17 / 47
第2章 とりあえず「恋人」
6
しおりを挟む
その後一瞬受付はフェルの発言に騒然となったが、ギルド長がすぐに今は仕事中だから、そういうことは控えるようにと注意した。
「この薬草はあなたが貰っておきなさい。必要なら薬にしてもいいし、魔法でこのままの状態を維持しておくこともできますよ」
「えっと、私が決めていいの?」
マリベルがフェルに問いかけると、フェルはコクリと頷いた。
「じゃあ、薬にします。私が一人で鑑賞するよりその薬で助かる人がいるならその方が有益です」
それでいいかとマリベルが尋ねると、フェルも再び頷く。
「では、それは私が預かろう」
ギルド長に薬草の束を渡す。
「しかし、これ程の薬草を集められのにC級とは、もっと上を目指せるのではないか?」
そうギルド長に言われたが、フェルは興味がなさそうだ。
「興味ない。俺は冒険者としていられればランクは何でもいい」
「冒険者ならランクが上がるのを喜ぶものだろう」
「そうじゃない者もいる」
「まあ冒険者一本で稼いでいない者の中には、そういう者もいるな」
「ギルド長、そんな変わり者放っておきましょう。おいお前、もう二度と騒ぎを起こすな。今度何かあったらギルドを出禁にするぞ」
フェルはイクリに悪い意味で印象を与えてしまったようだ。
過去にイクリに嫌われてネチネチとイビられた冒険者は結構いる。
受付の者たちはそれを知っているので心配そうにフェルとマリベルを見ていた。
「副ギルド長、確かに騒ぎを起こすのはよくないが、そこまでは言い過ぎだ。それは職権濫用だ。冒険者は荒事に対応するのだから、どうしても乱暴な言動をすることもあるが、今回のことはエミリオが上級冒険者として自覚が足りなかった。しかし、君も今後は気をつけないと、マリベルさんが困ることになる。意味はわかるね」
副ギルド長の行き過ぎた言い方を窘めつつ、ルヴォリはフェルにも釘を刺す。
「お、仰るとおりです。さすがギルド長、冒険者のことをよくわかっていらっしゃいます」
苦々しく引き攣った笑いを浮かべイクリが腰を低くしてごまを擦る。
「皆さん、お騒がせしてすみませんでした」
受付にいた皆に詫びを告げて、ギルド長たちは部屋へと引き上げていった。
戻る際にギルド長はもう一度フェルの方をチラリと見た。
「ごめんなさい、せっかく持ってきてくれた薬草…」
「君にあげたものだ。別に構わない」
「あの、フェルさん」
マリベルはフェルに近づくよう手招きする。
「あ、あの、さっきのことですけど、その、『恋人』の話」
顔を近づけたフェルの耳に小さな声で言う。
「恋人」の話は一度なかったことにしてほしいと言ったのに、結局彼に「恋人」の振りをさせてしまった。
ここまで大勢に知られたからにはこれからどうするか話し合わなくてはいけない。
「マリベル、今は仕事中でしょ、恋人との会話は仕事の後にしてね」
ミランダが注意してきたので、その場でそれ以上話をすることが出来なかった。
「あ、じゃあ…仕事の後で、話したいので、時間ありますか?」
「大丈夫だ。俺もこの後用がある。後で君の家に行く」
「え、家に?」
「そうしてください。じゃあ、そういうことだから、それでマリベル、この依頼のことだけど」
「え、あ、はい」
すぐに仕事のことでミランダに話しかけられたので、気がつくとフェルはその場からいなくなっていた。
(家って、私はもう別の場所に引っ越したの、フェルさん知らないのかな)
以前はギルド長に斡旋された家に住んでいたが、そこは今はルヴォリとその家族が住んでいる。
フェルはそれを知らないのではないだろうか。
本当に「恋人」なら知っていて当然だが、彼とマリベルは違う。
(どうしよう、クロステルに行った方がいいかな)
彼が泊まっているホテル・クロステルに急いで行けばいいか。
「この薬草はあなたが貰っておきなさい。必要なら薬にしてもいいし、魔法でこのままの状態を維持しておくこともできますよ」
