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第四章
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「待って」
躊躇いなく奥へ進もうとする私の腕を、ルウが掴んだ。
「この奥に何があるのかわからない。危ない」
「でも、行かないと。助けを求める声が聞こえない?」
「オレにはそんな声は聞こえない。だけど、何かがいるのはわかる」
ルウもその奥に何かが潜んでいるのは察しているようだが、私の耳に聞こえてくる声は聞こえていないらしい。
「オレが先に行く。デルフィーヌは後ろにいて」
両手を合わせてから引き離すと、中心に光の玉が出現した。
玉はふわりと宙に浮き、ルウの少し前で止まる。すると五メートル先くらいまでを見ることができた。
どれだけ続いているのか、その先はまだまだありそうだ。
両脇はゴツゴツした岩が張り出し、大人が一人ようやく通れる位の広さで、上に向かって狭くなっている。上にはどうやら逃げ場はなさそうだ。
「こんな穴、前に来たときは無かった」
ルウが言うには、暗黒竜にとどめを刺す少し前に、この住処を見つけたらしい。その後、ここから少し離れた草原で最後の対決が行われたということだった。
「暗黒竜は闇魔法が使えた。もしかしたらその時は封印されていて、術をかけた竜が死んで、魔法がとけたのかもしれない。でも、ここにベッドを運んだ時にも、気づかなかった。そんな魔法の痕跡があったらきっと気づいたはずだ」
一体誰が魔法を解いたのか。
「オレもここに誰も来ないように目くらましの魔法を掛けていた。オレの魔法を看破するほど人間・・・魔物がいるということか」
あらゆる可能性についてルウは考えを巡らせるが、気配察知の魔法を張り巡らせても、この先にあるものの正体までは掴めないらしい。
「でも、ずっと、呼んでいるの。助けてって・・」
私の耳にははっきり聞こえるのに、ルウには聞こえないのは何故なのか。
「殺気も敵意も感じない。とりあえず行ってみよう」
「信じてくれるの?」
幻聴と思われても仕方ないのに、ルウは奥へ進むことを提案してくれた。
「デルフィーヌが何か感じているなら、オレはデルフィーヌを信じる」
「ありがとう」
「そう思うなら、言葉だけじゃなく、他の方法で示してよ」
ルウはこちらを振り返って、唇に人差し指を当てる。
「・・・え?」
「口開けて、舌出して」
戸惑っていると、後頭部を掴まれて、唇を塞がれた。
「ん・・んん」
舌が絡みつく濃厚なキスに目を瞠る。
「うん、美味しい」
ペロリと舌なめずりして、満足げに頷く。
「旅の間、デルフィーヌが傍にいたらどんなに良いだろうって、ずっと考えてた。戦いに挑む前に、こうやってキスで励ましてくれたら、最高だろうなって。夢が叶ったよ」
「そ、そんな・・こと」
「う・・その顔、だめだよ。我慢できなくなる」
「その顔?」
「蕩けて潤んだ目と、赤らんだ頬とか、攻撃力どれだけだよ」
「も、もう・・何言ってるのよ。それより、早く行きましょう」
照れてバチンと軽く腕を叩いて、先を急かせる。
「恥ずかしがらなくても・・」
ブツブツ言いながらも、ルウは双剣のうちの一本を抜いて前に進んでいった。
「ゆっくりした下り坂になっている。足元気をつけて」
弱冠湿った空気のせいで、壁も足元も滑りやすくなっている。一歩一歩踏みしめながら進んでいった。
「声、まだ聞こえる?」
「うん、さっきより少し大きくなってきた」
声を発するものは人なのか。それとも人語を話す魔物か何かなのか。
なぜ私だけに聞こえるのか。
わからないことだらけだけど、その先に待っているものに、どうしても会わなければいけないという、妙な焦燥感みたいなものがあった。
どれくらい下ったのか。
ようやく辿り着いたそこは、さっき私達がいたところよりは狭いが、私達が進んできた場所よりは開けた場所だった。
「ここが突き当たりみたいだ」
もうひとつ光の玉を作ると、左右から辺りを照らした。
「ルウ!」
「ああ」
二人同時に、その奥にあるものに目を留めた。
