36 / 47
第4章 魔物の氾濫
4
しおりを挟む
ギルド長の要請に応じ、軍や魔道騎士団の反応は早く、次の日の昼にはやってきた。
天馬が王都の方角の空から次々と大軍で現われ、地上に降り立つ。
軍と魔道騎士団はそれぞれ別の機関だが、そのトップが国王であるのは同じ。
普段は別々の任務に当たっているが、こういうときには協力体制を取っている。
「今回の軍の責任者はオリヴァー=ドウェストか」
「お久しぶりです。ルヴォリさん」
オリヴァー=ドウェストは階級は上級大将。ギルド長とも顔見知りなのか、笑顔で握手する。
「ようこそ、副ギルド長のマルセル=イクリです」
副ギルド長も挨拶を交わす。ドウェストはそちらにも愛想良く挨拶した。
「魔道騎士団副団長のアベル=ラストラスです」
白銀の甲冑に身を包んだ男性も挨拶する。魔道騎士団の団長は黒の甲冑だと聞いていたが、副団長は眩しいまでの白く輝く甲冑だった。
兜を取ったその顔は惚れ惚れするほどの美しさで、柔らかいウェーブのかかったプラチナブロンドに濃い緑の瞳は、いかにも育ちのいい貴族そのものだ。
オリヴァーはギルド長と年まわりも近い屈強な体格をしている。
アベルはすらりとした体格で、ずっと若い。年齢で言えばマリベルと同じくらいか少し上だろうか。
甲冑を着て立つアベルに、周りの女性から熱いため息が漏れた。
「副団長?」
「団長は別の任務に当たっていて、直接現場に来ると思います」
「魔物の反乱より大事な任務か?」
「魔物の反乱より先に受けた任務です。それに、団長は無口で愛想が無くて人嫌いなので、こういった挨拶も普段から私の仕事なんです」
「今の魔道騎士団団長はマウリシオ=オーギルの後継者だったか。黒衣の鎧も引き継いだそうだな」
「魔力は前団長より上です。どれくらいなのか、副団長の私もはっきり知りません」
「化け物だな。しかし頼もしいことだ」
「それより状況は?」
一通りの挨拶を済ませると、ドウェストの表情が険しくなった。
「今朝も偵察に行かせましたが、昨日より確実に状況は悪くなっています」
「精鋭でチームを組んでもう少し状況を探りましょう。何がどれだけいるのか、レベルの低い魔物ばかりなら問題ないが、S級クラスの魔物がいるとかなりやっかいです」
「もっともです」
「では、魔道騎士団から隠蔽魔法が得意な者を出しましょう」
「それは凄い。さすが魔道騎士団ですね」
「お世辞は結構です」
副ギルド長の上滑りな言葉をラストラスは一蹴した。
「お世辞では・・」
副ギルド長の笑顔が一瞬強張り、すぐにまいったな、ハハハハと笑った。
自分よりかなり若いラストラスの態度に明らかに苛立っている。
そんなやりとりをマリベル達は遠巻きに眺めていた。
「すごい、本物の魔導騎士団だ」
「軍の人たちもかっこいいわね」
ギルド職員だけで無く、噂を聞きつけた街の人たちが羨望の眼差しで見つめる。
普段ギルドにやってくる冒険者達は装備は似たようなものでも、基本は私服だ。
パリッとした軍服や鎧を身につけた集団は、圧巻の眺めだった。
「おいおい、俺たちはどうでもいいのか」
軍や騎士団とは別に集まってきた冒険者達が、そっちの方ばかりに気を取られていることに文句を言う。
「冒険者なんて普段からいやってくらい見ているけど、あっちは滅多に見られるものじゃないもの」
「俺たちだってB級やA級だ。デストーニア中の冒険者の中でも全体の25%しかいないぞ」
「それはそうですけど、やっぱり制服って格好いいじゃない」
「なら服だけ眺めていればいいだろ」
「着る人によるわ。軍や魔導騎士団ってエリートでしょ。やっぱり憧れるわ。貴族も多いし」
「なんだ、やっぱりそっちか。悪かったな、俺たち平民で。しかし本気でお貴族様が平民のあんたたちを相手にするわけないだろ」
「そんなことわかっているわ。別に付き合いたいとか、結婚したいとか思っているわけじゃないわ」
「そうよ、あくまで目の保養よ。あなたたちだって美人やスタイルのいい人は高嶺の花だと思っても思わず見るでしょ」
「それはまあ、男だからな」
「女でも同じよ。美形や品のある人は見ていてうっとりするし、ねえマリベル」
「え、あ、何?」
皆の会話を側で聞きながら、フェルの方を見ていたマリベルは、不意に声を掛けられ慌てた。
「マリベルったら、どこ見ているのよ。せっかく軍人さんや騎士団の人たちが向こうにいるのに」
「マリベルは興味ないみたいよ。何しろつきあいたてほやほやの恋人があそこにいるから」
「やだ、そんなんじゃ」
「え、マリベルちゃん、恋人出来たの?」
冒険者の一人が驚いて訊ねた。
「そうよ。しかもあそこにいる背の高い男前」
エレンが指差し、皆がそっちを見る。フェルも軍隊や騎士団が気になるのか、少し離れたところからそちらを見ていた。
「まじか」「確かに男前だ」「いや俺の方が・・」などと彼らは口々に言う。
自分に視線が向けられていることに気づいたフェルが気づいて、マリベル達の所に近づいてきた。
