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第五章
⑤
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王都に近づくにつれ、その広大さに驚いた。
さすが国の首都なだけある。
広さは東京都がすっぽり入るくらいだろうか。
都の中には、大小様々な大きさの建物があったが、所々、森らしきものも見える。都会のオアシスとでも言おうか、都市整備がされているのが見て取れる。
「王都は王宮を中心に四つに区切られていて、東区、西区、北区、南区に分かれている。東区は貴族の屋敷があって、南区は商業区で商人の屋敷もある。北区は職人街で西区は役所なんかがある。南区に商業ギルド、北区は職人ギルド、冒険者ギルドも商業ギルド内にある」
きちんと目的別に分かれているのは、都市計画がされているからだろう。
「農地は都の外にある。城壁の向こう、東側を大河が流れていて土地も肥沃なんだ」
ルウのいった通り、私達が越えてきた山脈から流れ出た水が川となり、大河となっている。そこからいくつも支流が流れていて、広大な畑が広がっている。
「ルウの家はどの区?」
「オレの家は東区と南区の境辺りだ」
ここからは城壁に阻まれて、ひときわ高くそびえる王宮しか見えない。
どこか地球で見た世界遺産の街並みに似て、歴史ある建物が並ぶ王都。
大理石で造られた王宮の壁が陽光を受けて、キラキラと輝いている。
王都へと続く街道には、たくさんの幌馬車や荷馬車が列をなして並んでいる。
その上を翼竜が飛び、影を落としている。
かなり上空を飛んでいるので、人は豆粒ほどにしか見えない。
城壁はかなり高く、某漫画に出てくる巨人でも手が届かないだろう。
キイイン
「え?」
一瞬、楽器のトライアングルが鳴り響いたような、高い音が聞こえた。耳鳴りだろうかと小首を傾げた。
「気がついた? 今、王都の結界を通り抜けた」
「今のが?」
「そうだ。誰にでも聞こえるものじゃないみたいだけど」
「え、そうなの? なんか、金属が擦れるような音だったけど」
「結界というのは、見えない結界の壁が、薄いベールのように張り巡らされているようなものだ。外界と中を隔てたベールに触れると、音がなる」
「そうなんだ」
「力のある者が見たら、透明の膜みたいなものが見えるらしい。その膜にすっぽり王都は包まれている。王宮の周りには、別にもうひとつ結界が張り巡らされている。万が一王都の結界が破壊されても、王宮は護られるというわけだ」
「それって、王都は滅んでも王宮は最後まで護られるってこと?」
「そういうことになるな」
これだけ大きな都市に住む全員が、王宮に入れるわけではない。
もし王都の結界が破られて攻撃されたとしたら、人々はどこに逃げればいいのだろう。
そんなことは起こらないから、想定していないのかも知れないが、例えば災害時に、どこに避難すればいいかと指定されても、必ずしもそこに全員が入ることはできない。
避難する人たちに対して、指定避難所の収容人数は圧倒的に足りないことになる。
「小を生かすために、大を犠牲にする。よくあることだ」
「大を生かすために小を、じゃないの?」
そういう諺みたいなのがあった。
どうしてもやむをえない時には、大きなものを救うために、小さなものを犠牲にするということのたとえだ。
でも、ルウの言葉はその真逆だ。
「人の命は平等じゃない。王族を助けるためには、何人の平民が犠牲になっても仕方がない。そういうものだ」
人を殺せば等しく法のもとに裁かれるのは、法治国家だったから。
王族貴族一人の命は、平民数人分の命より尊いもの。
そう考える人もいるのが、この世界の現実だ。
今もどこかに奴隷もいて、人が人として扱われないところもあると聞く。
王都の家々の上空を翼竜が進み、やがてある庭に舞い降りた。
「我が家へようこそ」
「え、ここ?」
目の前には、立派な三階建ての屋敷があった。
ブレアル家は、二階建てでせいぜい五部屋の個室と、厨房と食堂しかない。
でもここは、窓の数から数えても何部屋あるか、まるで見当がつかない。
「我が家より少し大きい程度って、言ってなかった?」
「うん、だから大きいだろ?」
「大きい…どころじゃないわよ。もうお城じゃない」
庭も広くて、手入れをするのに一体何人必要なんだろう。
『でっけー』
ポチタマが姿を消したまま、パタパタと飛んだ。
『ねえねえ、ここがデルフィーヌのお家?』
グルグルと私の周りを旋回しながら、ポチタマが聞いてくる。
「私のお家じゃなくて、ルウ…ルドウィックのお家だよ」
「何言ってるんだ? ここはオレたちの家だろ?」
私がポチタマに言った言葉を聞いて、ルウが耳打ちしてきた。
「オレたち、オレとデルフィーヌ、夫婦で住むんだから」
「え、夫婦?」
いきなりの単語に驚いた。
「え? その…私とルウが、夫婦?」
「好きだ」と告白されて、セックスもして、普通なら結婚も考えるだろうが、それより先に既に私とルウは家族だったから、なぜかこのままの関係でいるんだろうなと、思っていた。
