5 / 47
第1章 酒は飲んでも飲まれるな
4
しおりを挟む
(思い出した。私、お酒に酔って隣に座った人と・・・え、でも結局、どうなったの?)
そこから先の記憶がない。
でもここは明らかに彼女の部屋ではない。
それどころか、とても豪華でまるでお貴族様の家みたいだ。
シーツや枕カバーにあるロゴマークはどこかで見たことがある。
部屋の中を見渡しどこだったろうかと考えていると、ガチャリと扉が開いた。
「あ、えっと・・・」
隣の部屋から頭にタオルを巻いて、上半身裸の男性が現れた。
少し日に焼けた肌、筋肉質の体に思わず見惚れる。冒険者ギルドなんかで働いていると、屈強な体をした人なんてゴロゴロいるものだが、裸まで見ることは滅多にない。
「カ、カラレス・・さん?」
マリベルがその人の名を呼ぶ。彼はギルドに登録している冒険者の一人だった。
フェル=カラレスは冒険者の一人。三年ほど前から冒険者として時折やって来る。
月に一回ふらりとやってきて依頼をこなし、またどこかへ行ってしまう。というのを繰り返していた。
ギルドでは一度冒険者登録しても、月に一度何らかの依頼をこなさないと、登録が抹消されてしまう。
国内には支部がたくさんあるので、どこで依頼を受けてもいい。その記録は冒険者登録カードに登録されるから。
だが、カードの記録を見ると彼は他の支部には行かず、マリベルのいるここでだけ依頼をこなし、また登録抹消ギリギリにやってきてはまた立ち去る。
月に一度の依頼だけの報酬では、もちろん食べてなど行けない。
他に本業があるんだろう。
そんな噂が受付の間で囁かれていた。
農民も農閑期には副収入のために冒険者として働いたり、人足なども薬草採取などで兼業したりする人もいるので、それ自体珍しいことではない。
でも、フェル=カラレスという人物は、その風貌や出で立ちから農民でも人足でもない気配がする。
アッシュブロンドの短い髪とブラックオパールのような色んな色の混じった瞳に、少し日に焼けた精悍な顔立ち。
背が高く屈曲な体格ながら身のこなしは洗練されていて、どこか貴族のような雰囲気を醸し出している。
どこかの貴族か王族なのでは?という憶測が飛び交い、彼が現れると女子たちが色めき立つ。
ただ、本当のことを知る者は誰もいない。
この三年ほどで彼が口にした言葉は、張り出された依頼の紙を受付に持ってきた時の「これ」。
依頼を終えて戻ってきた時に差し出す、任務達成の証拠品を出した時の「終わった」。
報酬をもらった時に「ありがとう、また」という三パターンのみ。
誰かが話しかけても殆ど無視。
必要以上のことを話すと死ぬ呪いでも掛かっているのかと思うくらい、無口な人だった。
そこから先の記憶がない。
でもここは明らかに彼女の部屋ではない。
それどころか、とても豪華でまるでお貴族様の家みたいだ。
シーツや枕カバーにあるロゴマークはどこかで見たことがある。
部屋の中を見渡しどこだったろうかと考えていると、ガチャリと扉が開いた。
「あ、えっと・・・」
隣の部屋から頭にタオルを巻いて、上半身裸の男性が現れた。
少し日に焼けた肌、筋肉質の体に思わず見惚れる。冒険者ギルドなんかで働いていると、屈強な体をした人なんてゴロゴロいるものだが、裸まで見ることは滅多にない。
「カ、カラレス・・さん?」
マリベルがその人の名を呼ぶ。彼はギルドに登録している冒険者の一人だった。
フェル=カラレスは冒険者の一人。三年ほど前から冒険者として時折やって来る。
月に一回ふらりとやってきて依頼をこなし、またどこかへ行ってしまう。というのを繰り返していた。
ギルドでは一度冒険者登録しても、月に一度何らかの依頼をこなさないと、登録が抹消されてしまう。
国内には支部がたくさんあるので、どこで依頼を受けてもいい。その記録は冒険者登録カードに登録されるから。
だが、カードの記録を見ると彼は他の支部には行かず、マリベルのいるここでだけ依頼をこなし、また登録抹消ギリギリにやってきてはまた立ち去る。
月に一度の依頼だけの報酬では、もちろん食べてなど行けない。
他に本業があるんだろう。
そんな噂が受付の間で囁かれていた。
農民も農閑期には副収入のために冒険者として働いたり、人足なども薬草採取などで兼業したりする人もいるので、それ自体珍しいことではない。
でも、フェル=カラレスという人物は、その風貌や出で立ちから農民でも人足でもない気配がする。
アッシュブロンドの短い髪とブラックオパールのような色んな色の混じった瞳に、少し日に焼けた精悍な顔立ち。
背が高く屈曲な体格ながら身のこなしは洗練されていて、どこか貴族のような雰囲気を醸し出している。
どこかの貴族か王族なのでは?という憶測が飛び交い、彼が現れると女子たちが色めき立つ。
ただ、本当のことを知る者は誰もいない。
この三年ほどで彼が口にした言葉は、張り出された依頼の紙を受付に持ってきた時の「これ」。
依頼を終えて戻ってきた時に差し出す、任務達成の証拠品を出した時の「終わった」。
報酬をもらった時に「ありがとう、また」という三パターンのみ。
誰かが話しかけても殆ど無視。
必要以上のことを話すと死ぬ呪いでも掛かっているのかと思うくらい、無口な人だった。
1
お気に入りに追加
295
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
完結)余りもの同士、仲よくしましょう
オリハルコン陸
恋愛
婚約者に振られた。
「運命の人」に出会ってしまったのだと。
正式な書状により婚約は解消された…。
婚約者に振られた女が、同じく婚約者に振られた男と婚約して幸せになるお話。
◇ ◇ ◇
(ほとんど本編に出てこない)登場人物名
ミシュリア(ミシュ): 主人公
ジェイソン・オーキッド(ジェイ): 主人公の新しい婚約者
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
断罪される前に市井で暮らそうとした悪役令嬢は幸せに酔いしれる
葉柚
恋愛
侯爵令嬢であるアマリアは、男爵家の養女であるアンナライラに婚約者のユースフェリア王子を盗られそうになる。
アンナライラに呪いをかけたのはアマリアだと言いアマリアを追い詰める。
アマリアは断罪される前に市井に溶け込み侯爵令嬢ではなく一市民として生きようとする。
市井ではどこかの王子が呪いにより猫になってしまったという噂がまことしやかに流れており……。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
【完結】おしどり夫婦と呼ばれる二人
通木遼平
恋愛
アルディモア王国国王の孫娘、隣国の王女でもあるアルティナはアルディモアの騎士で公爵子息であるギディオンと結婚した。政略結婚の多いアルディモアで、二人は仲睦まじく、おしどり夫婦と呼ばれている。
が、二人の心の内はそうでもなく……。
※他サイトでも掲載しています
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
婚約破棄で命拾いした令嬢のお話 ~本当に助かりましたわ~
華音 楓
恋愛
シャルロット・フォン・ヴァーチュレストは婚約披露宴当日、謂れのない咎により結婚破棄を通達された。
突如襲い来る隣国からの8万の侵略軍。
襲撃を受ける元婚約者の領地。
ヴァーチュレスト家もまた存亡の危機に!!
そんな数奇な運命をたどる女性の物語。
いざ開幕!!
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
【完結】婚約破棄はお受けいたしましょう~踏みにじられた恋を抱えて
ゆうぎり
恋愛
「この子がクラーラの婚約者になるんだよ」
お父様に連れられたお茶会で私は一つ年上のナディオ様に恋をした。
綺麗なお顔のナディオ様。優しく笑うナディオ様。
今はもう、私に微笑みかける事はありません。
貴方の笑顔は別の方のもの。
私には忌々しげな顔で、視線を向けても貰えません。
私は厭われ者の婚約者。社交界では評判ですよね。
ねぇナディオ様、恋は花と同じだと思いませんか?
―――水をやらなければ枯れてしまうのですよ。
※ゆるゆる設定です。
※名前変更しました。元「踏みにじられた恋ならば、婚約破棄はお受けいたしましょう」
※多分誰かの視点から見たらハッピーエンド
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
幼馴染がそんなに良いなら、婚約解消いたしましょうか?
ルイス
恋愛
「アーチェ、君は明るいのは良いんだけれど、お淑やかさが足りないと思うんだ。貴族令嬢であれば、もっと気品を持ってだね。例えば、ニーナのような……」
「はあ……なるほどね」
伯爵令嬢のアーチェと伯爵令息のウォーレスは幼馴染であり婚約関係でもあった。
彼らにはもう一人、ニーナという幼馴染が居た。
アーチェはウォーレスが性格面でニーナと比べ過ぎることに辟易し、婚約解消を申し出る。
ウォーレスも納得し、婚約解消は無事に成立したはずだったが……。
ウォーレスはニーナのことを大切にしながらも、アーチェのことも忘れられないと言って来る始末だった……。
政略より愛を選んだ結婚。~後悔は十年後にやってきた。~
つくも茄子
恋愛
幼い頃からの婚約者であった侯爵令嬢との婚約を解消して、学生時代からの恋人と結婚した王太子殿下。
政略よりも愛を選んだ生活は思っていたのとは違っていた。「お幸せに」と微笑んだ元婚約者。結婚によって去っていた側近達。愛する妻の妃教育がままならない中での出産。世継ぎの王子の誕生を望んだものの産まれたのは王女だった。妻に瓜二つの娘は可愛い。無邪気な娘は欲望のままに動く。断罪の時、全てが明らかになった。王太子の思い描いていた未来は元から無かったものだった。後悔は続く。どこから間違っていたのか。
他サイトにも公開中。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる