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第一章

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 まさか私に縁談が来ていたとは思わず驚いた。
 そしてそこではっと気づいた。

「え、もしかしてさっきの人がその相手?」
  
 恐る恐る聞いてみた。
 まさか父たちと大して年齢も違わないような人が、私の結婚相手だとは思いたくない。

「そんなわけがないだろう、さっきのは仲介人だ。いきなり本人が結婚しませんか、なんて言ってくる非常識なことはしない」
「なんだぁ…良かった」
  
 つまり日本でいうところのお仲人さんだ。

「でも、私の縁談話って…思いっきり私が当事者じゃない。なのに勝手に私のいないうちに追い返そうとしたの?」
「当たり前だ。お前はルドウィックと結婚するんだ。断るのは当然だろう?」
  
 父の中では、義理の息子で甥でもあるルドウィックと私が結婚して、いずれは男爵家を継いでほしいと言う願望があることは知っている。

 そしてルドウィックが私のことをずっと好きだったと知り、ますますその思いを強くしていることも。

「お前だってそのつもりだろ?」

 世間では私達はまだいとこで義理の姉弟に思われている。
 あえて私とルウの関係について、世間の認識を変えることもしてこなかった。
 この世界での結婚適齢期は、女性なら十六歳から二十歳くらい。男性は十八歳から二十三歳くらいまで。
 二十歳になる私は、適齢期ぎりぎりということだ。
 だから私とルウのことを知らない人間が、そういった話を持ってくるのはわかる。でも、勇者になる前から持てていて、今や勇者になったルウならわかるが、私なんてもらいたい人なんているのかな。
 最近は上向きだが、家はそんなに裕福な方ではないし、私自身も男性を魅了できる女性ではないと思っている。
 そう思って口にすると、父がちょっと複雑な顔をした。

「お前はいい娘だ。普通の貴族令嬢とかけ離れていても、それは世間の基準で、私達には出来た娘だ。ルドウィックだって、だからお前を好いているんだ」
「そうよ。ルドウィックもあなたも、私達にはかわいい我が子よ。あなたにはたくさん良いところがあるんだから、そんな風に思わないで」
「だから、お前がいいと言ってくれるのではなく、勇者の姉だから、勇者の血縁者だからと縁談を申し出てくるような輩には、お前をやれない」

 勇者ルドウィックの姉。勇者の血筋がほしいから。
 そんな理由ではとても首を縦に振れないと、父は言った。
 それを聞いて納得する。

「それに、ルドウィックのためにも、お前を他所にやるわけがない」
「町長に私のことを頼んだのも、そういう意味?」
「当たり前だ。こちらで断っているが、どんな輩がお前に直接近づいてくるかわからないからな」
「それって、お父様が勝手にやっているの? それともまさか、ルウの差し金?」
「どっちもだ。暗黒竜を倒すために頑張っているルドウィックに、留守を預かる私達が報いなくてどうする」

 父の言うことも間違っていないが、そんなことをしなくても、浮気とかしないのに。そこまで信用されていないのだと思うと、腹が立ってきた。
 
「え、でも、家より身分の高い所から話が来たら、どうするの、断れないでしょ?」

 我が家は自慢じゃないが貴族位の中でも最底辺。同じ男爵でも領地が中央に近いほど、力は強い。
 王都から馬車で二週間の距離にある我が領地は、江戸時代で言えば外様も外様で、参勤交代の制度がなかっただけましだと言える。

「それは、まあ…ルドウィックが、な」
「ルウがどうしたの?」
「密かに国王陛下と交渉して、王命を発出してもらったのだ」
「私達が納得しなければ、たとえどのような身分の方からの申し出であろうと、断ることが出来るという、王命をね」
「え、えええ」

 そんな王命聞いたことがない。というか、よく王様もそんな条件飲んだな。勇者ってどんだけ偉いの。

「その代わり、訓練が済んだら二年で暗黒竜を倒すという宣言をしたそうだ。過去の勇者が五年掛かった神器集めも前倒しして。暗黒竜からの被害も少なく、復興にかかる費用も随分節約されるならと、陛下も即決されたそうだ」

 まさか、私の婚姻に王命が発出されていたなんて。
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