上 下
51 / 63
第六章

しおりを挟む
 クスン クスン 
 
 誰かが泣いている声がする。

 ポチタマ? ドラゴンってあんな風に泣く? 違った。「鳴く」かな。

 ということは、ポチタマじゃない?

 クスン クスン 

 泣き声の陰で、何か言っているのが聞こえる。

 クスン クスン …て、…か、だれか

 耳をすまし、もっと良く声を聞こうとした。

「・・・ヌ、デルフィーヌ!」

 激しく揺さぶられ、名前を呼ばれて目が覚めた。

「デルフィーヌ!」
『デルフィーヌ』
「ルウ・・ポチタマ?」

 すぐ目の前にルウの顔があって、膝の上にはポチタマがいる。

「あれ? 私?」

 何故か床に仰向けになっていて、ルウが背中に腕を回して上半身を助け起こされている。

「何があったの?」
「こっちが聞きたい。使者を送り返してここへ来たら、デルフィーヌが床に倒れていたんだ」
「倒れて? ポチタマが眠っているのを見ていたら、私も眠くなってきて、うたた寝しちゃってただけよ」
「ほ、本当に。眠っていただけ?」
「そうよ」
「でも、オレが軽く揺さぶって声を掛けても、すぐに目が覚めなくて・・」
「え? まさか・・」
 
 熟睡はしていても、さすがに揺さぶられたら目が覚める。

『デルフィーヌ、ボクも何度も名前を呼んだよ』
「ポチタマ・・え、ほんとに?」
「デルフィーヌ、何があった?」
「えっと・・眠くなって、居眠りを始めて・・それから・・何か夢を見ていたような」
「夢?」
「うん。でも・・夢、だったのかな?」
「どんな夢?」

 そう尋ねられて、眉間に指を当てて、目を瞑り考える。

「う~ん、えっとね。誰かが、泣いていたの。クスン、クスンって。女の子だったかな…最初ポチタマが泣いているのかって思ったの。何だか子どもの声だったから」
「子どもの声?」
「そう。でも、声だけで姿は見てない・・と思う。変な夢だよね」

 自分で言っておきながら、我ながら脈絡もない話だと思い、にへらと笑った。
 でも、ルウが酷く考え込んでいることに気づいた。

「ルウ?」
「ごめん」
「え、何?」
「どうしてルウが謝るの?」

わけがわからず俯くルウの顔を覗きこんだ。

「実はこの家、が出るって言われてるんだ」
って?」

 尋ねてはみたが、なんとなく嫌な予感がした。

、とはもしかして。

「亡霊?」
「どうだろう。噂だけで実際は誰も見たことがない。オレはそういうの信じないたちだから、気にしないで買ったんだけど、ベネデッタたちには馬鹿だと言われた。そんな家に住みたがる女性はいないって」
「えっと、誰か死んだの?」

 所謂事故物件というやつか。
 実際いくらしたかわからないけど、王都でこれだけの敷地でこの規模なら、相場で言えばかなりの額になるだろう。

「この家を買って使用人を募集したら、人が殺到したんだけど、場所がここだと聞いたら皆断ってきて、あの人数だ」

 それで人が少ないのかと、妙に納得した。

「え、じゃあ、あの声…亡霊? 他にも亡霊の姿を見たり、声を聞いたりした人がいるの? そもそも何かここで事件でもあったの?」
「特に事件があったとは聞いていない。でも前の持ち主もその前の持ち主も、白い影を見たと言っていた」
「じゃあ、誰もはっきり見ていないの?」」
「そうらしい。でも噂はあったから、買い手も渋ったりしてなかなか売れなかった。オレに住んでもらえれば有り難いと、物件は殆どタダだった。内装や調度品を揃えるのに結構かかったけど、それも安くしてもらえたんだ」
「ふうん…」

 事故物件の履歴を勇者が住むことで帳消しにする。犯罪で得た資金を、正当な手段で得たように見せかけるマネーロンダリング。これはマネーロンダリングならぬ、ルームロンダリングのようなものだろう。
 
