その断罪に異議あり! 断罪を阻止したらとんだとばっちりにあいました

七夜かなた

文字の大きさ
上 下
38 / 71
第六章 お迎え

7

しおりを挟む
「それに、お祝いも貰ってしまいました」

 そう言って、ベルテは膝に乗せた箱に触れる。

「お祝い? もしかしてその箱ですか?」
「はい。学園長から、婚約祝いだと今日いただきました」
「嬉しそうですね」
「ええ」

 さすがにベルテにも、ヴァレンタインからのチョコレートと花より喜んだことを言わないだけの分別はある。

「中はなんですか?」

 当然何をもらったのか気になるだろう。

「えっと、木彫りの馬です。少し前から学園長の部屋にあって、行くたびに眺めていたので、作者の許可をもらって贈ってくれたんです」

 箱の蓋を撫でながら、ベルテは答えた。

「とてもお気に入りなのですね」
「はい」

 王女ともあろうものが、木彫りの馬ごときで喜んでいるのかと、馬鹿にされるかと思ったが、意外にもヴァレンタインは何も言わなかった。
 
「何だか妬けます」
「え?」

 驚いてベルテはヴァレンタインを見た。

「な、何ておっしゃいました?」
「妬けると言ったのです。あなたが好きな物を知っている学園長にも、その大切そうに仕舞われている箱の中身にも、ヤキモチを妬いてしまいました。私は何も知りませんから。花や菓子など、ありきたりな物しか贈れません」
「いえ、あれとこれとは別というか……学園長は小さい頃から知っている方ですし…」
「小さい頃のベルテ様…とても可愛かったでしょうね。今でもお可愛らしいですが」
「へ…」

 またも彼の口から「可愛い」という言葉が飛び出し、ベルテは間抜けな声を漏らしてしまった。

「あの、ベル…、ヴァレンタイン様、それ止めてもらえますか」
「『それ』とは?」
「『可愛い』と、言うことです」
「私なりにベルテ様に対して抱いている感想ですが、お気に召しませんか?」
「お気に召しません。恥ずかしいです」

 ベルテはそう言った言葉を言われることに慣れていない。
 ベルテを可愛いと言うのは、亡くなった曾祖父とエンリエッタくらいだ。つまり、家族だけということになる。
 他の人から面と向かって言われるのは、恥ずかしくて困る。
 
「それに、あなたにそんなことを言われても、素直に喜べません」
「婚約者のことを褒めるのが、そんなにいけないことですか?」
「あなた、自分の顔を鏡で見たことありますか?」
「もちろん。朝には必ず見ます」
「ならわかりますよね。自分の顔を見た後で私の顔を見たら、とても『可愛い』などと思えないはずです」

 容姿にコンプレックスはないが、それでもヴァレンタインやシャンティエと比べれば、ベルテの顔など遙かに見劣りがする。

「自分の顔を見た後であなたの顔を見ても、やはり可愛いと思います」

 しれっと生真面目な顔で言われ、ベルテは二の句が継げない。

「しかし、あなたがお気に召さないと言うなら、出来るだけ言わないで心の中で留め置くことにします」

 ヴァレンタインは一応は納得してくれたようだが、不満げだった。
 はたしてそれが解決になるのかどうかわからなかったが、とりあえずこれ以上恥ずか死ぬのは免れた。

 そうこうしている内に、ようやく王宮の敷地に入り、最初の門を潜ったのを見て、ベルテはほっとした。
 この空間から一分でも早く逃れたい。
 狭い馬車の中(何度も言うが、侯爵家の馬車は六人乗っても余裕があるほど大きい)で、今にも窒息しそうだ。

「ところで、二週間後、騎士団で武闘大会が開催されるのですが、ご招待してもよろしいですか」

 王宮の玄関にそろそろ着くという頃合いで、ヴァレンタインが話を切り出した。

「武闘大会?」
「はい。一年に一度騎士団の精鋭が選抜され、剣術に馬術、弓に槍など、普段の鍛錬の成果を競い合います。優秀者には恩賞が与えられ、優勝すればメダルと栄誉が与えられます」
 