「えっと、私が決めていいの?」
マリベルがフェルに問いかけると、フェルはコクリと頷いた。
「じゃあ、薬にします。私が一人で鑑賞するよりその薬で助かる人がいるならその方が有益です」
それでいいかとマリベルが尋ねると、フェルも再び頷く。
「では、それは私が預かろう」
ギルド長に薬草の束を渡す。
「しかし、これ程の薬草を集められのにC級とは、もっと上を目指せるのではないか?」
そうギルド長に言われたが、フェルは興味がなさそうだ。
「興味ない。俺は冒険者としていられればランクは何でもいい」
「冒険者ならランクが上がるのを喜ぶものだろう」
「そうじゃない者もいる」
「まあ冒険者一本で稼いでいない者の中には、そういう者もいるな」
「ギルド長、そんな変わり者放っておきましょう。おいお前、もう二度と騒ぎを起こすな。今度何かあったらギルドを出禁にするぞ」
フェルはイクリに悪い意味で印象を与えてしまったようだ。
過去にイクリに嫌われてネチネチとイビられた冒険者は結構いる。
受付の者たちはそれを知っているので心配そうにフェルとマリベルを見ていた。
「副ギルド長、確かに騒ぎを起こすのはよくないが、そこまでは言い過ぎだ。それは職権濫用だ。冒険者は荒事に対応するのだから、どうしても乱暴な言動をすることもあるが、今回のことはエミリオが上級冒険者として自覚が足りなかった。しかし、君も今後は気をつけないと、マリベルさんが困ることになる。意味はわかるね」
副ギルド長の行き過ぎた言い方を窘めつつ、ルヴォリはフェルにも釘を刺す。
「お、仰るとおりです。さすがギルド長、冒険者のことをよくわかっていらっしゃいます」
苦々しく引き攣った笑いを浮かべイクリが腰を低くしてごまを擦る。
「皆さん、お騒がせしてすみませんでした」
受付にいた皆に詫びを告げて、ギルド長たちは部屋へと引き上げていった。
戻る際にギルド長はもう一度フェルの方をチラリと見た。
「ごめんなさい、せっかく持ってきてくれた薬草…」
「君にあげたものだ。別に構わない」
「あの、フェルさん」
マリベルはフェルに近づくよう手招きする。
「あ、あの、さっきのことですけど、その、『恋人』の話」
顔を近づけたフェルの耳に小さな声で言う。
「恋人」の話は一度なかったことにしてほしいと言ったのに、結局彼に「恋人」の振りをさせてしまった。
ここまで大勢に知られたからにはこれからどうするか話し合わなくてはいけない。
「マリベル、今は仕事中でしょ、恋人との会話は仕事の後にしてね」
ミランダが注意してきたので、その場でそれ以上話をすることが出来なかった。
「あ、じゃあ…仕事の後で、話したいので、時間ありますか?」
「大丈夫だ。俺もこの後用がある。後で君の家に行く」
「え、家に?」
「そうしてください。じゃあ、そういうことだから、それでマリベル、この依頼のことだけど」
「え、あ、はい」
すぐに仕事のことでミランダに話しかけられたので、気がつくとフェルはその場からいなくなっていた。
(家って、私はもう別の場所に引っ越したの、フェルさん知らないのかな)
以前はギルド長に斡旋された家に住んでいたが、そこは今はルヴォリとその家族が住んでいる。
フェルはそれを知らないのではないだろうか。
本当に「恋人」なら知っていて当然だが、彼とマリベルは違う。
(どうしよう、クロステルに行った方がいいかな)
彼が泊まっているホテル・クロステルに急いで行けばいいか。
2
お気に入りに追加
292
あなたにおすすめの小説
【完結】捨てられ正妃は思い出す。
なか
恋愛
「お前に食指が動くことはない、後はしみったれた余生でも過ごしてくれ」
そんな言葉を最後に婚約者のランドルフ・ファルムンド王子はデイジー・ルドウィンを捨ててしまう。
人生の全てをかけて愛してくれていた彼女をあっさりと。