天馬が王都の方角の空から次々と大軍で現われ、地上に降り立つ。
軍と魔道騎士団はそれぞれ別の機関だが、そのトップが国王であるのは同じ。
普段は別々の任務に当たっているが、こういうときには協力体制を取っている。
「今回の軍の責任者はオリヴァー=ドウェストか」
「お久しぶりです。ルヴォリさん」
オリヴァー=ドウェストは階級は上級大将。ギルド長とも顔見知りなのか、笑顔で握手する。
「ようこそ、副ギルド長のマルセル=イクリです」
副ギルド長も挨拶を交わす。ドウェストはそちらにも愛想良く挨拶した。
「魔道騎士団副団長のアベル=ラストラスです」
白銀の甲冑に身を包んだ男性も挨拶する。魔道騎士団の団長は黒の甲冑だと聞いていたが、副団長は眩しいまでの白く輝く甲冑だった。
兜を取ったその顔は惚れ惚れするほどの美しさで、柔らかいウェーブのかかったプラチナブロンドに濃い緑の瞳は、いかにも育ちのいい貴族そのものだ。
オリヴァーはギルド長と年まわりも近い屈強な体格をしている。
アベルはすらりとした体格で、ずっと若い。年齢で言えばマリベルと同じくらいか少し上だろうか。
甲冑を着て立つアベルに、周りの女性から熱いため息が漏れた。
「副団長?」
「団長は別の任務に当たっていて、直接現場に来ると思います」
「魔物の反乱より大事な任務か?」
「魔物の反乱より先に受けた任務です。それに、団長は無口で愛想が無くて人嫌いなので、こういった挨拶も普段から私の仕事なんです」
「今の魔道騎士団団長はマウリシオ=オーギルの後継者だったか。黒衣の鎧も引き継いだそうだな」
「魔力は前団長より上です。どれくらいなのか、副団長の私もはっきり知りません」
「化け物だな。しかし頼もしいことだ」
「それより状況は?」
一通りの挨拶を済ませると、ドウェストの表情が険しくなった。
「今朝も偵察に行かせましたが、昨日より確実に状況は悪くなっています」
「精鋭でチームを組んでもう少し状況を探りましょう。何がどれだけいるのか、レベルの低い魔物ばかりなら問題ないが、S級クラスの魔物がいるとかなりやっかいです」
「もっともです」
「では、魔道騎士団から隠蔽魔法が得意な者を出しましょう」
「それは凄い。さすが魔道騎士団ですね」
「お世辞は結構です」
副ギルド長の上滑りな言葉をラストラスは一蹴した。
「お世辞では・・」
副ギルド長の笑顔が一瞬強張り、すぐにまいったな、ハハハハと笑った。
自分よりかなり若いラストラスの態度に明らかに苛立っている。
そんなやりとりをマリベル達は遠巻きに眺めていた。
「すごい、本物の魔導騎士団だ」
「軍の人たちもかっこいいわね」
ギルド職員だけで無く、噂を聞きつけた街の人たちが羨望の眼差しで見つめる。
普段ギルドにやってくる冒険者達は装備は似たようなものでも、基本は私服だ。
パリッとした軍服や鎧を身につけた集団は、圧巻の眺めだった。
「おいおい、俺たちはどうでもいいのか」
軍や騎士団とは別に集まってきた冒険者達が、そっちの方ばかりに気を取られていることに文句を言う。
「冒険者なんて普段からいやってくらい見ているけど、あっちは滅多に見られるものじゃないもの」
「俺たちだってB級やA級だ。デストーニア中の冒険者の中でも全体の25%しかいないぞ」
「それはそうですけど、やっぱり制服って格好いいじゃない」
「なら服だけ眺めていればいいだろ」
「着る人によるわ。軍や魔導騎士団ってエリートでしょ。やっぱり憧れるわ。貴族も多いし」
「なんだ、やっぱりそっちか。悪かったな、俺たち平民で。しかし本気でお貴族様が平民のあんたたちを相手にするわけないだろ」
「そんなことわかっているわ。別に付き合いたいとか、結婚したいとか思っているわけじゃないわ」
「そうよ、あくまで目の保養よ。あなたたちだって美人やスタイルのいい人は高嶺の花だと思っても思わず見るでしょ」
「それはまあ、男だからな」
「女でも同じよ。美形や品のある人は見ていてうっとりするし、ねえマリベル」
「え、あ、何?」
皆の会話を側で聞きながら、フェルの方を見ていたマリベルは、不意に声を掛けられ慌てた。
「マリベルったら、どこ見ているのよ。せっかく軍人さんや騎士団の人たちが向こうにいるのに」
「マリベルは興味ないみたいよ。何しろつきあいたてほやほやの恋人があそこにいるから」
「やだ、そんなんじゃ」
「え、マリベルちゃん、恋人出来たの?」
冒険者の一人が驚いて訊ねた。
「そうよ。しかもあそこにいる背の高い男前」
エレンが指差し、皆がそっちを見る。フェルも軍隊や騎士団が気になるのか、少し離れたところからそちらを見ていた。
「まじか」「確かに男前だ」「いや俺の方が・・」などと彼らは口々に言う。
自分に視線が向けられていることに気づいたフェルが気づいて、マリベル達の所に近づいてきた。
0
お気に入りに追加
292
あなたにおすすめの小説
【完結】無能に何か用ですか?
凛 伊緒
恋愛
「お前との婚約を破棄するッ!我が国の未来に、無能な王妃は不要だ!」
とある日のパーティーにて……
セイラン王国王太子ヴィアルス・ディア・セイランは、婚約者のレイシア・ユシェナート侯爵令嬢に向かってそう言い放った。
隣にはレイシアの妹ミフェラが、哀れみの目を向けている。
だがレイシアはヴィアルスには見えない角度にて笑みを浮かべていた。
ヴィアルスとミフェラの行動は、全てレイシアの思惑通りの行動に過ぎなかったのだ……
主人公レイシアが、自身を貶めてきた人々にざまぁする物語──
記憶がないので離縁します。今更謝られても困りますからね。
せいめ
恋愛
メイドにいじめられ、頭をぶつけた私は、前世の記憶を思い出す。前世では兄2人と取っ組み合いの喧嘩をするくらい気の強かった私が、メイドにいじめられているなんて…。どれ、やり返してやるか!まずは邸の使用人を教育しよう。その後は、顔も知らない旦那様と離婚して、平民として自由に生きていこう。
頭をぶつけて現世記憶を失ったけど、前世の記憶で逞しく生きて行く、侯爵夫人のお話。
ご都合主義です。誤字脱字お許しください。
側妃、で御座いますか?承知いたしました、ただし条件があります。
とうや
恋愛
「私はシャーロットを妻にしようと思う。君は側妃になってくれ」
成婚の儀を迎える半年前。王太子セオドアは、15年も婚約者だったエマにそう言った。微笑んだままのエマ・シーグローブ公爵令嬢と、驚きの余り硬直する近衛騎士ケイレブ・シェパード。幼馴染だった3人の関係は、シャーロットという少女によって崩れた。
「側妃、で御座いますか?承知いたしました、ただし条件があります」
********************************************
ATTENTION
********************************************
*世界軸は『側近候補を外されて覚醒したら〜』あたりの、なんちゃってヨーロッパ風。魔法はあるけれど魔王もいないし神様も遠い存在。そんなご都合主義で設定うすうすの世界です。
*いつものような残酷な表現はありませんが、倫理観に難ありで軽い胸糞です。タグを良くご覧ください。
*R-15は保険です。
【完結】愛に裏切られた私と、愛を諦めなかった元夫
紫崎 藍華
恋愛
政略結婚だったにも関わらず、スティーヴンはイルマに浮気し、妻のミシェルを捨てた。
スティーヴンは政略結婚の重要性を理解できていなかった。
そのような男の愛が許されるはずないのだが、彼は愛を貫いた。
捨てられたミシェルも貴族という立場に翻弄されつつも、一つの答えを見出した。
〖完結〗その子は私の子ではありません。どうぞ、平民の愛人とお幸せに。
藍川みいな
恋愛
愛する人と結婚した…はずだった……
結婚式を終えて帰る途中、見知らぬ男達に襲われた。
ジュラン様を庇い、顔に傷痕が残ってしまった私を、彼は醜いと言い放った。それだけではなく、彼の子を身篭った愛人を連れて来て、彼女が産む子を私達の子として育てると言い出した。
愛していた彼の本性を知った私は、復讐する決意をする。決してあなたの思い通りになんてさせない。
*設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。
*全16話で完結になります。
*番外編、追加しました。
御機嫌ようそしてさようなら ~王太子妃の選んだ最悪の結末
Hinaki
恋愛
令嬢の名はエリザベス。
生まれた瞬間より両親達が創る公爵邸と言う名の箱庭の中で生きていた。
全てがその箱庭の中でなされ、そして彼女は箱庭より外へは出される事はなかった。
ただ一つ月に一度彼女を訪ねる5歳年上の少年を除いては……。
時は流れエリザベスが15歳の乙女へと成長し未来の王太子妃として半年後の結婚を控えたある日に彼女を包み込んでいた世界は崩壊していく。
ゆるふわ設定の短編です。
完結済みなので予約投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる