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第二章

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 私達の知っているルウと、バスティアンさんの知っているルウの印象があまりにも違うことに、私は動揺を隠せなかった。

 考えてみれば、ここは軽快な音楽に乗って、敵と戦うゲームの世界と設定は似ていても、生身の人が生きて生活しているのだ。
 すでに勇者が義姉に対して想いを打ち明け、行為に及ぶという変な設定まで付いてきて、大ボスを倒して終わりではなく、この先も日々は続くのだ。
「氷の勇者」などと一方で言われているルウのことを思うと、彼の旅がどれほど過酷だったのかと胸が痛くなる。 
 勝手に私の結婚について変な約束を王様に取り付けたり、会ったら文句を言ってやろうと思っていたが、それより会って褒めて上げたいと思ってしまった。

「でもそんな勇者様が、ご実家のことを私に話される時は、少し雰囲気が変わって、ご家族を大事に思われているのが伝わりました。お会いして、ああ、この方たちが勇者を作り上げたのかと、大事なものを守りたいから勇者になったのだと言う、彼の言葉を思い出しました。それは国民や国というものでなく、地に足がついた現実的なもっと小さな幸せだったのですね」

 にこりとバスティアンさんが私に微笑む。
 ルウが彼を我が家に送ってくれたのは、能力だけでなく、その人柄もあったのだとわかる。

「ところで、ヘイリーさんから先ほど少し見せて頂きましたが、確かによく出来ていました。デルフィーヌ様は事務能力に優れていて、特に帳簿付けがお得意だとは勇者様から伺っておりましたが、計算も正確で、素晴らしいものでした」

「そ、それほどでは・・」

 褒められるのは今日で二度目だった。「才能あり」と言われると嬉しくなった。

 その後、ヘイリーや父も混じって私達が留守の間のことについて、引き継ぎを行った。
 
 そして遂に、王都へ出発する日の朝を迎えた。


 荷物をまとめて玄関先で待っていると、二台の馬車と馬に乗った数人の男性がやってきた。
 
「おはようございます」

 先に馬から降りた人物が馬車の扉を開けると、中からベヌシさんが降りてきた。

「おはようございます。今回はお世話になります」
「まさか玄関先でお待ち頂いているとは思いませんでした」

 貴族らしくない出迎え方だったようで、私達が玄関で待ち構えていたことに、彼は驚いている。

「お待たせしたのではありませんか?」
「いえいえ、勝手に私達が待っていただけです」

 馬車から降りた御者が私達の荷物を、ベヌシさんが乗ってきたのとは違う馬車に乗せる。

「こちらが護衛隊長のナタリオ・コートです」

 その間に、ベヌシさんが厳つい顔面の男性を紹介してくれた。

「コートです」

 ボソリと短くそれだけ言う。
 頬や顎にいくつか傷があり、スキンヘッドにバンダナを巻いて背中に剣を背負っているコートさんは、これが普段仕様なのか、それとも怒っているのかわからない。

「無愛想ですみません。勇者のご家族に会うからと昨日から緊張しているんですよ」
「ちょっ! 若、それは言わないでください」

 不意にコートさんの厳つい顔が崩れて、慌てふためいてワタワタしている。
 そんな様子を見ると、意外に幼く見える。

「若?」

 コートさんがベヌシさんを「若」と呼んだことについて、小首を傾げる。

「気にしないでください。彼は父親の代から我が家で護衛として働いてくれていて、彼は私の三つ上ですが、お互い小さい頃から知っている仲で、若と呼んでいます」
「よろしくお願いします。このたびはベヌシさんのご好意で同行の人数に加えて頂き、ありがとうございます」

 父が挨拶すると、彼はとんでもないと言って首を振る。

「いえ、こちらこそ・・勇者様のご家族を護衛できて光栄です」

 緊張が解けると、彼は饒舌になった。

「すごいのはルドウィックであって、私達は至って普通の貧乏男爵です」

 普通の貧乏男爵とは変な言い方だと思うが、畏まる必要はないと言っているのがわかる。

「いってらっしゃいませ」

 荷物を積み終え、ベヌシさんが乗ってきた馬車に、もう一台の馬車に私達三人が乗り込んだ。

 玄関にヘンリーを始め、ボンヌさんも含め全員が見送りに出てくる。料理長は通いで、住み込みは総勢六人の何とも少ない我が家の使用人たち。だが、その分家族のようで皆気心が知れている。

「ルドウィック様によろしくお伝えください。お帰りをお待ちしていますと」
「うん、わかった」

 彼らが見えなくなるまで、私は手を振り続けた。
  
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