【R18】勇者の姉は究極のモブではなかったんですか?

七夜かなた

文字の大きさ
上 下
38 / 65
第四章

しおりを挟む
「ドラゴン・・テイマー?」
「そうだ。普通に魔物を従え使役するテイマーと違い、竜を使役するのがドラゴンテイマーだ」
「それが、私?」

 元のベッドを置いてある場所に戻り、そこに座ってルウの話を聞く。
 膝の上にはポチタマがスウスウと寝息を立てながら寝ている。
 
 あの後、ポチタマはルウに噛みついたまま、なかなか離そうとしなかった。

「それくらいで離してあげて。ルウも大人げないわよ」

 見かねた私が一人と一匹に声を掛けると、彼らはピタリと動きを止めて、ポチタマはルウの腕から牙を抜き、ルウは恨みがましい目でポチタマを睨みながら自分の腕に回復魔法をかけた。

『デルフィーヌ』

 ポチタマはまだ弱々しい羽を羽ばたかせながら、よたよたと私の胸に飛び込んできた。

「お前、性懲りも無くデルフィーヌに抱きついて」

 憎々しげにポチタマを睨み付ける。

「もう、ルウ。大人げないわよ」
『そうだ。大人のくせに』

 ポチタマも私の言葉に便乗してルウを馬鹿にする。

「何を言っているかわからないが、馬鹿にされているのはわかる」
「え、ルウはこの子が何を言っているのかわからないの?」
「オレには相変わらず『グルグル』とか『ガウガウ』としか聞こえない。デルフィーヌには違うんだな?」

「え、うん。ちゃんと聞こえるよ。ねえ、『助けて』って言ったのはあなた?」
『うん。ボクね。卵から出たかったのに、とても硬くて、どんなに頑張っても出られなかったの。だからずっと誰かが助けてくれるのを待ってたの』

 パタパタと尻尾を振りながら、ポチタマは言った。

『デルフィーヌが来てくれてうれしい。ボクね、デルフィーヌが大好き。ずっと真っ暗なところに閉じ込められて寂しかったんだ。でもデルフィーヌに名前をもらってデルフィーヌの傍にいられて、もう寂しくないよ』
「えっと、あなた・・お父さんとかお母さんは?」
『お父さん? お母さん? 何それ? ボクはデルフィーヌのものだよ』

 どうやらここに卵のまま放置されていて、自分の親が誰かまではわからないらしい。

「一応、竜にも孤児ってあるのかな」
「竜の生態はよく分かっていない。近いところで翼竜の生態からおおよその見当はつくけど、人間だって血は繋がっていても希薄な関係もあるからね。そのあたりはオレたちの思うような親子の絆というものが少ないのかも知れない」
「竜って、何を食べるんだろ」
『ボク何でも食べるよ。デルフィーヌがくれるものなら、何でも好き』
「なんでもって・・じゃあ、私と同じものとかで、いいのかな」
『うん。デルフィーヌ、ボクに名前をくれてありがとう』
「よろしくね、ポチタマ」

 どれくらいの期間、卵から孵ろうとして頑張っていたのかわからないが、すっかり疲れてポチタマはすぐに寝てしまった。

 そして私はルウからドラゴンテイマーの話を聞かされたのだった。

「テイマー・・ねえ」

「暗黒竜と双剣の勇者」の世界で、勇者の姉としてモブだと思っていた自分に、まさかそんな力があったとは思わなかった。

「でも、それって私がもっと早くにこの力に目覚めていたら、暗黒竜も殺さなくて良かったのかな」

 そんなことになったら、双剣の勇者として讃えられるルウの存在意義が無くなってしまう。
 ストーリーの展開どおり、ルウは暗黒竜を倒した。
 そして勇者として地位と名声を手に入れた。

「それは仕方が無い。そんな能力があるなんて知らなかったんだから。それに、この『ポチタマ』がテイムできても、暗黒竜を同じように出来たかどうかはわからない。もしかしたらテイム出来ずに、殺されていたかもしれないんだ」

 ぎゅっと私の手を握り、もし私が死んでしまったらと想像したのか、ルウは青い顔をした。

「デルフィーヌが強いことは知っている。オレには負けるが狩りの腕だっていい。でも、そんなことは関係なく、オレはデルフィーヌが好きだ。何の力がなくても」
「ルウ」
「オレの手でデルフィーヌを甘やかしたい。もっとオレなしで生きられないように、グズグズに蕩けさせて、オレの体の下で喘いで啼く姿が見たい」
「ん?」

 最初感動の告白だったのが、次第にあっち方面に方向転換されていく。

「駄目よルウ。ポチタマが起きちゃう」
「忌々しい。デルフィーヌはそいつとオレ、どっちが大事なの?」
「は? 何を言っているのよ」

 私と仕事どっちが大事、と聞いてくる彼女みたいなルウの言葉に呆れる。

「この子とルウを天秤に掛けるなんてできないわ。この子は、この子でルウはルウよ」

 どっちも大事だし、大事の意味が違う。

「オレって、デルフィーヌにとって何? オレにとってデルフィーヌは全てだよ」

 肩を引き寄せ、ルウの唇が頭や額、瞼や頬に触れる。ルウにとって今のところ私が一番なのはその言動から伝わってくる。
 そんなルウの想いに応えるため、私は膝の上のポチタマを起こさないように、そっと腰を捻ってルウの頬に触れる。

「私にとってもルウは特別よ。何とも思っていない相手に抱かれて、あんな風に乱れたりしない。ルウのことは大事に思っているわ」
「デルフィーヌ。うれしい」

 ポチタマもそうだが、私の言動に一喜一憂しているルウを見ると、ルウがどれだけ私のことを大事に思ってくれているのかがわかる。

(こんなご褒美あっていいのかな)

 前世では特に何か良いことをした記憶も無い。
 なのに、こんな風に重たいほどの愛情を向けられて、悪い気はしない。人生何の特典かと思った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

竜王の花嫁は番じゃない。

豆狸
恋愛
「……だから申し上げましたのに。私は貴方の番(つがい)などではないと。私はなんの衝動も感じていないと。私には……愛する婚約者がいるのだと……」 シンシアの瞳に涙はない。もう涸れ果ててしまっているのだ。 ──番じゃないと叫んでも聞いてもらえなかった花嫁の話です。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。 そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。 だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。 そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。

お腹の子と一緒に逃げたところ、結局お腹の子の父親に捕まりました。

下菊みこと
恋愛
逃げたけど逃げ切れなかったお話。 またはチャラ男だと思ってたらヤンデレだったお話。 あるいは今度こそ幸せ家族になるお話。 ご都合主義の多分ハッピーエンド? 小説家になろう様でも投稿しています。

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。 だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。 その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

娼館で元夫と再会しました

無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。 しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。 連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。 「シーク様…」 どうして貴方がここに? 元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!

処理中です...