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第六章
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東京二十三区内で地価が、高いのは銀座あたりだろう。
東京駅辺りも高いと思う。
王都での土地の相場はわからないけど、王都なのだから国の中で一番土地の値が高そうだ。
そして同じ王都の中でも、きっと王宮の周りが一番高く、次に貴族の屋敷が建ち並ぶ東区で、次は西区だろうか。
東区と南区の境に位置するここは、敷地の広さや建物の大きさから普通でいけば、ブレアル家など何軒でも買えそうだ。
額が大きすぎて、まるで検討がつかない。
「本当に、大丈夫?」
訳あり物件を買ったことで、ルウはベネデッタ公爵令嬢に、馬鹿だと言われたそうだ。
普通の令嬢なら、そんな訳あり物件に住みたがるはずがないからだ。それどころか、そんな家を買ったと怒られ嫌われるぞと、脅されたらしい。
確かに運気を下げるとか、そういう家があるのは知っている。
「買っちゃったものは仕方ないじゃない。でも、いくら安かったとは言え、買う前にひと言相談してほしかったとは思う。私もここに住むことを考えてくれているなら余計に」
私との未来を考えていたルウ。反対に私はルウと家族であることは変わらないと思い、そんなことを考えていなかった。そのことにちょっと悪いなという考えがあった。
「でも、そんな曰く付き物件、どうして買ったの? いくら家が欲しかったって言っても。普通なら買わないじゃない?」
「うん、それなんだけど・・オレはこの家を紹介されたとき、直感で良いと思ったんだ。その後で契約前にはこの家のことを聞かされたんだけど、もう気持ちは決まっていた」
「直感・・」
「確かに白いものがいるとか、噂はあった。でも、オレは勇者として旅する二年半の間、ダンジョンでのトラップや、魔物の襲撃とかこの直感で何度も命拾いした。でも、デルフィーヌへの配慮には欠けていたかも」
謎の白いもの。その正体は悪いものなのか。それすらもわからない。でも、ルウの直感はそうは思っていないようだ。その理由も今のところわからない。
「ちなみに、前の持ち主って、その後どうなったか知っている?」
もし、悲惨な結末を迎えたとかなら、それこそ悪霊の館だ。
「まさか全員謎の死を遂げたとか、気が狂ったとか?」
「それはない! ほんとにそんな話なら絶対に買わなかった。ただ、白い影が見え、時折声が聞こえただけだ。それを気味悪がって引き払ったのが殆どだ。後は、普通に病気や年齢的な理由で主が亡くなったとか」
「それだけ?」
いたって普通の話に聞こえる。
でも謎の白い影と正体不明の声が何日も続けば、逃げ出したくなるかもしれない。
「ルウのその感って、当てになるの?」
第六感というものなのだろうか。勇者に備わっているチート能力の一種かも知れない。
「ほんとにやばいときは、肌でわかる。ピリピリと肌を針で刺されるような感覚。だから、大丈夫だと思った」
「わかった。ルウのその感、信じる。そうやって危機を乗り越えてきたんだからね」
「ありがとう。でも、この邸を買ってから、オレも何日か過ごしたけど、オレは一度も見たことがないんだ。だから、その噂も嘘だったんじゃないかと思っていたんだけど、来たばかりのデルフィーヌにどうして聞こえたんだろう?」
そんな「引き」はいらないのに。前世ではオカルトは苦手ではなかったけど、出来るならご遠慮したいものだ。
「魔物と同じように、ルウの強すぎる気のせいで出てこなかったとか?」
生命力が強すぎるルウに、その謎の存在も恐れを抱いて隠れているということはないだろうか。
『ねえ、デルフィーヌ』
ポチタマが、前足でついついと私の腕を突いてきた。
「どうしたの? ポチタマ」
『あのさ、さっきから、ボクにも声が聞こえるよ』
「え?」
「デルフィーヌ、そいつ、何て?」
私の反応に、ルウが問いかける。
「えっと、ポチタマにも声が聞こえるって」
「なに? 本当か?」
