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第六章

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「えっと、色々聞きたいんですが、なぜここに拘束されていたんでしょう」

 国を滅ぼす云々はひとまず置いておき、私はシルキーに尋ねた。

「ご存知のように私は家に縛られております。そのため、基本はひとつの家にいて、その家を陰ながら護ります」

 シルキーがとうとうと語りだす。

「私の本分は邸の切り盛りです。ですが、その家の繁栄にも関わるため、守り神のように言われる時があります。その家が繁栄するのも没落するのも、私を粗略に扱うか尊重するかにより、大きく変わってきます」

 シルキーを大事にすれば、繁栄をもたらし、逆に怒らせたら没落する。

「何人か前のご当主がある日突然、突然何か強迫観念に取り憑かれていらっしゃったようで、怪しい術者と共に現れ、私をこのように縛りました。私がどこかに行ってしまうとでも思ったのでしょう」

 その当主は、跡目を継ぐにあたり兄弟と骨肉の争いを起こしたらしい。
 多分だけど、その記憶が残っていて歳を経て、おかしくなったのかも知れない。

「でも、そんなことをしてあなたを怒らせたら、災いが起きるのでは? 白い影というのは?」
「私は意識も共に封じられていました。見えているのに、聞こえているのに、何も感じない。けれど時折その力が緩む時がありました。夏至と冬至、一年の内で太陽と月のバランスが乱れる時、私は実体をここに残し、影だけを漂わせ助けを求めました」
「今日は夏至でも冬至でもないけど」
「それは貴女様がこの地に足を踏み入れたから。この地にある大地の力が、突き動かされ、私を縛る鎖に緩みが生じたのだと思います」

 俄に信じられない話だったが、こうしてシルキーは解放された。
 最後はルウの力で押し切ったけど、私にそんな力が本当にあるのかと、答えを求めてそこに書いてあるわけでもないのに、自分の手のひらを見つめた。
 
「とにかく、あなたはこの家に昔からいたということね」
「はい」

 全身真っ白なシルキーが頷く。

「それで、解放されて貴女はこれからどうするの?」
「私はこの家に住むシルキーです。これからもずっと、ここにいます。ここにいても言いという、許可をいただけますでしょうか」

 そう言って彼女は私に頭を下げた。

「許可って、先にこの邸に住んでいたのは貴女なんだし、今更許可なんて必要? ルウが本当の主でしょ?」
「表向きはそうだけど、オレはデルフィーヌの下僕。真実オレを従わせられるのは、デルフィーヌだけだ。内向きの実力者は、実は奥方だってことは義父さんたちを見ればわかるだろう?」

 家長は父だけど、父は母に頭が上がらない。
 それは尻に敷かれているとかではなく、父が母を尊重しているからだ。
 それを見て育ってきた私達には、それは至極当たり前のことだ。

「夫婦円満のコツのひとつは、互いを尊重すること」

 それが父の口癖だ。

「だったら、オレも同じようにするだけだ。それでいいだろ?」
「よろしくお願いします」
『よろしく」』

 ルウとシルキー、ポチタマの3人(?)に頭を下げられた。

「お、おかしくない? 勇者とドラゴンが私に従うって…」
「オレはデルフィーヌの言う事なら何でも聞く。こいつもデルフィーヌにテイムされている。そしてシルキーもデルフィーヌを主と認めた。ちっともおかしくない。当然のことだ」
「もう、皆して頭を下げられても困るわ。したいようにすればいいじゃない。でも、せっかく自由になれたのに、シルキーって、やっぱり家を離れられないのね」
「此度は特別です。私の意思とは違う主にお仕えしてきました。ようやく自由に仕える相手を、選ぶことが出来ます」

 ずっとここから出られず、意にそまない相手に仕えてきたシルキーは、しみじみと言った。
 
 夜も更けてきていたことと、シルキーの鎖を断ち切ることに力を結構使ったためか、ルウも疲れた様子だったのを見て、とりあえず部屋に戻ることになった。
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