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第二章 想像しなかったとばっちり
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「大丈夫です。そうなれば、私は研究者として一生を捧げます」
ベルテには結婚願望がない。今はまだ学生だからと逃げているが、そのうち誰かと結婚させられるのを、何としても避けたかったが、それは叶わぬことと半ばあきらめていた。
「大お祖父様が遺された研究を、私は卒業後も続けて行きたいのです」
ベルテの曽祖父は、錬金術師としての才能があった。
ベルテはその曽祖父の影響を受け、錬金術の研究に意欲を示している。しかし、結婚するとなると、夫の理解が得られるとは限らない。結婚しなくていいなら、渡りに船だ。
「はあ~、お前は…少しはシャンティエ嬢を見習え」
「それは無理です。そもそもの才能が違います。シャンティエ嬢みたいにはなれませんから、諦めてください」
「そんなことはわかっている。いちいち口答えするな。まったくアレッサンドロといい、お前といい、子供とはどうしてこうも思う通りに育たないのだ」
「陛下、お気を明るくお持ちください」
ため息を吐く国王を騎士団長が慰める。
「そうですぞ、陛下、此度のことは、私も副学園長の所業にまるで気付いておらず、己の不甲斐なさを悔やんでおりますが、こうして悪事が発覚したなら、後は二度とこのようなことが起こらぬよう、身を引き締める、そうして前を向いていくしかありません」
「学園長も、まだまだ引退できぬな」
「こうなれば、とことんやり抜きますよ」
学園長は六十半ばで、五年前にこの世を去ったベルテの曽祖父と、さほど歳は変わらない。幸い体はいたって健康で気力もある。
彼を慕っているベルテとしては、まだ引退はしないでほしいと思っている。
その後、アレッサンドロは王子としての身分は剥奪されなかったものの、王太子としては不適格であると判断された。
学生だからとか、一度の過ちだから恩情をという本人や正妃、正妃の実家の嘆願があったが、それは聞き入れられなかった。
代わりに第二王子のディランが立太子された。
ディランはわずか十歳にも関わらす、既に高等大学に入学できるだけの学力を持つ秀才だった。
小さいころは、もっと無邪気な年相応の子供だったが、五歳になるころ原因不明の熱病に侵されてから、急に大人びた子供になった。
ベルテのことも「姉上」と慕ってくれるが、不意に彼女も驚くくらい大人の思考と判断をする。
周囲ではアレッサンドロより国王に相応しいと言われていたが、長子相続の掟があるため、後継者爭いの火種になるのではと、密かに国王は悩んでいた。
そこに今回の騒動が起こった。
父親としてはどちらもかわいい我が子だが、国王としては、ディランが後を継ぐことで国政は安泰であるのは間違いない。
そして、正妃は此度のことを憂い、病を理由に離宮に引きこもることになった。
アレッサンドロも母親と共に、半ば幽閉に近い形で、離宮に留め置かれることとなった。
カトリーヌは、父親の営む商会にも調査の手が入り、賄賂や恐喝、そして密輸などに手を染めていたことが判明し、爵位剥奪、財産没収となり、男爵本人は比較的軽微な収容所に収監された。
その妻と娘のカトリーヌは、王都の外れにある修道院に入ることになった。
「あ~、すっきりした」
学園内の学生が憩うために設けられた庭園の一角で、パーティーから数日後、ベルテは伸びをして、学園内の平安を満喫していた。
『もう大丈夫なのですか?』
麦わら帽子を目深に被り、顔の下半分をスカーフで覆い、作業のためのツナギを着て、手袋長靴のその人物は魔法で空間に文字を書いて、ベルテのすぐ脇にいた人物が、彼女に質問した。
「心配してくれてありがとう、ヴァンさん」
ベルテがヴァンと呼んだ人物は、学園の庭を手入れしている庭師の一人だ。
しかし彼は正式に庭師として雇われているわけではなぬ、学園長が個人的にここでの庭作業を承認しているのだとベルテは聞いている。
ベルテもここで彼が作業している時しか話をしないし、彼の名前しか知らない。
骨格から男性だとはわかるが、年齢も不詳で顔もはっきり見たことがない。
しかも口がきけないらしく、耳は聞こえるということで、ベルテとは空中で文字を書いて会話をしている。
週に一回はここに来ているが、たまに長い間見かけない時もある。
初めて彼を見かけたのは一年前くらいだろうか。
彼が作業している傍らを通り過ぎたカトリーヌが、土が靴に付いたと文句を言っているので、水魔法で綺麗にしてやった。
少し加減を間違えて靴下までビチョビチョになったのは、ベルテの嫌がらせだったが。
これでいいだろう、綺麗になったと言ったら、カトリーヌは睨んでいた。
その頃からカトリーヌはアレッサンドロに近づき、他の令嬢たちを牽制していたが、ベルテには一応王女なので、表立っては逆らわないが、影では地味な芋くさだとか、ガリ勉で華がないとか、捻くれ者だとか悪口を言っているのは知っていた。
その後ベルテは魔法を使ったことで、教師に怒られた。
ベルテは氷と水魔法、そして切り傷程度なら治せる治癒魔法が使える。
魔力量は中程度で、得に才能があるわけでもない。
学園内では、授業などで許可された時以外で魔法を使うのは禁止されている。
不用意に使って、事故でも起こっては大変だからだ。
使った度合いにもよるが、カトリーヌが被害を大げさに訴えたため、ベルテは停学処分にされるところだった。
