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28 異世界の下着
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「お待たせしてすみません」
「随分厨房で長居していたのね。楽しかった?」
別に怒っている感じはなく、私が楽しんでいたのを喜んでくれている。
「はい。今夜の食事を楽しみにしていてください。お口に合うといいのですが」
「それは楽しみね。アドルファスも喜ぶことでしょう」
もし少しでも喜んでもらえたら、昨日から色々と気を遣ってくれているお礼が出来る。
「ところであなたが着る物だけど、借り物の衣装も少し手直しが必要でしょう。それにいくつは新しいものも作っておくべきだと思いましてね」
見知らぬ女性二人はレインズフォード家御用達の仕立て屋とお針子さんだった。
「初めてお目にかかります。ボルタンヌ洋装店のカレリア・ボルタンヌと言います。この子は家の一番のお針子のイラレットです」
「こんにちは、ユイナ・ムコサキです」
確かに少し合わない部分はあるが、着れないわけではない。
「手直しは構いませんが、新しくつくるのはもったいないです」
「お金のことは気にしないで。そのようなことを気にするのは品位に欠けます。それにあなたの衣装ごときでレインズフォード家の財政は逼迫しません」
お金持ちは値札を見ずに買い物をするらしい。金額を気にするのは恥だとレディ・シンクレアが言う。
「贅沢を勧めているのではありません。合わないものを着ては気持ちも落ち着かないでしょう。あなたには快適に過ごしてほしいのです。ここでの思い出が少しでもいいものとなるように」
「…わかりました」
そこまで言われて断り続けるのはかえって無礼だと諦めて受け入れることにした。
何だか昨日からアドルファスさんやレディ・シンクレアに色々言われて、最後には折れるしかないと言ったことばかりな気がする。
私が諦めて承諾すると、では…と言うボルタンヌさんの合図で、いつの間にか置かれていた衝立の裏側へ連れて行かれた。
「採寸させていただきます。服を脱いでいただけますか」
下着を買う時にきちんとサイズを見るために測ってもらったことはあるものの、普段はもちろん既製服しか着ないため、ここまでされたことがない。
恥ずかしいが温泉や更衣室で他人に裸を晒したあるので、その辺の抵抗はしなかった。
服を脱いで下着になると、ボルタンヌさんとイラレットさんの視線がブラジャーに注がれた。
「珍しいものをお召ですね」
物珍しさにボルタンヌさんは興味津々だ。
「それは、あれですよね。胸のための下着…」
「はい。ブラジャーと言います」
「どのような縫製になっているのでしょう」
「さあ…私も良く知らなくて」
イラレットさんも顔をずいっと近づけて観察する。
「ここは金具になっているのですね、あ、ここはレースですか?」
「失礼ですが、少し触ってもよろしいですか」
胸に顔を埋める勢いでボルタンヌさんも近づく。
「何をなさっているの?」
レディ・シンクレアが気になって様子を見に来た時は、二人に挟まれて胸元を覗き込まれていた。
「あら、本当に変わった下着ね。でもコルセットより楽そう」
「そう、そうですよね」
レディ・シンクレアの発言を聞いてボルタンヌさんが何やら閃いたらしい。
「私、常々コルセットというものに代わる何かがないか考えておりましたが、これなら一人で脱ぎ着出来ますよね」
「ま、まあ…後ろに手が回りにくければ、前で止めて後ろに回すこともできますし、前で止めるフロントホックや留め金のないものもあります」
着替えに誰か人手があるのは裕福な家柄だけ。庶民はそうはいかない。だから簡易なコルセットを使っている。それでも脱ぎ着に時間はかかるらしい。
「ちょっと手に取ってみてもよろしいですか」
「え…は、はい…ちょっと待って下さい」
三人に背を向けてブラジャーを外すと、片腕で胸を隠して外したブラジャーを渡した。
「イラレット、これを元に型紙を起こして」
「はい、ボルタンヌさん」
ボルタンヌさんからブラジャーを受け取りイラレットさんは衝立の向こうに走って行った。
「すいません、少し待って下さい。今の間に採寸を進めましょう」
「え…あ、はい」
ちらりとレディ・シンクレアに視線を向けると、立ち去るつもりはないらしい。
「背筋を伸ばしてまっすぐ立ってください」
胸を隠すために少し前屈みになっていたのをそう言われ、レディ・シンクレアの前で腕を解いた。
ボルタンヌさんたちの前ではあくまで仕事だと割り切れる。
でもレディ・シンクレアの視線は何か恥ずかしさが先に立つ。
それほど彼女の私を見る目が鋭い。
「あの、あんまり見ないでください」
「どうして?」
「どうしてって…その、この世界の人に比べると貧相…ですよね」
「好みはそれぞれだけど、気にすることかしら。あなたはどこも傷などないし、綺麗な体じゃないの」
彼女の言うことは間違っていない。彼女は孫であるアドルファスさんのことを言っているのだろう。
「確かに背丈は低いですが、充分お綺麗ですよ。肌なんてきめ細かくて光に照らされて透き通るよう。適度に引き締まっていて、健康そのものですわ」
「あ、ありがとうございます」
同性に褒められると面映い。