 国王と王妃がいつも参席しているらしい。しかし王妃がアレッサンドロのことがあって、離宮に引き籠もったため、今年はエンリエッタが国王と同席するらしい。

「あなたも出場するのですか?」
「いつもは周りから勧められて仕方なく出場していたのですが、ベルテ様が来て頂けるなら、今年は立候補して出場します」

 これまでの成績がどうだったか、聞かなくても何となく想像できた。
 きっと上位の成績だったのだろう。
 
「私の婚約者として、来て頂けますか?」
「か、考えておきます」

 もし出席したなら、ヴァレンタイン・ベルクトフの婚約者として初めて公の場に立つことになる。
 
しおりを挟む
感想 47

あなたにおすすめの小説

完結 婚約破棄は都合が良すぎる戯言

音爽(ネソウ)
恋愛
王太子の心が離れたと気づいたのはいつだったか。 婚姻直前にも拘わらず、すっかり冷えた関係。いまでは王太子は堂々と愛人を侍らせていた。 愛人を側妃として置きたいと切望する、だがそれは継承権に抵触する事だと王に叱責され叶わない。 絶望した彼は「いっそのこと市井に下ってしまおうか」と思い悩む……

最後に報われるのは誰でしょう?

ごろごろみかん。
恋愛
散々婚約者に罵倒され侮辱されてきたリリアは、いい加減我慢の限界を迎える。 「もう限界だ、きみとは婚約破棄をさせてもらう!」と婚約者に突きつけられたリリアはそれを聞いてラッキーだと思った。 限界なのはリリアの方だったからだ。 なので彼女は、ある提案をする。 「婚約者を取り替えっこしませんか?」と。 リリアの婚約者、ホシュアは婚約者のいる令嬢に手を出していたのだ。その令嬢とリリア、ホシュアと令嬢の婚約者を取り替えようとリリアは提案する。 「別にどちらでも私は構わないのです。どちらにせよ、私は痛くも痒くもないですから」 リリアには考えがある。どっちに転ぼうが、リリアにはどうだっていいのだ。 だけど、提案したリリアにこれからどう物事が進むか理解していないホシュアは一も二もなく頷く。 そうして婚約者を取り替えてからしばらくして、辺境の街で聖女が現れたと報告が入った。

宮廷外交官の天才令嬢、王子に愛想をつかれて婚約破棄されたあげく、実家まで追放されてケダモノ男爵に読み書きを教えることになりました

悠木真帆
恋愛
子爵令嬢のシャルティナ・ルーリックは宮廷外交官として日々忙しくはたらく毎日。 クールな見た目と頭の回転の速さからついたあだ名は氷の令嬢。 婚約者である王子カイル・ドルトラードを長らくほったらかしてしまうほど仕事に没頭していた。 そんなある日の夜会でシャルティナは王子から婚約破棄を宣言されてしまう。 そしてそのとなりには見知らぬ令嬢が⋯⋯ 王子の婚約者ではなくなった途端、シャルティナは宮廷外交官の立場まで失い、見かねた父の強引な勧めで冒険者あがりの男爵のところへ行くことになる。 シャルティナは宮廷外交官の実績を活かして辣腕を振るおうと張り切るが、男爵から命じられた任務は男爵に文字の読み書きを教えることだった⋯⋯

今更気付いてももう遅い。

ユウキ
恋愛
ある晴れた日、卒業の季節に集まる面々は、一様に暗く。 今更真相に気付いても、後悔してももう遅い。何もかも、取り戻せないのです。

想い合っている? そうですか、ではお幸せに

四季
恋愛
コルネリア・フレンツェはある日突然訪問者の女性から告げられた。 「実は、私のお腹には彼との子がいるんです」 婚約者の相応しくない振る舞いが判明し、嵐が訪れる。

一番悪いのは誰

jun
恋愛
結婚式翌日から屋敷に帰れなかったファビオ。 ようやく帰れたのは三か月後。 愛する妻のローラにやっと会えると早る気持ちを抑えて家路を急いだ。 出迎えないローラを探そうとすると、執事が言った、 「ローラ様は先日亡くなられました」と。 何故ローラは死んだのは、帰れなかったファビオのせいなのか、それとも・・・

悪役令嬢ってこれでよかったかしら?

砂山一座
恋愛
第二王子の婚約者、テレジアは、悪役令嬢役を任されたようだ。 場に合わせるのが得意な令嬢は、婚約者の王子に、場の流れに、ヒロインの要求に、流されまくっていく。 全11部 完結しました。 サクッと読める悪役令嬢(役)。

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

処理中です...