7 / 71
第一章 婚約破棄と断罪
4
しおりを挟む
突然の国王の登場に、会場はどよめいた。
「ああ、畏まらなくて良い」
皆がその場で礼を取って頭を下げようとするのを、国王が止めた。
「ち、父上・・なぜ・・学園長も」
「父上」
「ベルテ、アレッサンドロ。お前達は・・」
ベルテは父親である国王が来るだろうことはある程度予想していたが、アレッサンドロはまるで想像していなかっただけに、驚愕に満ちた表情を国王達に向けている。
「何故、それはそなたが一番良くわかっているのではないか、アレッサンドロ」
「ど、どういう・・・」
「デルペシュ」
「は!」
国王はアレッサンドロの問いにすぐには答えず、後ろを振り返る。
その後ろには、騎士服を着た赤髪の屈強な男性が控えていた。
「デルペシュ・・騎士団長」
アレッサンドロはその人物を見て、また顔を顰めた。
頬に傷のある彼はブライアン・デルペシュ。騎士団長であり王の懐刀だ。
平民出身だが、武芸に秀でそれを見込まれて貴族令嬢と結婚した。
実直で忠義に厚く、アレッサンドロの剣の師匠でもあるが、アレッサンドロは彼が苦手だった。
根がいい加減で努力という言葉の嫌いなアレッサンドロは、良く彼の鍛錬を仮病を使ってサボっていたのをベルテは知っている。
デルペシュは手に羊皮に包まれた何かを持って、アレッサンドロの前に突き出した。
「これは?」
「そなたが隠していた生徒会の帳簿だ」
「な!!!!」
驚いたアレッサンドロは、目が落ちるのではないかと思うくらい大きく見開く。
「それからそなたが今まで提出してきた課題。筆跡を調べたが、どれもそなたの筆跡とは似ていたが、別人が書いた物だった。ただのひとつも、そなたが書いた物はなかった。この意味がわかるか?」
「そ、それは」
アレッサンドロは言葉を詰まらせる。
それはアレッサンドロが提出した課題が、すべて他人が書いた物だと言っていた。
「へ、陛下。お会いできて光栄でございます。私はカトリーヌ・ブーレットと申します」
ただ一人カトリーヌを覗いては。彼女は突然の国王の来訪に、自己を売り込むチャンスとばかりに声をかけた。
いくら畏まるなという言葉があったとて、国王に許しも請わずいきなり挨拶をするのは、はっきり言って礼儀知らずと誹られても文句は言えない。
しかし、カトリーヌはそんな最低限の礼儀も弁えていなかった。
「先ほどの映像、余も影から確認した。それとこの帳簿と課題、これが事実なら由々しき事態だぞ」
国王はそんなカトリーヌのことを無視し、アレッサンドロを問い詰める。
カトリーヌは無視されたことに顔を顰めたが、さすがに国王に文句を言うのは思いとどまった。
「ご、誤解です父上、わ、私は」
「しかし、いかにそなたが悪事を働こうとその足らない頭で考えようと、そなただけでここまで出来るとは思えん」
「さようです」
国王の言葉を受け、次に前に出たのは学園長だった。
「が、学園長」
「実に残念です殿下。私が学園長の代に、学園内でこのような不正が行われていようとは」
学園長は心底遺憾だという風に頭を振った。
「な、何を・・学園長」
「もうわかっていらっしゃるでしょう。ハビエルです」
「ハ、ハビエル副学園長」
その名を聞いて、アレッサンドロはこれ以上ないくらい震え上がった。
「殿下が申請した生徒会運営費用の増額について、審査をしたのが副学園長だと言えば、おわかりですね。そして彼が命じて殿下の試験の点数改ざんも、身に覚えがありますね」
「く・・ベルテ、すべてお前の仕業か」
アレッサンドロはそれまでの威勢がどこへ行ったのか。悔しげにベルテを睨み付ける。
次から次へと明かされる事実に、もはや会場全体が驚きを忘れ、ただ呆然と見守っていた。
「自業自得です。自分の行った罪を潔くお認めください」
ベルテはアレッサンドロがシャンティエに向かって放った言葉を、そっくりそのまま告げた。
「既に副学園長は騎士団が取り押さえた。既に観念している」
「ど、どういうことですの、アレッサンドロ様、婚約破棄は? 私達はどうなるのです?」
「黙りなさい、ブーレット、そなたのことも、多くの者から告訴状が出ておる」
