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第六章
①
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クスン クスン
誰かが泣いている声がする。
ポチタマ? ドラゴンってあんな風に泣く? 違った。「鳴く」かな。
ということは、ポチタマじゃない?
クスン クスン
泣き声の陰で、何か言っているのが聞こえる。
クスン クスン …て、…か、だれか
耳をすまし、もっと良く声を聞こうとした。
「・・・ヌ、デルフィーヌ!」
激しく揺さぶられ、名前を呼ばれて目が覚めた。
「デルフィーヌ!」
『デルフィーヌ』
「ルウ・・ポチタマ?」
すぐ目の前にルウの顔があって、膝の上にはポチタマがいる。
「あれ? 私?」
何故か床に仰向けになっていて、ルウが背中に腕を回して上半身を助け起こされている。
「何があったの?」
「こっちが聞きたい。使者を送り返してここへ来たら、デルフィーヌが床に倒れていたんだ」
「倒れて? ポチタマが眠っているのを見ていたら、私も眠くなってきて、うたた寝しちゃってただけよ」
「ほ、本当に。眠っていただけ?」
「そうよ」
「でも、オレが軽く揺さぶって声を掛けても、すぐに目が覚めなくて・・」
「え? まさか・・」
熟睡はしていても、さすがに揺さぶられたら目が覚める。
『デルフィーヌ、ボクも何度も名前を呼んだよ』
「ポチタマ・・え、ほんとに?」
「デルフィーヌ、何があった?」
「えっと・・眠くなって、居眠りを始めて・・それから・・何か夢を見ていたような」
「夢?」
「うん。でも・・夢、だったのかな?」
「どんな夢?」
そう尋ねられて、眉間に指を当てて、目を瞑り考える。
「う~ん、えっとね。誰かが、泣いていたの。クスン、クスンって。女の子だったかな…最初ポチタマが泣いているのかって思ったの。何だか子どもの声だったから」
「子どもの声?」
「そう。でも、声だけで姿は見てない・・と思う。変な夢だよね」
自分で言っておきながら、我ながら脈絡もない話だと思い、にへらと笑った。
でも、ルウが酷く考え込んでいることに気づいた。
「ルウ?」
「ごめん」
「え、何?」
「どうしてルウが謝るの?」
わけがわからず俯くルウの顔を覗きこんだ。
「実はこの家、あれが出るって言われてるんだ」
「あれって?」
尋ねてはみたが、なんとなく嫌な予感がした。
あれ、とはもしかして。
「亡霊?」
「どうだろう。噂だけで実際は誰も見たことがない。オレはそういうの信じない性だから、気にしないで買ったんだけど、ベネデッタたちには馬鹿だと言われた。そんな家に住みたがる女性はいないって」
「えっと、誰か死んだの?」
所謂事故物件というやつか。
実際いくらしたかわからないけど、王都でこれだけの敷地でこの規模なら、相場で言えばかなりの額になるだろう。
「この家を買って使用人を募集したら、人が殺到したんだけど、場所がここだと聞いたら皆断ってきて、あの人数だ」
それで人が少ないのかと、妙に納得した。
「え、じゃあ、あの声…亡霊? 他にも亡霊の姿を見たり、声を聞いたりした人がいるの? そもそも何かここで事件でもあったの?」
「特に事件があったとは聞いていない。でも前の持ち主もその前の持ち主も、白い影を見たと言っていた」
「じゃあ、誰もはっきり見ていないの?」」
「そうらしい。でも噂はあったから、買い手も渋ったりしてなかなか売れなかった。オレに住んでもらえれば有り難いと、物件は殆どタダだった。内装や調度品を揃えるのに結構かかったけど、それも安くしてもらえたんだ」
「ふうん…」
事故物件の履歴を勇者が住むことで帳消しにする。犯罪で得た資金を、正当な手段で得たように見せかけるマネーロンダリング。これはマネーロンダリングならぬ、ルームロンダリングのようなものだろう。
「持ち主としては、タダ同然でも、誰も買い手がつかないよりはましだし、もしルウが手放しても勇者が住んでいたとなれば、価値は瀑上りだものね」
上手いことを考えたと思う。
亡霊騒ぎさえなければ、立地もいいしかなりの物件だ。
「やっぱり…いやか?」
「ルウは? ここ、気に入ってるんでしょ、なら私は大丈夫だよ」
「え、ほ、ほんとに?」
事故物件の噂のおかげで、ここがかなり安く手に入り、しかも内装やら調度品を一新するための費用も抑えられたことの方が、大事だった。
誰かが泣いている声がする。
ポチタマ? ドラゴンってあんな風に泣く? 違った。「鳴く」かな。
ということは、ポチタマじゃない?
クスン クスン
泣き声の陰で、何か言っているのが聞こえる。
クスン クスン …て、…か、だれか
耳をすまし、もっと良く声を聞こうとした。
「・・・ヌ、デルフィーヌ!」
激しく揺さぶられ、名前を呼ばれて目が覚めた。
「デルフィーヌ!」
『デルフィーヌ』
「ルウ・・ポチタマ?」
すぐ目の前にルウの顔があって、膝の上にはポチタマがいる。
「あれ? 私?」
何故か床に仰向けになっていて、ルウが背中に腕を回して上半身を助け起こされている。
「何があったの?」
「こっちが聞きたい。使者を送り返してここへ来たら、デルフィーヌが床に倒れていたんだ」
「倒れて? ポチタマが眠っているのを見ていたら、私も眠くなってきて、うたた寝しちゃってただけよ」
「ほ、本当に。眠っていただけ?」
「そうよ」
「でも、オレが軽く揺さぶって声を掛けても、すぐに目が覚めなくて・・」
「え? まさか・・」
熟睡はしていても、さすがに揺さぶられたら目が覚める。
『デルフィーヌ、ボクも何度も名前を呼んだよ』
「ポチタマ・・え、ほんとに?」
「デルフィーヌ、何があった?」
「えっと・・眠くなって、居眠りを始めて・・それから・・何か夢を見ていたような」
「夢?」
「うん。でも・・夢、だったのかな?」
「どんな夢?」
そう尋ねられて、眉間に指を当てて、目を瞑り考える。
「う~ん、えっとね。誰かが、泣いていたの。クスン、クスンって。女の子だったかな…最初ポチタマが泣いているのかって思ったの。何だか子どもの声だったから」
「子どもの声?」
「そう。でも、声だけで姿は見てない・・と思う。変な夢だよね」
自分で言っておきながら、我ながら脈絡もない話だと思い、にへらと笑った。
でも、ルウが酷く考え込んでいることに気づいた。
「ルウ?」
「ごめん」
「え、何?」
「どうしてルウが謝るの?」
わけがわからず俯くルウの顔を覗きこんだ。
「実はこの家、あれが出るって言われてるんだ」
「あれって?」
尋ねてはみたが、なんとなく嫌な予感がした。
あれ、とはもしかして。
「亡霊?」
「どうだろう。噂だけで実際は誰も見たことがない。オレはそういうの信じない性だから、気にしないで買ったんだけど、ベネデッタたちには馬鹿だと言われた。そんな家に住みたがる女性はいないって」
「えっと、誰か死んだの?」
所謂事故物件というやつか。
実際いくらしたかわからないけど、王都でこれだけの敷地でこの規模なら、相場で言えばかなりの額になるだろう。
「この家を買って使用人を募集したら、人が殺到したんだけど、場所がここだと聞いたら皆断ってきて、あの人数だ」
それで人が少ないのかと、妙に納得した。
「え、じゃあ、あの声…亡霊? 他にも亡霊の姿を見たり、声を聞いたりした人がいるの? そもそも何かここで事件でもあったの?」
「特に事件があったとは聞いていない。でも前の持ち主もその前の持ち主も、白い影を見たと言っていた」
「じゃあ、誰もはっきり見ていないの?」」
「そうらしい。でも噂はあったから、買い手も渋ったりしてなかなか売れなかった。オレに住んでもらえれば有り難いと、物件は殆どタダだった。内装や調度品を揃えるのに結構かかったけど、それも安くしてもらえたんだ」
「ふうん…」
事故物件の履歴を勇者が住むことで帳消しにする。犯罪で得た資金を、正当な手段で得たように見せかけるマネーロンダリング。これはマネーロンダリングならぬ、ルームロンダリングのようなものだろう。
「持ち主としては、タダ同然でも、誰も買い手がつかないよりはましだし、もしルウが手放しても勇者が住んでいたとなれば、価値は瀑上りだものね」
上手いことを考えたと思う。
亡霊騒ぎさえなければ、立地もいいしかなりの物件だ。
「やっぱり…いやか?」
「ルウは? ここ、気に入ってるんでしょ、なら私は大丈夫だよ」
「え、ほ、ほんとに?」
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