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26 厨房の秘めた宝
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「ここが厨房です」
ベラさんに案内してもらい、やってきたのはこの家の厨房。
レストランの厨房を想像していたが、それよりはずっと広く、大きな竈と石窯、中央には石造りの調理台とぶ厚い天板の木のテーブルがあり、片側の壁には鉄の鍋やフライパンが掛かっていた。
奥には木の枝で編んだ籠にたくさんの食材が積まれている。
私達が入っていくとみんなの視線がこちらに向いた。
私が聖女と同じ異世界から来た人間だと言うことは、昨夜のうちに伝わっているそうだ。
私の見かけもさることながら、言動がこの世界の常識と異なっても、理解し受け入れるようにというアドルファスさんとレディ・シンクレアからお達しがあったらしい。
故に私がすることには自然と注目が集まる。
「ルディク」
ベラさんが名を呼ぶと、一番奥にいる男性がのそのそとやってきた。
背も高いが恰幅のいいグレイヘアの彼は、ベラさんの隣にいる私を胡散臭げに見下ろした。
「彼がここの責任者です。ルディク、この方が先程お話したユイナ様です」
「こんにちは、ユイナです。よろしくお願いします」
「どういう了見でここを見学されたいのですか? ここはお客様が出入りするような場所ではありませんよ」
挨拶もそこそこに疑問をぶつけて来た。
自分の領域に土足で踏み込まれると警戒しているんだろう。
「ルディク、失礼な物言いは控えなさい。旦那様と大奥様が許可されたのだから黙って従うまでです」
そんな彼の態度をベラさんが窘めた。
「見学…させていただいても構いませんか?」
「坊ちゃ…旦那様と大奥様が許可されたのを雇われ人の私が拒むことはできません」
「あの、誤解しないでください。私は文句を言いに来たのでも、あなたの仕事ぶりを監視に来たのでもありません。ただ、ここの食に興味があっただけなのです。私のいた所と同じなのか、違うならどんなものがあるのか知りたいだけです」
彼が警戒するのは、昨夜の食事を食べ切れなかった話が伝わっているからかも知れない。決して不満を伝えに来たのでも、彼の腕が悪いと言いたいのでもないと、先にことわった。
「興味…自分で調理するんですか?」
「もちろんです。アドルファスさん…こちらのご当主様に客人として迎えていただきましたが、元の世界では何の身分もない一般人でした。自分の食べるものは自分で作ってきました」
「イッパン? よくわかりませんが、つまり貴族ではないと言うことですか」
身分社会のここでは、一般人という言葉はここにはないらしい。でも私が高貴な身分でないことは伝わったのか、彼の警戒も少し緩んだ気がする。
「見て楽しいかどうかわかりませんが、こちらへどうぞ」
そう言って私をカウンターの内側へ案内してくれた。
竈には大小色々な魔石が付けられていて、それぞれ強火、中火、弱火で場所を使い分けている。
大きな肉の塊を焼く用に串刺しのロータリーオーブンのような場所もある。
水はお風呂場と同じように魔石が取り付けられた蛇口から出てくるが、井戸で汲んだのを水瓶に貯めてもいる。
「ここが肉の貯蔵庫だ」
奥の扉には魔石が埋め込まれた扉があって、その中は冷蔵庫のようになっていて、たくさんの肉が吊り下げられていた。
牛、豚、鶏以外にも鹿や鳩、ウサギもある。
狩猟時期ではないが、魔法の効果で腐敗を止めているので、いつでも食べられるのだとか。
そして中には私の知らない動物の肉もあった。
コカトリス、ビッグホーンブル、ジャイアントオークはよく知る鶏や牛、豚を更に大きくしたものらしく、味は少し劣るが主にここで働く人たちの賄いに使われるそうだ。
調味料は塩とコショウ、砂糖もあった。予想していたとおり醤油や味噌、味醂と言ったものは見当たらない。
「これはなんですか?」
麻袋に入れられた袋を開ける。
「それは市場で進められて買ったが、いまいち使い方がわからなくて…」
「トウガラシ?」
赤くて細いそれは、私の知るトウガラシに似ていた。
「そんな名前だったか…やたらと辛くて食べられたものじゃない。使い方わかるんですか」
「私の知っているものと同じなら、そのまま食べるのはきついかも」
香り付につかったり、刻んで薬味や漬けだれに使ったりアクセントとして使うにはちょうどいい。
「私の世界にも同じものがあります」
「ちょっとこっちへ来てくれ」
ルディクさんが貯蔵庫の奥へと私を連れて行った。
「おれは珍しいものを見るとつい売り子の口車に乗って色々買ってしまうんだが、どうも通り一遍の使い方しかできなくて、余ってしまって扱いに困ってる」
保存魔法がかけられているので鮮度はそのままの食材などがそこには納められていた。
そこにあったのはトマトやピーマン、なすにキャベツ、玉ねぎにじゃがいもと言った野菜類や、味噌や醤油などの調味料が格納されていた。
