【完結】異世界召喚 (聖女)じゃない方でしたがなぜか溺愛されてます

七夜かなた

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14 聖女召喚の歴史

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この世界の安寧のため、浄化は必要なこと。
けれどそれを行う使命を持つ聖女はこの世界では生まれない。いつも異世界からその能力を持つ人物を召喚してきたそうだ。

「いきなり異なる世界に連れてきて、あなただけが望みだ。この世界のために働いてくれ。聖女に自分の世界での生活を捨てさせ、殆ど強引に連れてくる。なのに我々は聖女がこの世界のために使命を果たすのは当たり前だと思っている。大を生かすために小を殺すような方法が本当にいいことなのか。そういう意図があって、聖女召喚を手放しには喜べないし、とても賛同できない」

「過去にはそれを拒んだ聖女もいたの。利己的で薄情だとこの世界の者は聖女を非難し責めたてた。そして聖女は心を壊し、自ら命を絶った。その時は長く辛い暗黒の時代が続いたそうよ。再び聖女を召喚するまで人口の半分が魔巣窟の被害を受けた。何のための聖女召喚。利己的で勝手なのは我々の方なのに」

「そんなことが…」

聖女を召喚して災いが去ればそれでめでたしめでたしだと思っていたが、過去には悲惨な出来事もあったと聞いて驚いた。

「アドルファスは聖女召喚に反対していたのに、結局は折れたのね」

非難めいた言葉をレディ・シンクレアがレインズフォード卿に向けた。

「まだ世間には漏れていませんが、魔巣窟の被害が予想より遥かに甚大で、もはや一刻の猶予もない状態だという報告がありました。だから私は陛下に条件を出しました」
「条件ね。確かに聖女の意志と人格を無視することが過去の悲劇の引き金。聖女召喚の反対派も、魔巣窟を一掃したいと願う気持ちは共通ですもの。その点が解消されれば、反対する理由はない」
「そうです。もし聖女が浄化を拒んだら、その意見を尊重すること。もしくは聖女が納得して協力を望むまで説得すること。決して無理強いはしない。万が一、聖女が拒んでも誰からも非難されることのないよう保護することを約束していただきました」
「なら仕方がありませんね。それで、今期の聖女は承諾したのね」
「はい。幸いというか、前向きな方でした。我々の説明も実に理解が早く、いささか拍子抜けするくらいでした」
「それは良かったこと。でも、彼女のことは予想外だったわけね」

二人で私の方を見る。財前さんのことは無事聖女としての役割を受け入れ、何とかなりそうだ。
残る問題は私のこと。

「魔塔も彼女を帰す方法は探すと言っていますが、魔巣窟のことも放っておくわけにはいきません。並行して取り組むため、どれほど時間がかかるかわかりません。王宮で生活してもらう案も出たのですが、聖女ではなかったと言うことで、彼女を粗略に扱ったりする者もいるかも知れません。王宮では私も力が及ばないところもあります。なので我が家へお連れしました」
「聖女でもない、ただの異世界人。いくら国王が賓客として接せよと言ったところで、隠れて馬鹿なことをする者もいるでしょうね。賢明な判断だと思うわ」
「ありがとうございます。ここならレディ・シンクレアもいます。私一人では至らぬことも、レディ・シンクレアの協力があれば、彼女に不自由はさせないと思いましたから」
「いつもは私のことを口うるさい嫌味な祖母だと思っているのに、こんな時に私のことを利用するなんて」
「今でもレディの権威と名声は社交界に轟いていますから」

髪や目の色だけでなく、二人が話しているのを見ると、本当に家族なんだとわかる。

「私のために、色々と心を配っていただきありがとうございます」

聖女召喚に巻き込まれただけなのに、私のことを気遣ってくれていたことにお礼を言った。

「巻き込んだのは我々です。責任は最後まではたさないと」
「アドルファスの言うとおりです。遠慮はいりません。自分の家だと思って寛いでください」

レインズフォード卿が、レディ・シンクレアが私を気にいるだろうと言ったのは、私が聖女召喚に巻き込まれた気の毒な異世界人だからなのだろう。

「そろそろ夕食ができる頃ね。二人ともお腹が空いたでしょ」

言われて空腹なことに気づいた。
いつもなら仕事を終えて帰宅している時間だ。ここに来てから何も口にしていない。
家では基本的に自炊をしていた。休みの日に作った作り置きを冷凍しておいて、平日は解凍して、ご飯と軽く味噌汁などを作っていた。
一人暮らしのあの部屋は、私が帰れない間どうなるのだろう。
ベランダのハーブは枯れ、食材は腐ってしまうだろう。

「本当ならきちんと正装してもらうのだけど、取り敢えずお腹に何か入れて、後はゆっくり休みなさい。食事が終わったら部屋に案内させますね」
「はい。何から何までありがとうございます」
「それからあなたの衣装なのだけど、ここにはあなたに合う大きさの服がないの。背丈が少しね」

私の身長がここの人たちよりかなり低いため、それは仕方がない。

「それなら、王宮に残っている王女殿下たちの幼い頃の衣装を何着か持って越させるように手配しました。調整すれば急場凌ぎにはなるでしょう。残りはすぐにでも仕立て屋を呼んで作らせます」
「あら、あなたにしては手際がいいわね」

レディ・シンクレアはレインズフォード卿を褒めたが、私は複雑な気分だった。

王女殿下の頃の…私の体型は、ここの人たちの子供時代のものらしい。
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