その後ブラジャーは無事に戻ってきて、採寸の残りを終えるとボルタンヌさんはドレスのいくつかを直しのために持って帰った。
「随分厨房で長居していたのね。楽しかった?」
別に怒っている感じはなく、私が楽しんでいたのを喜んでくれている。
「はい。今夜の食事を楽しみにしていてください。お口に合うといいのですが」
「それは楽しみね。アドルファスも喜ぶことでしょう」
もし少しでも喜んでもらえたら、昨日から色々と気を遣ってくれているお礼が出来る。
「ところであなたが着る物だけど、借り物の衣装も少し手直しが必要でしょう。それにいくつは新しいものも作っておくべきだと思いましてね」
見知らぬ女性二人はレインズフォード家御用達の仕立て屋とお針子さんだった。
「初めてお目にかかります。ボルタンヌ洋装店のカレリア・ボルタンヌと言います。この子は家の一番のお針子のイラレットです」
「こんにちは、ユイナ・ムコサキです」
確かに少し合わない部分はあるが、着れないわけではない。
「手直しは構いませんが、新しくつくるのはもったいないです」
「お金のことは気にしないで。そのようなことを気にするのは品位に欠けます。それにあなたの衣装ごときでレインズフォード家の財政は逼迫しません」
お金持ちは値札を見ずに買い物をするらしい。金額を気にするのは恥だとレディ・シンクレアが言う。
「贅沢を勧めているのではありません。合わないものを着ては気持ちも落ち着かないでしょう。あなたには快適に過ごしてほしいのです。ここでの思い出が少しでもいいものとなるように」
「…わかりました」
そこまで言われて断り続けるのはかえって無礼だと諦めて受け入れることにした。
何だか昨日からアドルファスさんやレディ・シンクレアに色々言われて、最後には折れるしかないと言ったことばかりな気がする。
私が諦めて承諾すると、では…と言うボルタンヌさんの合図で、いつの間にか置かれていた衝立の裏側へ連れて行かれた。
「採寸させていただきます。服を脱いでいただけますか」
下着を買う時にきちんとサイズを見るために測ってもらったことはあるものの、普段はもちろん既製服しか着ないため、ここまでされたことがない。
恥ずかしいが温泉や更衣室で他人に裸を晒したあるので、その辺の抵抗はしなかった。
服を脱いで下着になると、ボルタンヌさんとイラレットさんの視線がブラジャーに注がれた。
「珍しいものをお召ですね」
物珍しさにボルタンヌさんは興味津々だ。
「それは、あれですよね。胸のための下着…」
「はい。ブラジャーと言います」
「どのような縫製になっているのでしょう」
「さあ…私も良く知らなくて」
イラレットさんも顔をずいっと近づけて観察する。
「ここは金具になっているのですね、あ、ここはレースですか?」
「失礼ですが、少し触ってもよろしいですか」
胸に顔を埋める勢いでボルタンヌさんも近づく。
「何をなさっているの?」
レディ・シンクレアが気になって様子を見に来た時は、二人に挟まれて胸元を覗き込まれていた。
「あら、本当に変わった下着ね。でもコルセットより楽そう」
「そう、そうですよね」
レディ・シンクレアの発言を聞いてボルタンヌさんが何やら閃いたらしい。
「私、常々コルセットというものに代わる何かがないか考えておりましたが、これなら一人で脱ぎ着出来ますよね」
「ま、まあ…後ろに手が回りにくければ、前で止めて後ろに回すこともできますし、前で止めるフロントホックや留め金のないものもあります」
着替えに誰か人手があるのは裕福な家柄だけ。庶民はそうはいかない。だから簡易なコルセットを使っている。それでも脱ぎ着に時間はかかるらしい。
「ちょっと手に取ってみてもよろしいですか」
「え…は、はい…ちょっと待って下さい」
三人に背を向けてブラジャーを外すと、片腕で胸を隠して外したブラジャーを渡した。
「イラレット、これを元に型紙を起こして」
「はい、ボルタンヌさん」
ボルタンヌさんからブラジャーを受け取りイラレットさんは衝立の向こうに走って行った。
「すいません、少し待って下さい。今の間に採寸を進めましょう」
「え…あ、はい」
ちらりとレディ・シンクレアに視線を向けると、立ち去るつもりはないらしい。
「背筋を伸ばしてまっすぐ立ってください」
胸を隠すために少し前屈みになっていたのをそう言われ、レディ・シンクレアの前で腕を解いた。
ボルタンヌさんたちの前ではあくまで仕事だと割り切れる。
でもレディ・シンクレアの視線は何か恥ずかしさが先に立つ。
それほど彼女の私を見る目が鋭い。
「あの、あんまり見ないでください」
「どうして?」
「どうしてって…その、この世界の人に比べると貧相…ですよね」
「好みはそれぞれだけど、気にすることかしら。あなたはどこも傷などないし、綺麗な体じゃないの」
彼女の言うことは間違っていない。彼女は孫であるアドルファスさんのことを言っているのだろう。
「確かに背丈は低いですが、充分お綺麗ですよ。肌なんてきめ細かくて光に照らされて透き通るよう。適度に引き締まっていて、健康そのものですわ」
「あ、ありがとうございます」
同性に褒められると面映い。
その後ブラジャーは無事に戻ってきて、採寸の残りを終えるとボルタンヌさんはドレスのいくつかを直しのために持って帰った。
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