56 / 65
第六章
⑥
しおりを挟む
「幽霊の正体みたり枯れ尾花、みたいなものかしら」
怪しい影は、何代か前のこの家の持ち主が、シルキーを逃したくなくて縛り付けていたものだった。
「どういう意味だ?」
どさりと寝台の上に体を預けて、仰向になっていたルウが私に尋ねた。
地下室から戻ってきた私は、そのままルウに手を引かれて彼の部屋に来ていた。
ポチタマは、私の部屋のクッションに戻り、シルキーはどこかに消えた。
「私は邸の中のどこにでもおりますが、ご主人様が立ち入りを許可しない限りは、個人の空間はお邪魔いたしません」
消える寸前、彼女は言った。
つまり、こういう場所には来ないと言うことだろう。
ルウの部屋は私のためにと案内してくれた部屋と、それほど広さは変わらない。
家具も至ってシンプルで、必要最小限の装飾しかない。
「幽霊だと思って怖がっていたものをよく見ると、風にゆれる枯れすすきだった。薄気味悪く思うものも、その正体を確かめてみると、実は少しも怖いものではないというたとえよ」
「ふうん。デルフィーヌは色々なことを知っているな。どこで覚えたの?」
「えっと、どこだったかな」
前世です。と言ったらルウはどんな反応を示すだろう。
前世の記憶持ちだと言ったところで、ルウならありのままを受け入れてくれそうだけど、既に真夜中を回っている。
そういう話をするなら、ちゃんと考えてからにしよう。
疲れているのを表に出さなくても、ルウの体力がかなり消耗しているのがわかる。
「ルウ、疲れたでしょ、今夜はもう休みましょう」
「そうだな」
勝手に勇者は底なしの体力があるのかと思っていたけど、やっぱり相当きつかったらしい。
「そんなに大変だった?」
仰向になるルウの側に腰を下ろせば、ごろりと体の向きを変えたルウが、私の膝に頭を乗せた。
「ちょっと、デルフィーヌに良いところ見せようとして頑張りすぎたかな」
顔を私の方に向け、横になりながら視線をだけを私に向けてくる。
見上げる青い瞳から目が離せなくなり、鼓動が早まる。
ただ視線をこちらに向けているだけなのに、溢れ出る色気にドキドキする。
「あれが光の剣、なのね」
「うん」
「あれで、暗黒竜と戦ったのね」
「うん、そう」
柔らかいルウの金髪に触れる。
うっとりと彼がその手にすり寄ってきて、自然と目を閉じた。
「昔も良く、こうしてデルフィーヌの膝に頭を預けて、お昼寝したね」
二人で遊び疲れて、木陰で足を伸ばして座った私の膝に、ルウが頭を乗せてきたものだ。
「デルフィーヌに頭を撫でてもらいながら、眠るのはとても幸せだった。明日も頑張ろうって元気が湧いてきた」
「大げさね」
「気持ちの問題じゃなくて、本当にそう感じた。昔からオレにとってデルフィーヌは癒しで、活力の素だよ。もしかしたらデルフィーヌも気が付かない内に、何か不思議な力がオレに注がれていたのかもしれない」
剣術の稽古でボロボロになっても、次の日にはルウは前の日より逞しく強くなっていた。
勇者あるあるだと思って何も思わなかったけど、本当にそんな力が私にあるんだろうか。
「大好きだよ、デルフィーヌ」
不意にパチリと目を開けたルウが言った。
「な、何よいきなり」
小さい頃から見慣れている筈なのに、不意に見せる男の色気は、未だに私をドキドキさせる。
「いきなりじゃないよ。いつも想っている。デルフィーヌが好きだ。この世の誰よりも愛している」
デルフィーヌは?
とでも言いたげに、膝の上の頭を擦り寄せてくる。
「オレのこと、好き?」
「そんなの…」
これまで何度も言ってきた。今更だとは思うけど、期待を込めた眼差しに見つめられると、次の言葉が言えなくなる。
「つ、疲れてるんでしょ」
「疲れてるけど、デルフィーヌとのこの家での初めての夜なんだ。堪能させてよ」
ルウは頭に乗せた私の手を掴み、下へと導く。
そこにはビキビキに猛ったルウのものがあった。
