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第六章
⑥
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「幽霊の正体みたり枯れ尾花、みたいなものかしら」
怪しい影は、何代か前のこの家の持ち主が、シルキーを逃したくなくて縛り付けていたものだった。
「どういう意味だ?」
どさりと寝台の上に体を預けて、仰向になっていたルウが私に尋ねた。
地下室から戻ってきた私は、そのままルウに手を引かれて彼の部屋に来ていた。
ポチタマは、私の部屋のクッションに戻り、シルキーはどこかに消えた。
「私は邸の中のどこにでもおりますが、ご主人様が立ち入りを許可しない限りは、個人の空間はお邪魔いたしません」
消える寸前、彼女は言った。
つまり、こういう場所には来ないと言うことだろう。
ルウの部屋は私のためにと案内してくれた部屋と、それほど広さは変わらない。
家具も至ってシンプルで、必要最小限の装飾しかない。
「幽霊だと思って怖がっていたものをよく見ると、風にゆれる枯れすすきだった。薄気味悪く思うものも、その正体を確かめてみると、実は少しも怖いものではないというたとえよ」
「ふうん。デルフィーヌは色々なことを知っているな。どこで覚えたの?」
「えっと、どこだったかな」
前世です。と言ったらルウはどんな反応を示すだろう。
前世の記憶持ちだと言ったところで、ルウならありのままを受け入れてくれそうだけど、既に真夜中を回っている。
そういう話をするなら、ちゃんと考えてからにしよう。
疲れているのを表に出さなくても、ルウの体力がかなり消耗しているのがわかる。
「ルウ、疲れたでしょ、今夜はもう休みましょう」
「そうだな」
勝手に勇者は底なしの体力があるのかと思っていたけど、やっぱり相当きつかったらしい。
「そんなに大変だった?」
仰向になるルウの側に腰を下ろせば、ごろりと体の向きを変えたルウが、私の膝に頭を乗せた。
「ちょっと、デルフィーヌに良いところ見せようとして頑張りすぎたかな」
顔を私の方に向け、横になりながら視線をだけを私に向けてくる。
見上げる青い瞳から目が離せなくなり、鼓動が早まる。
ただ視線をこちらに向けているだけなのに、溢れ出る色気にドキドキする。
「あれが光の剣、なのね」
「うん」
「あれで、暗黒竜と戦ったのね」
「うん、そう」
柔らかいルウの金髪に触れる。
うっとりと彼がその手にすり寄ってきて、自然と目を閉じた。
「昔も良く、こうしてデルフィーヌの膝に頭を預けて、お昼寝したね」
二人で遊び疲れて、木陰で足を伸ばして座った私の膝に、ルウが頭を乗せてきたものだ。
「デルフィーヌに頭を撫でてもらいながら、眠るのはとても幸せだった。明日も頑張ろうって元気が湧いてきた」
「大げさね」
「気持ちの問題じゃなくて、本当にそう感じた。昔からオレにとってデルフィーヌは癒しで、活力の素だよ。もしかしたらデルフィーヌも気が付かない内に、何か不思議な力がオレに注がれていたのかもしれない」
剣術の稽古でボロボロになっても、次の日にはルウは前の日より逞しく強くなっていた。
勇者あるあるだと思って何も思わなかったけど、本当にそんな力が私にあるんだろうか。
「大好きだよ、デルフィーヌ」
不意にパチリと目を開けたルウが言った。
「な、何よいきなり」
小さい頃から見慣れている筈なのに、不意に見せる男の色気は、未だに私をドキドキさせる。
「いきなりじゃないよ。いつも想っている。デルフィーヌが好きだ。この世の誰よりも愛している」
デルフィーヌは?
とでも言いたげに、膝の上の頭を擦り寄せてくる。
「オレのこと、好き?」
「そんなの…」
これまで何度も言ってきた。今更だとは思うけど、期待を込めた眼差しに見つめられると、次の言葉が言えなくなる。
「つ、疲れてるんでしょ」
「疲れてるけど、デルフィーヌとのこの家での初めての夜なんだ。堪能させてよ」
ルウは頭に乗せた私の手を掴み、下へと導く。
そこにはビキビキに猛ったルウのものがあった。
怪しい影は、何代か前のこの家の持ち主が、シルキーを逃したくなくて縛り付けていたものだった。
「どういう意味だ?」
どさりと寝台の上に体を預けて、仰向になっていたルウが私に尋ねた。
地下室から戻ってきた私は、そのままルウに手を引かれて彼の部屋に来ていた。
ポチタマは、私の部屋のクッションに戻り、シルキーはどこかに消えた。
「私は邸の中のどこにでもおりますが、ご主人様が立ち入りを許可しない限りは、個人の空間はお邪魔いたしません」
消える寸前、彼女は言った。
つまり、こういう場所には来ないと言うことだろう。
ルウの部屋は私のためにと案内してくれた部屋と、それほど広さは変わらない。
家具も至ってシンプルで、必要最小限の装飾しかない。
「幽霊だと思って怖がっていたものをよく見ると、風にゆれる枯れすすきだった。薄気味悪く思うものも、その正体を確かめてみると、実は少しも怖いものではないというたとえよ」
「ふうん。デルフィーヌは色々なことを知っているな。どこで覚えたの?」
「えっと、どこだったかな」
前世です。と言ったらルウはどんな反応を示すだろう。
前世の記憶持ちだと言ったところで、ルウならありのままを受け入れてくれそうだけど、既に真夜中を回っている。
そういう話をするなら、ちゃんと考えてからにしよう。
疲れているのを表に出さなくても、ルウの体力がかなり消耗しているのがわかる。
「ルウ、疲れたでしょ、今夜はもう休みましょう」
「そうだな」
勝手に勇者は底なしの体力があるのかと思っていたけど、やっぱり相当きつかったらしい。
「そんなに大変だった?」
仰向になるルウの側に腰を下ろせば、ごろりと体の向きを変えたルウが、私の膝に頭を乗せた。
「ちょっと、デルフィーヌに良いところ見せようとして頑張りすぎたかな」
顔を私の方に向け、横になりながら視線をだけを私に向けてくる。
見上げる青い瞳から目が離せなくなり、鼓動が早まる。
ただ視線をこちらに向けているだけなのに、溢れ出る色気にドキドキする。
「あれが光の剣、なのね」
「うん」
「あれで、暗黒竜と戦ったのね」
「うん、そう」
柔らかいルウの金髪に触れる。
うっとりと彼がその手にすり寄ってきて、自然と目を閉じた。
「昔も良く、こうしてデルフィーヌの膝に頭を預けて、お昼寝したね」
二人で遊び疲れて、木陰で足を伸ばして座った私の膝に、ルウが頭を乗せてきたものだ。
「デルフィーヌに頭を撫でてもらいながら、眠るのはとても幸せだった。明日も頑張ろうって元気が湧いてきた」
「大げさね」
「気持ちの問題じゃなくて、本当にそう感じた。昔からオレにとってデルフィーヌは癒しで、活力の素だよ。もしかしたらデルフィーヌも気が付かない内に、何か不思議な力がオレに注がれていたのかもしれない」
剣術の稽古でボロボロになっても、次の日にはルウは前の日より逞しく強くなっていた。
勇者あるあるだと思って何も思わなかったけど、本当にそんな力が私にあるんだろうか。
「大好きだよ、デルフィーヌ」
不意にパチリと目を開けたルウが言った。
「な、何よいきなり」
小さい頃から見慣れている筈なのに、不意に見せる男の色気は、未だに私をドキドキさせる。
「いきなりじゃないよ。いつも想っている。デルフィーヌが好きだ。この世の誰よりも愛している」
デルフィーヌは?
とでも言いたげに、膝の上の頭を擦り寄せてくる。
「オレのこと、好き?」
「そんなの…」
これまで何度も言ってきた。今更だとは思うけど、期待を込めた眼差しに見つめられると、次の言葉が言えなくなる。
「つ、疲れてるんでしょ」
「疲れてるけど、デルフィーヌとのこの家での初めての夜なんだ。堪能させてよ」
ルウは頭に乗せた私の手を掴み、下へと導く。
そこにはビキビキに猛ったルウのものがあった。
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