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第五章
⑧
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ルウの邸で働く使用人は、バトゥ夫妻の他は、ユーミア、マリ、シャーリィという侍女が三人、レイという名のフットマンの少年が一人、それから通いの料理人マックスという男性が一人。
我が家でも使用人は最低限しかいなかったが、この規模の邸にしては、かなり少ない気がした。
「オレしかいないからね」
皆を紹介してから、私の顔に浮かんだ疑問をルウが察して答えた。
「でも、皆、ここでもいいと言って、働いてくれている」
「あ、大丈夫よ。私は基本自分のことは一人で何でも出来るから。何なら皆のお手伝いもするわよ」
何だか含んだ言い方が気になったが、過剰な世話は必要ない。貧乏男爵家だし、前世でもそんなことをしてもらったことはないから、慣れている。
「デルフィーヌなら、そう言ってくれると思った。でも、彼らの仕事は取らないでやってよ。何でもデルフィーヌがしてしまったら、彼らも困るから」
「そうですよ。デルフィーヌ様、人数は少ないですが、その分、少数精鋭です。皆、デルフィーヌ様にお仕え出来ることを喜んでおります」
「それに、使う部屋も限られているしな」
「その、デルフィーヌ『様』は、やめて、そんな大層なものじゃないし」
「いえ、それはけじめです」
呼び方に関しては、話合う必要があるけど、それもおいおいでいいかと思った。
「えっと、それじゃあ、部屋はどこですか?」
「オレが案内する。行こうデルフィーヌ」
ルウが私の手を引く。こういうのは普通は使用人の仕事だが、この人数なら主人自らの案内も仕方ない。
第一、ルウ本人が私を案内したそうだ。
「部屋、気に入ってくれるといいな」
廊下に出て、階段に向かって歩いていく。
内装はシンプルで、ブレアル家を思い出させる。
「もっと豪華なのが良かった? オレとしては実家の雰囲気が好きだから、内装も似た感じにしたつもりだけど」
ルウが周りを見渡す私の視線を気にして言った。
「ううん、うちに似ているなぁと思ったけど、そうなんだ。大丈夫。あちこちに壷やら彫刻なんて飾ってたら、掃除も大変だもんね」
「一応、宝石やレアアイテムは宝物庫に全部放りこんであるんだ。纏めて管理したほうが効率的だから」
「え、宝石?」
「ダンジョンとかで見つけたのとか、魔物を倒して獲った魔石とか?」
そんなのもあるのか、と驚く。
これだけの邸を買うのだって、かなりの金額だっただろう。
一体、ルウはどれくらい持っているのか。
「こんな大きなお屋敷でなくても良かったのに。無理してない?」
維持費のことを考えると、会計管理士としては、つい無駄な経費はもったいないと感じてしまう。
「無理はしていない。まだまだお金には余裕がある。大型の強い魔物の魔石一つあれば、これくらいの邸は余裕だ」
「え、そんなものなの?」
ここは安かったと言っていたけど、かなり買い叩いたんじゃないだろうか。
話しているうちに、広い幅の階段を上がり三階にたどり着く。
「あっち側は義父達の部屋、そしてこっち側がオレたちの部屋だ」
ルウは右側を指差す。そっちが父たちのために用意した部屋らしい。
「一応、オレとデルフィーヌの部屋は続き部屋になってる」
「え?」
驚いてルウを見る。続き部屋ってことは、中で繋がってるってこと?
「オレは同じでいいかと思ったけど、一人でいる時も必要だしね。デルフィーヌが同じでいいなら…」
「別でいいわ。それより続き部屋ってどういうこと? そういうのは夫婦が…」
そう言いかけて、ルウが私と夫婦になることを望んでいるのだから、それも当然だと思い至った。
「ごめんなさい、そうよね。私達…」
「そういうこと、わかってくれた?」
項垂れた私の頭にルウがキスをする。
色々と目まぐるしくて、気持ちが追いつかない。
ルウの気持ちはわかっているのに、私の考えが至らなかったと反省する。
「ここがデルフィーヌの部屋、隣がオレ。でもどっちかに入り浸るかと思うけど」
それは毎晩するということ?