怪しい影は、何代か前のこの家の持ち主が、シルキーを逃したくなくて縛り付けていたものだった。
「どういう意味だ?」
どさりと寝台の上に体を預けて、仰向になっていたルウが私に尋ねた。
地下室から戻ってきた私は、そのままルウに手を引かれて彼の部屋に来ていた。
ポチタマは、私の部屋のクッションに戻り、シルキーはどこかに消えた。
「私は邸の中のどこにでもおりますが、ご主人様が立ち入りを許可しない限りは、個人の空間はお邪魔いたしません」
消える寸前、彼女は言った。
つまり、こういう場所には来ないと言うことだろう。
ルウの部屋は私のためにと案内してくれた部屋と、それほど広さは変わらない。
家具も至ってシンプルで、必要最小限の装飾しかない。
「幽霊だと思って怖がっていたものをよく見ると、風にゆれる枯れすすきだった。薄気味悪く思うものも、その正体を確かめてみると、実は少しも怖いものではないというたとえよ」
「ふうん。デルフィーヌは色々なことを知っているな。どこで覚えたの?」
「えっと、どこだったかな」
前世です。と言ったらルウはどんな反応を示すだろう。
前世の記憶持ちだと言ったところで、ルウならありのままを受け入れてくれそうだけど、既に真夜中を回っている。
そういう話をするなら、ちゃんと考えてからにしよう。
疲れているのを表に出さなくても、ルウの体力がかなり消耗しているのがわかる。
「ルウ、疲れたでしょ、今夜はもう休みましょう」
「そうだな」
勝手に勇者は底なしの体力があるのかと思っていたけど、やっぱり相当きつかったらしい。
「そんなに大変だった?」
仰向になるルウの側に腰を下ろせば、ごろりと体の向きを変えたルウが、私の膝に頭を乗せた。
「ちょっと、デルフィーヌに良いところ見せようとして頑張りすぎたかな」
顔を私の方に向け、横になりながら視線をだけを私に向けてくる。
見上げる青い瞳から目が離せなくなり、鼓動が早まる。
ただ視線をこちらに向けているだけなのに、溢れ出る色気にドキドキする。
「あれが光の剣、なのね」
「うん」
「あれで、暗黒竜と戦ったのね」
「うん、そう」
柔らかいルウの金髪に触れる。
うっとりと彼がその手にすり寄ってきて、自然と目を閉じた。
「昔も良く、こうしてデルフィーヌの膝に頭を預けて、お昼寝したね」
二人で遊び疲れて、木陰で足を伸ばして座った私の膝に、ルウが頭を乗せてきたものだ。
「デルフィーヌに頭を撫でてもらいながら、眠るのはとても幸せだった。明日も頑張ろうって元気が湧いてきた」
「大げさね」
「気持ちの問題じゃなくて、本当にそう感じた。昔からオレにとってデルフィーヌは癒しで、活力の素だよ。もしかしたらデルフィーヌも気が付かない内に、何か不思議な力がオレに注がれていたのかもしれない」
剣術の稽古でボロボロになっても、次の日にはルウは前の日より逞しく強くなっていた。
勇者あるあるだと思って何も思わなかったけど、本当にそんな力が私にあるんだろうか。
「大好きだよ、デルフィーヌ」
不意にパチリと目を開けたルウが言った。
「な、何よいきなり」
小さい頃から見慣れている筈なのに、不意に見せる男の色気は、未だに私をドキドキさせる。
「いきなりじゃないよ。いつも想っている。デルフィーヌが好きだ。この世の誰よりも愛している」
デルフィーヌは?
とでも言いたげに、膝の上の頭を擦り寄せてくる。
「オレのこと、好き?」
「そんなの…」
これまで何度も言ってきた。今更だとは思うけど、期待を込めた眼差しに見つめられると、次の言葉が言えなくなる。
「つ、疲れてるんでしょ」
「疲れてるけど、デルフィーヌとのこの家での初めての夜なんだ。堪能させてよ」
ルウは頭に乗せた私の手を掴み、下へと導く。
そこにはビキビキに猛ったルウのものがあった。
113
お気に入りに追加
610
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

