58 / 63
第六章
⑧
しおりを挟む
使用人の人たちにも、すでにシルキーのことは伝わっているらしく、「ありがとうございます」と、全員に感謝された。
謎の白い影の正体がわかっただけでなく、シルキーが家全体の清掃を賄ってくれるため、これまで手の回らなかったところに手が届くでなく、随分楽になったという。
何気にルウがブラックな雇い主だったようだ。
「午前中、冒険者ギルドに行こう。ドラゴンのことについて、登録をしないとな。明日には義父さんたちも着くだろうし」
「わかったわ」
二人でポチタマを連れて出かけることにした。
「でも、ルウはそのままで騒がれたりしない?」
勇者が王都を気軽にウロウロして、騒ぎになったりしないかと心配になった。
「その点は大丈夫。ちゃんと魔法で気づかれないようにするから」
どうやって? と言う言葉を口にする前に、ルウが魔法で軽く変装して見せた。
髪は濃いブラウン、瞳はそのままだったが、口の周りに髭もあってがらりと印象が変わった。
「すごい」
よく見ればルウだと分かるが、道ですれ違った位では誰だかすぐにはわからない。
「お褒めにあずかり光栄です」
勇者になる前はこんな魔法も使えなかった。
そう考えると、この二年半でルウは私が思っていた以上に、たくさんのことを覚え、たくさんの経験をしてきたのだとわかる。
『ボクも~』
ポチタマもルウに負けじと、姿を現したり消えたり、大きくなったり小さくなったりを繰り返す。
今のところ、ルウのような「変身」とはいかないが、一生懸命頑張っている姿は微笑ましい。
「ポチタマ、偉いね」
つい母親目線になって目を細めて、褒めた。
彼らと違って変装する必要のない私は、普通に外出着に着替えただけだった。
私の荷物はまだ父様達と一緒に移動中だから、ルウが私のためにと用意してくれいたものを着るしかなかった。
これまで袖を通したことがないような、上質な生地で作られた服がずらりと並んでいる中から、装飾は控えめなものを選んだ。
ルウが買った邸は商業地区の外れにあり、そこから私達は歩いて行くことにした。
王都の街並みは、ドイツのロマンチク街道を思わせる。
石畳の敷かれた道を歩き、時折窓ガラス越しに外から中の様子を窺う。
行き交う人も多かったが、ルウの変装が完璧らしく、誰もルウが「双剣の勇者」だとは気づかなかった。
「誰もルウのこと気づかないね」
時折街角にある掲示板に、「勇者ルドウィックの冒険譚」と書かれた記事が貼られている。
路地の奥で子ども達がルドウィックの真似をして、チャンバラごっこをしている場面もあった。
「この平和を、ルドウィックは守ったんだね」
穏やかな日常、聞こえる笑い声、賑やかな王都の風景を見て、感慨深い気持ちで言った。
「デルフィーヌのいる世界を守りたかっただけだ。これはついでだ」
「だとしても、凄いことだよ」
「デルフィーヌは、この世界が好きか?」
「え、どうだろう。そんな風に考えたことないな」
不意にそう尋ねられ、ちょっと考える。
前世でも、この世界でも自分が生きている世界を、好きだと思ったことがあっただろうか。
生きていくうえで、何事も無く平和に過ごしたいと思ったことはある。
でもそれは、ルウの尋ねた「この世界が好きか?」の答えではない気がした。
謎の白い影の正体がわかっただけでなく、シルキーが家全体の清掃を賄ってくれるため、これまで手の回らなかったところに手が届くでなく、随分楽になったという。
何気にルウがブラックな雇い主だったようだ。
「午前中、冒険者ギルドに行こう。ドラゴンのことについて、登録をしないとな。明日には義父さんたちも着くだろうし」
「わかったわ」
二人でポチタマを連れて出かけることにした。
「でも、ルウはそのままで騒がれたりしない?」
勇者が王都を気軽にウロウロして、騒ぎになったりしないかと心配になった。
「その点は大丈夫。ちゃんと魔法で気づかれないようにするから」
どうやって? と言う言葉を口にする前に、ルウが魔法で軽く変装して見せた。
髪は濃いブラウン、瞳はそのままだったが、口の周りに髭もあってがらりと印象が変わった。
「すごい」
よく見ればルウだと分かるが、道ですれ違った位では誰だかすぐにはわからない。
「お褒めにあずかり光栄です」
勇者になる前はこんな魔法も使えなかった。
そう考えると、この二年半でルウは私が思っていた以上に、たくさんのことを覚え、たくさんの経験をしてきたのだとわかる。
『ボクも~』
ポチタマもルウに負けじと、姿を現したり消えたり、大きくなったり小さくなったりを繰り返す。
今のところ、ルウのような「変身」とはいかないが、一生懸命頑張っている姿は微笑ましい。
「ポチタマ、偉いね」
つい母親目線になって目を細めて、褒めた。
彼らと違って変装する必要のない私は、普通に外出着に着替えただけだった。
私の荷物はまだ父様達と一緒に移動中だから、ルウが私のためにと用意してくれいたものを着るしかなかった。
これまで袖を通したことがないような、上質な生地で作られた服がずらりと並んでいる中から、装飾は控えめなものを選んだ。
ルウが買った邸は商業地区の外れにあり、そこから私達は歩いて行くことにした。
王都の街並みは、ドイツのロマンチク街道を思わせる。
石畳の敷かれた道を歩き、時折窓ガラス越しに外から中の様子を窺う。
行き交う人も多かったが、ルウの変装が完璧らしく、誰もルウが「双剣の勇者」だとは気づかなかった。
「誰もルウのこと気づかないね」
