上 下
8 / 71
第二章 想像しなかったとばっちり

1

しおりを挟む
 その後、アレッサンドロとカトリーヌは騎士団に連れられ会場を出ていった。
 アレッサンドロは項垂れていたが、カトリーヌは最後まで抵抗していた。
 そして残った生徒会役員たちの誘導で、その場はお開きになった。

 国王と学園長、騎士団長。そしてシャンティエ嬢とベルテはその場に残った。

「ベルテ、お前、何もここまでしなくても」
 
 残った国王たちは、この断罪劇の首謀者であるベルテに渋い顔をした。
 それに対してベルテは、ですが父上、と反論した。

「アレッサンドロ兄上と、ブーレット男爵令嬢の罪は明白です。けれど私もここまでするつもりはありませんでした。兄上が先にこの宴で罪のないシャンティエ嬢に罪をなすりつけて、婚約破棄を迫ったのです。だから私は、それを阻止したまでです」

 ただ単に婚約破棄を阻止しても、口のうまいアレッサンドロは、きっとベルテを悪者に仕立てあげ、己を正当化し、言い逃れただろう。
 だからベルテは、アレッサンドロをギャフンと言わせるための証拠を集めた。
 結果、副学園長の悪事も暴くことにもなった。 
 そしてその証拠を、学園長にも渡した。
 国王が来るかどうかは、予想はしていた。

「シャンティエ嬢か」

 国王はシャンティエに注目した。
 彼女は最初から最後まで凛とした態度を崩さなかった。令嬢の中の令嬢とも言える。

「陛下、拝謁の栄誉を賜ります」

 シャンティエは見事なカーテシーで、国王に挨拶する。

「うむ。シャンティエ嬢、此度は愚息が大変申し訳なかった。これも余の不徳の致すところだ。このとおり詫びを言う」

 国王はシャンティエに向かって頭を下げた。

「陛下、そ、そのような」
「そうです、陛下」

 これにはシャンティエも、傍に控える騎士団長も慌てふためいた。いくら息子のしでかしたこととは言え、一国の王が人前で貴族令嬢に頭を下げるなど、前代未聞の事態だった。

「しかし、アレッサンドロの親として、余はそなたにまったくもって顔向け出来ぬ」
「ベルクトフ、それにデルペシュ卿、今は陛下と言えど一人の親だ。気の済むようにさせてやってください」

 横から学園長が取りなす。彼は国王の祖父と同年代で、小さい頃から国王を知っている。そしてかつての恩師でもある。それゆえ、身分は下でも学園長に対して、国王は頭が上がらない。

「いえ、ところで、ベルテ殿下、色々とありがとうございました」
「お礼はいいです。私も色々兄上と男爵令嬢には迷惑を被っておりましたから。あ、でも決して逆恨みで今回のことを計画したわけではありません」
「わかっております。私や他の生徒たちのため、ですわね」
「ま、まあ…」
「此度のこと、改めてベルクトフ侯爵にも、謝罪申し上げる。婚約破棄はこちらからではなく、シャンティエ嬢からということで、お願いする」
「陛下、そんな」

 普通高位、ましてや王族に対して下位の者から破棄を申し出るなど、前列がないことだ。けれど、今回はそれも致し方ないことだろう。

「そなたの今後のことも、どんな相手とも婚約したい相手がいれば、余が取り持とう」
「あ、有難きお言葉、痛み入ります」

 シャンティエは、深々と頭を下げた。ひとつひとつの仕草が完璧であり、全員が彼女の一挙手一投足に見惚れた。

「本当に、愚かなやつだ。余がなぜシャンティエ嬢をアレッサンドロよ婚約者にしたのか、わからぬとは。あやつの不足を補って余りあるこのような素晴らしい令嬢より、あんな粗野で愚かな者を好むとは」

 つくづく残念だと国王は呟いた。

「悔やんでも無駄なことだな。では、我々はこれで引き上げることにする。デルペシュ」
「は!」

 国王は王宮に戻れべく、騎士団長に声を掛けた。

「学園長、学園内の今後のことはあなたに任せる。ベルテ、お前は良くやった、と言いたいところだが、実の兄を糾弾するような王女に、今後良き縁談などないとわかっているな」

 国王がそう言うと、ベルテは「本当ですか!」と逆に喜んだ。
しおりを挟む
感想 47

あなたにおすすめの小説

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

義母様から「あなたは婚約相手として相応しくない」と言われたので、家出してあげました。

新野乃花(大舟)
恋愛
婚約関係にあったカーテル伯爵とアリスは、相思相愛の理想的な関係にあった。しかし、それを快く思わない伯爵の母が、アリスの事を執拗に口で攻撃する…。その行いがしばらく繰り返されたのち、アリスは自らその姿を消してしまうこととなる。それを知った伯爵は自らの母に対して怒りをあらわにし…。

乙女ゲームの世界だと、いつから思い込んでいた?