正妃教育のため幼き頃より人生を捧げて生きていた彼女に味方はおらず、学園ではいじめられ、再び愛した男性にも「遊びだった」と同じように捨てられてしまう。
人生に楽しみも、生きる気力も失った彼女は自分の意志で…自死を選んだ。
再び意識を取り戻すと見知った光景と聞き覚えのある言葉の数々。
デイジーは確信をした、これは二度目の人生なのだと。
確信したと同時に再びあの酷い日々を過ごす事になる事に絶望した、そんなデイジーを変えたのは他でもなく、前世での彼女自身の願いであった。
––次の人生は後悔もない、幸福な日々を––
他でもない、自分自身の願いを叶えるために彼女は二度目の人生を立ち上がる。
前のような弱気な生き方を捨てて、怒りに滾って奮い立つ彼女はこのくそったれな人生を生きていく事を決めた。
彼女に起きた心境の変化、それによって起こる小さな波紋はやがて波となり…この王国でさえ変える大きな波となる。
側妃、で御座いますか?承知いたしました、ただし条件があります。
とうや
恋愛
「私はシャーロットを妻にしようと思う。君は側妃になってくれ」
成婚の儀を迎える半年前。王太子セオドアは、15年も婚約者だったエマにそう言った。微笑んだままのエマ・シーグローブ公爵令嬢と、驚きの余り硬直する近衛騎士ケイレブ・シェパード。幼馴染だった3人の関係は、シャーロットという少女によって崩れた。
「側妃、で御座いますか?承知いたしました、ただし条件があります」
********************************************
ATTENTION
********************************************
*世界軸は『側近候補を外されて覚醒したら〜』あたりの、なんちゃってヨーロッパ風。魔法はあるけれど魔王もいないし神様も遠い存在。そんなご都合主義で設定うすうすの世界です。
*いつものような残酷な表現はありませんが、倫理観に難ありで軽い胸糞です。タグを良くご覧ください。
*R-15は保険です。
【完結】婚約破棄される前に私は毒を呷って死にます!当然でしょう?私は王太子妃になるはずだったんですから。どの道、只ではすみません。
つくも茄子
恋愛
フリッツ王太子の婚約者が毒を呷った。
彼女は筆頭公爵家のアレクサンドラ・ウジェーヌ・ヘッセン。
なぜ、彼女は毒を自ら飲み干したのか?
それは婚約者のフリッツ王太子からの婚約破棄が原因であった。
恋人の男爵令嬢を正妃にするためにアレクサンドラを罠に嵌めようとしたのだ。
その中の一人は、アレクサンドラの実弟もいた。
更に宰相の息子と近衛騎士団長の嫡男も、王太子と男爵令嬢の味方であった。
婚約者として王家の全てを知るアレクサンドラは、このまま婚約破棄が成立されればどうなるのかを知っていた。そして自分がどういう立場なのかも痛いほど理解していたのだ。
生死の境から生還したアレクサンドラが目を覚ました時には、全てが様変わりしていた。国の将来のため、必要な処置であった。
婚約破棄を宣言した王太子達のその後は、彼らが思い描いていたバラ色の人生ではなかった。
後悔、悲しみ、憎悪、果てしない負の連鎖の果てに、彼らが手にしたものとは。
「小説家になろう」「カクヨム」「ノベルバ」にも投稿しています。
御機嫌ようそしてさようなら ~王太子妃の選んだ最悪の結末
Hinaki
恋愛
令嬢の名はエリザベス。
生まれた瞬間より両親達が創る公爵邸と言う名の箱庭の中で生きていた。
全てがその箱庭の中でなされ、そして彼女は箱庭より外へは出される事はなかった。
ただ一つ月に一度彼女を訪ねる5歳年上の少年を除いては……。
時は流れエリザベスが15歳の乙女へと成長し未来の王太子妃として半年後の結婚を控えたある日に彼女を包み込んでいた世界は崩壊していく。
ゆるふわ設定の短編です。
完結済みなので予約投稿しています。
〖完結〗その子は私の子ではありません。どうぞ、平民の愛人とお幸せに。
藍川みいな
恋愛
愛する人と結婚した…はずだった……
結婚式を終えて帰る途中、見知らぬ男達に襲われた。
ジュラン様を庇い、顔に傷痕が残ってしまった私を、彼は醜いと言い放った。それだけではなく、彼の子を身篭った愛人を連れて来て、彼女が産む子を私達の子として育てると言い出した。
愛していた彼の本性を知った私は、復讐する決意をする。決してあなたの思い通りになんてさせない。
*設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。
*全16話で完結になります。
*番外編、追加しました。
王子妃だった記憶はもう消えました。
cyaru
恋愛
記憶を失った第二王子妃シルヴェーヌ。シルヴェーヌに寄り添う騎士クロヴィス。
元々は王太子であるセレスタンの婚約者だったにも関わらず、嫁いだのは第二王子ディオンの元だった。
実家の公爵家にも疎まれ、夫となった第二王子ディオンには愛する人がいる。
記憶が戻っても自分に居場所はあるのだろうかと悩むシルヴェーヌだった。
記憶を取り戻そうと動き始めたシルヴェーヌを支えるものと、邪魔するものが居る。
記憶が戻った時、それは、それまでの日常が崩れる時だった。
★1話目の文末に時間的流れの追記をしました(7月26日)
●ゆっくりめの更新です(ちょっと本業とダブルヘッダーなので)
●ルビ多め。鬱陶しく感じる方もいるかも知れませんがご了承ください。
敢えて常用漢字などの読み方を変えている部分もあります。
●作中の通貨単位はケラ。1ケラ=1円くらいの感じです。
♡注意事項~この話を読む前に~♡
※異世界の創作話です。時代設定、史実に基づいた話ではありません。リアルな世界の常識と混同されないようお願いします。
※心拍数や血圧の上昇、高血糖、アドレナリンの過剰分泌に責任はおえません。
※外道な作者の妄想で作られたガチなフィクションの上、ご都合主義です。
※架空のお話です。現実世界の話ではありません。登場人物、場所全て架空です。
※価値観や言葉使いなど現実世界とは異なります(似てるモノ、同じものもあります)
※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。
貴方が選んだのは全てを捧げて貴方を愛した私ではありませんでした
ましゅぺちーの
恋愛
王国の名門公爵家の出身であるエレンは幼い頃から婚約者候補である第一王子殿下に全てを捧げて生きてきた。
彼を数々の悪意から守り、彼の敵を排除した。それも全ては愛する彼のため。
しかし、王太子となった彼が最終的には選んだのはエレンではない平民の女だった。
悲しみに暮れたエレンだったが、家族や幼馴染の公爵令息に支えられて元気を取り戻していく。
その一方エレンを捨てた王太子は着々と破滅への道を進んでいた・・・
裏切りの代償
志波 連
恋愛
伯爵令嬢であるキャンディは婚約者ニックの浮気を知り、婚約解消を願い出るが1年間の再教育を施すというニックの父親の言葉に願いを取り下げ、家出を決行した。
家庭教師という職を得て充実した日々を送るキャンディの前に父親が現れた。
連れ帰られ無理やりニックと結婚させられたキャンディだったが、子供もできてこれも人生だと思い直し、ニックの妻として人生を全うしようとする。
しかしある日ニックが浮気をしていることをしり、我慢の限界を迎えたキャンディは、友人の手を借りながら人生を切り開いていくのだった。
他サイトでも掲載しています。
R15を保険で追加しました。
表紙は写真AC様よりダウンロードしました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる