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9 保健室の先生
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国王の言うように互いのことを少しでも知るためには、訊かれたことは出来るだけ答えるのは構わない。
一体どんなことを訊かれるのか身構えた。
「先程から聖女殿があなたのことを『先生』と呼ばれていますが、お二人は師弟関係なのですか?」
どんなことを訊かれるのかと身構えたが、思っていたのとは違った。視線が合った財前さんも同じように思ったらしい。
「師弟関係かと言われれば違うと思います。一応私も教員免許…教師の資格を取っていますが、学問を教えているわけではありません」
「向先先生は保健室の先生です」
「ほけ…?」
それも説明が必要なんだと思った。日本では学校に保健室があるのが当たり前なので、わかりきったことを説明するのは難しい。
「保健室は、えっと…学校にあって…」
「学校を作る時には設置しなくてはいけない設備があり、保健室もそのひとつです。保健室は生徒やそこに勤める教員の健康管理や健康相談などを行い、怪我の手当をしたり休養が必要な人を休ませることもあります」
財前さんの説明を引き継ぐ。
「先生は聴き上手なので、皆色々相談に来てましたよね」
「大抵は勉強がいやだの夏の体育は暑すぎるだの愚痴だったけどね」
「たい…何とかがわからないですが、楽しそうですね」
「そうだな。怪我や体の不調を治すだけでなく、話も聞いてくれるのか」
「体育は授業の科目のひとつで、座って勉強するだけでなく、運動の仕方を教えます」
「剣術の鍛錬のようなものか」
質問したアドキンスさんだけでなく、国王やその場にいる皆がそんな場所があるのかと、自分たちと世界にないことに興味深く聞いていた。
「いえ、戦い方は教えません。普通に健康な体を作るためです」
こっちは当たり前のように戦い方を教えるんだ。異世界にいるのだと実感する。
話をしているうちに、さっきの剣呑さが消えて和んだ雰囲気になっていた。
私がお世話になることになったレインズフォードさんと、このアドキンスさんはあまり関係が良好とは言えないのだろう。
「一番皆が盛り上がるのが恋愛相談ですよね。この前も先生が合コンに行った話で…」
「ちょ、ちょっと財前さん、それはここでは…」
合コンの話になりそうになって慌てて財前さんの口を塞いだ。
一週間前、皆に問い詰められて最近参加した合コンの話をした。大学時代の友人に無理矢理欠員が出たからと誘われたが、その時知り合った人と何回かデートしていることを白状させられた。
いくらなんでもこの場で合コンの話はまずい。
「どうかされたか?」
「あ、い、いえ…まあ、私の仕事の内容はそんなところです」
「では、ユイナ殿は仕事に就かれていたのですね」
アドキンスさんはまだ何か訊ねたそうな様子を見せた。
「もうそのくらいでよろしいのではありませんか? 陛下、そろそろお二人も解放してさしあげてはいかがでしょう」
「うむ、そうだな。異世界の話はかなり興味深いが、いつまでも拘束するのも申し訳ない」
国王は今度はレインズフォード卿の意見を受け入れた。
「では、聖女殿は神殿に、ユイナ殿はレインズフォード卿の屋敷で過ごすということで、今後魔巣窟の本格的な消滅に向けて各自それぞれの任に当たれ」
「はっ」
「御意」
国王の下知にそれぞれが応え、その場は解散になった。
「それじゃあ、先生、また」
「財前さんも、無理しないでね」
巻き込まれた私と違い財前さんはここで与えられた役割がある。いずれ元の世界に戻れる方法が見つかった時、もし聖女の役割が終わっていたなら一緒に戻れたらいいなと思う。
「聖女殿、神官長をご紹介します。こちらへ」
「あ、はい、また会いに来てください」
財前さんが離れていく姿を見送る。
若いのに自分の使命を自覚した姿に、ちょっと感動してしまう。
「先程は失礼しました」
声をかけられ振り向くと、アドキンスさんがすぐ側にいた。
遠くでわからなかったが、その瞳はきれいな琥珀色で、猫の目のようだ。顔立ちも整っていて、この世界にはイケメンしかいないのかと思ってしまう。
「いえ…」
「ユイナ殿」
また呼ばれて反対側を向くと、レインズフォード卿が歩いて来るところだった。
左手に魔法使いの人が持っていたのとは違う杖を突きながら歩いてくる。さっきは持っていなかったけど、足が悪いのだろうか。
「レインズフォード卿」
「馬車を用意しています。我が家へご案内しましょう」
杖は突いているが足が長く、俊敏な動きであっという間に目の前にたどり着いた。
彼もアドキンスさんも背が高く、身長百六十そこそこの私はかなり上を見上げなければならない。
「レインズフォード卿、もう少し…」
「アドキンス、マルシャル殿があちらで待っています。主を待たせてはいけませんね」
話しかけようとしたアドキンスさんを遮り、レインズフォード卿は私に更に一歩近づいた。
「さあ、我々もまいりましょう。お疲れになったのではありませんか、早く戻って我が家でゆっくりしてください」
確かに今朝は職員会議があって出勤もいつもより早く、夏の暑さで保健室を訪れる生徒も多かった。極めつけは異世界召喚だ。パンストを脱いだ裸足の足でパンプスも痛い。
「あの、これから色々とお世話になります。どれくらいの間お邪魔することになるかわかりませんが、ふつつか者ですがよろしくお願いします」
社会人としてこれからお世話になる方に深々とお辞儀をした。
「それから…」
レインズフォード卿が何か言う前に、今度はアドキンスさんの方を向いてまたお辞儀する。
「私を元の世界に戻す方法について、ご協力感謝いたします。大変だとは思いますがよろしくお願いします」
頭を上げると二人は共にポカンとした顔をしていた。
あれ、何か変なことを言ったかな?
