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第1章 酒は飲んでも飲まれるな
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マリベルには密かに付き合っている人がいた。
今思えばそう思っていたのは彼女だけだったのかも知れない。
約一年前、マリベルはB級冒険者のエミリオに突然「好きだ」と告白された。
背が高くてハンサムで、赤茶色の髪と鮮やかな緑色の瞳のエミリオは、ギルド職員や町の女性達からも人気だった。
そんな彼に告白されてマリベルは有頂天になり、すぐに承諾した。
ただ、ギルド長や周りの人には、自分がA級冒険者になるまでは二人のことは内緒にしてほしいと言われた。
B級ではまだまだ半人前で、きっと認めてもらえないだろうと言うことだった。
そんなことはないと、マリベルは言ったが、これは自分のけじめだと言われ、こっそりと人目を忍んで逢瀬を重ねてきたのだった。
彼が少しでも早くA級に昇格できるよう、B級ランクのクエストでも、比較的簡単そうなものを彼に回したりと便宜を図り、支援した。
そうしてようやく彼がA級に認められ、いよいよ紹介できると思った矢先、父が亡くなったのだった。
父が亡くなりショックを受けていたマリベルは、エミリオに傍にいて支えてもらいたかったが、運悪く彼はクエストの最中で街にいなかった。
葬儀を終えても彼は戻って来ず、戻っても忙しいのかなかなか会えなかった。
彼もA級に昇格したばかりで大変なんだろう。そう思っていた。
マリベルは彼を信じていた。
その日、マリベルは仕事の途中で、行政官のところまで書類を届けてほしいと頼まれた。ギルドからマリベルの新居を挟んで反対方向にあるため、そのまま帰宅していいと言われ、街の反対側にある行政区役所へ赴いた。
書類を届けて帰る道すがら、エミリオを見かけた。
「エミリオ」
叫んだが彼には聞こえなかったようだ。彼は街でも有名な居酒屋に入っていった。
そこはマリベルの幼なじみのプリシラが勤めているところだ。
つきあっていることを隠しているため、そこへ二人で行ったことはない。
何の用だろうか。
今はまだ夜の営業には少し早い。表も閉まっているため、裏へと回った。
「ふふ、こんなところで私といていいの?」
「今は休憩時間だろ?」
「そうだけど、そう言うことじゃないってわかっているでしょ、私とのこと、まだ秘密にしているんじゃないの?」
「秘密なのはあっちの方だ。俺の本命は君だよプリシラ」
「クスクス、悪い人ね」
裏口は少し開いていた。そしてそこからクスクスと囁き合うプリシラとエミリオの話し声が聞こえてきた。本命?プリシラが?誰の?
「でもまだちゃんと別れようって言っていないんでしょ、だったらまだあなたと恋人だとマリベルは思っているんじゃないの」
自分の名前が出てきてぎくりとなる。
「ギルド長が亡くなって、あなたも大番狂わせよね」
「A級になるまで秘密にしていようって、前もって言っておいて良かった。そうでなければ、今こうして君と会っていることもできなかった」
「そんなこと言って、ギルド長が亡くなった後、私と三日も一緒に王都にいてくれたじゃない」
自分は何の話を聞かされているんだろうか。父の葬儀の後、プリシラは暫くみかけなかった。体を壊したと聞いていたが、エミリオと王都にいたというのか。
「なあ、プリシラ、そろそろいいだろ? 俺と結婚しよう。約束通り俺はA級になったぞ」
「それもマリベルに比較的簡単なクエストを回してもらって達成したんでしょ」
「お前が結婚するならA級冒険者でないと嫌だと言うから、俺は頑張ったんだぞ。なあ、いいだろ?」
「ちょっと、どこ触っているのよ」
ぱしりと何かを叩く音がする。
「何を今更、もう何回もやっているじゃないか」
話を聞いていられたのはそこまでだった。
マリベルは込みあげる吐き気を押さえながら、そこから離れた。
今思えばそう思っていたのは彼女だけだったのかも知れない。
約一年前、マリベルはB級冒険者のエミリオに突然「好きだ」と告白された。
背が高くてハンサムで、赤茶色の髪と鮮やかな緑色の瞳のエミリオは、ギルド職員や町の女性達からも人気だった。
そんな彼に告白されてマリベルは有頂天になり、すぐに承諾した。
ただ、ギルド長や周りの人には、自分がA級冒険者になるまでは二人のことは内緒にしてほしいと言われた。
B級ではまだまだ半人前で、きっと認めてもらえないだろうと言うことだった。
そんなことはないと、マリベルは言ったが、これは自分のけじめだと言われ、こっそりと人目を忍んで逢瀬を重ねてきたのだった。
彼が少しでも早くA級に昇格できるよう、B級ランクのクエストでも、比較的簡単そうなものを彼に回したりと便宜を図り、支援した。
そうしてようやく彼がA級に認められ、いよいよ紹介できると思った矢先、父が亡くなったのだった。
父が亡くなりショックを受けていたマリベルは、エミリオに傍にいて支えてもらいたかったが、運悪く彼はクエストの最中で街にいなかった。
葬儀を終えても彼は戻って来ず、戻っても忙しいのかなかなか会えなかった。
彼もA級に昇格したばかりで大変なんだろう。そう思っていた。
マリベルは彼を信じていた。
その日、マリベルは仕事の途中で、行政官のところまで書類を届けてほしいと頼まれた。ギルドからマリベルの新居を挟んで反対方向にあるため、そのまま帰宅していいと言われ、街の反対側にある行政区役所へ赴いた。
書類を届けて帰る道すがら、エミリオを見かけた。
「エミリオ」
叫んだが彼には聞こえなかったようだ。彼は街でも有名な居酒屋に入っていった。
そこはマリベルの幼なじみのプリシラが勤めているところだ。
つきあっていることを隠しているため、そこへ二人で行ったことはない。
何の用だろうか。
今はまだ夜の営業には少し早い。表も閉まっているため、裏へと回った。
「ふふ、こんなところで私といていいの?」
「今は休憩時間だろ?」
「そうだけど、そう言うことじゃないってわかっているでしょ、私とのこと、まだ秘密にしているんじゃないの?」
「秘密なのはあっちの方だ。俺の本命は君だよプリシラ」
「クスクス、悪い人ね」
裏口は少し開いていた。そしてそこからクスクスと囁き合うプリシラとエミリオの話し声が聞こえてきた。本命?プリシラが?誰の?
「でもまだちゃんと別れようって言っていないんでしょ、だったらまだあなたと恋人だとマリベルは思っているんじゃないの」
自分の名前が出てきてぎくりとなる。
「ギルド長が亡くなって、あなたも大番狂わせよね」
「A級になるまで秘密にしていようって、前もって言っておいて良かった。そうでなければ、今こうして君と会っていることもできなかった」
「そんなこと言って、ギルド長が亡くなった後、私と三日も一緒に王都にいてくれたじゃない」
自分は何の話を聞かされているんだろうか。父の葬儀の後、プリシラは暫くみかけなかった。体を壊したと聞いていたが、エミリオと王都にいたというのか。
「なあ、プリシラ、そろそろいいだろ? 俺と結婚しよう。約束通り俺はA級になったぞ」
「それもマリベルに比較的簡単なクエストを回してもらって達成したんでしょ」
「お前が結婚するならA級冒険者でないと嫌だと言うから、俺は頑張ったんだぞ。なあ、いいだろ?」
「ちょっと、どこ触っているのよ」
ぱしりと何かを叩く音がする。
「何を今更、もう何回もやっているじゃないか」
話を聞いていられたのはそこまでだった。
マリベルは込みあげる吐き気を押さえながら、そこから離れた。
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