そこには白とグレーのまだら模様の大きな卵があった。
躊躇いなく奥へ進もうとする私の腕を、ルウが掴んだ。
「この奥に何があるのかわからない。危ない」
「でも、行かないと。助けを求める声が聞こえない?」
「オレにはそんな声は聞こえない。だけど、何かがいるのはわかる」
ルウもその奥に何かが潜んでいるのは察しているようだが、私の耳に聞こえてくる声は聞こえていないらしい。
「オレが先に行く。デルフィーヌは後ろにいて」
両手を合わせてから引き離すと、中心に光の玉が出現した。
玉はふわりと宙に浮き、ルウの少し前で止まる。すると五メートル先くらいまでを見ることができた。
どれだけ続いているのか、その先はまだまだありそうだ。
両脇はゴツゴツした岩が張り出し、大人が一人ようやく通れる位の広さで、上に向かって狭くなっている。上にはどうやら逃げ場はなさそうだ。
「こんな穴、前に来たときは無かった」
ルウが言うには、暗黒竜にとどめを刺す少し前に、この住処を見つけたらしい。その後、ここから少し離れた草原で最後の対決が行われたということだった。
「暗黒竜は闇魔法が使えた。もしかしたらその時は封印されていて、術をかけた竜が死んで、魔法がとけたのかもしれない。でも、ここにベッドを運んだ時にも、気づかなかった。そんな魔法の痕跡があったらきっと気づいたはずだ」
一体誰が魔法を解いたのか。
「オレもここに誰も来ないように目くらましの魔法を掛けていた。オレの魔法を看破するほど人間・・・魔物がいるということか」
あらゆる可能性についてルウは考えを巡らせるが、気配察知の魔法を張り巡らせても、この先にあるものの正体までは掴めないらしい。
「でも、ずっと、呼んでいるの。助けてって・・」
私の耳にははっきり聞こえるのに、ルウには聞こえないのは何故なのか。
「殺気も敵意も感じない。とりあえず行ってみよう」
「信じてくれるの?」
幻聴と思われても仕方ないのに、ルウは奥へ進むことを提案してくれた。
「デルフィーヌが何か感じているなら、オレはデルフィーヌを信じる」
「ありがとう」
「そう思うなら、言葉だけじゃなく、他の方法で示してよ」
ルウはこちらを振り返って、唇に人差し指を当てる。
「・・・え?」
「口開けて、舌出して」
戸惑っていると、後頭部を掴まれて、唇を塞がれた。
「ん・・んん」
舌が絡みつく濃厚なキスに目を瞠る。
「うん、美味しい」
ペロリと舌なめずりして、満足げに頷く。
「旅の間、デルフィーヌが傍にいたらどんなに良いだろうって、ずっと考えてた。戦いに挑む前に、こうやってキスで励ましてくれたら、最高だろうなって。夢が叶ったよ」
「そ、そんな・・こと」
「う・・その顔、だめだよ。我慢できなくなる」
「その顔?」
「蕩けて潤んだ目と、赤らんだ頬とか、攻撃力どれだけだよ」
「も、もう・・何言ってるのよ。それより、早く行きましょう」
照れてバチンと軽く腕を叩いて、先を急かせる。
「恥ずかしがらなくても・・」
ブツブツ言いながらも、ルウは双剣のうちの一本を抜いて前に進んでいった。
「ゆっくりした下り坂になっている。足元気をつけて」
弱冠湿った空気のせいで、壁も足元も滑りやすくなっている。一歩一歩踏みしめながら進んでいった。
「声、まだ聞こえる?」
「うん、さっきより少し大きくなってきた」
声を発するものは人なのか。それとも人語を話す魔物か何かなのか。
なぜ私だけに聞こえるのか。
わからないことだらけだけど、その先に待っているものに、どうしても会わなければいけないという、妙な焦燥感みたいなものがあった。
どれくらい下ったのか。
ようやく辿り着いたそこは、さっき私達がいたところよりは狭いが、私達が進んできた場所よりは開けた場所だった。
「ここが突き当たりみたいだ」
もうひとつ光の玉を作ると、左右から辺りを照らした。
「ルウ!」
「ああ」
二人同時に、その奥にあるものに目を留めた。
そこには白とグレーのまだら模様の大きな卵があった。
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