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第二章

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 まるでバンジージャンプを反対にしたような、物凄い速さで上昇していく。
 あまりの風圧に押し潰されそうになる。
 翼竜の背中の上に降ろされ、動物園にいる親猿にしがみつく子猿のように、私は目を瞑って必死にルウにしがみついていた。

 ようやく圧が無くなり、「もういいぞ」という声が耳元で聞こえ、目を開けた。

 青く澄んだルウの瞳が、私のことをじっと見つめている。

「ようやく、会えたな、デルフィーヌ」

 どきりとするくらい、甘い声で囁かれてた。

「ル…んんんん」

 私が名を呼ぶ前に、その唇が塞がれる。
 貪欲にむさぼり食うような激しい口づけだった。
 お預けをされていた犬が、ようやく待てを解除されて、餌を食べるような、がっついた口づけ。
 舌が容赦なく口腔内に入り込み、口の中を蹂躙して絡みついてくる。
 後ろから肩を抱いて逃さまいと、きつく抱きしめられる。
 グチャグチャと唾液の混じり合う音を立てながら、何度も角度を変えて口づけは続く。
 その間に、手は私の体を這い回り、腰や背中、お腹や胸と上半身をくまなく探索していく。
 大きな手に乳房を包み込まれて、服の上から揉みしだかれ、ビクリと背中を快感が走り抜け、ルウの首に腕を巻き付けた。

「………!!!」

 やっと唇が離され、私はほうっと息を吐き出した。

「い、いきなり…」
「ずっとデルフィーヌとこうしたかった。二年以上我慢したんだ」

 文句を言おうとしたが、切実なルウの言葉に何も言えなくなった。

「でもまだ足りない。もっと、デルフィーヌを味わいたい。全身隈なく舐め尽くして、デルフィーヌの中にオレを突き立て、早くひとつになりたい」
 
 ここが空中ではなかったら、今すぐ服を剥かれてそうされてただろう。
 それくらいルウは熱い眼差しで訴えてきた。

「ルウ…」
「もっと、もっと呼んで。デルフィーヌ。ずっと君の声を聞きたかった。君がオレの名をそう呼ぶ声を、ずっと聞きたかった。夢の中で何度も聞いたけど、夢じゃないよな」
「ええ、そう。夢じゃないよ。ルウ。物凄く、頑張ったね」

 あやすような声で、頬や耳に、そして乱れた髪に手を伸ばす。
 触れる私の手に手を重ね、うっとりとルウの目が細められる。
 その仕草に、成熟した男の色香のようなものが垣間見え、お腹の奥から熱い何かが湧き出てくる。
 
(え、私…ルウに触って顔を見ただけで感じてる?)

「デルフィーヌ?」

 自分の反応に驚いて目を瞠り、思わず体が震えたのを、ルウも感じたようだ。
 問いかけるような眼差しをこちらに向けてくる。

「えっと…」

 戸惑いを隠せず、うまい言葉がすぐに出てこない。
 自分で思った以上に、ルウのことを求めているようだ。
 女の性を喚び起こすような、ルウの色気に当てられてしまう。

「こ…『氷の勇者』って、何?」
 
 素直にあなたがほしいと言えず、口から出たのはその問いだった。

「ああ…ボヌスに聞いたの?」

 ルウの口からバスティアンさんの名前が漏れて頷いた。


 「結果だけ聞いて、それまでの苦労も知らず、べらべらどうでもいいことばかり喋りたて、こっちがどう思っているかとか、まったく空気が読めない奴らに、適当に返事をしていたら、誰かが言い出しただけだ」
 
 自分は悪くないと、ルウは拗ねたように言う。

「別に…オレだっていつも機嫌がいいとは限らないし、話したくない相手や、話したくない時がある。オレは勇者として暗黒竜を倒しただけで、王宮に出入りする人達のご機嫌取りがしたいわけでも、しようとも思わない」
「でも本当のルウを知らないのに、そんな風に言われるのは嫌だな」
「デルフィーヌは、オレが他の女に纏わりつかれてもいいのか? オレはデルフィーヌに父上以外の男が近寄るのはいやだ」

 どうやらルウのご機嫌取りをしたくない相手は、主に女性らしい。

「それより、デルフィーヌこそ、あいつは誰なんだ。気安く肩なんて触ってきて」
「べヌシさんのこと? 王都の商業ギルド本部の人で、王都へ行く私達に、一緒に行きましょうって言ってくれたの」
「なんで!」
「なんでって、私達だけじゃ、不安だしお金を払えば警護もしてくれるって言うし、そっちの方が安上がりだったから」
「お金の問題? お金ならオレの報奨金で…」
「それはルウのためのお金だもの。私達のために使うのは申し訳ないわ」
「そんなの…オレのお金はデルフィーヌのお金でもあるわけだし」

 ルウならそういうと思ったが、これは私達の方のケジメというか、気持ちの問題だ。

「なんだよ…てっきり楽しているとばかり…オレは何のために」
 
 ルウは報奨金で私達の生活が少しでも楽になっていると思っていたらしい。
 それなのに私達がそれを節約していると聞いて、見るからに落ち込んでしまった。
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