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第四章

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 ゴホン、と咳払いして動揺を隠す。

「それで、この子どうしたらいいと思う?」
「暗黒竜の子どもなら、この子もいずれ世界の脅威になるかもしれない。このままにはしておけないだろう」
「え、こんなに可愛いのに?」

 すっかり赤ちゃん竜の可愛さに絆された私は、ルウの言葉に驚愕した。

「まだ暗黒竜の子どもだって決まったわけじゃないし、そうだとしても親は親で、この子は関係ないでしょ」
「オレにはオレからデルフィーヌを奪う奴に変わりない」

 もう一度ルウが赤ちゃん竜に手を伸ばすと、相変わらず唸ってその手に噛みつこうとする。

「こいつ、オレに敵対心を燃やしているみたいだ」
「もう、今生まれたばかりの赤ちゃんが、そんなことあるわけないでしょ。ルウの考えすぎ」
「そうかな。こういうのは、似たもの同士で通じ合うんだ」
「ルウとこの子が、似たもの同士?」

 ルウの私に対する執着が、少し行き過ぎるのは、再会してからのルウの言動でわかる。
 でも赤ちゃん竜と似たもの同士というのはどうだろうか。

「それより、さっき聞こえた声って、今でもするの?」
「え、あれ、そう言えば今は聞こえない」

「キュウ」

 ルウに問われて小首を傾げると、赤ちゃん竜も同じように小首を傾げる。私の仕草を真似する様子が可愛くて、思わず微笑んで頭を撫でた。

「なんでデルフィーヌにそんなに懐いているのかな」
「さあ? あ、でも刷込みってあるじゃない。それかも」

 卵から孵って、初めて見たものを親だと思う習性を聞いたことがある。

「なら、どうしてオレには敵意剥き出しなんだ? オレも一緒だろ?」
「ルウの方が敵意を見せているじゃない」
「それは・・」

 ツイツイと赤ちゃん竜は、私の腕を前足で突いて、じっと私の方を見つめる。
 何か言いたいことがありそうに感じるのは、気のせいだろうか。

「何か言いたいことでもあるのかな? でもごめん。私は言葉が・・」

 そう言うと、何だか悲しそうに項垂れる。私の言葉の意味を理解しているのだろうか。
 まさかと思いながらも、そんな気がしてならない。

「ねえ、ルウ。竜って人の言葉がわかるのかしら? あなた、翼竜を卵から育ててるじゃない?」
「さあ。ある程度意思の疎通は出来るだろうが、それは馬とかも同じだ。こちらが愛情を掛けてやれば、動物はちゃんと返してくれる。だが、デルフィーヌが言っているのは、人語を理解できるのかってことだろ?」
「そうよ」
「竜というのは翼竜よりずっと頭がいい。可能性はあるだろうが、竜と実際に話したことがある者はいない。テイマーはいるが、竜と話すほどの能力は・・」
「ルウ?」

 何かに気づいたのか、ルウは急に黙ってじっと考え込む。

「さっきの声」
「え?」
「『助けて』という声は、ここから聞こえた?」
「えっと・・どうだろう。ここから聞こえたと思ったけど、今は聞こえないし」

 今は聞こえない声。もしかしたら私の幻聴かもしれないと思い始めている。

「ねえ、デルフィーヌ。その竜の赤ん坊に、何か名前を付けて」
「え? 名前」

 不意にそう言われて、ルウから赤ちゃん竜に視線を移す。

「そう、名前。何でもいい。デルフィーヌがその竜を見てイメージした名前を呼んでみて」
「そ、そんなこと急に言われても・・」

 前世でも生き物は飼ったことがない。飼いたいと思ったが、きちんと世話が出来るかと不安だったし、母親が動物嫌いだった。
 だから友達の家に遊びに行った時、友達が飼っている犬や猫を可愛がった。

「名前・・」

 犬ならシロとかだろうか。タロウか、ポチ? 猫なら何だろう。ミケとかタマ? 和風か洋風か。もっと洒落た名前もある。

「キュウウウウ?」

 赤ちゃん竜は、何かを期待するかのように私の方を見つめてくる。
 その瞳と見合って、不意に頭の中に浮かび上がった言葉があった。

「ポチタマ」

 その瞬間、赤ちゃん竜の体が目映い光に包まれた。
 眩しさに顔を背けて目を閉じた。

「デルフィーヌ」

 ルウが私の肩を掴んで、庇うように私を抱きしめた。

「い、いてて。こいつ」

 私を抱きしめるルウが、声をあげる。

「ルウ?」

 目を開けてルウの腕の中から顔を上げると、ルウの腕をガジガジと囓る赤ちゃん竜が見えた。

『こいつ、僕のデルフィーヌから離れろ』
「え?」

 ルウとも違う声が聞こえて目を丸くする。

「こいつ、小さいくせにオレに刃向かうのか」

 ブンブンと腕を振り回して、ルウは赤ちゃん竜を振り払おうとしている。

「ルウ? えっと、ポチタマ?」
「デルフィーヌ」
『デルフィーヌ』

 一人と一匹が同時に私の名前を呼んだ。
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