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第六章
④
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光の剣
暗黒竜を討伐するために、ルウが手に入れた武器だとすぐわかった。
どこからともなく現われたその剣は、まるで意志を持っているかのようにルウの手に飛んできた。
ルウはその剣を両手で握りしめ、鎖に向かって振り下ろした。
ガキン
一度では鎖は切れなかった。
「頑張って、ルウ」
ガキン、ガキンと二度、三度と振り下ろすうちに、ピキリとひびがが入り、五度目でパリンと砕け散った。
「やった!」
鎖が砕け散り、欠片が飛び散る。
しかしそれは本物の鉄の鎖では無かったのか、飛び散った瞬間消え去った。
そして鎖に繋がれていた白いものははっきりと実体となって目の前に降り立った。
相変わらず真っ白だったが、さっきの半透明な状態では無く、はっきりと肉体を持った存在として現われた。
「私を解放してくださり、ありがとうございます」
なぜか私に向かってお礼を言う。
「ちょ、やったのオレですけど」
ルウが文句を言うと、それはルウの方を向き直る。
「ありがとうございます」
ついでと言わんばかりの対応だった。
「それで、あんたは何者だ?」
不機嫌を丸出しにして、ルウが尋ねた。
「・・・・」
「もしもし?」
「・・・・」
「えっと、聞こえてるよな。さっきはお礼も言ったし」
急にしゃべれなくなったのか、それは口を閉じてルウの質問に答えない。
「ねえ、あなた、名前は?」
「私は『シルキー』です」
「なんでデルフィーヌの質問に答えて、オレは無視なんだ」
「シルキー?」
シルキーとは「家妖精」とも女性の亡霊とも呼ばれている。
家に住み着き家事を切り盛りする妖精という噂もある。
だが、それは伝説で、実際にいるとは思わなかった。
「本当に? 伝説じゃなく?」
「はい」
「どうしてこんなところ?」
「………」
「えっと、どうしてここで捕らえられていたの?」
「この家の主が、私を逃さないために、ここに縛り付けていたのです」
なぜかシルキーは、私の言葉にしか反応しない。
「なんでオレの質問には答えないんだ」
「どうしてルウの質問には答えないの?」
「私を呼び覚ましたのは、貴女だからです」
「え、私が? 何もしていないけど」
シルキーがなぜここに縛り付けられていたのかも謎だが、彼女の言葉が一番不可解だった。
私が何をしたというのだろうか。
ルウは勇者で、光の剣を持ち、強い力も兼ね備えている。
私は、勇者の義姉というだけで、ただのモブ。
たまたま勇者のルウに溺愛されているけど、その他には、ドラゴンテイマーだったりした。
ルウやポチタマの力を緩和するだか何だかの力は、まだよくわからない。
これ以上何かあるんだろうか。
「いいえ、貴女様がこの地に足を踏み入れた時に、私はこれまで制御されていた力の一部が、開放されるのを感じました」
「でも、力ならルウの方があるんでしょ?」
「力の強弱ではありません。質の問題です。それに、この方はお力はありますが、力関係で言えば貴女様の方が上でございましょう?」
「え? ど、どういうこと?」
シルキーはちらりとルウを見てから、私の方に手を差し伸べた。
「家政を取り仕切るのは女性。この邸を購入されたのはこの御仁でも、真の主は貴女様。こちらの御仁は、すでにそちらのドラゴン同様、貴女様の下僕でございましょう?」
「し、下僕って、ルウが、私の? ポ、ポチタマはテイムしたけど、ルウをテイムとかは…」
「確かにそうだな」
「ちょっと、ルウ、何を言ってるの?」
義弟だから昔は姉の言うことをききなさいとか、姉風を吹かせたこともある。
子供の頃なら、一歳違えば出来ることと出来ないことの差は激しい。
歩くスピードだって、ご飯の食べ方だって、話すのだって私の方が姉だから、出来て当たり前で、ルウを子分みたいに扱ったこともある。
でも成長するにつれ、勇者となるルウの才覚はメキメキと頭角を現し、男と女の体格差もあり、私は口以外でルウには勝てなくなっていた。
「私、ルウを下僕なんて思ってはいないわよ」
「いや、ある意味間違っていない。何しろオレはデルフィーヌには頭が上がらない。惚れた弱みと言うやつだ。デルフィーヌが白だと言えば、黒もグレーも全部白だと言える」
「そ、そんな暴君みたいなことしないわよ」
「わかっている。デルフィーヌはそんなことしない。今のは例えばの話だ。でも、オレはデルフィーヌのためなら、何でもする。だから実質最強なのは、デルフィーヌということだ」
「さようでございます」
「そういうことだ」
「ちょ、ちょっと何勝手に納得しているのよ」
ルウとシルキーがうんうんと頷き合う。
「さっきの使者の件だって、デルフィーヌが会えと言うから会ったんだ。そうでなければ、会うつもりもなかった。そういうことだよ。国王の命令に背いても、デルフィーヌのお願いなら、喜んできく」
「いえ、それは駄目よ。一応、為政者の命令はきいたほうが…後が怖いじゃない」
「別に、気に入らないことを命令してきたら、従わないだけだ。それでもし、処罰するというなら、そんな国いつだって潰せばいいだけだ。その気になれば国のひとつやふたつ、滅ぼせるし。ドラゴンもいるんだから、簡単だろ?」
とんでもない発言に、驚く。勇者の発言とは思えない。でも、ルウならほんとに出来てしまいそうだ。
「だ、駄目よ。そんなこと言っちゃ」
「わかってる。デルフィーヌがそんなこと望まないってこともね。だからほんとにはしないよ」
とは言っても、勇者とドラゴンが手を組んだら、国どころか世界が滅びかねない。
暗黒竜を討伐するために、ルウが手に入れた武器だとすぐわかった。
どこからともなく現われたその剣は、まるで意志を持っているかのようにルウの手に飛んできた。
ルウはその剣を両手で握りしめ、鎖に向かって振り下ろした。
ガキン
一度では鎖は切れなかった。
「頑張って、ルウ」
ガキン、ガキンと二度、三度と振り下ろすうちに、ピキリとひびがが入り、五度目でパリンと砕け散った。
「やった!」
鎖が砕け散り、欠片が飛び散る。
しかしそれは本物の鉄の鎖では無かったのか、飛び散った瞬間消え去った。
そして鎖に繋がれていた白いものははっきりと実体となって目の前に降り立った。
相変わらず真っ白だったが、さっきの半透明な状態では無く、はっきりと肉体を持った存在として現われた。
「私を解放してくださり、ありがとうございます」
なぜか私に向かってお礼を言う。
「ちょ、やったのオレですけど」
ルウが文句を言うと、それはルウの方を向き直る。
「ありがとうございます」
ついでと言わんばかりの対応だった。
「それで、あんたは何者だ?」
不機嫌を丸出しにして、ルウが尋ねた。
「・・・・」
「もしもし?」
「・・・・」
「えっと、聞こえてるよな。さっきはお礼も言ったし」
急にしゃべれなくなったのか、それは口を閉じてルウの質問に答えない。
「ねえ、あなた、名前は?」
「私は『シルキー』です」
「なんでデルフィーヌの質問に答えて、オレは無視なんだ」
「シルキー?」
シルキーとは「家妖精」とも女性の亡霊とも呼ばれている。
家に住み着き家事を切り盛りする妖精という噂もある。
だが、それは伝説で、実際にいるとは思わなかった。
「本当に? 伝説じゃなく?」
「はい」
「どうしてこんなところ?」
「………」
「えっと、どうしてここで捕らえられていたの?」
「この家の主が、私を逃さないために、ここに縛り付けていたのです」
なぜかシルキーは、私の言葉にしか反応しない。
「なんでオレの質問には答えないんだ」
「どうしてルウの質問には答えないの?」
「私を呼び覚ましたのは、貴女だからです」
「え、私が? 何もしていないけど」
シルキーがなぜここに縛り付けられていたのかも謎だが、彼女の言葉が一番不可解だった。
私が何をしたというのだろうか。
ルウは勇者で、光の剣を持ち、強い力も兼ね備えている。
私は、勇者の義姉というだけで、ただのモブ。
たまたま勇者のルウに溺愛されているけど、その他には、ドラゴンテイマーだったりした。
ルウやポチタマの力を緩和するだか何だかの力は、まだよくわからない。
これ以上何かあるんだろうか。
「いいえ、貴女様がこの地に足を踏み入れた時に、私はこれまで制御されていた力の一部が、開放されるのを感じました」
「でも、力ならルウの方があるんでしょ?」
「力の強弱ではありません。質の問題です。それに、この方はお力はありますが、力関係で言えば貴女様の方が上でございましょう?」
「え? ど、どういうこと?」
シルキーはちらりとルウを見てから、私の方に手を差し伸べた。
「家政を取り仕切るのは女性。この邸を購入されたのはこの御仁でも、真の主は貴女様。こちらの御仁は、すでにそちらのドラゴン同様、貴女様の下僕でございましょう?」
「し、下僕って、ルウが、私の? ポ、ポチタマはテイムしたけど、ルウをテイムとかは…」
「確かにそうだな」
「ちょっと、ルウ、何を言ってるの?」
義弟だから昔は姉の言うことをききなさいとか、姉風を吹かせたこともある。
子供の頃なら、一歳違えば出来ることと出来ないことの差は激しい。
歩くスピードだって、ご飯の食べ方だって、話すのだって私の方が姉だから、出来て当たり前で、ルウを子分みたいに扱ったこともある。
でも成長するにつれ、勇者となるルウの才覚はメキメキと頭角を現し、男と女の体格差もあり、私は口以外でルウには勝てなくなっていた。
「私、ルウを下僕なんて思ってはいないわよ」
「いや、ある意味間違っていない。何しろオレはデルフィーヌには頭が上がらない。惚れた弱みと言うやつだ。デルフィーヌが白だと言えば、黒もグレーも全部白だと言える」
「そ、そんな暴君みたいなことしないわよ」
「わかっている。デルフィーヌはそんなことしない。今のは例えばの話だ。でも、オレはデルフィーヌのためなら、何でもする。だから実質最強なのは、デルフィーヌということだ」
「さようでございます」
「そういうことだ」
「ちょ、ちょっと何勝手に納得しているのよ」
ルウとシルキーがうんうんと頷き合う。
「さっきの使者の件だって、デルフィーヌが会えと言うから会ったんだ。そうでなければ、会うつもりもなかった。そういうことだよ。国王の命令に背いても、デルフィーヌのお願いなら、喜んできく」
「いえ、それは駄目よ。一応、為政者の命令はきいたほうが…後が怖いじゃない」
「別に、気に入らないことを命令してきたら、従わないだけだ。それでもし、処罰するというなら、そんな国いつだって潰せばいいだけだ。その気になれば国のひとつやふたつ、滅ぼせるし。ドラゴンもいるんだから、簡単だろ?」
とんでもない発言に、驚く。勇者の発言とは思えない。でも、ルウならほんとに出来てしまいそうだ。
「だ、駄目よ。そんなこと言っちゃ」
「わかってる。デルフィーヌがそんなこと望まないってこともね。だからほんとにはしないよ」
とは言っても、勇者とドラゴンが手を組んだら、国どころか世界が滅びかねない。
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