「持ち主としては、タダ同然でも、誰も買い手がつかないよりはましだし、もしルウが手放しても勇者が住んでいたとなれば、価値は瀑上りだものね」

 上手いことを考えたと思う。
 亡霊騒ぎさえなければ、立地もいいしかなりの物件だ。

「やっぱり…いやか?」
「ルウは? ここ、気に入ってるんでしょ、なら私は大丈夫だよ」
「え、ほ、ほんとに?」

 事故物件の噂のおかげで、ここがかなり安く手に入り、しかも内装やら調度品を一新するための費用も抑えられたことの方が、大事だった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

昨今の聖女は魔法なんか使わないと言うけれど

睦月はむ
恋愛
 剣と魔法の国オルランディア王国。坂下莉愛は知らぬ間に神薙として転移し、一方的にその使命を知らされた。  そこは東西南北4つの大陸からなる世界。各大陸には一人ずつ聖女がいるものの、リアが降りた東大陸だけは諸事情あって聖女がおらず、代わりに神薙がいた。  予期せぬ転移にショックを受けるリア。神薙はその職務上の理由から一妻多夫を認められており、王国は大々的にリアの夫を募集する。しかし一人だけ選ぶつもりのリアと、多くの夫を持たせたい王との思惑は初めからすれ違っていた。  リアが真実の愛を見つける異世界恋愛ファンタジー。 基本まったり時々シリアスな超長編です。複数のパースペクティブで書いています。 気に入って頂けましたら、お気に入り登録etc.で応援を頂けますと幸いです。 ※表紙、作中、オマケで使われている画像は、特に記載がない場合PixAIにて作成しています ※連載中のサイトは下記4か所です ・note(メンバー限定先読み他) ・アルファポリス ・カクヨム ・小説家になろう ※最新の更新情報などは下記のサイトで発信しています。  Hamu's Nook> https://mutsukihamu.blogspot.com/

【完結】聖女の手を取り婚約者が消えて二年。私は別の人の妻になっていた。

文月ゆうり
恋愛
レティシアナは姫だ。 父王に一番愛される姫。 ゆえに妬まれることが多く、それを憂いた父王により早くに婚約を結ぶことになった。 優しく、頼れる婚約者はレティシアナの英雄だ。 しかし、彼は居なくなった。 聖女と呼ばれる少女と一緒に、行方を眩ませたのだ。 そして、二年後。 レティシアナは、大国の王の妻となっていた。 ※主人公は、戦えるような存在ではありません。戦えて、強い主人公が好きな方には合わない可能性があります。 小説家になろうにも投稿しています。 エールありがとうございます!

婚姻初日、「好きになることはない」と宣言された公爵家の姫は、英雄騎士の夫を翻弄する~夫は家庭内で私を見つめていますが~

扇 レンナ
恋愛
公爵令嬢のローゼリーンは1年前の戦にて、英雄となった騎士バーグフリートの元に嫁ぐこととなる。それは、彼が褒賞としてローゼリーンを望んだからだ。 公爵令嬢である以上に国王の姪っ子という立場を持つローゼリーンは、母譲りの美貌から『宝石姫』と呼ばれている。 はっきりと言って、全く釣り合わない結婚だ。それでも、王家の血を引く者として、ローゼリーンはバーグフリートの元に嫁ぐことに。 しかし、婚姻初日。晩餐の際に彼が告げたのは、予想もしていない言葉だった。 拗らせストーカータイプの英雄騎士(26)×『宝石姫』と名高い公爵令嬢(21)のすれ違いラブコメ。 ▼掲載先→アルファポリス、小説家になろう、エブリスタ

本の虫令嬢は幼馴染に夢中な婚約者に愛想を尽かす

初瀬 叶
恋愛
『本の虫令嬢』 こんな通り名がつく様になったのは、いつの頃からだろうか?……もう随分前の事で忘れた。 私、マーガレット・ロビーには婚約者が居る。幼い頃に決められた婚約者、彼の名前はフェリックス・ハウエル侯爵令息。彼は私より二つ歳上の十九歳。いや、もうすぐ二十歳か。まだ新人だが、近衛騎士として王宮で働いている。 私は彼との初めての顔合せの時を思い出していた。あれはもう十年前だ。 『お前がマーガレットか。僕の名はフェリックスだ。僕は侯爵の息子、お前は伯爵の娘だから『フェリックス様』と呼ぶように」 十歳のフェリックス様から高圧的にそう言われた。まだ七つの私はなんだか威張った男の子だな……と思ったが『わかりました。フェリックス様』と素直に返事をした。 そして続けて、 『僕は将来立派な近衛騎士になって、ステファニーを守る。これは約束なんだ。だからお前よりステファニーを優先する事があっても文句を言うな』 挨拶もそこそこに彼の口から飛び出したのはこんな言葉だった。 ※中世ヨーロッパ風のお話ですが私の頭の中の異世界のお話です ※史実には則っておりませんのでご了承下さい ※相変わらずのゆるふわ設定です ※第26話でステファニーの事をスカーレットと書き間違えておりました。訂正しましたが、混乱させてしまって申し訳ありません

身代わりの公爵家の花嫁は翌日から溺愛される。~初日を挽回し、溺愛させてくれ!~

湯川仁美
恋愛
姉の身代わりに公爵夫人になった。 「貴様と寝食を共にする気はない!俺に呼ばれるまでは、俺の前に姿を見せるな。声を聞かせるな」 夫と初対面の日、家族から男癖の悪い醜悪女と流され。 公爵である夫とから啖呵を切られたが。 翌日には誤解だと気づいた公爵は花嫁に好意を持ち、挽回活動を開始。 地獄の番人こと閻魔大王(善悪を判断する審判)と異名をもつ公爵は、影でプレゼントを贈り。話しかけるが、謝れない。 「愛しの妻。大切な妻。可愛い妻」とは言えない。 一度、言った言葉を撤回するのは難しい。 そして妻は普通の令嬢とは違い、媚びず、ビクビク怯えもせず普通に接してくれる。 徐々に距離を詰めていきましょう。 全力で真摯に接し、謝罪を行い、ラブラブに到着するコメディ。 第二章から口説きまくり。 第四章で完結です。 第五章に番外編を追加しました。

旦那様に愛されなかった滑稽な妻です。

アズやっこ
恋愛
私は旦那様を愛していました。 今日は三年目の結婚記念日。帰らない旦那様をそれでも待ち続けました。 私は旦那様を愛していました。それでも旦那様は私を愛してくれないのですね。 これはお別れではありません。役目が終わったので交代するだけです。役立たずの妻で申し訳ありませんでした。

君を愛するつもりはないと言われた私は、鬼嫁になることにした

せいめ
恋愛
美しい旦那様は結婚初夜に言いました。 「君を愛するつもりはない」と。 そんな……、私を愛してくださらないの……? 「うっ……!」 ショックを受けた私の頭に入ってきたのは、アラフォー日本人の前世の記憶だった。 ああ……、貧乏で没落寸前の伯爵様だけど、見た目だけはいいこの男に今世の私は騙されたのね。 貴方が私を妻として大切にしてくれないなら、私も好きにやらせてもらいますわ。 旦那様、短い結婚生活になりそうですが、どうぞよろしく! 誤字脱字お許しください。本当にすみません。 ご都合主義です。

ヤンデレお兄様から、逃げられません!

夕立悠理
恋愛
──あなたも、私を愛していなかったくせに。 エルシーは、10歳のとき、木から落ちて前世の記憶を思い出した。どうやら、今世のエルシーは家族に全く愛されていないらしい。 それならそれで、魔法も剣もあるのだし、好きに生きよう。それなのに、エルシーが記憶を取り戻してから、義兄のクロードの様子がおかしい……?  ヤンデレな兄×少しだけ活発な妹

処理中です...