そんなカトリーヌを学園長が叱責する。びくりとカトリーヌが身を強張らせる。
「こ、告訴・・状?」
「さよう。覚えがないとは言わせんぞ。そなたがのせいで多くの者達が婚約破棄に至った」
「そ、そんなの、私のせいばかりでは・・」
「貴族同士の結婚は、家同士の利害や関係性を考慮し、執り行われるものだ。そなたが不用意に誘惑したことで、多くの男子生徒たちが道を踏み外し、それによって多くの女子生徒が不名誉を被った。それぞれの家門の長からそなたとそなたの父親に対し、法律で罰せよという訴状が出ている。よって学園側はアレッサンドロ殿下とブーレットを退学処分にすると決定した」
学園長の声が、会場に響き渡った。
「ああ、畏まらなくて良い」
皆がその場で礼を取って頭を下げようとするのを、国王が止めた。
「ち、父上・・なぜ・・学園長も」
「父上」
「ベルテ、アレッサンドロ。お前達は・・」
ベルテは父親である国王が来るだろうことはある程度予想していたが、アレッサンドロはまるで想像していなかっただけに、驚愕に満ちた表情を国王達に向けている。
「何故、それはそなたが一番良くわかっているのではないか、アレッサンドロ」
「ど、どういう・・・」
「デルペシュ」
「は!」
国王はアレッサンドロの問いにすぐには答えず、後ろを振り返る。
その後ろには、騎士服を着た赤髪の屈強な男性が控えていた。
「デルペシュ・・騎士団長」
アレッサンドロはその人物を見て、また顔を顰めた。
頬に傷のある彼はブライアン・デルペシュ。騎士団長であり王の懐刀だ。
平民出身だが、武芸に秀でそれを見込まれて貴族令嬢と結婚した。
実直で忠義に厚く、アレッサンドロの剣の師匠でもあるが、アレッサンドロは彼が苦手だった。
根がいい加減で努力という言葉の嫌いなアレッサンドロは、良く彼の鍛錬を仮病を使ってサボっていたのをベルテは知っている。
デルペシュは手に羊皮に包まれた何かを持って、アレッサンドロの前に突き出した。
「これは?」
「そなたが隠していた生徒会の帳簿だ」
「な!!!!」
驚いたアレッサンドロは、目が落ちるのではないかと思うくらい大きく見開く。
「それからそなたが今まで提出してきた課題。筆跡を調べたが、どれもそなたの筆跡とは似ていたが、別人が書いた物だった。ただのひとつも、そなたが書いた物はなかった。この意味がわかるか?」
「そ、それは」
アレッサンドロは言葉を詰まらせる。
それはアレッサンドロが提出した課題が、すべて他人が書いた物だと言っていた。
「へ、陛下。お会いできて光栄でございます。私はカトリーヌ・ブーレットと申します」
ただ一人カトリーヌを覗いては。彼女は突然の国王の来訪に、自己を売り込むチャンスとばかりに声をかけた。
いくら畏まるなという言葉があったとて、国王に許しも請わずいきなり挨拶をするのは、はっきり言って礼儀知らずと誹られても文句は言えない。
しかし、カトリーヌはそんな最低限の礼儀も弁えていなかった。
「先ほどの映像、余も影から確認した。それとこの帳簿と課題、これが事実なら由々しき事態だぞ」
国王はそんなカトリーヌのことを無視し、アレッサンドロを問い詰める。
カトリーヌは無視されたことに顔を顰めたが、さすがに国王に文句を言うのは思いとどまった。
「ご、誤解です父上、わ、私は」
「しかし、いかにそなたが悪事を働こうとその足らない頭で考えようと、そなただけでここまで出来るとは思えん」
「さようです」
国王の言葉を受け、次に前に出たのは学園長だった。
「が、学園長」
「実に残念です殿下。私が学園長の代に、学園内でこのような不正が行われていようとは」
学園長は心底遺憾だという風に頭を振った。
「な、何を・・学園長」
「もうわかっていらっしゃるでしょう。ハビエルです」
「ハ、ハビエル副学園長」
その名を聞いて、アレッサンドロはこれ以上ないくらい震え上がった。
「殿下が申請した生徒会運営費用の増額について、審査をしたのが副学園長だと言えば、おわかりですね。そして彼が命じて殿下の試験の点数改ざんも、身に覚えがありますね」
「く・・ベルテ、すべてお前の仕業か」
アレッサンドロはそれまでの威勢がどこへ行ったのか。悔しげにベルテを睨み付ける。
