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3 聖女認定
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周りを見渡せば、陛下と魔塔の主という人物以外に総勢十人ほどがいる。
着ているものは少しずつ違うが、大柄な男性たちばかり。向こうは立っているから余計に大きく威圧的に思える。
私の後ろでは財前さんが怯えていて、私のシャツワンピースの生地をぎゅっと掴んでいる。私も震えているのがわかる。両手を関節が白くなるほど硬く握り、どうにか言葉を口にした。
「何が目的ですか?」
危害を加えるつもりがないと言われても、よくドラマで犯罪者も口にするセリフで信用できない。
精一杯顎を突き出し、動じていない風を装う。
「おお、やはり言葉は通じておるな、さすがマルシャル」
「お褒めに預かり光栄です」
「わ、私達をこんなところに連れてきて、一体どうするつもりなんですか? 聖女だとか何とか、どういう意味ですか?」
「そのままの意味だ。我々はこの国、いや、この世界の危機を救ってくれる聖女を求め、古の魔法を駆使し異世界から聖女を召喚した」
「その魔法を使ったのがこの私です」
ドヤ顔で魔塔使いだと言う人物が言う。
「な、何を言って…」
「聖女?」
大真面目にそんなことを言うなんて、頭がおかしいのでは、そう言おうとした私の後ろで震えていた財前さんがその言葉に反応した。
「聖女召喚?」
「さようです」
「父上」
その時また別の人物が私達の前に歩み寄ってきた。
「何だ、エルウィン」
エルウィンと呼ばれた男性は歳は二十歳くらい。赤に近い金髪を首の後ろ辺りでひとつに纏め、サファイアのような青い瞳をした、いかにもザ・王子という面相のいい男性だった。
「いつまでもここで話をしていても仕方ありません。聖女かどうかは、これを使えばすぐにわかります」
彼がそう言ってバレーボールくらいの半透明の珠を前に差し出した。
「おお、そうだな。『判定の玉』か。用意がいいな。いつの間に…」
「念の為に持ってきたのです」
「さすが殿下」
「素晴らしい」
彼に対する称賛の言葉が飛び交った。中には大げさにわざとかと思うほど声高々に褒め称える。口々に彼を賛美する言葉に珠を持った男性は誇らしげに微笑んだ。
その騒ぎの中、彼は私達の方に向き直り、恭しく珠を捧げ持って近づいてきた。
「どうぞ、レディ」
真っ直ぐにこちらに近づき、片膝を折って跪くと顔の前まで珠を掲げた。
財前さんの前に。
「私?」
私の方が前にいるのに、彼は完全に私を無視して財前さんを見据えている。
肩越しに彼女を見ると、整った顔立ちの王子にボーッとしている。
小さい頃から女子校育ちで、男性と言えば家族か年配の教師しか知らない彼女にとって、彼の美貌は衝撃だと思う。
「これに手を置いたらどうなるんですか?」
背が高いので立て膝で踞っても、彼の顔は私の胸くらいの高さにある。
話しかけた私の方にちらりと一瞬視線を向けたものの、すぐに彼は財前さんに熱い目線を送る。
つまり私はお呼びでないらしい。
誰が見ても美少女の財前さんと、彼より年上の見た目も平凡な私。
どちらが聖女であるべきか。彼の中ではすでに決定事項のようだ。
「さあ、ここに手を置いて」
恐る恐る言われるままに財前さんが彼の差し出した球に手を置くと、どういう仕組みか半透明の珠は蛍光灯の明かりが灯ったように輝いた。
「おおお!」
「光ったぞ」
「聖女様だ!」
「あの方が聖女様だ!」
ひときわ大きな歓声が起こり、財前さんが手を離すとスイッチを切ったように光が消えた。
「間違いありません。やはりこの方が聖女様だ」
「きゃっ!」
片手で珠を抱えると彼は財前さんの手を掴み、立ち上がり、皆の方を振り返った。
「父上、皆も今のを見たであろう、まさしく彼女こそ聖女です。美しき聖女様、あなたのお名前は? 私はこのラグランジュ王国の第一王子、エルウィン・フロイ・ラグランジュです」