時折街角にある掲示板に、「勇者ルドウィックの冒険譚」と書かれた記事が貼られている。
路地の奥で子ども達がルドウィックの真似をして、チャンバラごっこをしている場面もあった。
「この平和を、ルドウィックは守ったんだね」
穏やかな日常、聞こえる笑い声、賑やかな王都の風景を見て、感慨深い気持ちで言った。
「デルフィーヌのいる世界を守りたかっただけだ。これはついでだ」
「だとしても、凄いことだよ」
「デルフィーヌは、この世界が好きか?」
「え、どうだろう。そんな風に考えたことないな」
不意にそう尋ねられ、ちょっと考える。
前世でも、この世界でも自分が生きている世界を、好きだと思ったことがあっただろうか。
生きていくうえで、何事も無く平和に過ごしたいと思ったことはある。
でもそれは、ルウの尋ねた「この世界が好きか?」の答えではない気がした。
112
お気に入りに追加
626
あなたにおすすめの小説
【R18】さよなら、婚約者様
mokumoku
恋愛
婚約者ディオス様は私といるのが嫌な様子。いつもしかめっ面をしています。
ある時気付いてしまったの…私ってもしかして嫌われてる!?
それなのに会いに行ったりして…私ってなんてキモいのでしょう…!
もう自分から会いに行くのはやめよう…!
そんなこんなで悩んでいたら職場の先輩にディオス様が美しい女性兵士と恋人同士なのでは?と笑われちゃった!
なんだ!私は隠れ蓑なのね!
このなんだか身に覚えも、釣り合いも取れていない婚約は隠れ蓑に使われてるからだったんだ!と盛大に勘違いした主人公ハルヴァとディオスのすれ違いラブコメディです。
ハッピーエンド♡
【R18】婚約者の優しい騎士様が豹変しました
みちょこ
恋愛
「レベッカ! 貴女の婚約者を私に譲ってちょうだい!」
舞踏会に招かれ、心優しき婚約者アレッサンドと共に城で幸せな一時を過ごしていたレベッカは、王女であるパトリツィアから衝撃的な一言を告げられた。
王族の権力を前にレベッカは為す術も無く、あっという間に婚約解消することが決まってしまう。嘆き悲しむレベッカは、アレッサンドに「お前はそれでいいのか?」と尋ねられたものの、「そうするしかない」と答えてしまい──
※ムーンライトノベル様でも公開中です。
※本編7話+番外編2話で完結します。
【R18】無愛想な騎士団長様はとても可愛い
みちょこ
恋愛
侯爵令嬢であるエルヴィールの夫となったスコール・フォークナーは冷酷無情な人間と世間で囁かれていた。
結婚生活も始まってから数ヶ月にも満たなかったが、夫の態度は無愛想そのもの。普段は寝室すら別々で、月に一度の夜の営みも実に淡白なものだった。
愛情の欠片も感じられない夫の振る舞いに、エルヴィールは不満を抱いていたが、とある日の嵐の夜、一人で眠っていたエルヴィールのベッドにスコールが潜り込み──
※ムーンライトノベルズ様でも投稿中
王女、騎士と結婚させられイかされまくる
ぺこ
恋愛
髪の色と出自から差別されてきた騎士さまにベタ惚れされて愛されまくる王女のお話。
性描写激しめですが、甘々の溺愛です。
※原文(♡乱舞淫語まみれバージョン)はpixivの方で見られます。
一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!
当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。
しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。
彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。
このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。
しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。
好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。
※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*)
※他のサイトにも重複投稿しています。
【※R-18】私のイケメン夫たちが、毎晩寝かせてくれません。
aika
恋愛
人類のほとんどが死滅し、女が数人しか生き残っていない世界。
生き残った繭(まゆ)は政府が運営する特別施設に迎えられ、たくさんの男性たちとひとつ屋根の下で暮らすことになる。
優秀な男性たちを集めて集団生活をさせているその施設では、一妻多夫制が取られ子孫を残すための営みが日々繰り広げられていた。
男性と比較して女性の数が圧倒的に少ないこの世界では、男性が妊娠できるように特殊な研究がなされ、彼らとの交わりで繭は多くの子を成すことになるらしい。
自分が担当する屋敷に案内された繭は、遺伝子的に優秀だと選ばれたイケメンたち数十人と共同生活を送ることになる。
【閲覧注意】※男性妊娠、悪阻などによる体調不良、治療シーン、出産シーン、複数プレイ、などマニアックな(あまりグロくはないと思いますが)描写が出てくる可能性があります。
たくさんのイケメン夫に囲まれて、逆ハーレムな生活を送りたいという女性の願望を描いています。
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる