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8 第一王子アシェル
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第一王子アシェル殿下はアディーナの一歳年上である。
アディーナはもちろん直に会ったことはないが、その魔力量の多さは噂になっていた。
アディーナの魔力鑑定の一年前に彼の鑑定の儀式があったが、そのあまりの魔力量の多さに神殿の一部が吹き飛んだ。
そして年々増大する魔力を押さえるため、体のあちこちに魔力封じの魔道具を身に付けている。
『両耳にそれぞれ五つ。両手の指の一本一本に2つずつ、両手首と両足首、それとチョーカー。今回は指輪のひとつが壊れたので、新しく作って欲しいと頼まれました』
「なんでそんな……不公平だね」
押さえ込まなければならないほどの魔力。自分には一片もない。ほんの少しでもあれば、自分の人生は違っていたと思う。
たとえ黒髪黒目でも、少しの魔力があれば……
『アディーナ……ごめんなさい。私がそんな風にあなたを……』
普段明るく振る舞っている娘の気持ちを聞いて母が自分のせいだと責める。
「お母様のせいじゃない。そんな風に思われるから今まで言えなかった……でもその代わりこうして死んだ人と話せる力があるから……私を生んで亡くなったお母様とも、私が生まれる前に亡くなっていたお祖父様とも話せるから……」
『ほんに、良い子じゃ……あのぼんくら息子にはもったいないほど良く出来た娘じゃ』
祖父は子育てに失敗したと嘆き続けている。
何をしても飽き性で堪えがない。なのに自分を正当化し取り繕う才には長けていた。
『お嬢さんは立派ですよ。本宅のお嬢さんなんてお嬢さんの足元にも及ばない』
『同じ孫だがあの子は本当に困った子だな……少しの魔力で何でも出きると思っておる。勉強もろくにせんと、金遣いばかり粗い。両親の悪いところを引き継いでおる』
シャンティエはもうすぐデビューだが、なかなかドレスも気に入らず、仕立て屋はしょっちゅう出入りしている。
「それで、その魔道具は、どうしてもアシェル殿下に渡さなくてはならないの?別に指輪のひとつくらい」
『いいえ、今は試作品のひとつをお渡ししていますが、いつまでもつか……封じきれない魔力が暴走して他人に危害を与えるかもしれません。既に殿下の魔力に当てられた者が何人かいて、王室は頭を抱えていると聞きます』
「ないのも困るけど、有りすぎても大変なんだ。でも、今回は何とかなってもこれからその殿下の魔道具が壊れたら誰が直すの?」
『私には優秀な弟子がおります。少々変わり者ですが、技術は間違いありません。ですが、殿下の魔力封じの魔道具を作るのに最低でも数ヶ月はかかります。今から取りかかっても間に合わないでしょう』
アディーナは暫く考え込んだ。
盗まれた指輪を取り戻せれば、その弟子に指輪を渡せば何とかなるだろう。
「わかった。指輪は取り戻す。でも、王宮にいる王子に渡すのは無理。あなたの弟子から渡してもらうわ。それでいい?」
『…はい。致し方ありません』
「なら、引き受けるわ。その代わり条件があるよ」
アディーナは引き受ける代わりに時々報酬を要求する。お金がない人からはもらわないが、王子の魔力封じの道具作製を任される位の人物なら、それなりに貰えると踏んだ。
『お金を取るんですか?』
「当たり前です。こっちも生きて行かなくちゃいけないんだから。有るところからは頂くことにしています」
『しっかりしたお嬢様ですね』
『ワシの教育の賜物だ』
ハニエルがどや顔で言った。
「お金はいいから、あなたの作った魔道具で魔力防御できるものはある?」
アディーナは、彼が魔道具師と聞いてからそのことを考えていた。王子の魔力を封じる程の魔道具を作るなら、魔力防御の道具もそこそこいいものを作れるのではないか。
『魔力防御の道具ですか……いくつか腕輪がありますが、そういったものは例の弟子が得意なので、よければその弟子に無償で作らせましょう』
「え、私専用につくってくれるの?」
『ええ……ですが、どのように伝えれば』
「それは大丈夫。その弟子の人宛に手紙を書くから。字は書ける?」
『はい。書けますが』
アディーナは紙とペンを持ってきて机に座った。
「えっと、じゃあ私の手に手を添える感じで出して貰える?」
『こうですか?』
「うん、そう……」
ハンスの霊がアディーナのペンを持つ手に触れると、すっと彼女の手の甲に溶け込んだ。
『え……』
「そのまま、手を動かして」
『はい』
彼が手を動かすと、それに合わせてアディーナの手も動く。
あっという間に彼の筆跡で書かれた手紙が書き上がった。
『すごい……こんなことができるなんて』
出来上がった手紙を彼はまじまじと眺めた。
「それで、殺した相手は?」
『同じ職人街に住んでいるジャクソンという人物です。かつて同じ師匠に師事しておりましたが、今は独立して別々の工房を営んでおります』
「そう……今からだと夜明けまでに帰ってくるのは難しいわね。明日でもいいかしら。もちろんあなたもついてくるのよ」
「ありがとうございます」
「お礼は成功してからね」
アディーナはもちろん直に会ったことはないが、その魔力量の多さは噂になっていた。
アディーナの魔力鑑定の一年前に彼の鑑定の儀式があったが、そのあまりの魔力量の多さに神殿の一部が吹き飛んだ。
そして年々増大する魔力を押さえるため、体のあちこちに魔力封じの魔道具を身に付けている。
『両耳にそれぞれ五つ。両手の指の一本一本に2つずつ、両手首と両足首、それとチョーカー。今回は指輪のひとつが壊れたので、新しく作って欲しいと頼まれました』
「なんでそんな……不公平だね」
押さえ込まなければならないほどの魔力。自分には一片もない。ほんの少しでもあれば、自分の人生は違っていたと思う。
たとえ黒髪黒目でも、少しの魔力があれば……
『アディーナ……ごめんなさい。私がそんな風にあなたを……』
普段明るく振る舞っている娘の気持ちを聞いて母が自分のせいだと責める。
「お母様のせいじゃない。そんな風に思われるから今まで言えなかった……でもその代わりこうして死んだ人と話せる力があるから……私を生んで亡くなったお母様とも、私が生まれる前に亡くなっていたお祖父様とも話せるから……」
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祖父は子育てに失敗したと嘆き続けている。
何をしても飽き性で堪えがない。なのに自分を正当化し取り繕う才には長けていた。
『お嬢さんは立派ですよ。本宅のお嬢さんなんてお嬢さんの足元にも及ばない』
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「それで、その魔道具は、どうしてもアシェル殿下に渡さなくてはならないの?別に指輪のひとつくらい」
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「わかった。指輪は取り戻す。でも、王宮にいる王子に渡すのは無理。あなたの弟子から渡してもらうわ。それでいい?」
『…はい。致し方ありません』
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『ワシの教育の賜物だ』
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アディーナは、彼が魔道具師と聞いてからそのことを考えていた。王子の魔力を封じる程の魔道具を作るなら、魔力防御の道具もそこそこいいものを作れるのではないか。
『魔力防御の道具ですか……いくつか腕輪がありますが、そういったものは例の弟子が得意なので、よければその弟子に無償で作らせましょう』
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『ええ……ですが、どのように伝えれば』
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『はい。書けますが』
アディーナは紙とペンを持ってきて机に座った。
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