転生したら、6人の最強旦那様に溺愛されてます!?~6人の愛が重すぎて困ってます!~
月
恋愛
ある日、女子高生だった白川凛(しらかわりん)
は学校の帰り道、バイトに遅刻しそうになったのでスピードを上げすぎ、そのまま階段から落ちて死亡した。
しかし、目が覚めるとそこは異世界だった!?
(もしかして、私、転生してる!!?)
そして、なんと凛が転生した世界は女性が少なく、一妻多夫制だった!!!
そんな世界に転生した凛と、将来の旦那様は一体誰!?

今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を
澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。
そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。
だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。
そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。
【完結】冷酷眼鏡とウワサされる副騎士団長様が、一直線に溺愛してきますっ!
楠結衣
恋愛
触ると人の心の声が聞こえてしまう聖女リリアンは、冷酷と噂の副騎士団長のアルバート様に触ってしまう。
(リリアン嬢、かわいい……。耳も小さくて、かわいい。リリアン嬢の耳、舐めたら甘そうだな……いや寧ろ齧りたい……)
遠くで見かけるだけだったアルバート様の思わぬ声にリリアンは激しく動揺してしまう。きっと聞き間違えだったと結論付けた筈が、聖女の試験で必須な魔物についてアルバート様から勉強を教わることに──!
(かわいい、好きです、愛してます)
(誰にも見せたくない。執務室から出さなくてもいいですよね?)
二人きりの勉強会。アルバート様に触らないように気をつけているのに、リリアンのうっかりで毎回触れられてしまう。甘すぎる声にリリアンのドキドキが止まらない!
ところが、ある日、リリアンはアルバート様の声にうっかり反応してしまう。
(まさか。もしかして、心の声が聞こえている?)
リリアンの秘密を知ったアルバート様はどうなる?
二人の恋の結末はどうなっちゃうの?!
心の声が聞こえる聖女リリアンと変態あまあまな声がダダ漏れなアルバート様の、甘すぎるハッピーエンドラブストーリー。
✳︎表紙イラストは、さらさらしるな。様の作品です。
✳︎小説家になろうにも投稿しています♪

婚約者が巨乳好きだと知ったので、お義兄様に胸を大きくしてもらいます。
鯖
恋愛
可憐な見た目とは裏腹に、突っ走りがちな令嬢のパトリシア。婚約者のフィリップが、巨乳じゃないと女として見れない、と話しているのを聞いてしまう。
パトリシアは、小さい頃に両親を亡くし、母の弟である伯爵家で、本当の娘の様に育てられた。お世話になった家族の為にも、幸せな結婚生活を送らねばならないと、兄の様に慕っているアレックスに、あるお願いをしに行く。

魔性の大公の甘く淫らな執愛の檻に囚われて
アマイ
恋愛
優れた癒しの力を持つ家系に生まれながら、伯爵家当主であるクロエにはその力が発現しなかった。しかし血筋を絶やしたくない皇帝の意向により、クロエは早急に後継を作らねばならなくなった。相手を求め渋々参加した夜会で、クロエは謎めいた美貌の男・ルアと出会う。
二人は契約を交わし、割り切った体の関係を結ぶのだが――

お腹の子と一緒に逃げたところ、結局お腹の子の父親に捕まりました。
下菊みこと
恋愛
逃げたけど逃げ切れなかったお話。
またはチャラ男だと思ってたらヤンデレだったお話。
あるいは今度こそ幸せ家族になるお話。
ご都合主義の多分ハッピーエンド?
小説家になろう様でも投稿しています。
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる