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第一章
⑭
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というか、勇者がそんな個人的なことを王様に頼んで怒られないのか。
「そんなこと言って、ルウにお咎めはなかったの?」
「驚かれたようだが、金銭や地位を要求することに比べれば、些細なことだと、逆にそれでいいのかと、念を押されたようだ」
父は笑っているが、かなり冷や汗ものだ。大胆というか、そこまでする必要があったのか。
(それもこれも、ルウが私を信用していないということよね)
確かにあの夜は、なし崩し的な感じではあったが、私も本当に嫌なら跳ね除けていた。
家族としての好意から、異性としての好意に気持ちが傾いているつもりだ。
ルウからの手紙は、私に対する熱い想いが伝わってきていた。
いつも手紙の最初は「愛しのデルフィーヌ」。最後は「早く会いたい。デルフィーヌ。愛している」だ。
それに対して私は、ひと言もそんな言葉を書いていなかったことに気づいた。伝えていなかったのだから、ルウが心配になって予防線を張ったのも無理はない。
「でもだからって王様にそんなこと言うなんて…」
これから王宮に行って、王様に会うことになるのに、どんな顔をして会えばいいのか。
そこまでして婚姻を止めたい相手がどんな人物なのか、きっと少なからず興味を抱いていることだろう。
それに、ルウの目にはどうやら私は絶世の美女に見えているようで、手紙にも「エルフは男も女も美人だと皆が言うけど、絶対デルフィーヌが一番だ」とか、書いてきていた。
「ねえ、ルウは私のこと、周りにはどんな風に言っているの?」
手紙の中だけならいいが、今の話を聞くともしかしたら、他の人たちに言ってるかもしれないという疑惑が涌いた。
「そうねえ、まあ、私達にいつも言っていたのは『デルフィーヌ大好き! 絶対デルフィーヌを僕のお嫁さんにする。デルフィーヌは僕の女神で、僕の生きる糧だ。僕の全てだ』とか、そういうことよ、ねぇ、あなた」
母が同意を求めるように、父に問いかける。
「そうだな。お前が恥ずかしがるからと、デルフィーヌの前では普通に接していたが、お前が十歳になる頃には、私達にそう言っていた」
「う、うそ…」
「ほら、お前もルドウィックもめったに熱を出したりしなかったが、お前が森へ出かけてルドウィックと一緒に迷子になって、腕を怪我したことがあったろ?」
「えっと…実はあんまりあの日のことは覚えていないのよね」
確かに父が言った事件というか事故のことは覚えている。
二人で秋のキノコ採りに出かけて、ルウが斜面を滑り落ちて、それを助けるために私は彼が落ちた斜面を降りた。
その時に二の腕を木の枝に引っ掛けた。今でもその時の傷がうっすらピンク色に残っている。体温が上がると少し目立つが、普通にしていれば特に気にならない程度だ。
ルウが落ちた場所は苔むした斜面の下で、水捌けが悪くジメジメした場所だった。
地面が泥濘んでいて、泥まみれになっていたものの、ルウは特に怪我もなかった。
追いかけてきた私の方が怪我をしたことを、ルウは酷く気に病んで「ごめん」と、謝られたところまでは覚えているが、次に気がついた時は自分の寝台の上だった。
腕の怪我のせいで熱が出て、三日間高熱が続き意識がなかったということだった。
ひと晩帰ってこなかった私達を大勢が探し回ってくれていて、意識を失った私を背負ったルウを森の中で見つけたらしい。
それほど深い崖ではなかったが、どうやってルウが意識を失った私を連れて這い上がったのか。ルウが言うには何とか登れる場所を探したと言うことだが、二人が無事(?)に見つかったことで、誰もそこまで追求しなかった。
そして熱のせいなのか、斜面の下でルウを見つけてから後の記憶がない。
ルウに聞いても、血が流れていた腕の怪我の応急処置をしたけど、すぐに意識を失ったとだけしか教えてくれなかった。
あの時は、それが事実なんだろうと思った。
「それまではただの仲のいい姉弟にしか見えなかったが、あれ以降だったな。ルドウィックがデルフィーヌをお嫁さんにするって公言し始めたのは」
「そうだったかな」
思い出そうとしても、靄がかかったみたいになって、頭痛が起こることもあり、無理に思い出そうとはしなかった。
でも、ルウがそう思うようになった理由でもあったのだろうか。
