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第六章
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ルウが私のことを姉ではなく、将来の伴侶だと告げると、バッカスはまたもや驚いていた。
「なるほど…だからか」
そして何か納得したように頷く。
「てっきり女嫌いなのかと思っていた。でも、ベネデッタたちとか、おばちゃんたちとか子供にも普通に接していたし、生理的に受け付けないとか、そんな部類なんだなと、勝手に結論付けてたけど。そうか。まあ、心に決めた相手がいたってことか」
ルウのこれまでの態度について、彼なりに色々考察していたようだ。
「こういう面構えだし、勇者だからな。旅先でもそういう誘惑はあった。娼館にもただで接待するとか、提案されたしな。あわよくば勇者に見初められたり、子種を頂戴しようってな」
あからさまな言い方だった。私が視線を向けると、ルウは首がもぎれるかと思うくらい、力強く左右に振った。
「行ってないし、手も出していない。勝手にお仕掛けてきても、追い出した」
「それは俺も保証する。どんな色っぽい誘いも断ってたから、あっちかと、男娼まで用意されていたからな。姉ちゃん一筋だったってわけだ」
「デルフィーヌを裏切ることはしていない。天地神明に誓って。前から言ってるだろ、信じてなかったの?」
確かに誘惑されても、拒否してきたとは言っていた。
こうやって第三者からも話を聞くと、信じるしかない。
「信じてなかったわけじゃないけど、そうなんだ…」
照れて赤面する。
旅の間も、ずっと私のことを想い続けてくれていたこと、そして身を持ってそれを体現してくれていたことに、胸が熱くなった。
前世でも、ここまで思われたことはなかった。
「仲間内でも話題になったからな。ルドウィックを落とすのは誰かって。まあ、とっくに落ちてたわけだ。他の奴らが聞いたら驚くぞ」
「ベネデッタとメーデは知ってる」
「え、そうなのか? なんで俺には言ってくれなかったんだ」
ベネデッタとメーデとは、バッカスと同じルウのパーティー仲間のこと。
「ベネデッタたちは、そういう恋愛的な意味ではオレに興味がないからな。変にからかったりもしないし」
「すまんな」
「それは、聖女様にはルウ以外に好きな人がいるから?」
「まあ、それもそうだが…」
なぜかバッカスは言葉を躊躇う。
「会えばわかる」
「いや、事前に言っておいた方がいいだろ」
「オレとしては、デルフィーヌのことを恋愛対象として見ないとわかっている相手なら、何でもいい」
「しかし、こういうのは、種族の特徴とか、ある程度理解してからの方がいいだろ」
二人の話の中身がわからなくて、私は会話に入れずとりあえずポチタマを撫でたりしていた。
「ベネデッタのことだけど」
「うん」
「彼女、男には興味ないんだ」
「え?」
「正確に言うと、女で、しかもぽっちゃり系が好み。だからオレのことは単なる仲間としか思っていないし、メーデが彼女の性癖ど真ん中なんだ」
「え、えええ、そ、そうなの」
ルウからバッカスに視線を移すと、彼も大きく頷く。
まさかの百合展開に驚く。
国によっては同性婚もありだと聞く。でも、この国ではまだまだマイノリティーだ。
「ぽっちゃりというか、豊満というか、初めてメーデを見てから、ベネデッタはべったりだったな。最初は引いてたメーデも、いつの間にか絆されて、二人でイチャイチャするもんだから、俺たち男はやりきれなかった」
遠い目をして、バッカスは過去の日々を思い出して涙する。
「勇者パーティーだっていうことで行く先々で歓待を受けたけど、俺も嫁がいるしベネデッタたちはあんなだし、ルドウィックは冷たいし、そういう浮いた話はまったくなかった」
「オレたちは暗黒竜を討伐するという目的で、旅をしていた。宿を提供してくれたり、食事を振る舞ってもらえたのは良かったけど、それだけだ」
「これで納得したよ。姉ちゃんっこだと思ってたら、そういうことだったのか」
「見るな、デルフィーヌが減るだろ」
「減らないわよ」
もう一度まじまじとバッカスが私を見つめるのを、ルウが咎めた。
ルウが旅の間のハニートラップみたいな歓待を断っていたと聞いて、私はなんだか嬉しかった。
そこまで本気で思ってくれていたんだ。
「はいはい、しかし、そうなると、ちょっと問題だな」
不意にバッカスが真顔になる。
「あれのことか?」
「あれだよ」
あれって何だろう?