それは異世界にはないと思っていたものだった。
ベラさんに案内してもらい、やってきたのはこの家の厨房。
レストランの厨房を想像していたが、それよりはずっと広く、大きな竈と石窯、中央には石造りの調理台とぶ厚い天板の木のテーブルがあり、片側の壁には鉄の鍋やフライパンが掛かっていた。
奥には木の枝で編んだ籠にたくさんの食材が積まれている。
私達が入っていくとみんなの視線がこちらに向いた。
私が聖女と同じ異世界から来た人間だと言うことは、昨夜のうちに伝わっているそうだ。
私の見かけもさることながら、言動がこの世界の常識と異なっても、理解し受け入れるようにというアドルファスさんとレディ・シンクレアからお達しがあったらしい。
故に私がすることには自然と注目が集まる。
「ルディク」
ベラさんが名を呼ぶと、一番奥にいる男性がのそのそとやってきた。
背も高いが恰幅のいいグレイヘアの彼は、ベラさんの隣にいる私を胡散臭げに見下ろした。
「彼がここの責任者です。ルディク、この方が先程お話したユイナ様です」
「こんにちは、ユイナです。よろしくお願いします」
「どういう了見でここを見学されたいのですか? ここはお客様が出入りするような場所ではありませんよ」
挨拶もそこそこに疑問をぶつけて来た。
自分の領域に土足で踏み込まれると警戒しているんだろう。
「ルディク、失礼な物言いは控えなさい。旦那様と大奥様が許可されたのだから黙って従うまでです」
そんな彼の態度をベラさんが窘めた。
「見学…させていただいても構いませんか?」
「坊ちゃ…旦那様と大奥様が許可されたのを雇われ人の私が拒むことはできません」
「あの、誤解しないでください。私は文句を言いに来たのでも、あなたの仕事ぶりを監視に来たのでもありません。ただ、ここの食に興味があっただけなのです。私のいた所と同じなのか、違うならどんなものがあるのか知りたいだけです」
彼が警戒するのは、昨夜の食事を食べ切れなかった話が伝わっているからかも知れない。決して不満を伝えに来たのでも、彼の腕が悪いと言いたいのでもないと、先にことわった。
「興味…自分で調理するんですか?」
「もちろんです。アドルファスさん…こちらのご当主様に客人として迎えていただきましたが、元の世界では何の身分もない一般人でした。自分の食べるものは自分で作ってきました」
「イッパン? よくわかりませんが、つまり貴族ではないと言うことですか」
身分社会のここでは、一般人という言葉はここにはないらしい。でも私が高貴な身分でないことは伝わったのか、彼の警戒も少し緩んだ気がする。
「見て楽しいかどうかわかりませんが、こちらへどうぞ」
そう言って私をカウンターの内側へ案内してくれた。
竈には大小色々な魔石が付けられていて、それぞれ強火、中火、弱火で場所を使い分けている。
大きな肉の塊を焼く用に串刺しのロータリーオーブンのような場所もある。
水はお風呂場と同じように魔石が取り付けられた蛇口から出てくるが、井戸で汲んだのを水瓶に貯めてもいる。
「ここが肉の貯蔵庫だ」
奥の扉には魔石が埋め込まれた扉があって、その中は冷蔵庫のようになっていて、たくさんの肉が吊り下げられていた。
牛、豚、鶏以外にも鹿や鳩、ウサギもある。
狩猟時期ではないが、魔法の効果で腐敗を止めているので、いつでも食べられるのだとか。
そして中には私の知らない動物の肉もあった。
コカトリス、ビッグホーンブル、ジャイアントオークはよく知る鶏や牛、豚を更に大きくしたものらしく、味は少し劣るが主にここで働く人たちの賄いに使われるそうだ。
調味料は塩とコショウ、砂糖もあった。予想していたとおり醤油や味噌、味醂と言ったものは見当たらない。
「これはなんですか?」
麻袋に入れられた袋を開ける。
「それは市場で進められて買ったが、いまいち使い方がわからなくて…」
「トウガラシ?」
赤くて細いそれは、私の知るトウガラシに似ていた。
「そんな名前だったか…やたらと辛くて食べられたものじゃない。使い方わかるんですか」
「私の知っているものと同じなら、そのまま食べるのはきついかも」
香り付につかったり、刻んで薬味や漬けだれに使ったりアクセントとして使うにはちょうどいい。
「私の世界にも同じものがあります」
「ちょっとこっちへ来てくれ」
ルディクさんが貯蔵庫の奥へと私を連れて行った。
「おれは珍しいものを見るとつい売り子の口車に乗って色々買ってしまうんだが、どうも通り一遍の使い方しかできなくて、余ってしまって扱いに困ってる」
保存魔法がかけられているので鮮度はそのままの食材などがそこには納められていた。
そこにあったのはトマトやピーマン、なすにキャベツ、玉ねぎにじゃがいもと言った野菜類や、味噌や醤油などの調味料が格納されていた。
それは異世界にはないと思っていたものだった。
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