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第五章
①
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勇者の旅立ちを見送るモブの姉として転生した私は、この世界で生きているうちに身につけたのは、狩りの腕だけだと思っていた。
経理の知識は公認会計士として生きてきた前世のものだし、他には何の力も取り柄もなかった…はず。
ここにきてドラゴンテイマーだとかの能力が開眼し、それだけでも驚きなのに、まだ何かあるのだろうか。
「モブ…だったんじゃ…」
「え?」
「あ、な、なんでもない。それって、ただのルウの思い過ごしとかでしょ」
「そうかも知れないけど、何かあるのと考えたら、色々合点がいくんだ。オレの力は戦いの時以外は封印していて、でないと、扉や机とか食器とか軽く触れただけで粉々になってしまうんだ」
「え、そうなの?」
「扉を開けようとしたら、壁から剥がれるし、手を着いただけで机は粉砕するし、軽く押しただけで相手は吹っ飛んで骨折するしさ、おまけに食事だって力を抑えとかないと、自分で持って食べられないから、力を抑える訓練中は、食べさせてもらったんだ」
「へ、へえ…大変だね」
「だろ? おまけにメイドたちがオレの世話をしたがって喧嘩になるから、食べさせてくれるのは男ばっかりでさ、デルフィーヌだと思って目を瞑ってないと、やってられなかったよ」
しみじみと悲しげに語るルウには悪いが、その光景を想像してちょっと笑ってしまった。
「でも、デルフィーヌの側にいると、不思議なんだけど、気を張りつめなくても、力が抑えられている気がする。自分でやってた時も、デルフィーヌのことを思って何回も出したけど、こんなことはなかった。デルフィーヌの中に出した時みたいな、あんな爽快感は他にない」
「ちょっと、ルウ、ポチタマが聞いてる」
夜の夫婦生活の話を子供に聞かれそうになって、慌てているみたいになる。
「たとえ契約者でも、オレとデルフィーヌとの関係とは違うことを、理解させたほうがいい。デルフィーヌを啼かせられるのは、オレだけだから」
近づいて耳元で囁くついでに、腰のあたりを撫でてくる。
「それで、力はどうやって抑えるの? ポチタマもできる?」
その手をパチンと叩いてから、力を抑える方法について、教えてもらおうと尋ねた。
「抑えるのは簡単だけど、維持するのが大変なんだ。ちょっと気を許すとタガが外れたみたいに、放出してしまうから。オレも闘技場を崩壊させたことがある」
「そ、それは…すごいね」
最早人のレベルではない。
『ボクはドラゴンだぞ、出来ないことはない』
胸を突き出して得意げにポチタマが言い切った。
「出来るって言っているけど、大丈夫?」
「自信を持つのはいいことだが、そこまで言い切ると、出来なかった時に恥をかくぞ」
「またそんな意地悪を言う」
「本当のことだ」
「わかったわ。とにかく、力を抑える方法というのを教えて」
ルウとポチタマの関係は、共に時間を過ごしていくうちに、互いの良いところを見つけて理解するしかない。
「魔物もそうだが、一定以上に強くなると、体に覇気という強い気を纏うようになる。獣は特にその覇気の強さで相手の力量を測る」
ルウは自分のお腹の辺りに手を当てる。
「今のこいつは、ガラスの器の中に凶暴な本性を収めているようなもの。外から中身が丸見えになっている。それを見えない容器に入れて隠せばいい」
「理屈はわかるけど、どうやるの?」
「ここ、お腹の辺りに意識を向けて、外から見えない箱に自分の力を注ぐように想像する。できるか?」
ルウの言った通りに説明する。
卵から孵ってから、ルウとは険悪になっているポチタマだが、このときばかりは素直にルウの言うことを聞いていた。
「まだだ。力を無理矢理中に押し込めるんじゃない。そんなことをしたら、暴発する。丁寧に折り畳むようにして、力を封じ込めるんだ。あ、こら、言うことを聞け!」
ポチタマは存外に雑な性分のようで、なかなかルウの言うようには出来なかった。
無理矢理押さえつけようとして、逆に力が溢れたりして、竜の気に当てられたのか、近くの森から一斉に鳥が飛び立った。
そんなポチタマの失敗を嘲笑うかと思っていたルウが、意外にそんなことはなく、私を通訳にして何度も説明してやっていた。
