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第二章

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 両親も私が聞いた以上のことは知らないようだった。 
 これはもう直接ルウ本人に聞くしかない。
 ただ、それを聞いたところで、何が変わると言うわけではないとは思う。

 とにかく、今しなければならないのは、ルウが陛下にお願いして父に渡した王命のことではない。

 明後日の朝には王都へ向けて出発するので、早くその支度を終わらせないといけない。

 それに当主が暫く不在になるので、その間起こるであろう我が家の雑事処理について、ある程度指示を出しておかなくてはいけない。

「ところでヘイリーはどこ?」

 留守の間、ブレアル家のことは祖父の代から我が家に仕えてくれている家令兼執事のヘイリーに任せるしかない。
 何しろ少しずつ財政は上向きになっているものの、まだまだブレアル家は人手不足なのである。
 お金があるなら人を雇えば良いのだが、田舎のこの地ではなかなかいい人材がいない。
 ネットやアプリで簡単に就職や転職情報が手に入った前世とは違い、貴族の屋敷で人を雇おうと思えば、同じような貴族からの紹介を受けるか、そういった人材が登録している所謂人材派遣会社のような所に頼むしかない。
 飛び込みで雇おうものなら、実は泥棒だった。などということもあるからだ。
 普段なら貧乏貴族にわざわざ働き口を求める人がいなくて困るのだが、ルウの生家ということで希望者が殺到している。誰も来ないのも困るが、いすぎても困るとは贅沢な話だが、今は王都へ行く日が迫っていてゆっくり選んでいる時間もない。
 ということで、絶賛人手不足なのである。
 ヘイリーは熟練の使用人ではあるが、いつ仕事を辞めてもおかしくない高齢なので、無理はさせられない。
 そう思っていたのだが、「あ、そうだ」と父が何かを思い出したのか、私に向き直った。

「言い忘れていた。カダルフという男が来る前に、別にもう一人来ていたんだ」
「え、もう一人お客様?」

 客が来ているのに忘れていたとはどういうことかと、眉をひそめる。

「いや、まあ、客と言えば客なのかも知れないが、客じゃないと言えばそうかな」
「どっちよ」

 何だかはっきりしない言い方に、私はツッコミを入れた。

「実はルドウィックが、ヘイリーの助手になる人を送って寄越したくれた」
「ヘイリーの助手? ということは」
「ああ、ヘイリーに全てを任せて三人で王都へ行くのは心配だったが、どうやらルドウィックもその辺の事情をわかっていたようだ」

 そして今はヘイリーから、仕事について説明を受けているらしい。

「その人って、本当にルウが送ってくれた人なの?」

 それが本当ならいいことだが、勇者の生家ということで働きたいと言う人間が増えている今、うまいことを言って雇われようとしている人間かもしれないのだ。
 人の良い父のことだ。もしかしたら騙されているのではと疑った。

「それは大丈夫だ。ちゃんとルドウィックからの手紙を持っていたから。それにその人は王宮に勤めて前王様に仕えていたという凄い経歴の持ち主だぞ」

 父が上着のポケットから手紙の入った封筒を取り出し、私に渡した。
 受け取った封筒から取り出した手紙に目を通すと、確かにそれはルドウィックが書いたものだとわかった。
 ルドウィックの筆跡はかなり癖があって、家族以外はなかなか読むのに苦労する。
 
「確かにルウの筆跡だわ」

 手紙にはヘイリーもそろそろ楽にしてあげたい。バスティアン・ボンヌという人物がどんな人物かが書かれていた。
 父の言ったように、前王陛下の信も厚く優秀であるらしい。

「勇者として世に認められ、爵位も頂いたというのに、我が家のことをこんなに気に掛けてくれて、本当に私達にはもったいない子だ」

 そう言って二人で涙ぐんでいる。
 正しくは甥だが、それが本当だと私も知っている。
 ともすれば、実の娘より大事なのかと思うくらいだ。
 そんな話をしていると、ヘイリーがその人物を連れてやってきた。

「初めまして、デルフィーヌ様。バスティアン・ボンヌと申します」
「こんにちは。デルフィーヌ・ブレアルです」

 現われたバスティアン・ボンヌという人物は、年齢は父と同じ位だろうか。
 オールバックにした茶髪と、グレーの瞳をした都会的で洗練されていた。
 物腰も優雅で、執事のお手本とも言えるような風体だった。
 私が挨拶すると、彼は私の顔をまじまじと見た。
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