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エピローグ

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「本当はベルテ様にお話するべきでしたが、あの日以来、よそよそしくされていましたから」

 あの日とは、二人で街へ出かけた時に、キスされたことを言っている。
 キスならそれより前にも軽く事故みたいなキスをしたが、あの時のキスはそれとは違っていた。
 ベルテに対して攻めるようなキス。
 
「あれは、ちょっと私も感情的になってしまいました。いきなりだったことは、反省しております」

 でも、キスしたことは後悔していないみたいだ。

「あの胸像、いかがでしたか?」
「よく、出来ていると思います」
「ふふ、嬉しいです。私にとって人物をモチーフにしたのは初めてでしたので。でも、ベルテ様のことを考えて彫刻刀で少しずつ木を削りながら、形になっていく過程は、楽しかったです」

 ヴァレンタインは、褒められて満更でもなさそうだった。

「父が、私の趣味をよく思っていないことは、お聞きになりましたか」
「え、あ、はい。貴族の令息としては、堂々と言えるものではないと…」 
「ええ。だからこっそり隠れ部屋を造り、休みになると引きこもっていました」

 錬金術の研究室に引きこもる自分と同じだと思った。

「私はあなたの作品大好きですよ。前から知っていますよね」
「はい。私自身を好きだと言ってもらえたようで、嬉しかったです」

 作品のことなら素直に「好き」と口にできるのに、彼自身のことは「嫌いではない」としか言えない。
 でも、それが彼のことを好きと言っているのと変わらないことでもあると気づいた。

「そ、それは…あの」

 随分話し込んでしまっていることに、ベルテは気づいた。目が覚めたばかりで、いつまでも話し込んでいるのは、彼にも良くない。
 しかし、いつの間にかベルテの手を掴んでいたヴァレンタインの手を、彼女は振り払えない。

「どんな人が造っているのだろうと思っていました」
「幻滅しましたか?」
「意外でしたけど、幻滅はしていません。あなたは自分の作品に自信がないのですか?」
「誰かに認めてほしいと造っているものではありませんから、自信と言われると、あるとは言えませんが、造っているときは色々なことを忘れられるんです」

 それもベルテと同じだった。

「錬金術の実験をしている時は、私もそんな感じだからよくわかります」
「私達、似たところがありますね」

 ヴァレンタインは嬉しそうに笑った。 

「あなたと私に似たところが?」

「白薔薇の君」と呼ばれ、人々の注目を集め信奉者までいるヴァレンタインと、ベルテには似たところはないと思っていた。

 でも、それは彼女の勝手な思い込みだった。
 華やかな容姿と経歴の裏では、背中を丸めてこつこつと彫刻刀を使う素朴な部分もあったのだと知った。

「ベルテ様、今日は来ていただいてありがとうございます」 
「私は…別に」

 半ばディランに放り込まれた感じで来たため、改めてお礼を言われると気が引ける。

「今日何があったのか、今度聞かせてくれますか?」
「え?」

 アレッサンドロとカトリーヌに連れ去られたことはまだ話していないのに、ヴァレンタインは何か察しているようだった。

「ベルテ様」
「は、はい」

 眠気が襲ってきたのか、ヴァレンタインは何度も目をパチパチとし始めた。
 そろそろ体力の限界なのだろう。

「あなたに…話したいことが、まだあるんです」

 ついつい長話になってしまったが、眠いのは体が休息を求めているからだ。

「話の続きは、今度また」

 ベルテも色々と今日は限界だった。

 アレッサンドロたちに襲われて、魔法で攻撃したりしたし、ディランが現れなければ、どうなっていたのかわからない。
 それにあの作家がヴァレンタインだったとわかり、本人の前で「好き」とか言いまくって、少し気恥ずかしく思っている。

「おやすみなさい。ゆっくり休んでください」
 
 やがてヴァレンタインから静かな寝息が聞こえてきて、ベルテは彼の手からするりと手を抜いた。
 ベルクトフ家の馬車で王宮に戻ると、父達はアレッサンドロのことで頭を抱えていた。

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