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41 眩しい朝
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「お、おはようございます」
「おはよう」
次の日の朝、昨日と同じ部屋に行くとレディ・シンクレアが一人座っていた。
テーブルには昨日私が座っていた席に一人分の食器があるだけだった。
「アドルファスは、朝早くから会議があるとかで、もう出掛けました」
「そうなのですね」
私が問う前に察したレディ・シンクレアが教えてくれた。
朝会ったらどんな顔をしようかと思っていただけにホッとした。でもいないとわかると物足りない気もする。
突然の口づけ。
驚いて息を吸い込んだのが悪かったのか、アドルファスさんの舌が私の口の中に滑り込んで、引っ込めかけた舌に絡みついた。
魂まで吸われるのではと思うくらい強く吸い上げられ、一瞬のうちに膝の力が抜けた。
「ん、んんん…」
崩折れそうになるところを背中から抱きとめられ、そのまま抱え込まれた。
巧みに口腔内を動く舌が見えているのかと思うくらい、私の舌の動きを追ってきて、合間に舌先が歯列や上顎を刺激する。
「……っ…は、あ…」
溢れた唾液を飲み込んで、ようやく彼が唇を離してくれ、私は涙を流して力なく彼に寄りかかった。
「今夜はここまで」
ペロリと舌舐めずりしたアドルファスさんからは男の色気が漂っていた。
流れた涙も口から溢れた唾液も、彼が掌を顔に翳すと一瞬で乾いた。
ただ瞼は痛いし唇もジンジンするのは治らなかった。
「ユイナさん? 聞いている?」
「え、あ、はい」
夕べのことを思い起こしていてレディ・シンクレアの話が聞こえていなかった。
「す、すみません。少しぼーっとしていました」
「寝不足? 夕べはアドルファスと長い間庭にいたみたいだけど、夜更しもほどほどにね」
「あ、はい」
庭にいたことはレディ・シンクレアも知っているようだが、部屋でのことは言えない。
「それから、アドルファスから昼前には神殿に行けるように馬車の手配を頼まれていますから、そのつもりでね」
レディ・シンクレアがアドルファスさんの名前を口にする度にドキリとする。
彼女に不審がられないかと何でもない体を装っているつもりでも、彼女の目にどう写っているのか気になる。
例えて言うなら高校生が親の目を盗んで、自分の部屋でいけないことをしたような後ろめたさがある。
「ところで、聖女様ってどんな方なのかしら」
「そうですね。背は私より高くて、生粋のお嬢様です。とても美人で生徒会…生徒会はわかりますか?」
「生徒で組織した運営機関ね。この世界にもあります」
「その生徒会の役員もしていて、責任感のある子です」
「だから聖女の任も快諾したのね」
「そうだと思います。それに、私たちの世界では、異世界に召喚されて勇者や聖女として活躍する創作物もあって、だから今回のことも抵抗なく受け入れられたのではないでしょうか」
「そんな創作があるのね」
「はい。架空世界の物語は昔からありましたが、ここ最近はそれがとても多くなっていました。もし、先の聖女様がもう少し聖女の役割について基礎知識があったら、少しは違っていたかもしれませんね」
「そうね。そうだったら良かったわね。でも、過去は変えられない」
「おっしゃるとおりです」
「それで、ユイナさんの場合はどうなのかしら、少しはここでの生活に馴染めそう?」
「はい。皆さんのお陰です。ア、アドルファスさんにも、色々貴重な体験をさせていただきました」
夜光香の花や空に浮かんで見た都の夜景は美しかった。
その後のことは、まだどう応えるべきか答えは見つかっていない。
「私達も貴重な体験ができて楽しいわ。私とアドルファスだけだった生活に新しい風を吹き込んでくれたようです」
「そう言ってもらえて嬉しいです。少しは役に立ちましたか」
「あなたはもう少し人から世話を焼かれることに慣れたほうがいいわ。傲慢な態度はよろしくありませんが、そう何でもお礼ばかり言っていてはきりがありません」
生まれてからずっと仕えられる側にいる彼女たちと違い、こちらは庶民の出で、自分の世話をしてもらうとか、ここまで他人に面倒を見てもらうことにはなかなか慣れない。
「まあ、謙虚なところもあなたの美徳なのでしょうけどね」
苦笑いする私の様子を見て彼女もすぐには無理だと悟ったらしい。
「ところで、聖女様のおられる神殿についてだけど…」
