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第一章 婚約破棄と断罪
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「特に恨みはありません。でも、冤罪を見過ごせなかっただけです」
「冤罪?」
「そうです」
パチンとベルテが指を鳴らすと、会場の照明が薄暗くなった。
そして舞台上にスクリーンが降りてきて、映像が流れ出した。
場所は池。それが学園内にある生徒達の憩いになっている庭だと、ここにいる誰もが知っている場所だ。
ポチャン、ポチャンと、その池に何かを投げ入れている人物が映る。学園の制服を着たその女性はカトリーヌだ。
そして投げ終わると、スカートの裾をたくし上げて靴と靴下を脱いで、今さっき放り投げた物を拾うために池に足を踏み入れた。
「う、嘘よ。ねつ造よ! こんなの止めて!」
カトリーヌがベルテに叫んだ。
『カトリーヌ、何をしているんだ。それはどうした?』
映像の中から声が聞こえてきた。映り込んでいるのはアレッサンドロだ。
『誰かが私の私物を池に・・グス』
映像の中のカトリーヌはそうアレッサンドロに訴える。
「これは・・」
シャンティエが呟く。
「池に私物を放り込んだのは、彼女自身?」
「自作自演か」
「それをシャンティエ嬢のせいに?」
周りからそんな囁きが聞こえてくる。
「カトリーヌ、どういうことだ」
「ち、違うわ」
アレッサンドロの問いかけに、カトリーヌが必死で否定する。
『本当にいいの?』
『ええ』
場面が変わり、カトリーヌが他の女生徒と一緒に居る映像が現われた。
場所は学園内の階段上。
『その代わり、誰にも内緒にしてね』
『わかっているわ。あなたも約束して』
『ええ。私が王太子妃になったら、あなたにもいい相手を見つけてあげるわ』
そして次の瞬間、女生徒はカトリーヌを一二の三で軽く突き飛ばした。
会場が一斉にざわついた。
「わざと?」
「それをシャンティエ嬢のせいに?」
周りからまたもや囁きが聞こえる。
「カトリーヌ、どういうことだ?」
「違うわ! そんなの嘘よ。でっちあげよ!」
さらに詰問するアレッサンドロに、カトリーヌはその場に座り込んだ。
「ベルテ、これは何だ?」
「これは私がここ数ヶ月カトリーヌ嬢を見張って撮影したものです」
それから場面はまた変わる。
『わかっているだろ? 早く言われたとおりにしろ』
『も、もう許してください』
今度映像に映し出されたのは、アレッサンドロと男子生徒だった。少し離れた所にカトリーヌも映っている。
壁を背にして立つ男子生徒に、アレッサンドロが壁に手を突いて迫っている。
『そんなこと言っていいのか。お前の父親は宮廷勤めの騎士だろ。私のひとことで、地方勤務にもできるんだぞ』
『そ、それだけは殿下、おやめください』
『わかったなら、これ、明日までにやっておけ』
何か封筒に入った物をアレッサンドロが男子生徒に渡した。
『あ、明日! そんな、無理です』
『わかっているだろ、ホレイショー先生は期限にうるさんだ。明日までにこの論文を出さないと、私はC評価になる。わかったら言われたとおりにしろ』
アレッサンドロは封筒を男子生徒の胸に押しつけた。
『アレッサンドロ様、もうよろしいのですか?』
男子生徒に背を向けたアレッサンドロの腕に、カトリーヌがしがみつく。
『ああ、待たせたな。課題は彼に押しつけた。さあ、生徒会室でお茶でも飲もう。おいしいケーキをいただいたんだ』
『嬉しい。あ、そう言えば、この前素敵なドレスを見つけたんです。今度開かれる生徒会主催のパーティで着られたらいいな』
『カトリーヌは何を着ても似合うが、そんなにそのドレスが気に入ったなら、私が買ってやろう』
『うれしい! あ、だったら一緒にそのドレスに合わせてネックレスも買わないと・・』
『宝石も・・しかしそれは・・私はまだ学生で私が自由に出来るお金にも限りがある。すでに今月支給された分は殆ど使ってしまった。来月にならないと無理だ』
どうやら王太子と言えど、学生の間は小遣い制らしい。カトリーヌのおねだりにアレッサンドロは難色を示した。
『そうですよね。私の家はそれほど裕福ではないので、父達は母のお下がりを身につけろって言うんです。でも、それだとアレッサンドロ様の隣にいるのは似つかわしくありませんわ』
今にも泣きそうな声でカトリーヌが呟いた。
『何を言う。私の隣にいて相応しいのはカトリーヌだ』
『シャンティエ嬢ではなく?』
『当たり前だ。あんな気取った女は、いくら美人でもこっちが萎える。女は昼は淑女、夜は娼婦がいいに決まっている』
画面ではアレッサンドロがカトリーヌの胸を触っている。
『もう、アレッサンドロ様ったら。ネックレスは買ってくれると言うまでお預けですわ』
その手をカトリーヌが軽く叩く。
『わかったよ。お金は何とかする』
『本当ですか!』
『ああ、生徒会主催のパーティー費用をいつものように拝借すれば何とかなるさ』
『うれしい』
映像はそこで途切れた。
「え、どういうこと?」
「殿下はカトリーヌ嬢と?」
「それより、パーティの費用から拝借って・・」
「横領?」
ヒソヒソと今の映像を見た者達から囁き声が聞こえる。
「な、なんだこれは。ベルテ! どういうことだ」
振り返ったアレッサンドロが、唇を震わせながらベルテを振り返る。
それに対してベルテはすっと肩をすくめた。
「カトリーヌ嬢を撮ろうとしたのですが、偶然兄上が映ってしまったようですね」
にこりとベルテは微笑んだ。
「冤罪?」
「そうです」
パチンとベルテが指を鳴らすと、会場の照明が薄暗くなった。
そして舞台上にスクリーンが降りてきて、映像が流れ出した。
場所は池。それが学園内にある生徒達の憩いになっている庭だと、ここにいる誰もが知っている場所だ。
ポチャン、ポチャンと、その池に何かを投げ入れている人物が映る。学園の制服を着たその女性はカトリーヌだ。
そして投げ終わると、スカートの裾をたくし上げて靴と靴下を脱いで、今さっき放り投げた物を拾うために池に足を踏み入れた。
「う、嘘よ。ねつ造よ! こんなの止めて!」
カトリーヌがベルテに叫んだ。
『カトリーヌ、何をしているんだ。それはどうした?』
映像の中から声が聞こえてきた。映り込んでいるのはアレッサンドロだ。
『誰かが私の私物を池に・・グス』
映像の中のカトリーヌはそうアレッサンドロに訴える。
「これは・・」
シャンティエが呟く。
「池に私物を放り込んだのは、彼女自身?」
「自作自演か」
「それをシャンティエ嬢のせいに?」
周りからそんな囁きが聞こえてくる。
「カトリーヌ、どういうことだ」
「ち、違うわ」
アレッサンドロの問いかけに、カトリーヌが必死で否定する。
『本当にいいの?』
『ええ』
場面が変わり、カトリーヌが他の女生徒と一緒に居る映像が現われた。
場所は学園内の階段上。
『その代わり、誰にも内緒にしてね』
『わかっているわ。あなたも約束して』
『ええ。私が王太子妃になったら、あなたにもいい相手を見つけてあげるわ』
そして次の瞬間、女生徒はカトリーヌを一二の三で軽く突き飛ばした。
会場が一斉にざわついた。
「わざと?」
「それをシャンティエ嬢のせいに?」
周りからまたもや囁きが聞こえる。
「カトリーヌ、どういうことだ?」
「違うわ! そんなの嘘よ。でっちあげよ!」
さらに詰問するアレッサンドロに、カトリーヌはその場に座り込んだ。
「ベルテ、これは何だ?」
「これは私がここ数ヶ月カトリーヌ嬢を見張って撮影したものです」
それから場面はまた変わる。
『わかっているだろ? 早く言われたとおりにしろ』
『も、もう許してください』
今度映像に映し出されたのは、アレッサンドロと男子生徒だった。少し離れた所にカトリーヌも映っている。
壁を背にして立つ男子生徒に、アレッサンドロが壁に手を突いて迫っている。
『そんなこと言っていいのか。お前の父親は宮廷勤めの騎士だろ。私のひとことで、地方勤務にもできるんだぞ』
『そ、それだけは殿下、おやめください』
『わかったなら、これ、明日までにやっておけ』
何か封筒に入った物をアレッサンドロが男子生徒に渡した。
『あ、明日! そんな、無理です』
『わかっているだろ、ホレイショー先生は期限にうるさんだ。明日までにこの論文を出さないと、私はC評価になる。わかったら言われたとおりにしろ』
アレッサンドロは封筒を男子生徒の胸に押しつけた。
『アレッサンドロ様、もうよろしいのですか?』
男子生徒に背を向けたアレッサンドロの腕に、カトリーヌがしがみつく。
『ああ、待たせたな。課題は彼に押しつけた。さあ、生徒会室でお茶でも飲もう。おいしいケーキをいただいたんだ』
『嬉しい。あ、そう言えば、この前素敵なドレスを見つけたんです。今度開かれる生徒会主催のパーティで着られたらいいな』
『カトリーヌは何を着ても似合うが、そんなにそのドレスが気に入ったなら、私が買ってやろう』
『うれしい! あ、だったら一緒にそのドレスに合わせてネックレスも買わないと・・』
『宝石も・・しかしそれは・・私はまだ学生で私が自由に出来るお金にも限りがある。すでに今月支給された分は殆ど使ってしまった。来月にならないと無理だ』
どうやら王太子と言えど、学生の間は小遣い制らしい。カトリーヌのおねだりにアレッサンドロは難色を示した。
『そうですよね。私の家はそれほど裕福ではないので、父達は母のお下がりを身につけろって言うんです。でも、それだとアレッサンドロ様の隣にいるのは似つかわしくありませんわ』
今にも泣きそうな声でカトリーヌが呟いた。
『何を言う。私の隣にいて相応しいのはカトリーヌだ』
『シャンティエ嬢ではなく?』
『当たり前だ。あんな気取った女は、いくら美人でもこっちが萎える。女は昼は淑女、夜は娼婦がいいに決まっている』
画面ではアレッサンドロがカトリーヌの胸を触っている。
『もう、アレッサンドロ様ったら。ネックレスは買ってくれると言うまでお預けですわ』
その手をカトリーヌが軽く叩く。
『わかったよ。お金は何とかする』
『本当ですか!』
『ああ、生徒会主催のパーティー費用をいつものように拝借すれば何とかなるさ』
『うれしい』
映像はそこで途切れた。
「え、どういうこと?」
「殿下はカトリーヌ嬢と?」
「それより、パーティの費用から拝借って・・」
「横領?」
ヒソヒソと今の映像を見た者達から囁き声が聞こえる。
「な、なんだこれは。ベルテ! どういうことだ」
振り返ったアレッサンドロが、唇を震わせながらベルテを振り返る。
それに対してベルテはすっと肩をすくめた。
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にこりとベルテは微笑んだ。
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