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第二章 イルジャの秘密

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 追い払われるようにして、アルブはその場を離れた。
 神殿警備の若者に突き飛ばされたことは、アルブには些細なことだった。
 それより彼から聞かされたことが不可解だった。
 
「言われてみたら、巡礼が来たのは見ていない」

 それぞれの国事情で、多少前後することはあるが、巡礼の一団は殆どの国が一年に一回、ほぼ同時期にやってくる。
 神殿にはいつ訪れるかの連絡は来るが、アルブはもちろんそれを知る手立てはない。
 だから一年前の出会いから、またイルジャに会えないだろうかと、巡礼が来るたびにシャムダルからではないかと気にしていた。
 しかし毎日ギネシュにやってくるわけでもないため、見落としたのかとも思っていた。
 怪我をしたイルジャを見て驚き、そんなことを考える余裕がなかったが、警備の男の言うことが本当だとしたら、イルジャは単身でやってきたということだろうか。
 自分が誰かも覚えていないイルジャに、今そのことを聞いてもわからないと言うだろう。
 それに、個人でやって来る者もいるのだから、単身で来たとしても何ら不思議ではない。
 てっきり去年のように、シャムダルの巡礼団で来たと、勝手にアルブが思っただけだ。
 
「でも、一人で来たのだったら、イルジャの国の人は誰もいないってこと?」

 もし一人でやってきたということなら、彼を知っている人が見つかる可能性は低い。

「それじゃあ、ここに来た意味が…」

 シャムダル国の人がいないなら、イルジャは暫くは行く宛もなく、自分の所にいるしかない。
 そう思うと、どこかホッとしてしまった。

「だ、だめ…イルジャは記憶がないんだから、きっと自分のことを知る人間が誰もいないとなったら、がっかりするだろうな」

 慌ててアルブは自分の考えを打ち消す。
 きっとアルブが神殿を訪れ、彼のことを知るシャムダル国の人を見つけて連れてくることを、期待している筈だ。
 それが違ったと知ったら、イルジャはどんなにがっかりするだろう。
 それなのに人の不幸を喜んだりして、自分はなんて自分勝手なのかと、アルブは自分自身を戒めた。


「…というわけなんだ」
「そうか。仕方がないな」

 家に戻ったアルブがシャムダルの一行が来るのは一ヶ月後だと告げると、イルジャはそう言った。
 思ったより冷静な様子を見て、それがやせ我慢かも知れないと不安に思った。

「イルジャ、大丈夫?」
「慰めてくれるのか、アルブは優しいな」

 相変わらず飄々とした様子に、アルブのほうが泣きそうな顔になる。

「だって…」
「一ヶ月後には来るんだ。それまではアルブと一緒にいられる」
 
 シャムダルの一行が一ヶ月後にしか来ないと聞いて、アルブも同じことを思った。イルジャもそう思ってくれたことに、喜びを感じる。
 でも、これ以上一緒にいたら、イルジャと別れる時が来たら、きっと離れがたく思うだろう。
 
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