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第七章
③
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ルウとポチタマがこちらを見る。
「ルウもポチタマも、私のことを大事に思ってくれているのはわかるし、その気持ちはうれしいけど、出来れば仲良くしてくれると嬉しいな」
「デルフィーヌ」
『デルフィーヌ』
ルウとポチタマは、私から互いに視線を移す。
「それとも、私のお願いは聞いてもらえない?」
「そんなことはない!」
『デルフィーヌの言う事なら何でもきくよ!』
「そう? ありがとう」
二人を引き寄せ、ルウの頬とポチタマの額に交互にキスを落とす。
「わ、魔性の女だね。勇者とドラゴンを手懐けてる」
「うるさい、バッカス」
バッカスの軽口に、ルウが鋭い視線を向ける。
「はいはい、それじゃあ、そのドラゴンの従魔登録も、さっさと済ませようか」
「よろしくお願いします」
「ようやくギルド長らしいことを言ったな」
「ぬかせ。どうせ俺は勇者パーティーだったという肩書きで抜擢されたお飾りだが、これでも意外と有能だと評判いいんだぞ」
「そうなんですか?」
ルウと一緒にいたから、彼が冒険者ギルド長になったのだとは知らなかった。
「意外と」という評価は何だか気の毒に思える。
「そんな目で見るな」
「あ、すみません」
思わず気の毒なものを見る目で見てしまった。
「そんなことはない。広告塔なのはオレの方だ。バッカスは正真正銘、実力のある冒険者で、頼りになる男だ。ただ、同じ実力なら少しでも有名な方が目立つだろう?」
「ありがとうよ。お前にそう言ってもらうと、心強い」
ルウの評価にバッカスがデレる。
「ルウが、広告塔?」
「この国から勇者が生まれ、暗黒竜の脅威から守る。それで国は国民の支持を得、また他国に対しても勇者のいる国としての威厳が保てる。他国との交渉において、発言力が増す」
「それって…」
虎の威を借る何たらじゃないのか、という言葉を飲み込んだ。
「姉ちゃんの言いたいことはわかる。それに、国は…いや、王室はもっと確実に勇者を取り込もうとしているんだ」
「え、どういうことですか?」
「バッカス、そのことはいい」
ルウがバッカスの言葉を遮る。
「しかしだな…」
「さっさとこいつ、ポチタマの登録を済ませろ」
「はいはい」
ルウは「こいつ」と言いかけて、ポチタマのことをきちんと名前で呼んだ。ちゃんとポチタマのことを認めてくれているのだとわかる。
バッカスは肩をすくめてから、自分の机に歩いていき鍵の掛かった引出から一枚の羊皮紙を取り出した。
それを机の上に置き、更に同じ引出からインク壺と羽根ペンを取り出す。
「これにテイマーの名前と登録する従魔の種類と名前を書いてくれ」
「わかりました」
羽根ペンを受け取り、インク壺に差し込むと、中のインクが光った。
重要な契約なども、改ざん防止の呪文の掛かった羊皮紙と羽根ペン等で書かれる。しかも、契約が済むと、互いに縛られ、契約違反やお互いの話し合いも合意も得られない契約破棄をしようものなら、違反した方に呪いがかかる。
契約の相手方の了承を得ることが、呪いを解く鍵だ。でないと、呪いに蝕まれて運が悪ければ死に至る。従魔契約も同じ理屈だ。
「えっと、一応確認するけど本当にいいの? もう契約しているけど、ここに名前を書いちゃうと、ポチタマは私に縛られてしまうわよ?」
契約をしたとは言え、私とポチタマは今はまだあくまでも非公式の契約で、ここに名前を書くと、ポチタマは本当に私の従魔となる。
『いいよ。ボクはどんな関係でもデルフィーヌと一緒にいられるなら』
「どうして、そこまで思ってくれるの?」
ポチタマが慕ってくれるのはうれしいが、そこまで私と一緒にいたいと思ってくれる理由がわからない。私はポチタマに何もしてあげていない。
『だって、ボクが卵から出られなくて苦しんでいた時に、デルフィーヌはボクを助けてくれた。あのままだったら、ボクはずっと殻から出られなくて弱って死んでいた。デルフィーヌは命の恩人だ』
「助けたって・・たまたま通りかかっただけで。私をあそこに連れてきてくれたのはルウだったし」
『でも、ボクの声を聞いて来てくれたのはデルフィーヌだ』
「デルフィーヌ、ポチタマは何て言っているんだ?」
やっぱり話が通じているようでいて、ルウにはポチタマの言っていることはわからないらしい。
私がポチタマとの会話の内容を伝えると、「そうだな」とルウは頷いた。
「オレにはドラゴンの声は聞こえなかった。聞こえるデルフィーヌがいなかったら、いつまでもあのままだっただろう」