「え…あの…えっと…財前…れ、麗…」
ハンサムな王子に近寄られて財前さんはしどろもどろだ。それでも何とか自分の名前を口にする。
「ザージェ?」
彼には財前という名前の発音が難しいらしく、一度では聞き取れなかったらしい。
着ているものは少しずつ違うが、大柄な男性たちばかり。向こうは立っているから余計に大きく威圧的に思える。
私の後ろでは財前さんが怯えていて、私のシャツワンピースの生地をぎゅっと掴んでいる。私も震えているのがわかる。両手を関節が白くなるほど硬く握り、どうにか言葉を口にした。
「何が目的ですか?」
危害を加えるつもりがないと言われても、よくドラマで犯罪者も口にするセリフで信用できない。
精一杯顎を突き出し、動じていない風を装う。
「おお、やはり言葉は通じておるな、さすがマルシャル」
「お褒めに預かり光栄です」
「わ、私達をこんなところに連れてきて、一体どうするつもりなんですか? 聖女だとか何とか、どういう意味ですか?」
「そのままの意味だ。我々はこの国、いや、この世界の危機を救ってくれる聖女を求め、古の魔法を駆使し異世界から聖女を召喚した」
「その魔法を使ったのがこの私です」
ドヤ顔で魔塔使いだと言う人物が言う。
「な、何を言って…」
「聖女?」
大真面目にそんなことを言うなんて、頭がおかしいのでは、そう言おうとした私の後ろで震えていた財前さんがその言葉に反応した。
「聖女召喚?」
「さようです」
「父上」
その時また別の人物が私達の前に歩み寄ってきた。
「何だ、エルウィン」
エルウィンと呼ばれた男性は歳は二十歳くらい。赤に近い金髪を首の後ろ辺りでひとつに纏め、サファイアのような青い瞳をした、いかにもザ・王子という面相のいい男性だった。
「いつまでもここで話をしていても仕方ありません。聖女かどうかは、これを使えばすぐにわかります」
彼がそう言ってバレーボールくらいの半透明の珠を前に差し出した。
「おお、そうだな。『判定の玉』か。用意がいいな。いつの間に…」
「念の為に持ってきたのです」
「さすが殿下」
「素晴らしい」
彼に対する称賛の言葉が飛び交った。中には大げさにわざとかと思うほど声高々に褒め称える。口々に彼を賛美する言葉に珠を持った男性は誇らしげに微笑んだ。
その騒ぎの中、彼は私達の方に向き直り、恭しく珠を捧げ持って近づいてきた。
「どうぞ、レディ」
真っ直ぐにこちらに近づき、片膝を折って跪くと顔の前まで珠を掲げた。
財前さんの前に。
「私?」
私の方が前にいるのに、彼は完全に私を無視して財前さんを見据えている。
肩越しに彼女を見ると、整った顔立ちの王子にボーッとしている。
小さい頃から女子校育ちで、男性と言えば家族か年配の教師しか知らない彼女にとって、彼の美貌は衝撃だと思う。
「これに手を置いたらどうなるんですか?」
背が高いので立て膝で踞っても、彼の顔は私の胸くらいの高さにある。
話しかけた私の方にちらりと一瞬視線を向けたものの、すぐに彼は財前さんに熱い目線を送る。
つまり私はお呼びでないらしい。
誰が見ても美少女の財前さんと、彼より年上の見た目も平凡な私。
どちらが聖女であるべきか。彼の中ではすでに決定事項のようだ。
「さあ、ここに手を置いて」
恐る恐る言われるままに財前さんが彼の差し出した球に手を置くと、どういう仕組みか半透明の珠は蛍光灯の明かりが灯ったように輝いた。
「おおお!」
「光ったぞ」
「聖女様だ!」
「あの方が聖女様だ!」
ひときわ大きな歓声が起こり、財前さんが手を離すとスイッチを切ったように光が消えた。
「間違いありません。やはりこの方が聖女様だ」
「きゃっ!」
片手で珠を抱えると彼は財前さんの手を掴み、立ち上がり、皆の方を振り返った。
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