調とした家具で統一されていた。

「何だか本当に聖女様みたいね」
「みたいではなく、本当に聖女なんですよ。まだ実感はありませんけど」
「財前さんが思った以上に元気で安心したわ。あ、これお土産です。昨日作ったの」

財前さんと横並びに座ってから、昨日作った薔薇ジャムと砂糖漬けを渡した。

テーブル並べられていた食事は、神殿での食事と聞いてシンプルなものを想像していたけれど、肉もあってレインズフォード家で出されるものとそれほど変わらない。

「え、これ先生が作ったの?」
「ちょうどたくさん薔薇をもらったから」
「わあ、嬉しい、きれい」

喜んでもらえてほっとする。

「こっちの食べ物って、何だか地味というか、野菜がないですよね」

財前さんも目の前に用意された食事を眺め、私と同じことを言う。

「お肉がご馳走だと思っているみたいで、繊細さも何もないわ。ちっともばえがないもの」
「そうね。野菜は庶民の食べ物らしくって、ないことはないのだけど、高貴な人の食卓にはのぼらないようね」
「あ、やっぱり」
「だからお世話になっているお屋敷の厨房にお邪魔させてもらって、色々と料理させてもらったりしたの」
「ええ、そんなことを…どんなの作ったんですか?」
「肉はミンチにしてハンバーグにしたり、トマトソースを作ったり、醤油や味噌もあったから生姜焼きとか味噌漬けなんかもね」
「うう、美味しそう…食べたい。先生は作れるんですね。羨ましい」

神殿で用意してもらった料理を食べながら言うことではないのかも知れないけど、彼女の気持ちもわかる。
私よりずっと良いものを食べてきた財前さんなら余計にそう思うのだろう。

「じゃあ、何か作って持ってくるわ」
「ほんとですか? 嬉しい! あ、でも明日から潔斎の儀式だから、それが終わらないと」
「潔斎の儀式って、大変なの?」

アドルファスさんも儀式の内容はわからないと言っていた。

「どこかに籠もってひたすら祈りを捧げるそうです」
「苦しいことや危険なことはないのね」
「それはなさそうです」
「ひたすら祈りを捧げるというのも大変そうだけど、危ないことはなさそうで安心したわ」
「心配してくれてありがとうございます。でも、私のほうこそ、先生のこと心配しているんですよ。私が巻き込んだようなものだし」
「財前さんのせいではないわ。それに私なら大丈夫よ。思ったより自由にさせてもらっているし、皆さんとても親切だから」
「でも、先生を連れていった人…」

そう言えば、財前さんはアドルファスさんのことを気味悪がっていた。だから余計に心配なのかもしれない。

「あの仮面には理由があって、よく知ればいい人よ」

キスされたことは言えないけど、アドルファスさんもレディ・シンクレアも私のことをとても大切にしてくれている。

「それならいいんだけど…その人のことで、私も色々噂を聞いたから…」
「噂?」
しおりを挟む
感想 8

あなたにおすすめの小説

若奥様は緑の手 ~ お世話した花壇が聖域化してました。嫁入り先でめいっぱい役立てます!

古森真朝
恋愛
意地悪な遠縁のおばの邸で暮らすユーフェミアは、ある日いきなり『明後日に輿入れが決まったから荷物をまとめろ』と言い渡される。いろいろ思うところはありつつ、これは邸から出て自立するチャンス!と大急ぎで支度して出立することに。嫁入り道具兼手土産として、唯一の財産でもある裏庭の花壇(四畳サイズ)を『持参』したのだが――実はこのプチ庭園、長年手塩にかけた彼女の魔力によって、神域霊域レベルのレア植物生息地となっていた。 そうとは知らないまま、輿入れ初日にボロボロになって帰ってきた結婚相手・クライヴを救ったのを皮切りに、彼の実家エヴァンス邸、勤め先である王城、さらにお世話になっている賢者様が司る大神殿と、次々に起こる事件を『あ、それならありますよ!』とプチ庭園でしれっと解決していくユーフェミア。果たして嫁ぎ先で平穏を手に入れられるのか。そして根っから世話好きで、何くれとなく構ってくれるクライヴVS自立したい甘えベタの若奥様の勝負の行方は? *カクヨム様で先行掲載しております