何しろ、前世ではプロポーズもされたことがなかったから。
さすが国の首都なだけある。
広さは東京都がすっぽり入るくらいだろうか。
都の中には、大小様々な大きさの建物があったが、所々、森らしきものも見える。都会のオアシスとでも言おうか、都市整備がされているのが見て取れる。
「王都は王宮を中心に四つに区切られていて、東区、西区、北区、南区に分かれている。東区は貴族の屋敷があって、南区は商業区で商人の屋敷もある。北区は職人街で西区は役所なんかがある。南区に商業ギルド、北区は職人ギルド、冒険者ギルドも商業ギルド内にある」
きちんと目的別に分かれているのは、都市計画がされているからだろう。
「農地は都の外にある。城壁の向こう、東側を大河が流れていて土地も肥沃なんだ」
ルウのいった通り、私達が越えてきた山脈から流れ出た水が川となり、大河となっている。そこからいくつも支流が流れていて、広大な畑が広がっている。
「ルウの家はどの区?」
「オレの家は東区と南区の境辺りだ」
ここからは城壁に阻まれて、ひときわ高くそびえる王宮しか見えない。
どこか地球で見た世界遺産の街並みに似て、歴史ある建物が並ぶ王都。
大理石で造られた王宮の壁が陽光を受けて、キラキラと輝いている。
王都へと続く街道には、たくさんの幌馬車や荷馬車が列をなして並んでいる。
その上を翼竜が飛び、影を落としている。
かなり上空を飛んでいるので、人は豆粒ほどにしか見えない。
城壁はかなり高く、某漫画に出てくる巨人でも手が届かないだろう。
キイイン
「え?」
一瞬、楽器のトライアングルが鳴り響いたような、高い音が聞こえた。耳鳴りだろうかと小首を傾げた。
「気がついた? 今、王都の結界を通り抜けた」
「今のが?」
「そうだ。誰にでも聞こえるものじゃないみたいだけど」
「え、そうなの? なんか、金属が擦れるような音だったけど」
「結界というのは、見えない結界の壁が、薄いベールのように張り巡らされているようなものだ。外界と中を隔てたベールに触れると、音がなる」
「そうなんだ」
「力のある者が見たら、透明の膜みたいなものが見えるらしい。その膜にすっぽり王都は包まれている。王宮の周りには、別にもうひとつ結界が張り巡らされている。万が一王都の結界が破壊されても、王宮は護られるというわけだ」
「それって、王都は滅んでも王宮は最後まで護られるってこと?」
「そういうことになるな」
これだけ大きな都市に住む全員が、王宮に入れるわけではない。
もし王都の結界が破られて攻撃されたとしたら、人々はどこに逃げればいいのだろう。
そんなことは起こらないから、想定していないのかも知れないが、例えば災害時に、どこに避難すればいいかと指定されても、必ずしもそこに全員が入ることはできない。
避難する人たちに対して、指定避難所の収容人数は圧倒的に足りないことになる。
「小を生かすために、大を犠牲にする。よくあることだ」
「大を生かすために小を、じゃないの?」
そういう諺みたいなのがあった。
どうしてもやむをえない時には、大きなものを救うために、小さなものを犠牲にするということのたとえだ。
でも、ルウの言葉はその真逆だ。
「人の命は平等じゃない。王族を助けるためには、何人の平民が犠牲になっても仕方がない。そういうものだ」
人を殺せば等しく法のもとに裁かれるのは、法治国家だったから。
王族貴族一人の命は、平民数人分の命より尊いもの。
そう考える人もいるのが、この世界の現実だ。
今もどこかに奴隷もいて、人が人として扱われないところもあると聞く。
王都の家々の上空を翼竜が進み、やがてある庭に舞い降りた。
「我が家へようこそ」
「え、ここ?」
目の前には、立派な三階建ての屋敷があった。
ブレアル家は、二階建てでせいぜい五部屋の個室と、厨房と食堂しかない。
でもここは、窓の数から数えても何部屋あるか、まるで見当がつかない。
「我が家より少し大きい程度って、言ってなかった?」
「うん、だから大きいだろ?」
「大きい…どころじゃないわよ。もうお城じゃない」
庭も広くて、手入れをするのに一体何人必要なんだろう。
『でっけー』
ポチタマが姿を消したまま、パタパタと飛んだ。
『ねえねえ、ここがデルフィーヌのお家?』
グルグルと私の周りを旋回しながら、ポチタマが聞いてくる。
「私のお家じゃなくて、ルウ…ルドウィックのお家だよ」
「何言ってるんだ? ここはオレたちの家だろ?」
私がポチタマに言った言葉を聞いて、ルウが耳打ちしてきた。
「オレたち、オレとデルフィーヌ、夫婦で住むんだから」
「え、夫婦?」
いきなりの単語に驚いた。
「え? その…私とルウが、夫婦?」
「好きだ」と告白されて、セックスもして、普通なら結婚も考えるだろうが、それより先に既に私とルウは家族だったから、なぜかこのままの関係でいるんだろうなと、思っていた。
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