もうやることはやったのだから、今更恥ずかしがっても仕方がないが、やはり昼間からこんな話をされると照れてしまう。
『デルフィーヌ』
その時、側を飛んでいたポチタマに呼ばれた。
「あ、そうだ。ルウ、ポチタマ、もういいかな?」
「まあ、ここならいいだろう」
「ポチタマ、いいって」
私がそう言うと、ポチタマがすかさず姿を現した。
「ポチタマの寝る場所も用意しないとね。とりあえずはクッションとかでいいかな」
『ボク、デルフィーヌと一緒ならどこでもいいよ』
「向かいの部屋も空いている。こいつは別でいいだろ?」
ルウが私の部屋の向かい側を顎で示す。
「本当は馬小屋でもいいんだけど」
「だめよ。それだと馬が怯えてしまうわ」
犬や猫を室内飼いしている人は、一緒の部屋か、場合によっては同じベッドで寝る人もいる。
『ボク、この部屋がいい』
ポチタマが私に縋り付いてくるのを抱きとめる。
いきなり離れて寝るのは可哀想な気がする。
「ポチタマもここがいいって。とりあえず、今夜は構わない?」
上目遣いにルウを見上げる。
「じゃあ、こいつはここで。デルフィーヌはオレの部屋で寝るなら」
「え?」
「ここがいいんだろ? それならこの部屋はこいつが使えばいい。デルフィーヌはオレと一緒だな」
にんまりと笑って、「決まりだな」と、ルウが言った。
我が家でも使用人は最低限しかいなかったが、この規模の邸にしては、かなり少ない気がした。
「オレしかいないからね」
皆を紹介してから、私の顔に浮かんだ疑問をルウが察して答えた。
「でも、皆、ここでもいいと言って、働いてくれている」
「あ、大丈夫よ。私は基本自分のことは一人で何でも出来るから。何なら皆のお手伝いもするわよ」
何だか含んだ言い方が気になったが、過剰な世話は必要ない。貧乏男爵家だし、前世でもそんなことをしてもらったことはないから、慣れている。
「デルフィーヌなら、そう言ってくれると思った。でも、彼らの仕事は取らないでやってよ。何でもデルフィーヌがしてしまったら、彼らも困るから」
「そうですよ。デルフィーヌ様、人数は少ないですが、その分、少数精鋭です。皆、デルフィーヌ様にお仕え出来ることを喜んでおります」
「それに、使う部屋も限られているしな」
「その、デルフィーヌ『様』は、やめて、そんな大層なものじゃないし」
「いえ、それはけじめです」
呼び方に関しては、話合う必要があるけど、それもおいおいでいいかと思った。
「えっと、それじゃあ、部屋はどこですか?」
「オレが案内する。行こうデルフィーヌ」
ルウが私の手を引く。こういうのは普通は使用人の仕事だが、この人数なら主人自らの案内も仕方ない。
第一、ルウ本人が私を案内したそうだ。
「部屋、気に入ってくれるといいな」
廊下に出て、階段に向かって歩いていく。
内装はシンプルで、ブレアル家を思い出させる。
「もっと豪華なのが良かった? オレとしては実家の雰囲気が好きだから、内装も似た感じにしたつもりだけど」
ルウが周りを見渡す私の視線を気にして言った。
「ううん、うちに似ているなぁと思ったけど、そうなんだ。大丈夫。あちこちに壷やら彫刻なんて飾ってたら、掃除も大変だもんね」
「一応、宝石やレアアイテムは宝物庫に全部放りこんであるんだ。纏めて管理したほうが効率的だから」
「え、宝石?」
「ダンジョンとかで見つけたのとか、魔物を倒して獲った魔石とか?」
そんなのもあるのか、と驚く。
これだけの邸を買うのだって、かなりの金額だっただろう。
一体、ルウはどれくらい持っているのか。
「こんな大きなお屋敷でなくても良かったのに。無理してない?」
維持費のことを考えると、会計管理士としては、つい無駄な経費はもったいないと感じてしまう。
「無理はしていない。まだまだお金には余裕がある。大型の強い魔物の魔石一つあれば、これくらいの邸は余裕だ」
「え、そんなものなの?」
ここは安かったと言っていたけど、かなり買い叩いたんじゃないだろうか。
話しているうちに、広い幅の階段を上がり三階にたどり着く。
「あっち側は義父達の部屋、そしてこっち側がオレたちの部屋だ」
ルウは右側を指差す。そっちが父たちのために用意した部屋らしい。
「一応、オレとデルフィーヌの部屋は続き部屋になってる」
「え?」
驚いてルウを見る。続き部屋ってことは、中で繋がってるってこと?
「オレは同じでいいかと思ったけど、一人でいる時も必要だしね。デルフィーヌが同じでいいなら…」
「別でいいわ。それより続き部屋ってどういうこと? そういうのは夫婦が…」
そう言いかけて、ルウが私と夫婦になることを望んでいるのだから、それも当然だと思い至った。
「ごめんなさい、そうよね。私達…」
「そういうこと、わかってくれた?」
項垂れた私の頭にルウがキスをする。
色々と目まぐるしくて、気持ちが追いつかない。
ルウの気持ちはわかっているのに、私の考えが至らなかったと反省する。
「ここがデルフィーヌの部屋、隣がオレ。でもどっちかに入り浸るかと思うけど」
それは毎晩するということ?
もうやることはやったのだから、今更恥ずかしがっても仕方がないが、やはり昼間からこんな話をされると照れてしまう。
『デルフィーヌ』
その時、側を飛んでいたポチタマに呼ばれた。
「あ、そうだ。ルウ、ポチタマ、もういいかな?」
「まあ、ここならいいだろう」
「ポチタマ、いいって」
私がそう言うと、ポチタマがすかさず姿を現した。
「ポチタマの寝る場所も用意しないとね。とりあえずはクッションとかでいいかな」
『ボク、デルフィーヌと一緒ならどこでもいいよ』
「向かいの部屋も空いている。こいつは別でいいだろ?」
ルウが私の部屋の向かい側を顎で示す。
「本当は馬小屋でもいいんだけど」
「だめよ。それだと馬が怯えてしまうわ」
犬や猫を室内飼いしている人は、一緒の部屋か、場合によっては同じベッドで寝る人もいる。
『ボク、この部屋がいい』
ポチタマが私に縋り付いてくるのを抱きとめる。
いきなり離れて寝るのは可哀想な気がする。
「ポチタマもここがいいって。とりあえず、今夜は構わない?」
上目遣いにルウを見上げる。
「じゃあ、こいつはここで。デルフィーヌはオレの部屋で寝るなら」
「え?」
「ここがいいんだろ? それならこの部屋はこいつが使えばいい。デルフィーヌはオレと一緒だな」
にんまりと笑って、「決まりだな」と、ルウが言った。
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