【R18】勇者の姉は究極のモブではなかったんですか?

七夜かなた

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第五章

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 私が男の人たちにとって獲物とか、危機意識がないとか。ルウの言うことには納得いかなかったが、私達はとりあえず近くの街へ降りて食事を済ませることにした。

 人目につくので私が一人で買い物に行き、ルウとポチタマには街の外で待機してもらった。

 二人(一人と一匹?)だけにするのには不安があったが、ルウの顔は似顔絵が出回っているせいで知られている。勇者の来訪で大騒ぎになるのもまた避けたかった。

 パンと串焼き、それから干し肉を慌てて買い込んでルウ達が待つ場所へと戻った。

「お待たせ、ルウ、ポチタマ」

 私が戻ると、彼らは喧嘩はしていなかったが、仲良くもしていなかった。
 
「こんなものでごめんね。もっと色々あったら良かったんだけど、味がいまいちっぽかったから」
「構わない。デルフィーヌが頑張って買ってきてくれたんだ。十分だよ。ご馳走は、また後の楽しみに取っておくことにする」
『ボクはデルフィーヌがくれるものなら、何でもいい』
「そう言ってくれて嬉しい」

 ルウとポチタマが仲良くなるのは難しくても、それぞれ私を気遣ってくれているので、意外とうまく行く気がした。

 買ってきたものをあっという間に平らると、私達は再び王都へと出発した。

「そう言えば、ルウ、家を買ったって言ってたよね」
「ああ、ちょっと都の中心地から離れた場所だけど、いい物件があったから」
「どんな家?」
「我が家より少し大きいかな、前に住んでいた人の趣味でちょっとだけど、その分安かったし、もしデルフィーヌが気に入らなければ、改装してもいいし」
?」
「まあ、見ればわかる」
「ふうん」

 あれってなんだろう?

「でも、ルウが好きならそのままでもいいし、ちゃんと住めるなら改装なんて必要ないと思うけど」

 どっちにしろ、ブレアル家をいつまでも留守にするわけにはいかないし、王都でそんなに長居するつもりもない。

 今回の王都訪問は祝賀会に参加するためだけど、これから頻繁に王都へ来るなら、王都に家があった方がいちいち宿を取るより効率的だとは思う。

 でも、私がそんなに滅多に王都へ来ることはないのだから、私の意見など必要ないだろう。

「え?」

 そのことを伝えると、ルウは意外そうな顔をした。

「え?」
「どうして? そりゃあ、義父様たちはそうだろうけど、デルフィーヌはこれからもずっとオレの側にいてくれるんじゃないの? だって、オレたちは…け」
「け?」

 言葉を切って、ルウは言葉を飲み飲む。

「何?」
「いや、な、何でもない」
「変なの」

 何か言いたそうなのに、ルウはそれ以上何も言わない。

「そろそろ王都に着く」

 高い山をひとつ越えると、遠くに城壁に囲まれた街並みが見えてきた。

 上から見ると四方から大きな道が延びていて、王都へ向かう人、はたまた王都から出ていく人たちが点になって見える。

「すごく大きい。さすが王都ね」

 城壁の周りを取り囲むようにして、いくつかの集落が点在しているのが見える。そしてその周りにも塀が巡らされている。

「城壁の中は、土地が限られているし、土地代も高いから、平民の多くは外に住んでいるんだ」

 大都市で働く人たちが住むベッドタウンのようなものだろう。
 日本でも郊外に家を持ち、毎日一時間以上かけて大都市通勤する人たちもいたし、外国でもマレーシアからシンガポールへ通勤する人たちもいた。
 
「ポチタマはそろそろ姿を消した方がいい?」
「そうだな。あと、言い忘れていたけど、王都の城壁の周りは結界が張ってある。魔物なんかの攻撃を防ぐためだ」
「え、大丈夫なの?」

 確かに王様達が住んでいる王都なら、それくらいの用心は必要だろう。
 魔法を使える者自体が貴重なので、どこでも出来ることではない。
 オークレールのような田舎町では、出来ないことだ。
 でも、魔物の侵入を防ぐための結界なんて、ポチタマは確実に引っかかるのでは?

「この翼竜の首輪には、その結界に触れても反応しない魔石が嵌められている。だから翼竜に乗っているうちは大丈夫だ」
「そうなんだ」
「でも今後のこともあるから、冒険者ギルドで従魔登録した方がいいかも」
「でも、ドラゴンなんて、騒ぎになったりしない?」
「うん、だから、普通に窓口では無理だろうな。でも、大丈夫。ギルド長のバッカスもオレのパーティの一人だから、何とかなる」
 
 ルウの「大丈夫」は、本当に大丈夫に聞こえるから不思議だ。私の知らない人脈。私の知らないルウの仲間。二年半の間のルウの人生がそこに感じられた。

「何? 惚れ直した?」
 
 振り返ってまじまじとルウを見つめる私に、冗談めかしてルウが言った。

「そうだね。ルウが凄いことはわかったわ」

 もともとハイスペックの勇者に、凄い人脈が加われば、もうそれは無敵ではないだろうか。

 でもそう思っているのは、きっと私だけじゃない。
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