これまで特に気にしたことはなかったことが、急に気になりだした。
「そんなこと言って、ルウにお咎めはなかったの?」
「驚かれたようだが、金銭や地位を要求することに比べれば、些細なことだと、逆にそれでいいのかと、念を押されたようだ」
父は笑っているが、かなり冷や汗ものだ。大胆というか、そこまでする必要があったのか。
(それもこれも、ルウが私を信用していないということよね)
確かにあの夜は、なし崩し的な感じではあったが、私も本当に嫌なら跳ね除けていた。
家族としての好意から、異性としての好意に気持ちが傾いているつもりだ。
ルウからの手紙は、私に対する熱い想いが伝わってきていた。
いつも手紙の最初は「愛しのデルフィーヌ」。最後は「早く会いたい。デルフィーヌ。愛している」だ。
それに対して私は、ひと言もそんな言葉を書いていなかったことに気づいた。伝えていなかったのだから、ルウが心配になって予防線を張ったのも無理はない。
「でもだからって王様にそんなこと言うなんて…」
これから王宮に行って、王様に会うことになるのに、どんな顔をして会えばいいのか。
そこまでして婚姻を止めたい相手がどんな人物なのか、きっと少なからず興味を抱いていることだろう。
それに、ルウの目にはどうやら私は絶世の美女に見えているようで、手紙にも「エルフは男も女も美人だと皆が言うけど、絶対デルフィーヌが一番だ」とか、書いてきていた。
「ねえ、ルウは私のこと、周りにはどんな風に言っているの?」
手紙の中だけならいいが、今の話を聞くともしかしたら、他の人たちに言ってるかもしれないという疑惑が涌いた。
「そうねえ、まあ、私達にいつも言っていたのは『デルフィーヌ大好き! 絶対デルフィーヌを僕のお嫁さんにする。デルフィーヌは僕の女神で、僕の生きる糧だ。僕の全てだ』とか、そういうことよ、ねぇ、あなた」
母が同意を求めるように、父に問いかける。
「そうだな。お前が恥ずかしがるからと、デルフィーヌの前では普通に接していたが、お前が十歳になる頃には、私達にそう言っていた」
「う、うそ…」
「ほら、お前もルドウィックもめったに熱を出したりしなかったが、お前が森へ出かけてルドウィックと一緒に迷子になって、腕を怪我したことがあったろ?」
「えっと…実はあんまりあの日のことは覚えていないのよね」
確かに父が言った事件というか事故のことは覚えている。
二人で秋のキノコ採りに出かけて、ルウが斜面を滑り落ちて、それを助けるために私は彼が落ちた斜面を降りた。
その時に二の腕を木の枝に引っ掛けた。今でもその時の傷がうっすらピンク色に残っている。体温が上がると少し目立つが、普通にしていれば特に気にならない程度だ。
ルウが落ちた場所は苔むした斜面の下で、水捌けが悪くジメジメした場所だった。
地面が泥濘んでいて、泥まみれになっていたものの、ルウは特に怪我もなかった。
追いかけてきた私の方が怪我をしたことを、ルウは酷く気に病んで「ごめん」と、謝られたところまでは覚えているが、次に気がついた時は自分の寝台の上だった。
腕の怪我のせいで熱が出て、三日間高熱が続き意識がなかったということだった。
ひと晩帰ってこなかった私達を大勢が探し回ってくれていて、意識を失った私を背負ったルウを森の中で見つけたらしい。
それほど深い崖ではなかったが、どうやってルウが意識を失った私を連れて這い上がったのか。ルウが言うには何とか登れる場所を探したと言うことだが、二人が無事(?)に見つかったことで、誰もそこまで追求しなかった。
そして熱のせいなのか、斜面の下でルウを見つけてから後の記憶がない。
ルウに聞いても、血が流れていた腕の怪我の応急処置をしたけど、すぐに意識を失ったとだけしか教えてくれなかった。
あの時は、それが事実なんだろうと思った。
「それまではただの仲のいい姉弟にしか見えなかったが、あれ以降だったな。ルドウィックがデルフィーヌをお嫁さんにするって公言し始めたのは」
「そうだったかな」
思い出そうとしても、靄がかかったみたいになって、頭痛が起こることもあり、無理に思い出そうとはしなかった。
でも、ルウがそう思うようになった理由でもあったのだろうか。
これまで特に気にしたことはなかったことが、急に気になりだした。
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