一体どんなことを訊かれるのか身構えた。
「先程から聖女殿があなたのことを『先生』と呼ばれていますが、お二人は師弟関係なのですか?」
どんなことを訊かれるのかと身構えたが、思っていたのとは違った。視線が合った財前さんも同じように思ったらしい。
「師弟関係かと言われれば違うと思います。一応私も教員免許…教師の資格を取っていますが、学問を教えているわけではありません」
「向先先生は保健室の先生です」
「ほけ…?」
それも説明が必要なんだと思った。日本では学校に保健室があるのが当たり前なので、わかりきったことを説明するのは難しい。
「保健室は、えっと…学校にあって…」
「学校を作る時には設置しなくてはいけない設備があり、保健室もそのひとつです。保健室は生徒やそこに勤める教員の健康管理や健康相談などを行い、怪我の手当をしたり休養が必要な人を休ませることもあります」
財前さんの説明を引き継ぐ。
「先生は聴き上手なので、皆色々相談に来てましたよね」
「大抵は勉強がいやだの夏の体育は暑すぎるだの愚痴だったけどね」
「たい…何とかがわからないですが、楽しそうですね」
「そうだな。怪我や体の不調を治すだけでなく、話も聞いてくれるのか」
「体育は授業の科目のひとつで、座って勉強するだけでなく、運動の仕方を教えます」
「剣術の鍛錬のようなものか」
質問したアドキンスさんだけでなく、国王やその場にいる皆がそんな場所があるのかと、自分たちと世界にないことに興味深く聞いていた。
「いえ、戦い方は教えません。普通に健康な体を作るためです」
こっちは当たり前のように戦い方を教えるんだ。異世界にいるのだと実感する。
話をしているうちに、さっきの剣呑さが消えて和んだ雰囲気になっていた。
私がお世話になることになったレインズフォードさんと、このアドキンスさんはあまり関係が良好とは言えないのだろう。
「一番皆が盛り上がるのが恋愛相談ですよね。この前も先生が合コンに行った話で…」
「ちょ、ちょっと財前さん、それはここでは…」
合コンの話になりそうになって慌てて財前さんの口を塞いだ。
一週間前、皆に問い詰められて最近参加した合コンの話をした。大学時代の友人に無理矢理欠員が出たからと誘われたが、その時知り合った人と何回かデートしていることを白状させられた。
いくらなんでもこの場で合コンの話はまずい。
「どうかされたか?」
「あ、い、いえ…まあ、私の仕事の内容はそんなところです」
「では、ユイナ殿は仕事に就かれていたのですね」
アドキンスさんはまだ何か訊ねたそうな様子を見せた。
「もうそのくらいでよろしいのではありませんか? 陛下、そろそろお二人も解放してさしあげてはいかがでしょう」
「うむ、そうだな。異世界の話はかなり興味深いが、いつまでも拘束するのも申し訳ない」
国王は今度はレインズフォード卿の意見を受け入れた。
「では、聖女殿は神殿に、ユイナ殿はレインズフォード卿の屋敷で過ごすということで、今後魔巣窟の本格的な消滅に向けて各自それぞれの任に当たれ」
「はっ」
「御意」
国王の下知にそれぞれが応え、その場は解散になった。
「それじゃあ、先生、また」
「財前さんも、無理しないでね」
巻き込まれた私と違い財前さんはここで与えられた役割がある。いずれ元の世界に戻れる方法が見つかった時、もし聖女の役割が終わっていたなら一緒に戻れたらいいなと思う。
「聖女殿、神官長をご紹介します。こちらへ」
「あ、はい、また会いに来てください」
財前さんが離れていく姿を見送る。
若いのに自分の使命を自覚した姿に、ちょっと感動してしまう。
「先程は失礼しました」
声をかけられ振り向くと、アドキンスさんがすぐ側にいた。
遠くでわからなかったが、その瞳はきれいな琥珀色で、猫の目のようだ。顔立ちも整っていて、この世界にはイケメンしかいないのかと思ってしまう。
「いえ…」
「ユイナ殿」
また呼ばれて反対側を向くと、レインズフォード卿が歩いて来るところだった。
左手に魔法使いの人が持っていたのとは違う杖を突きながら歩いてくる。さっきは持っていなかったけど、足が悪いのだろうか。
「レインズフォード卿」
「馬車を用意しています。我が家へご案内しましょう」
杖は突いているが足が長く、俊敏な動きであっという間に目の前にたどり着いた。
彼もアドキンスさんも背が高く、身長百六十そこそこの私はかなり上を見上げなければならない。
「レインズフォード卿、もう少し…」
「アドキンス、マルシャル殿があちらで待っています。主を待たせてはいけませんね」
話しかけようとしたアドキンスさんを遮り、レインズフォード卿は私に更に一歩近づいた。
「さあ、我々もまいりましょう。お疲れになったのではありませんか、早く戻って我が家でゆっくりしてください」
確かに今朝は職員会議があって出勤もいつもより早く、夏の暑さで保健室を訪れる生徒も多かった。極めつけは異世界召喚だ。パンストを脱いだ裸足の足でパンプスも痛い。
「あの、これから色々とお世話になります。どれくらいの間お邪魔することになるかわかりませんが、ふつつか者ですがよろしくお願いします」
社会人としてこれからお世話になる方に深々とお辞儀をした。
「それから…」
レインズフォード卿が何か言う前に、今度はアドキンスさんの方を向いてまたお辞儀する。
「私を元の世界に戻す方法について、ご協力感謝いたします。大変だとは思いますがよろしくお願いします」
頭を上げると二人は共にポカンとした顔をしていた。
あれ、何か変なことを言ったかな?
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