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第三章

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『竜の寝床』とは、まさに竜が寝蔵にしていた場所で、ルウたちが倒した暗黒竜の住処だった。

「どうしてそんなところに?」

 正直に言って、率先して行きたい場所ではない。
 世界を破滅に導くという暗黒竜が、住んでいた場所なのだから、鬱屈としてジメッとした洞窟を想像する。
 まさか、観光名所にでもしようと言うのだろうか。

「怖い?」

 私の表情に恐怖が浮かんたのを見て、ルウが問いかけた。

「うん。でも、ルウがいるから…平気」
「…………!!!」

 そう言うと、なぜかルウが口を手で押さえて仰け反った。

「……過ぎる」
「ルウ?」
 
 口を覆った指の隙間から、震える声が漏れる。 
 何を言っているのかと耳を澄ました。

「デルフィーヌが、可愛過ぎる」
「え?」
「無茶苦茶オレに甘えて頼ってくるデルフィーヌが、カワイイ♡」
「きゃっ、ちょっとルウ……んんん」
 
 感極まったルウにぎゅっと抱きしめられて、またもや唇を奪われた。

「ちょ…ル、ルウ…だめ、んんん」

 そうして目的地に着くまで、私はルウの腕の中で散々キスし続けられた。


*****
 
「ここが、竜の寝床?」

 ルウが私を連れてきたのは、高い山脈の頂上。
 頂上にたどり着くための道も無く、岩肌はゴツゴツしていて、そこへ辿り着けるのは翼を持つものだけだ。
 不時着した翼竜の背中から、ルウが私を抱いて飛び降りた。

「ありがとう、ラス」
「ラスって、この子の名前?」
「ああ、オレが卵から孵して育てている」
「へえ…」

 見た目は大きな翼を持つ蜥蜴のようだ。大きな爬虫類独特の瞳でこちらをじっと見ている。

「撫でてみるか?」
「え、いいの?」
「この子もデルフィーヌが気になっているようだ」

 言われて恐る恐る手を伸ばすと、長い首を曲げて頭をその手に擦り付けてきた。

「かわいい」 

 生き物のただ素直に甘えてくる仕草は、ただそこにいるだけで癒やされる。私の言葉に反応してラスが喉をまるで猫のように鳴らす。
 体も私の倍以上はあり、見た目は厳つい感じだが、こうして見ると愛くるしい。
 私が撫で続けると、ラスは惚けるように目を閉じた。

「デルフィーヌにかわいいと言ってもらえるなんて、ラスに嫉妬してしまうな」
「もう、自分の翼竜に嫉妬なんて」
「こいつも一応オスだからな。デルフィーヌの魅力は種族関係なく影響するから」
「え!」

 驚いてルウを見る。とうやら本気で言っているようだ。

「そんなわけないでしょ」
「いいや、十分有り得る」
「もう、いいから。それ以上言うと、怒るわよ。いくらなんでもそれはないわ」
「怒ったの?」

 自分から顔を背けた私に、不安そうな声でルウが問いかけた。

「ごめんデルフィーヌ。でも、ほんとにラスはそう簡単に人に懐かないんだ。なのにデルフィーヌには甘えて擦り寄るから。ほら、良く言うだろ、飼い主に似るって。オレがデルフィーヌのことを好きだから、ラスもきっとデルフィーヌのことが好きなんだ」
「だからって、嫉妬することはないでしょ」
「そ、それは…でも」 
 
 尻尾と耳があればシュンと下を向いているだろう姿が想像できるくらい、ルウは項垂れる。

「もう、そんなに落ち込まないでよ。私が苛めているみたい」
「デルフィーヌが嬉しければオレも嬉しい。デルフィーヌが悲しければ…悲しい思いはさせないけど、でも、オレも悲しくなる。デルフィーヌに嫌われたら…オレは生きていけない」
 
 ルウが私のことを昔から好きなのは知っていた。
 最初は家族愛だと思っていたが、あの日想いを告げられて、それが異性としての愛情だったとわかった。
 「氷の勇者」などと王都で言われて、どんな風に過ごしているのかわからないが、家族思いの責任感の強い、頼りになる存在で、決して「氷の」などと言われるような人間ではない。
 そんな目の前にいるルウは、私に嫌われたら本当にそれだけで呆気なく死んでしまいそうに見えた。
 ルウのことは、いずれ勇者になって手の届かない存在になる人だからと、子供の旅立ちを見守る親目線で見ていた。
 でも、体も遥かに立派になって、さっきの山賊たちを一掃した圧倒的な強さを持っていても、私の言葉や態度に一喜一憂する様子を見ると、たまらなく愛しさがこみ上げてきた。

「こんなことくらいで、ルウのことを嫌いになんてならないわよ。私をその程度の女だと思っているの? まだまだルウには生きてもらわないと」

 ラスから手をルウの頭に持っていき、その金色の頭を撫でる。
 もっと傷んでいるかと思ったけど、その手触りは滑らかで、しっかりお手入れが行き届いているように見受けられた。
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