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

老女召喚〜聖女はまさかの80歳?!〜城を追い出されちゃったけど、何か若返ってるし、元気に異世界で生き抜きます!〜

二階堂吉乃
ファンタジー
 瘴気に脅かされる王国があった。それを祓うことが出来るのは異世界人の乙女だけ。王国の幹部は伝説の『聖女召喚』の儀を行う。だが現れたのは1人の老婆だった。「召喚は失敗だ!」聖女を娶るつもりだった王子は激怒した。そこら辺の平民だと思われた老女は金貨1枚を与えられると、城から追い出されてしまう。実はこの老婆こそが召喚された女性だった。  白石きよ子・80歳。寝ていた布団の中から異世界に連れてこられてしまった。始めは「ドッキリじゃないかしら」と疑っていた。頼れる知り合いも家族もいない。持病の関節痛と高血圧の薬もない。しかし生来の逞しさで異世界で生き抜いていく。  後日、召喚が成功していたと分かる。王や重臣たちは慌てて老女の行方を探し始めるが、一向に見つからない。それもそのはず、きよ子はどんどん若返っていた。行方不明の老聖女を探す副団長は、黒髪黒目の不思議な美女と出会うが…。  人の名前が何故か映画スターの名になっちゃう天然系若返り聖女の冒険。全14話+間話7話。

キャベツとよんでも

さかな〜。
恋愛
由緒だけはある貧乏男爵令嬢ハイデマリーと、執事として雇われたのにいつの間にか職務が増えていた青年ギュンターの日常。 今日も部屋を調える――お嬢様の疲れが癒えるように、寛いでもらえる様に―― 一見ゆったりとした緩い日常の話です。設定もユルいです。

転生したら死んだことにされました〜女神の使徒なんて聞いてないよ!〜

家具屋ふふみに
ファンタジー
大学生として普通の生活を送っていた望水 静香はある日、信号無視したトラックに轢かれてそうになっていた女性を助けたことで死んでしまった。が、なんか助けた人は神だったらしく、異世界転生することに。 そして、転生したら...「女には荷が重い」という父親の一言で死んだことにされました。なので、自由に生きさせてください...なのに職業が女神の使徒?!そんなの聞いてないよ?! しっかりしているように見えてたまにミスをする女神から面倒なことを度々押し付けられ、それを与えられた力でなんとか解決していくけど、次から次に問題が起きたり、なにか不穏な動きがあったり...? ローブ男たちの目的とは?そして、その黒幕とは一体...? 不定期なので、楽しみにお待ち頂ければ嬉しいです。 拙い文章なので、誤字脱字がありましたらすいません。報告して頂ければその都度訂正させていただきます。 小説家になろう様でも公開しております。

月の後宮~孤高の皇帝の寵姫~

真木
恋愛
新皇帝セルヴィウスが即位の日に閨に引きずり込んだのは、まだ十三歳の皇妹セシルだった。大好きだった兄皇帝の突然の行為に混乱し、心を閉ざすセシル。それから十年後、セシルの心が見えないまま、セルヴィウスはある決断をすることになるのだが……。

子持ちの私は、夫に駆け落ちされました

月山 歩
恋愛
産まれたばかりの赤子を抱いた私は、砦に働きに行ったきり、帰って来ない夫を心配して、鍛錬場を訪れた。すると、夫の上司は夫が仕事中に駆け落ちしていなくなったことを教えてくれた。食べる物がなく、フラフラだった私は、その場で意識を失った。赤子を抱いた私を気の毒に思った公爵家でお世話になることに。

【完結】神から貰ったスキルが強すぎなので、異世界で楽しく生活します!

桜もふ
恋愛
神の『ある行動』のせいで死んだらしい。私の人生を奪った神様に便利なスキルを貰い、転生した異世界で使えるチートの魔法が強すぎて楽しくて便利なの。でもね、ここは異世界。地球のように安全で自由な世界ではない、魔物やモンスターが襲って来る危険な世界……。 「生きたければ魔物やモンスターを倒せ!!」倒さなければ自分が死ぬ世界だからだ。 異世界で過ごす中で仲間ができ、時には可愛がられながら魔物を倒し、食料確保をし、この世界での生活を楽しく生き抜いて行こうと思います。 初めはファンタジー要素が多いが、中盤あたりから恋愛に入ります!!

処理中です...