しかし、それがヴァンを庇うためだったと彼から事情を聞いた学園長が、厳重注意で許してくれた。
そこから時折、彼と庭で会うようになった。
ベルテには結婚願望がない。今はまだ学生だからと逃げているが、そのうち誰かと結婚させられるのを、何としても避けたかったが、それは叶わぬことと半ばあきらめていた。
「大お祖父様が遺された研究を、私は卒業後も続けて行きたいのです」
ベルテの曽祖父は、錬金術師としての才能があった。
ベルテはその曽祖父の影響を受け、錬金術の研究に意欲を示している。しかし、結婚するとなると、夫の理解が得られるとは限らない。結婚しなくていいなら、渡りに船だ。
「はあ~、お前は…少しはシャンティエ嬢を見習え」
「それは無理です。そもそもの才能が違います。シャンティエ嬢みたいにはなれませんから、諦めてください」
「そんなことはわかっている。いちいち口答えするな。まったくアレッサンドロといい、お前といい、子供とはどうしてこうも思う通りに育たないのだ」
「陛下、お気を明るくお持ちください」
ため息を吐く国王を騎士団長が慰める。
「そうですぞ、陛下、此度のことは、私も副学園長の所業にまるで気付いておらず、己の不甲斐なさを悔やんでおりますが、こうして悪事が発覚したなら、後は二度とこのようなことが起こらぬよう、身を引き締める、そうして前を向いていくしかありません」
「学園長も、まだまだ引退できぬな」
「こうなれば、とことんやり抜きますよ」
学園長は六十半ばで、五年前にこの世を去ったベルテの曽祖父と、さほど歳は変わらない。幸い体はいたって健康で気力もある。
彼を慕っているベルテとしては、まだ引退はしないでほしいと思っている。
その後、アレッサンドロは王子としての身分は剥奪されなかったものの、王太子としては不適格であると判断された。
学生だからとか、一度の過ちだから恩情をという本人や正妃、正妃の実家の嘆願があったが、それは聞き入れられなかった。
代わりに第二王子のディランが立太子された。
ディランはわずか十歳にも関わらす、既に高等大学に入学できるだけの学力を持つ秀才だった。
小さいころは、もっと無邪気な年相応の子供だったが、五歳になるころ原因不明の熱病に侵されてから、急に大人びた子供になった。
ベルテのことも「姉上」と慕ってくれるが、不意に彼女も驚くくらい大人の思考と判断をする。
周囲ではアレッサンドロより国王に相応しいと言われていたが、長子相続の掟があるため、後継者爭いの火種になるのではと、密かに国王は悩んでいた。
そこに今回の騒動が起こった。
父親としてはどちらもかわいい我が子だが、国王としては、ディランが後を継ぐことで国政は安泰であるのは間違いない。
そして、正妃は此度のことを憂い、病を理由に離宮に引きこもることになった。
アレッサンドロも母親と共に、半ば幽閉に近い形で、離宮に留め置かれることとなった。
カトリーヌは、父親の営む商会にも調査の手が入り、賄賂や恐喝、そして密輸などに手を染めていたことが判明し、爵位剥奪、財産没収となり、男爵本人は比較的軽微な収容所に収監された。
その妻と娘のカトリーヌは、王都の外れにある修道院に入ることになった。
「あ~、すっきりした」
学園内の学生が憩うために設けられた庭園の一角で、パーティーから数日後、ベルテは伸びをして、学園内の平安を満喫していた。
『もう大丈夫なのですか?』
麦わら帽子を目深に被り、顔の下半分をスカーフで覆い、作業のためのツナギを着て、手袋長靴のその人物は魔法で空間に文字を書いて、ベルテのすぐ脇にいた人物が、彼女に質問した。
「心配してくれてありがとう、ヴァンさん」
ベルテがヴァンと呼んだ人物は、学園の庭を手入れしている庭師の一人だ。
しかし彼は正式に庭師として雇われているわけではなぬ、学園長が個人的にここでの庭作業を承認しているのだとベルテは聞いている。
ベルテもここで彼が作業している時しか話をしないし、彼の名前しか知らない。
骨格から男性だとはわかるが、年齢も不詳で顔もはっきり見たことがない。
しかも口がきけないらしく、耳は聞こえるということで、ベルテとは空中で文字を書いて会話をしている。
週に一回はここに来ているが、たまに長い間見かけない時もある。
初めて彼を見かけたのは一年前くらいだろうか。
彼が作業している傍らを通り過ぎたカトリーヌが、土が靴に付いたと文句を言っているので、水魔法で綺麗にしてやった。
少し加減を間違えて靴下までビチョビチョになったのは、ベルテの嫌がらせだったが。
これでいいだろう、綺麗になったと言ったら、カトリーヌは睨んでいた。
その頃からカトリーヌはアレッサンドロに近づき、他の令嬢たちを牽制していたが、ベルテには一応王女なので、表立っては逆らわないが、影では地味な芋くさだとか、ガリ勉で華がないとか、捻くれ者だとか悪口を言っているのは知っていた。
その後ベルテは魔法を使ったことで、教師に怒られた。
ベルテは氷と水魔法、そして切り傷程度なら治せる治癒魔法が使える。
魔力量は中程度で、得に才能があるわけでもない。
学園内では、授業などで許可された時以外で魔法を使うのは禁止されている。
不用意に使って、事故でも起こっては大変だからだ。
使った度合いにもよるが、カトリーヌが被害を大げさに訴えたため、ベルテは停学処分にされるところだった。
しかし、それがヴァンを庇うためだったと彼から事情を聞いた学園長が、厳重注意で許してくれた。
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