まだ私の知らないことがあるんだろうか。私は小首を傾げた。
「なるほど…だからか」
そして何か納得したように頷く。
「てっきり女嫌いなのかと思っていた。でも、ベネデッタたちとか、おばちゃんたちとか子供にも普通に接していたし、生理的に受け付けないとか、そんな部類なんだなと、勝手に結論付けてたけど。そうか。まあ、心に決めた相手がいたってことか」
ルウのこれまでの態度について、彼なりに色々考察していたようだ。
「こういう面構えだし、勇者だからな。旅先でもそういう誘惑はあった。娼館にもただで接待するとか、提案されたしな。あわよくば勇者に見初められたり、子種を頂戴しようってな」
あからさまな言い方だった。私が視線を向けると、ルウは首がもぎれるかと思うくらい、力強く左右に振った。
「行ってないし、手も出していない。勝手にお仕掛けてきても、追い出した」
「それは俺も保証する。どんな色っぽい誘いも断ってたから、あっちかと、男娼まで用意されていたからな。姉ちゃん一筋だったってわけだ」
「デルフィーヌを裏切ることはしていない。天地神明に誓って。前から言ってるだろ、信じてなかったの?」
確かに誘惑されても、拒否してきたとは言っていた。
こうやって第三者からも話を聞くと、信じるしかない。
「信じてなかったわけじゃないけど、そうなんだ…」
照れて赤面する。
旅の間も、ずっと私のことを想い続けてくれていたこと、そして身を持ってそれを体現してくれていたことに、胸が熱くなった。
前世でも、ここまで思われたことはなかった。
「仲間内でも話題になったからな。ルドウィックを落とすのは誰かって。まあ、とっくに落ちてたわけだ。他の奴らが聞いたら驚くぞ」
「ベネデッタとメーデは知ってる」
「え、そうなのか? なんで俺には言ってくれなかったんだ」
ベネデッタとメーデとは、バッカスと同じルウのパーティー仲間のこと。
「ベネデッタたちは、そういう恋愛的な意味ではオレに興味がないからな。変にからかったりもしないし」
「すまんな」
「それは、聖女様にはルウ以外に好きな人がいるから?」
「まあ、それもそうだが…」
なぜかバッカスは言葉を躊躇う。
「会えばわかる」
「いや、事前に言っておいた方がいいだろ」
「オレとしては、デルフィーヌのことを恋愛対象として見ないとわかっている相手なら、何でもいい」
「しかし、こういうのは、種族の特徴とか、ある程度理解してからの方がいいだろ」
二人の話の中身がわからなくて、私は会話に入れずとりあえずポチタマを撫でたりしていた。
「ベネデッタのことだけど」
「うん」
「彼女、男には興味ないんだ」
「え?」
「正確に言うと、女で、しかもぽっちゃり系が好み。だからオレのことは単なる仲間としか思っていないし、メーデが彼女の性癖ど真ん中なんだ」
「え、えええ、そ、そうなの」
ルウからバッカスに視線を移すと、彼も大きく頷く。
まさかの百合展開に驚く。
国によっては同性婚もありだと聞く。でも、この国ではまだまだマイノリティーだ。
「ぽっちゃりというか、豊満というか、初めてメーデを見てから、ベネデッタはべったりだったな。最初は引いてたメーデも、いつの間にか絆されて、二人でイチャイチャするもんだから、俺たち男はやりきれなかった」
遠い目をして、バッカスは過去の日々を思い出して涙する。
「勇者パーティーだっていうことで行く先々で歓待を受けたけど、俺も嫁がいるしベネデッタたちはあんなだし、ルドウィックは冷たいし、そういう浮いた話はまったくなかった」
「オレたちは暗黒竜を討伐するという目的で、旅をしていた。宿を提供してくれたり、食事を振る舞ってもらえたのは良かったけど、それだけだ」
「これで納得したよ。姉ちゃんっこだと思ってたら、そういうことだったのか」
「見るな、デルフィーヌが減るだろ」
「減らないわよ」
もう一度まじまじとバッカスが私を見つめるのを、ルウが咎めた。
ルウが旅の間のハニートラップみたいな歓待を断っていたと聞いて、私はなんだか嬉しかった。
そこまで本気で思ってくれていたんだ。
「はいはい、しかし、そうなると、ちょっと問題だな」
不意にバッカスが真顔になる。
「あれのことか?」
「あれだよ」
あれって何だろう?
まだ私の知らないことがあるんだろうか。私は小首を傾げた。
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