シナココ
ファンタジー
母親違いの妹をいじめたというふわふわした冤罪で婚約破棄された上に、最北の辺境地に流された公爵令嬢ハイデマリー。勝ち誇る妹・ゲルダは転生者。この世界のヒロインだと豪語し、王太子妃に成り上がる。乙女ゲームのハッピーエンドの確定だ。 ……乙女ゲームが終わったら、戦争ストラテジーゲームが始まるのだ。

公女様は愛されたいと願うのやめました。~態度を変えた途端、家族が溺愛してくるのはなぜですか?~

朱色の谷
恋愛
公爵家の末娘として生まれた8歳のティアナ お屋敷で働いている使用人に虐げられ『公爵家の汚点』と呼ばれる始末。 お父様やお兄様は私に関心がないみたい。 ただ、愛されたいと願った。 そんな中、夢の中の本を読むと自分の正体が明らかに。

お願いですから離縁してください。やり直すことはできないので。

ネコ
恋愛
ラッセル公国の伯爵令嬢マルコットは、公爵令息エイブラハムと恋愛結婚。 愛し合っていた二人だが、ある時、とんでもない問題が起きる。 それは同盟国であるナスダック王国との間で開かれた祝宴のこと。 エイブラハムが、ナスダック王国の王女シャリアと不貞行為に及んだのだ。 不貞の現場を目撃したマルコットは深いショックを受ける。 そして翌日、彼女はエイブラハムに離縁を切り出す。 しかし、エイブラハムは「一度きりの過ち」「やり直せる」と言って受け入れず。 また、マルコットやエイブラハムの両親も、両家の関係を重視して離縁を望まず。 マルコットは四面楚歌の中、離縁を成立させるため立ち向かっていく。

悪役令嬢は永眠しました

詩海猫
ファンタジー
「お前のような女との婚約は破棄だっ、ロザリンダ・ラクシエル!だがお前のような女でも使い道はある、ジルデ公との縁談を調えてやった!感謝して公との間に沢山の子を産むがいい!」 長年の婚約者であった王太子のこの言葉に気を失った公爵令嬢・ロザリンダ。 だが、次に目覚めた時のロザリンダの魂は別人だった。 ロザリンダとして目覚めた木の葉サツキは、ロザリンダの意識がショックのあまり永遠の眠りについてしまったことを知り、「なぜロザリンダはこんなに努力してるのに周りはクズばっかりなの?まかせてロザリンダ!きっちりお返ししてあげるからね!」 *思いつきでプロットなしで書き始めましたが結末は決めています。暗い展開の話を書いているとメンタルにもろに影響して生活に支障が出ることに気付きました。定期的に強気主人公を暴れさせないと(?)書き続けるのは不可能なようなのでメンタル状態に合わせて書けるものから書いていくことにします、ご了承下さいm(_ _)m

婚約破棄されたので、隠していた力を解放します

ミィタソ
恋愛
「――よって、私は君との婚約を破棄する」  豪華なシャンデリアが輝く舞踏会の会場。その中心で、王太子アルバートが高らかに宣言した。  周囲の貴族たちは一斉にどよめき、私の顔を覗き込んでくる。興味津々な顔、驚きを隠せない顔、そして――あからさまに嘲笑する顔。  私は、この状況をただ静かに見つめていた。 「……そうですか」  あまりにも予想通りすぎて、拍子抜けするくらいだ。  婚約破棄、大いに結構。  慰謝料でも請求してやりますか。  私には隠された力がある。  これからは自由に生きるとしよう。

第二王子妃から退きますわ。せいぜい仲良くなさってくださいね

ネコ
恋愛
公爵家令嬢セシリアは、第二王子リオンに求婚され婚約まで済ませたが、なぜかいつも傍にいる女性従者が不気味だった。「これは王族の信頼の証」と言うリオンだが、実際はふたりが愛人関係なのでは? と噂が広まっている。ある宴でリオンは公衆の面前でセシリアを貶め、女性従者を擁護。もう我慢しません。王子妃なんてこちらから願い下げです。あとはご勝手に。

処理中です...