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第六章

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 使用人の人たちにも、すでにシルキーのことは伝わっているらしく、「ありがとうございます」と、全員に感謝された。

 謎の白い影の正体がわかっただけでなく、シルキーが家全体の清掃を賄ってくれるため、これまで手の回らなかったところに手が届くでなく、随分楽になったという。

 何気にルウがブラックな雇い主だったようだ。

「午前中、冒険者ギルドに行こう。ドラゴンのことについて、登録をしないとな。明日には義父さんたちも着くだろうし」
「わかったわ」

 二人でポチタマを連れて出かけることにした。

「でも、ルウはそのままで騒がれたりしない?」

 勇者が王都を気軽にウロウロして、騒ぎになったりしないかと心配になった。

「その点は大丈夫。ちゃんと魔法で気づかれないようにするから」

 どうやって? と言う言葉を口にする前に、ルウが魔法で軽く変装して見せた。
 髪は濃いブラウン、瞳はそのままだったが、口の周りに髭もあってがらりと印象が変わった。

「すごい」

 よく見ればルウだと分かるが、道ですれ違った位では誰だかすぐにはわからない。

「お褒めにあずかり光栄です」

 勇者になる前はこんな魔法も使えなかった。
 そう考えると、この二年半でルウは私が思っていた以上に、たくさんのことを覚え、たくさんの経験をしてきたのだとわかる。

『ボクも~』

 ポチタマもルウに負けじと、姿を現したり消えたり、大きくなったり小さくなったりを繰り返す。
 今のところ、ルウのような「変身」とはいかないが、一生懸命頑張っている姿は微笑ましい。

「ポチタマ、偉いね」

 つい母親目線になって目を細めて、褒めた。

 
 彼らと違って変装する必要のない私は、普通に外出着に着替えただけだった。
 私の荷物はまだ父様達と一緒に移動中だから、ルウが私のためにと用意してくれいたものを着るしかなかった。

 これまで袖を通したことがないような、上質な生地で作られた服がずらりと並んでいる中から、装飾は控えめなものを選んだ。
 
 ルウが買った邸は商業地区の外れにあり、そこから私達は歩いて行くことにした。
 
 王都の街並みは、ドイツのロマンチク街道を思わせる。
 石畳の敷かれた道を歩き、時折窓ガラス越しに外から中の様子を窺う。

 行き交う人も多かったが、ルウの変装が完璧らしく、誰もルウが「双剣の勇者」だとは気づかなかった。

「誰もルウのこと気づかないね」

 時折街角にある掲示板に、「勇者ルドウィックの冒険譚」と書かれた記事が貼られている。
 路地の奥で子ども達がルドウィックの真似をして、チャンバラごっこをしている場面もあった。

「この平和を、ルドウィックは守ったんだね」

 穏やかな日常、聞こえる笑い声、賑やかな王都の風景を見て、感慨深い気持ちで言った。

「デルフィーヌのいる世界を守りたかっただけだ。これはついでだ」
「だとしても、凄いことだよ」
「デルフィーヌは、この世界が好きか?」
「え、どうだろう。そんな風に考えたことないな」
 
 不意にそう尋ねられ、ちょっと考える。

 前世でも、この世界でも自分が生きている世界を、好きだと思ったことがあっただろうか。

 生きていくうえで、何事も無く平和に過ごしたいと思ったことはある。

 でもそれは、ルウの尋ねた「この世界が好きか?」の答えではない気がした。
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