ルウの言葉を通訳しなくてもポチタマにも意味は伝わったらしく、勢いよく頷いた。
東京駅辺りも高いと思う。
王都での土地の相場はわからないけど、王都なのだから国の中で一番土地の値が高そうだ。
そして同じ王都の中でも、きっと王宮の周りが一番高く、次に貴族の屋敷が建ち並ぶ東区で、次は西区だろうか。
東区と南区の境に位置するここは、敷地の広さや建物の大きさから普通でいけば、ブレアル家など何軒でも買えそうだ。
額が大きすぎて、まるで検討がつかない。
「本当に、大丈夫?」
訳あり物件を買ったことで、ルウはベネデッタ公爵令嬢に、馬鹿だと言われたそうだ。
普通の令嬢なら、そんな訳あり物件に住みたがるはずがないからだ。それどころか、そんな家を買ったと怒られ嫌われるぞと、脅されたらしい。
確かに運気を下げるとか、そういう家があるのは知っている。
「買っちゃったものは仕方ないじゃない。でも、いくら安かったとは言え、買う前にひと言相談してほしかったとは思う。私もここに住むことを考えてくれているなら余計に」
私との未来を考えていたルウ。反対に私はルウと家族であることは変わらないと思い、そんなことを考えていなかった。そのことにちょっと悪いなという考えがあった。
「でも、そんな曰く付き物件、どうして買ったの? いくら家が欲しかったって言っても。普通なら買わないじゃない?」
「うん、それなんだけど・・オレはこの家を紹介されたとき、直感で良いと思ったんだ。その後で契約前にはこの家のことを聞かされたんだけど、もう気持ちは決まっていた」
「直感・・」
「確かに白いものがいるとか、噂はあった。でも、オレは勇者として旅する二年半の間、ダンジョンでのトラップや、魔物の襲撃とかこの直感で何度も命拾いした。でも、デルフィーヌへの配慮には欠けていたかも」
謎の白いもの。その正体は悪いものなのか。それすらもわからない。でも、ルウの直感はそうは思っていないようだ。その理由も今のところわからない。
「ちなみに、前の持ち主って、その後どうなったか知っている?」
もし、悲惨な結末を迎えたとかなら、それこそ悪霊の館だ。
「まさか全員謎の死を遂げたとか、気が狂ったとか?」
「それはない! ほんとにそんな話なら絶対に買わなかった。ただ、白い影が見え、時折声が聞こえただけだ。それを気味悪がって引き払ったのが殆どだ。後は、普通に病気や年齢的な理由で主が亡くなったとか」
「それだけ?」
いたって普通の話に聞こえる。
でも謎の白い影と正体不明の声が何日も続けば、逃げ出したくなるかもしれない。
「ルウのその感って、当てになるの?」
第六感というものなのだろうか。勇者に備わっているチート能力の一種かも知れない。
「ほんとにやばいときは、肌でわかる。ピリピリと肌を針で刺されるような感覚。だから、大丈夫だと思った」
「わかった。ルウのその感、信じる。そうやって危機を乗り越えてきたんだからね」
「ありがとう。でも、この邸を買ってから、オレも何日か過ごしたけど、オレは一度も見たことがないんだ。だから、その噂も嘘だったんじゃないかと思っていたんだけど、来たばかりのデルフィーヌにどうして聞こえたんだろう?」
そんな「引き」はいらないのに。前世ではオカルトは苦手ではなかったけど、出来るならご遠慮したいものだ。
「魔物と同じように、ルウの強すぎる気のせいで出てこなかったとか?」
生命力が強すぎるルウに、その謎の存在も恐れを抱いて隠れているということはないだろうか。
『ねえ、デルフィーヌ』
ポチタマが、前足でついついと私の腕を突いてきた。
「どうしたの? ポチタマ」
『あのさ、さっきから、ボクにも声が聞こえるよ』
「え?」
「デルフィーヌ、そいつ、何て?」
私の反応に、ルウが問いかける。
「えっと、ポチタマにも声が聞こえるって」
「なに? 本当か?」
ルウの言葉を通訳しなくてもポチタマにも意味は伝わったらしく、勢いよく頷いた。
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