「なあ、ちょっと疑問に思ったんだけど」
バッカスが私達の会話に割って入ってきた。
「ルウもポチタマも、私のことを大事に思ってくれているのはわかるし、その気持ちはうれしいけど、出来れば仲良くしてくれると嬉しいな」
「デルフィーヌ」
『デルフィーヌ』
ルウとポチタマは、私から互いに視線を移す。
「それとも、私のお願いは聞いてもらえない?」
「そんなことはない!」
『デルフィーヌの言う事なら何でもきくよ!』
「そう? ありがとう」
二人を引き寄せ、ルウの頬とポチタマの額に交互にキスを落とす。
「わ、魔性の女だね。勇者とドラゴンを手懐けてる」
「うるさい、バッカス」
バッカスの軽口に、ルウが鋭い視線を向ける。
「はいはい、それじゃあ、そのドラゴンの従魔登録も、さっさと済ませようか」
「よろしくお願いします」
「ようやくギルド長らしいことを言ったな」
「ぬかせ。どうせ俺は勇者パーティーだったという肩書きで抜擢されたお飾りだが、これでも意外と有能だと評判いいんだぞ」
「そうなんですか?」
ルウと一緒にいたから、彼が冒険者ギルド長になったのだとは知らなかった。
「意外と」という評価は何だか気の毒に思える。
「そんな目で見るな」
「あ、すみません」
思わず気の毒なものを見る目で見てしまった。
「そんなことはない。広告塔なのはオレの方だ。バッカスは正真正銘、実力のある冒険者で、頼りになる男だ。ただ、同じ実力なら少しでも有名な方が目立つだろう?」
「ありがとうよ。お前にそう言ってもらうと、心強い」
ルウの評価にバッカスがデレる。
「ルウが、広告塔?」
「この国から勇者が生まれ、暗黒竜の脅威から守る。それで国は国民の支持を得、また他国に対しても勇者のいる国としての威厳が保てる。他国との交渉において、発言力が増す」
「それって…」
虎の威を借る何たらじゃないのか、という言葉を飲み込んだ。
「姉ちゃんの言いたいことはわかる。それに、国は…いや、王室はもっと確実に勇者を取り込もうとしているんだ」
「え、どういうことですか?」
「バッカス、そのことはいい」
ルウがバッカスの言葉を遮る。
「しかしだな…」
「さっさとこいつ、ポチタマの登録を済ませろ」
「はいはい」
ルウは「こいつ」と言いかけて、ポチタマのことをきちんと名前で呼んだ。ちゃんとポチタマのことを認めてくれているのだとわかる。
バッカスは肩をすくめてから、自分の机に歩いていき鍵の掛かった引出から一枚の羊皮紙を取り出した。
それを机の上に置き、更に同じ引出からインク壺と羽根ペンを取り出す。
「これにテイマーの名前と登録する従魔の種類と名前を書いてくれ」
「わかりました」
羽根ペンを受け取り、インク壺に差し込むと、中のインクが光った。
重要な契約なども、改ざん防止の呪文の掛かった羊皮紙と羽根ペン等で書かれる。しかも、契約が済むと、互いに縛られ、契約違反やお互いの話し合いも合意も得られない契約破棄をしようものなら、違反した方に呪いがかかる。
契約の相手方の了承を得ることが、呪いを解く鍵だ。でないと、呪いに蝕まれて運が悪ければ死に至る。従魔契約も同じ理屈だ。
「えっと、一応確認するけど本当にいいの? もう契約しているけど、ここに名前を書いちゃうと、ポチタマは私に縛られてしまうわよ?」
契約をしたとは言え、私とポチタマは今はまだあくまでも非公式の契約で、ここに名前を書くと、ポチタマは本当に私の従魔となる。
『いいよ。ボクはどんな関係でもデルフィーヌと一緒にいられるなら』
「どうして、そこまで思ってくれるの?」
ポチタマが慕ってくれるのはうれしいが、そこまで私と一緒にいたいと思ってくれる理由がわからない。私はポチタマに何もしてあげていない。
『だって、ボクが卵から出られなくて苦しんでいた時に、デルフィーヌはボクを助けてくれた。あのままだったら、ボクはずっと殻から出られなくて弱って死んでいた。デルフィーヌは命の恩人だ』
「助けたって・・たまたま通りかかっただけで。私をあそこに連れてきてくれたのはルウだったし」
『でも、ボクの声を聞いて来てくれたのはデルフィーヌだ』
「デルフィーヌ、ポチタマは何て言っているんだ?」
やっぱり話が通じているようでいて、ルウにはポチタマの言っていることはわからないらしい。
私がポチタマとの会話の内容を伝えると、「そうだな」とルウは頷いた。
「オレにはドラゴンの声は聞こえなかった。聞こえるデルフィーヌがいなかったら、いつまでもあのままだっただろう」
「なあ、ちょっと疑問に思ったんだけど」
バッカスが私達の会話に割って入ってきた。
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