ルウとポチタマが仲良くしているのを見て、私は何だかほっこりとした気持ちになった。
まるでキャッチボールやドリブルをする、父と息子みたいだと思った。
経理の知識は公認会計士として生きてきた前世のものだし、他には何の力も取り柄もなかった…はず。
ここにきてドラゴンテイマーだとかの能力が開眼し、それだけでも驚きなのに、まだ何かあるのだろうか。
「モブ…だったんじゃ…」
「え?」
「あ、な、なんでもない。それって、ただのルウの思い過ごしとかでしょ」
「そうかも知れないけど、何かあるのと考えたら、色々合点がいくんだ。オレの力は戦いの時以外は封印していて、でないと、扉や机とか食器とか軽く触れただけで粉々になってしまうんだ」
「え、そうなの?」
「扉を開けようとしたら、壁から剥がれるし、手を着いただけで机は粉砕するし、軽く押しただけで相手は吹っ飛んで骨折するしさ、おまけに食事だって力を抑えとかないと、自分で持って食べられないから、力を抑える訓練中は、食べさせてもらったんだ」
「へ、へえ…大変だね」
「だろ? おまけにメイドたちがオレの世話をしたがって喧嘩になるから、食べさせてくれるのは男ばっかりでさ、デルフィーヌだと思って目を瞑ってないと、やってられなかったよ」
しみじみと悲しげに語るルウには悪いが、その光景を想像してちょっと笑ってしまった。
「でも、デルフィーヌの側にいると、不思議なんだけど、気を張りつめなくても、力が抑えられている気がする。自分でやってた時も、デルフィーヌのことを思って何回も出したけど、こんなことはなかった。デルフィーヌの中に出した時みたいな、あんな爽快感は他にない」
「ちょっと、ルウ、ポチタマが聞いてる」
夜の夫婦生活の話を子供に聞かれそうになって、慌てているみたいになる。
「たとえ契約者でも、オレとデルフィーヌとの関係とは違うことを、理解させたほうがいい。デルフィーヌを啼かせられるのは、オレだけだから」
近づいて耳元で囁くついでに、腰のあたりを撫でてくる。
「それで、力はどうやって抑えるの? ポチタマもできる?」
その手をパチンと叩いてから、力を抑える方法について、教えてもらおうと尋ねた。
「抑えるのは簡単だけど、維持するのが大変なんだ。ちょっと気を許すとタガが外れたみたいに、放出してしまうから。オレも闘技場を崩壊させたことがある」
「そ、それは…すごいね」
最早人のレベルではない。
『ボクはドラゴンだぞ、出来ないことはない』
胸を突き出して得意げにポチタマが言い切った。
「出来るって言っているけど、大丈夫?」
「自信を持つのはいいことだが、そこまで言い切ると、出来なかった時に恥をかくぞ」
「またそんな意地悪を言う」
「本当のことだ」
「わかったわ。とにかく、力を抑える方法というのを教えて」
ルウとポチタマの関係は、共に時間を過ごしていくうちに、互いの良いところを見つけて理解するしかない。
「魔物もそうだが、一定以上に強くなると、体に覇気という強い気を纏うようになる。獣は特にその覇気の強さで相手の力量を測る」
ルウは自分のお腹の辺りに手を当てる。
「今のこいつは、ガラスの器の中に凶暴な本性を収めているようなもの。外から中身が丸見えになっている。それを見えない容器に入れて隠せばいい」
「理屈はわかるけど、どうやるの?」
「ここ、お腹の辺りに意識を向けて、外から見えない箱に自分の力を注ぐように想像する。できるか?」
ルウの言った通りに説明する。
卵から孵ってから、ルウとは険悪になっているポチタマだが、このときばかりは素直にルウの言うことを聞いていた。
「まだだ。力を無理矢理中に押し込めるんじゃない。そんなことをしたら、暴発する。丁寧に折り畳むようにして、力を封じ込めるんだ。あ、こら、言うことを聞け!」
ポチタマは存外に雑な性分のようで、なかなかルウの言うようには出来なかった。
無理矢理押さえつけようとして、逆に力が溢れたりして、竜の気に当てられたのか、近くの森から一斉に鳥が飛び立った。
そんなポチタマの失敗を嘲笑うかと思っていたルウが、意外にそんなことはなく、私を通訳にして何度も説明してやっていた。
ルウとポチタマが仲良くしているのを見て、私は何だかほっこりとした気持ちになった。
まるでキャッチボールやドリブルをする、父と息子みたいだと思った。
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