次から次へと明かされる事実に、もはや会場全体が驚きを忘れ、ただ呆然と見守っていた。
「自業自得です。自分の行った罪を潔くお認めください」
ベルテはアレッサンドロがシャンティエに向かって放った言葉を、そっくりそのまま告げた。
「既に副学園長は騎士団が取り押さえた。既に観念している」
「ど、どういうことですの、アレッサンドロ様、婚約破棄は? 私達はどうなるのです?」
「黙りなさい、ブーレット、そなたのことも、多くの者から告訴状が出ておる」
そんなカトリーヌを学園長が叱責する。びくりとカトリーヌが身を強張らせる。
「こ、告訴・・状?」
「さよう。覚えがないとは言わせんぞ。そなたがのせいで多くの者達が婚約破棄に至った」
「そ、そんなの、私のせいばかりでは・・」
「貴族同士の結婚は、家同士の利害や関係性を考慮し、執り行われるものだ。そなたが不用意に誘惑したことで、多くの男子生徒たちが道を踏み外し、それによって多くの女子生徒が不名誉を被った。それぞれの家門の長からそなたとそなたの父親に対し、法律で罰せよという訴状が出ている。よって学園側はアレッサンドロ殿下とブーレットを退学処分にすると決定した」
学園長の声が、会場に響き渡った。
38
お気に入りに追加
3,195
あなたにおすすめの小説

【完結】幼い頃から婚約を誓っていた伯爵に婚約破棄されましたが、数年後に驚くべき事実が発覚したので会いに行こうと思います
菊池 快晴
恋愛
令嬢メアリーは、幼い頃から将来を誓い合ったゼイン伯爵に婚約破棄される。
その隣には見知らぬ女性が立っていた。
二人は傍から見ても仲睦まじいカップルだった。
両家の挨拶を終えて、幸せな結婚前パーティで、その出来事は起こった。
メアリーは彼との出会いを思い返しながら打ちひしがれる。
数年後、心の傷がようやく癒えた頃、メアリーの前に、謎の女性が現れる。
彼女の口から発せられた言葉は、ゼインのとんでもない事実だった――。
※ハッピーエンド&純愛
他サイトでも掲載しております。

魅了が解けた貴男から私へ
砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。
彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。
そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。
しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。
男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。
元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。
しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。
三話完結です。

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。
だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。
その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

当て馬令息の婚約者になったので美味しいお菓子を食べながら聖女との恋を応援しようと思います!
朱音ゆうひ
恋愛
「わたくし、当て馬令息の婚約者では?」
伯爵令嬢コーデリアは家同士が決めた婚約者ジャスティンと出会った瞬間、前世の記憶を思い出した。
ここは小説に出てくる世界で、当て馬令息ジャスティンは聖女に片思いするキャラ。婚約者に遠慮してアプローチできないまま失恋する優しいお兄様系キャラで、前世での推しだったのだ。
「わたくし、ジャスティン様の恋を応援しますわ」
推しの幸せが自分の幸せ! あとお菓子が美味しい!
特に小説では出番がなく悪役令嬢でもなんでもない脇役以前のモブキャラ(?)コーデリアは、全力でジャスティンを応援することにした!
※ゆるゆるほんわかハートフルラブコメ。
サブキャラに軽く百合カップルが出てきたりします
他サイトにも掲載しています( https://ncode.syosetu.com/n5753hy/ )

【完結】家族にサヨナラ。皆様ゴキゲンヨウ。
くま
恋愛
「すまない、アデライトを愛してしまった」
「ソフィア、私の事許してくれるわよね?」
いきなり婚約破棄をする婚約者と、それが当たり前だと言い張る姉。そしてその事を家族は姉達を責めない。
「病弱なアデライトに譲ってあげなさい」と……
私は昔から家族からは二番目扱いをされていた。いや、二番目どころでもなかった。私だって、兄や姉、妹達のように愛されたかった……だけど、いつも優先されるのは他のキョウダイばかり……我慢ばかりの毎日。
「マカロン家の長男であり次期当主のジェイコブをきちんと、敬い立てなさい」
「はい、お父様、お母様」
「長女のアデライトは体が弱いのですよ。ソフィア、貴女がきちんと長女の代わりに動くのですよ」
「……はい」
「妹のアメリーはまだ幼い。お前は我慢しなさい。下の子を面倒見るのは当然なのだから」
「はい、わかりました」
パーティー、私の誕生日、どれも私だけのなんてなかった。親はいつも私以外のキョウダイばかり、
兄も姉や妹ばかり構ってばかり。姉は病弱だからと言い私に八つ当たりするばかり。妹は我儘放題。
誰も私の言葉を聞いてくれない。
誰も私を見てくれない。
そして婚約者だったオスカー様もその一人だ。病弱な姉を守ってあげたいと婚約破棄してすぐに姉と婚約をした。家族は姉を祝福していた。私に一言も…慰めもせず。
ある日、熱にうなされ誰もお見舞いにきてくれなかった時、前世を思い出す。前世の私は家族と仲良くもしており、色々と明るい性格の持ち主さん。
「……なんか、馬鹿みたいだわ!」
もう、我慢もやめよう!家族の前で良い子になるのはもうやめる!
ふるゆわ設定です。
※家族という呪縛から解き放たれ自分自身を見つめ、好きな事を見つけだすソフィアを応援して下さい!
※ざまあ話とか読むのは好きだけど書くとなると難しいので…読者様が望むような結末に納得いかないかもしれません。🙇♀️でも頑張るます。それでもよければ、どうぞ!
追加文
番外編も現在進行中です。こちらはまた別な主人公です。
そんなに妹が好きなら死んであげます。
克全
恋愛
「アルファポリス」「カクヨム」「小説家になろう」に同時投稿しています。
『思い詰めて毒を飲んだら周りが動き出しました』
フィアル公爵家の長女オードリーは、父や母、弟や妹に苛め抜かれていた。
それどころか婚約者であるはずのジェイムズ第一王子や国王王妃にも邪魔者扱いにされていた。
そもそもオードリーはフィアル公爵家の娘ではない。
イルフランド王国を救った大恩人、大賢者ルーパスの娘だ。
異世界に逃げた大魔王を追って勇者と共にこの世界を去った大賢者ルーパス。
何の音沙汰もない勇者達が死んだと思った王達は……

【完結】義妹とやらが現れましたが認めません。〜断罪劇の次世代たち〜
福田 杜季
ファンタジー
侯爵令嬢のセシリアのもとに、ある日突然、義妹だという少女が現れた。
彼女はメリル。父親の友人であった彼女の父が不幸に見舞われ、親族に虐げられていたところを父が引き取ったらしい。
だがこの女、セシリアの父に欲しいものを買わせまくったり、人の婚約者に媚を打ったり、夜会で非常識な言動をくり返して顰蹙を買ったりと、どうしようもない。
「お義姉さま!」 . .
「姉などと呼ばないでください、メリルさん」
しかし、今はまだ辛抱のとき。
セシリアは来たるべき時へ向け、画策する。
──これは、20年前の断罪劇の続き。
喜劇がくり返されたとき、いま一度鉄槌は振り下ろされるのだ。
※ご指摘を受けて題名を変更しました。作者の見通しが甘くてご迷惑をおかけいたします。
旧題『義妹ができましたが大嫌いです。〜断罪劇の次世代たち〜』
※初投稿です。話に粗やご都合主義的な部分があるかもしれません。生あたたかい目で見守ってください。
※本編完結済みで、毎日1話ずつ投稿していきます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる