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18 突如訪れたかわいい人(アドルファス)

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聖女召喚がこの国の、この世界の窮状を救うために避けて通れないものだと頭では理解している。
魔巣窟からの被害でこの身は怪我を負い、多くの仲間が散った。

突然家族や仲間を失う辛さを体験しているのに、聖女が自身の世界から切り離され、身ひとつで異世界に連れてこられることに何の罪悪感も感じないのかと、憤りを感じている者は自分だけでない。

それでも最後に折れたのは、魔巣窟からの被害で、村一つが全滅したことを聞いたからだった。

聖女召喚が避けられないのなら、せめてその処遇について最大限聖女に寄り添ったものを。

そうして挑んだ聖女召喚の儀式。

その場に立ち会ったのは国王、第一王子、宰相、騎士団長、神官長と言った顔ぶれ。それぞれが補佐を連れて、自分も王族として国王の補佐として同席を許された。
儀式は魔塔主である宮廷の筆頭魔法使い主導で、その補助に魔塔主補佐が立った。

そして現れたのは女性が二人。

一人は長い黒髪のまだ十代とわかる美しい少女。
そして白衣を着た髪の短い女性。
少女ほど美形ではないが、愛らしい顔立ちだった。

この国の基準と比べれば背が低い。十代前半の頃の者と同じくらいの背丈。
しかし体つきは充分女性としての魅力を讃えていた。

自惚れるわけではないが、怪我を負うまでの自分はそれなりに女性との浮き名も流した。来る者はある程度拒まず。去る者は追わず。割り切った関係の付き合い。
怪我を負ってからは、それが一転して、女性からは敬遠されていたが、あえてそれを寂しいとは思わず、自ら追い求めることもしなかった。

なのに、彼女を見た瞬間胸が騒いだ。

どちらかが聖女であるなら、彼女でなければいい。

王子が持ち込んだ「判定の玉」は黒髪の少女が聖女の素質ありと判断した。
王子はどうやら少女に興味津々で、もう一人の女性は邪魔者だと判断したようだ。

玉が壊れ、王子が腹立ち紛れに彼女に手を上げようとした時、咄嗟に体が動いた。

王子を止めたのは父親である国王の一喝。息子を諌めようとしただけなのは間違いない。

しかし、その時自分以外にも動こうとした者がいたことを見逃さなかった。

陛下のようにただ王子の浅慮を止めようとしたのか、それとも他の意図があったのかはわからない。

女性は突然異世界に連れてこられ、自分も心細いはずなのに、震えながらももう一人の少女を庇おうとしている。

なんだこの可愛い者は。小動物が我が子を護ろうと肉食獣に身を挺して立ち向かうようだった。

間近で見れば、肌はきめ細かく、眼鏡の奥の黒い瞳は左右の大きさが違う。
仄かに漂う香りに酔わされた。五感すべてが彼女に反応し、肌が粟立った。

王子は聖女が気に入ったようだ。召喚した側として聖女のことは丁重にもてなさなければならない。聖女のことは放っておいても、王子が何とでもするだろう。

問題はもう一人の女性。
名はユイナと言った。ムコ何とかという家名はこの国ではない発音で、難しい。
彼女の処遇についてすぐに会議が開かれた。

「聖女殿と共に召喚されたのなら、一緒に神殿で面倒を見させていただくのが良いでしょう」

そう言うのはリヴィウス・カザール。
淡い金髪と濃い藍色の瞳の神官長補佐。
王子が聖女を連れて召喚の場を立ち去った時、なぜか彼は神官長に従わずあの場に残った。

「いえ、召喚魔法を使役したのは我々です。ですから魔塔で責任を持つのが正統だと思います」

次に発言したのはロイン・アドキンス。無礼にも彼女の手の甲にキスをした。

「ふむ…両者の意見も一理あるが…他に提案はないか?」

「恐れながら、よろしいでしょうか」

「アドルファスか、申してみよ」

「神殿も魔塔も、そこで暮らす者にはそれぞれ役割があります。仕事をしながら暮らす宿舎ではきちんと面倒見ることはできないのではありませんか。皆、それぞれ多忙でしょう。かえって気を遣われるのではないでしょうか」
「では、そなたの意見は?」
「陛下は聖女召喚を実行するにあたり、私にお約束くださいました。聖女の意思を尊重し、何があっても国で保護すると。幸いに聖女は浄化の任を受け入れました。なれば、共に召喚された彼女について、お約束を果たしていただきたいと思います」
「つまり、そなたが責任を取ると?」
「具体的にはどうされると?」

アドキンスが訊ねた。
カザールもアドキンスも自分たちが上げた手をすぐには下ろすつもりはなさそうだ。

「神殿や魔塔より、普通に人が暮らす場所で過ごす方が彼女には適していると思います。我が家なら人手も充分あり、手厚く世話が出来るかと」
「レインズフォード卿の屋敷でか?」
「しかし、卿は未だ独身でいらっしゃる。そこへ異世界人と言え女性が…」
「お忘れか? 我が家には淑女の手本と言われるレディ・シンクレアがいる。彼女が目を光らせているのです。これほど安全な場所はないでしょう」

愛情深いが少々口うるさいところもある祖母だが、彼女の権威と名声は未だ健在。
その彼女の名前を利用し、彼女の後見の座を勝ち取った。

カザールとアドキンスが口惜しそうにしていたのを見て、心の中でほくそ笑む。
彼らが単なる責任だけで手を上げたのではないことは予測できた。

なぜなら彼らも自分と同じ。
彼女を見て目覚めたのだ。
自分の雄の本能が。
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