これから訪れる神殿とこの国の信仰についてレディ・シンクレアが私に基礎知識を話してくれた。
「おはよう」
次の日の朝、昨日と同じ部屋に行くとレディ・シンクレアが一人座っていた。
テーブルには昨日私が座っていた席に一人分の食器があるだけだった。
「アドルファスは、朝早くから会議があるとかで、もう出掛けました」
「そうなのですね」
私が問う前に察したレディ・シンクレアが教えてくれた。
朝会ったらどんな顔をしようかと思っていただけにホッとした。でもいないとわかると物足りない気もする。
突然の口づけ。
驚いて息を吸い込んだのが悪かったのか、アドルファスさんの舌が私の口の中に滑り込んで、引っ込めかけた舌に絡みついた。
魂まで吸われるのではと思うくらい強く吸い上げられ、一瞬のうちに膝の力が抜けた。
「ん、んんん…」
崩折れそうになるところを背中から抱きとめられ、そのまま抱え込まれた。
巧みに口腔内を動く舌が見えているのかと思うくらい、私の舌の動きを追ってきて、合間に舌先が歯列や上顎を刺激する。
「……っ…は、あ…」
溢れた唾液を飲み込んで、ようやく彼が唇を離してくれ、私は涙を流して力なく彼に寄りかかった。
「今夜はここまで」
ペロリと舌舐めずりしたアドルファスさんからは男の色気が漂っていた。
流れた涙も口から溢れた唾液も、彼が掌を顔に翳すと一瞬で乾いた。
ただ瞼は痛いし唇もジンジンするのは治らなかった。
「ユイナさん? 聞いている?」
「え、あ、はい」
夕べのことを思い起こしていてレディ・シンクレアの話が聞こえていなかった。
「す、すみません。少しぼーっとしていました」
「寝不足? 夕べはアドルファスと長い間庭にいたみたいだけど、夜更しもほどほどにね」
「あ、はい」
庭にいたことはレディ・シンクレアも知っているようだが、部屋でのことは言えない。
「それから、アドルファスから昼前には神殿に行けるように馬車の手配を頼まれていますから、そのつもりでね」
レディ・シンクレアがアドルファスさんの名前を口にする度にドキリとする。
彼女に不審がられないかと何でもない体を装っているつもりでも、彼女の目にどう写っているのか気になる。
例えて言うなら高校生が親の目を盗んで、自分の部屋でいけないことをしたような後ろめたさがある。
「ところで、聖女様ってどんな方なのかしら」
「そうですね。背は私より高くて、生粋のお嬢様です。とても美人で生徒会…生徒会はわかりますか?」
「生徒で組織した運営機関ね。この世界にもあります」
「その生徒会の役員もしていて、責任感のある子です」
「だから聖女の任も快諾したのね」
「そうだと思います。それに、私たちの世界では、異世界に召喚されて勇者や聖女として活躍する創作物もあって、だから今回のことも抵抗なく受け入れられたのではないでしょうか」
「そんな創作があるのね」
「はい。架空世界の物語は昔からありましたが、ここ最近はそれがとても多くなっていました。もし、先の聖女様がもう少し聖女の役割について基礎知識があったら、少しは違っていたかもしれませんね」
「そうね。そうだったら良かったわね。でも、過去は変えられない」
「おっしゃるとおりです」
「それで、ユイナさんの場合はどうなのかしら、少しはここでの生活に馴染めそう?」
「はい。皆さんのお陰です。ア、アドルファスさんにも、色々貴重な体験をさせていただきました」
夜光香の花や空に浮かんで見た都の夜景は美しかった。
その後のことは、まだどう応えるべきか答えは見つかっていない。
「私達も貴重な体験ができて楽しいわ。私とアドルファスだけだった生活に新しい風を吹き込んでくれたようです」
「そう言ってもらえて嬉しいです。少しは役に立ちましたか」
「あなたはもう少し人から世話を焼かれることに慣れたほうがいいわ。傲慢な態度はよろしくありませんが、そう何でもお礼ばかり言っていてはきりがありません」
生まれてからずっと仕えられる側にいる彼女たちと違い、こちらは庶民の出で、自分の世話をしてもらうとか、ここまで他人に面倒を見てもらうことにはなかなか慣れない。
「まあ、謙虚なところもあなたの美徳なのでしょうけどね」
苦笑いする私の様子を見て彼女もすぐには無理だと悟ったらしい。
「ところで、聖女様のおられる神殿についてだけど…」
これから訪れる神殿とこの国の信仰についてレディ・シンクレアが私に基礎知識を話してくれた。
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