【R18】勇者の姉は究極のモブではなかったんですか?

七夜かなた

文字の大きさ
上 下
57 / 65
第六章

しおりを挟む
 一瞬自分がどこにいるかわからず、目を擦って周りを見渡した。

(あ、そうか、夕べあれから…)
 
 疲れているにも関わらず、ルウは私を抱いた。
 
「起きた?」

 声をかけられ驚いて声のした方を見ると、肌艶も良くいかにも元気ハツラツかルウが、既に身支度をととのえ寝台の端に座って私を見下ろしていた。

「もう朝?」
「そう…と言いたいけど、昼と言った方がいいかな」
「え、そんな時間? どうして起こしてくれなかったのよ」

 勇者の姉が朝寝坊するぐうたらだと思われてしまう。
 いつもは朝陽が昇るくらいに起きるのに、初日から寝坊してしまった。
 寝坊の原因はわかっているけど。

「ルウも今起きたの?」
「いや、オレは夜明け前に起きて鍛錬してきた。それからデルフィーヌが起きたら朝ご飯を一緒に食べようと思って待ってたんだ」
「え。じゃあ、何も食べないで待っててくれたの? もっと早く起こしてよ」
「着いたばかりで疲れているから、起きるまでそのままでいいと思ったんだ」
「まさか、寝顔…見てたの?」

 涎を垂らしていないか気になって、口元を拭った。

「変な顔…してなかった?」
「デルフィーヌに変な顔なんてないよ。いつも可愛い」
「そんなわけ、ないでしょ」
「オレにはどんなデルフィーヌもデルフィーヌだ。姉さんだった時も、好きだと自覚したときも、オレに抱かれて喘くときも、ドラゴンテイマーになっても、デルフィーヌはデルフィーヌで、オレの愛しい人だ」
  
 朝から熱い告白を聞かされて、顔が熱くなる。

「照れてここまで赤くなってる。やっぱり可愛いしかない」

 ルウが手を伸ばしてきて、私の肩から鎖骨の辺りに触れる。
 そこには夕べルウが付けたキスマークがたくさん散らばっている。

「このままだと、また押し倒してしまいそうだ。また寝台に逆戻りしかねない。まずは服を着ようか」

 体は綺麗に拭われていたが、裸だし昨日よりさらに赤い痕が増えている。

「すぐ用意するわ」

 慌てて足元に畳まれていたガウンを羽織り、隣の部屋へと走っていった。

『デルフィーヌ!』
「わ、ボチタマ」

 部屋に入るとボチタマが飛んできたので、受け止めた。

「おはよ、良く眠れた?」
『うん、もう外に出て獲物を狩ってきた』
「獲物?」
「そいつ、朝からこの辺りを飛んでいる鳥だとか、捕まえていたぞ」
「そうなんだ。上手に捕れた?」
『うん、あいつら飛ぶの遅いんだ』

 孵化したばかりなのに、自力で獲物も捕れるようだ。

「偉いね」

 褒めて頭を撫でてあげると、嬉しそうに尻尾を揺らしている。
 犬は喜んだら尻尾を振るが、猫はイラついて尻尾を振る。
 ドラゴンの感情表現はどうやら犬寄りみたいだ。

「先に廊下で待ってて」
「着替え、手伝うけど?」
「そんなのはいいわ。かえって進まない」
「言えてる」

 私の全身を眺めるルウの目がちょっと危険な雰囲気を漂わせ、断固拒否した。
 
 着替えを済ませ廊下で待っていたルウと合流する。

「何だか、昨日と雰囲気が違わない?」

 まだ昨日ちらっと見ただけだから、邸の様子をはっきり覚えてはいないけど、特に模様替えもした感じはないのに、そんな気がした。

「わかる?」

 さすがデルフィーヌ。と褒めてからルウが種明かしした。

「多分、シルキーが解放されて、彼女が家のあちこちを掃除したんだと思う。何しろ人手不足で、細かいところまで手が回らなかったこともあるから、邸全体ピカピカで助かっている」
「シルキー」

 そう呟くと、「お呼びでしょうか、主様」と言って、シルキーが目の前に現れた。

「あなたが綺麗にしてくれたの?」
「僭越ながら…ご迷惑だったでしょうか?」
「そんなことないわ。でも、あれからって大変だったでしょ」
「ようやく解放されて、つい励んでしまいました」

 見かけは大人の女性だけど、感謝されて子供のようにはにかんでいる。

「ありがとう」

 お礼を言うと、彼女はなぜか驚いて眼を瞠る。

「どうしたの?」
「いえ、『ありがとう』と主様から言われることがあまりなくて」
「え、どういうこと?」

 良くしてもらったらお礼を言うのは当たり前のことだ。

「今までの所有者は、シルキーが邸をきれいにするのは当たり前で、わざわざお礼を言うほどではないと思っていたんじゃないかな」

 横からルウが説明する。

「え、ひどくない?」

 その上、逃げないように縛り付けていたなんて、いくら人ではないと言っても、酷すぎる。

「確かにね」
「これからは、ちゃんと感謝の気持ちを伝えるわ」
「あ、ありがとう…ございます」

 戸惑いつつもシルキーは嬉しそうにだった。
 それからそれではまた、いつでもお呼びくださいと言って消えた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。 そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。 だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。 そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。

竜王の花嫁は番じゃない。

豆狸
恋愛
「……だから申し上げましたのに。私は貴方の番(つがい)などではないと。私はなんの衝動も感じていないと。私には……愛する婚約者がいるのだと……」 シンシアの瞳に涙はない。もう涸れ果ててしまっているのだ。 ──番じゃないと叫んでも聞いてもらえなかった花嫁の話です。

お腹の子と一緒に逃げたところ、結局お腹の子の父親に捕まりました。

下菊みこと
恋愛
逃げたけど逃げ切れなかったお話。 またはチャラ男だと思ってたらヤンデレだったお話。 あるいは今度こそ幸せ家族になるお話。 ご都合主義の多分ハッピーエンド? 小説家になろう様でも投稿しています。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。 だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。 その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

処理中です...